2024.12.24
「経営陣が見たい数字」が見えない状況からの脱却法 経営課題を解決に導く、オファリングサービスの特長
LIFULL CTO長沢翼氏&中島氏インタビュー (全1記事)
提供:株式会社LIFULL
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――はじめに、お二方の簡単なプロフィールと、LIFULLにおいてどんなポジションで働いているのかを教えてください。
長沢翼氏(以下、長沢):LIFULLのCTOをやっている長沢です。
LIFULLには、新卒で入社しました。現在弊社はマトリクス組織になってまして、賃貸事業部や分譲マンション事業部といった事業部があるんですが、それらの縦の事業部を横断した150人ほどのエンジニア組織のマネジメントをしています。
またLIFULL HOME'Sには技術開発部という部署があり、その部署の部長も担当しています。LIFULLには事業部ごとにエンジニアがいますが、LIFULL HOME'Sの中で(エンジニア)全体のバランスをとったり、共通機能を開発したり、インフラやセキュリティ、ネットワークを見たりといった横断的なことをやっています。私は技術開発部の責任者として、「LIFULL HOME'Sがユーザーに価値を届ける速度をいかに速めるか」ということを手がけています。
例えば、企画の人がなにか思いついてユーザーに届けるまでに、「その企画はうまく実現できるのか?」「手戻りがないように企画できているか?」「もっと効率的な開発ができないか?」といったことを考えています。
また、サイトをローンチしたあとは、ユーザーに届くまでにサイトのレスポンススピードが遅いなど、「ユーザーに価値を届ける速度をいかに速めるか」ということを目指すためには、さまざまな課題が存在しています。それを実現するために開発プロセスの管理や品質管理なども担当している部署もあります。
――ありがとうございます。中島さん、お願いします。
中島拓哉氏(以下、中島):私は、以前は、「ストック開発」という、中古物件をいかに情報を透明化して流通させるかという部署で「見える!不動産価値」というサービスを作っていました。
現在は賃貸部門に戻ってサービスづくりをしています。例えば、エリアのことをもっと知ってもらい、そのエリアのファンになってもらって物件を探してもらうといったことや、「こういう部屋に住みたいんだ」という思いで探してもらったりなど、「ユーザーにとって、どんな借り方が良いのか?」というところをきちんと過不足なく提供できるようなサービスづくりをしている部署にいます。
――それではまず、LIFULLが手がけるサービスについておうかがいします。LIFULLといえば、いわゆる不動産関係のサービスですが、この分野でどういったサービスを展開されているのかを教えてください。
長沢:主力事業となっている国内最大級不動産サイトの「LIFULL HOME'S」は、家を借りたい人、家を買いたい人と貸したい人(不動産会社)、売りたい人などの物件を提供する側とをマッチングする、サイトです。
物件検索は基本機能として当然なんですが、事業を20年間近く続けていて、その過程で物件のデータや物件の画像のデータ、ユーザーのデータなど、たくさんのデータが溜まってきました。そちらを利用したサービスも手がけています。
例えば、家賃相場や、「どこの地域が人気があるよ」といったことを見せたりしますし、売りたい人に「あなたの物件を、どれぐらいのエリアに、どれぐらいの価格で売り出したら売れやすいですよ」といったことを提案したりなど、ビッグデータを利用したサービスも積極的に展開しております。
――物件探しの「LIFULL HOME'S」だけでなく、その他の不動産に関連したサービスも展開されているということでしょうか?
長沢:そうですね。軸としては家を探す人と提供する人のマッチングです。理想の家にたどり着く精度をいかにして上げるかということが重要なので、そのためにさまざまデータを活用している状態です。
――ありがとうございます。それでは、不動産分野以外で展開されているサービスについて教えてください。
長沢:グループ会社を含めた話になりますが、新規事業を積極的に展開しています。お花を定期的に宅配する「LIFULL FLOWER」というサービスや、介護施設を探す「LIFULL senior」、トランクルーム探しの「LIFULL トランクルーム」など、不動産だけでなく暮らしを中心としたさまざまなサービスを展開しています。
――そんなLIFULLは、会社の規模としては、現在どのぐらいの社員が在籍しているのでしょうか?
長沢:グループ全体で1,300人を超え、海外の展開国数では63ヶ国ほどです。全体の約1,300人のうち、300人ほどは海外に社員がいる状態です。
――その中でエンジニアはどのぐらいの割合を占めていますか?
長沢:国内で約150人ほどですね。海外も合わせると、300人弱ぐらいです。
――それではここからは、エンジニア組織について深掘りをさせていただきます。国内としては約150人ほどのエンジニア組織に成長してきていますが、今日までにどのように拡大してきたのでしょうか?
長沢:自分がLIFULLに入社したのはもう10年ほど前で、その時は50〜70人ぐらい。ちょうど中途採用でエンジニアを増やしていた時期でした。そこからLIFULL HOME’Sの成長に併せてだんだんと採用も増え現在約150人という感じです。全体の割合としては、中途の方のほうがやや多いです。
――では、「LIFULL HOME'S」の組織についてお話をうかがいます。「LIFULL HOME’S」は始まって20年ほどというお話でしたが、そちらの開発体制について教えてください。
長沢:おそらく100人ほどですかね。そのうちスマートフォンアプリのエンジニアが10人前後ですね。
――スマートフォンアプリを作り始めたのはいつ頃の話なのでしょうか?
長沢:スマートフォンアプリを作ったのは8年ほど前です。iPhone 3GSが出始めた頃ですね。最初は社内にノウハウがなかったので外注に出そうと思っていましたが、取締役をしている山田の「せっかくの新しい技術だから、外注に出すのはもったいない」という思いから、「誰もやったことがないと思うけれど、社内でやりませんか!?」とメールでの投げかけがあり、14人ぐらい「やりたい!」と手を挙げた人がいました。
自分もその中の1人でした。14人でノウハウもなく、MacもiPhoneも持っていないなか、まずは買いに行くところから始まりました。
(一同笑)
まず、みんなでApple Storeに行くところから始めましたね。
――当時としてはかなりチャレンジングなことだと思いますが、そういったことでもゴーサインが出やすい社風なのでしょうか?
長沢:そうですね。やはりアプリという新しいものでしたし、今後スマートフォンが流行して多くのユーザーが使うようになった時、アプリだからこそできることはきっとあるはずだと考え、「そのような新しい領域を我々が、きちんと自分たちで知見を溜めながらやっていくことがユーザーのためになる」ということを信じてやっていました。
あとは、やはり新しい技術をどんどん触っていかないと、エンジニア組織としても持続的に成長していかないと思います。そういったことは手を挙げたメンバーも意識していたんだと思いますし、会社としてもやっていこうという姿勢でした。
――そんな新たな挑戦がありつつも、20年間脈々と続いてきた「LIFULL HOME'S」のサービスでは、システムの刷新も何度かあったのではないかと思います。長く続いているサービスだからこそ直面した課題について教えてください。
中島:現行のWebのLIFULL HOME'Sはバージョンが5といわれているものです。1、2、3、4、5と上がってきて、だいたい2年間隔でリプレイスされてきました。4から5に上がったのが、今から8年ほど前の話です。
その移行の過渡期には、けっこう社内でももめました。「今までバージョン4で出ていたKPIがバージョン5でも生み出せるのか?」という点で、意見が二分してしまって。
その二分化した意見を、「とはいえ、新しいものにリプレイスしていけば、今のままでは(数値が)0.1ポイント上がるのがやっとの部分が、1ポイント上がるかもしれないじゃないか」という話で、なんとか説得していきました。
その間には、物件広告の掲載課金からユーザーからの問合せ毎課金への料金モデルの改定もあり、内外で議論が紛糾しました。たまたま僕が営業に同行した際には、ただただお叱りを受けるばかりでした。
そのなかでも、「HOME'Sとしてこういう未来を描きたいから、この料金体系に変えていくんだ」と説明していき、外からの批判や風当たりを1つずつ改善して、営業的にも移行できる状態にしました。
ものづくり側でも、「こういう機能があったら、今までのKPIも満たせるし、それにアドオンで組み立てていけるよね?」といったことをどんどん積み重ねていって、やっと移行に至ることができました。この間、約1年ほどかかりました。
長沢:そうですね。バージョン5といわれているサイトのコンセプトを作るのに、非常に時間がかかりました。今までのよくない部分や、こうしたいと思っている部分が一人ひとりの社員にあるので、そういった希望を集めて理想のサイトを作ろうと、詰め込むと、決めきれなくなってしまいました。そこで、「まずコンセプトを決めなくちゃいけないんだ」と、ミニマムで進めていくことにしました。
当時フォーカスしていたのが「フリーワードで検索できる不動産サイト」です。既存の市区町村を選ぶというやり方ではなく、まずフリーワードを最初に入力してもらうサイトを作ろうと決めました。サイトはエンジニア6〜7人ぐらいで、3ヶ月ぐらいで作りました。
その後、「V4(バージョン4)」と呼ばれるサイトと「V5(バージョン5)」と呼ばれるサイトは並行して開発が進んでいたので、「じゃあ、いつ切り替えるのか?」という話になりました。
移行期間というのは、機能追加が発生しない時間になってしまうので、「本当にV5でパフォーマンスが出るのか?」ということでA/Bテストを1年間ほど実施。部分ごとにA/Bテストを繰り返して、V5の数字がV4を上回ったら切り替えていくということをやっていきました。
中島:やってましたね。
長沢:ただ、V4も機能改修しながら、両方を進めていかなければいけませんでした。「本当にV5は大丈夫なのか?」という社内の意見がありながらも、みんなで信じて移行していったのが、サイト開発側の苦労でしたね。
長沢:あとは、3年ほど前にインフラの刷新を行いました。表側のサイトはさきほどお話したように、バージョン1、2、3、4、5とバージョンアップしてきたのですが、裏側のインフラは大きな刷新がほとんどありませんでした。
事業系のインフラは、オンプレミスで管理していましたが、3年ほど前にクラウドに移行しました。当時はインフラ管理する専門の部門しかインフラを触れませんでしたが、その部門はそれほど人数がいるわけではありませんでした。
そうした中で事業が大きくなっていき、新規事業も増え、「LIFULL HOME'S」自体の規模や、ユーザーのトラフィックも多くなっていくなかで、インフラ部門に対する業務負荷が高まってしまいました。
その他にもオンプレミスで運用していると、「新規事業のアイデアを試してみたいんだけど」というときに、サーバを用意して、ラッキングして……と時間がかかってしまいました。そこも減らしていかなければなりませんでした。
またトラフィックの面で、不動産サイトというのは、繁忙期と閑散期が明確に存在しています。毎年、4月から学校が始まったり会社に入社して新生活が始まる人も多いと思うのですが、その時期に合わせてみんな家を探し始めるので年明け頃からトラフィックが増えるんです。
そのようなトラフィック量の変化に耐えられるようにクラウドに移行しました。ですが、古い環境だったので、ドキュメントもなく、作った人もいないものも多々ある、という状況の中で、今あるものを読み解きながら進めました。あとは、ものによってはブラックボックステストなどで動作を保証しながら、8人ほどで頑張って移行するということもやりましたね。
現在は「LIFULL HOME'S」の基盤の9割以上はクラウドで動いていますが、そのクラウド移行も1年半ぐらいかかりましたね。
――そういったレガシーなものを新しいものに変えていくにあたって、必ず障壁があると思います。ある意味で挑戦的なことを進めていく時、どういったことを考えてやっていますか?
長沢:そうですね、すごくシンプルに言うと、「やると決めてやる」という感じです(笑)。
――「やると決めてやる」。
長沢:インフラもそうですし、表のシステムも全部ですが、長く続けば続くほど、やっぱり変えたくなくなっていきます。また、なにかを移行しようと考え始めると「あれが大変だ。これが大変だ」という……できない理由といったらあれですが、気になる箇所はやはり増えていきます。
サイトでいったら「既存の商品やユーザーはどうするのか?」や、インフラでは「ここが危険だ」「このへんがよくわかっていないから無理なんじゃないか?」みたいな話がたくさんあります。そういったことは、いくらやっても絶対に出てきて、そのリスクを本当にゼロにすることは恐らくできません。
ゼロにすることはできないので、やると決めて、やることを前提として「どうやったらリスクを減らしていけるか」という考え方で、みんながやるほうにしっかりと向く。そのために、そこに対する意義や「なぜやるのか?」というところを、みんなで握っています。
我々であれば、それがユーザーのためであったり、その先にある「人々の暮らしや社会をよりよくするために」というビジョンを実現するために、「絶対にこれをやる必要があって、これをやればもっとこういうことができるようになる」という、こちらのいいところをしっかり認識して進めていく。その意識統一が大変でした。
あとは、やる上で実際のハードルや細かいところはけっこう出てきますが、そこに関しては、みんなで力を合わせて考えればだいたい解決できます(笑)。
――そういった意識統一には、かなりカロリーが必要になるのではないかと思うんですが、そこはトップダウンで進めていくのか、それともなにか仕組みや特別な取り組みがあるのでしょうか?
長沢:「よりよくしなければいけない」「自分たちも変わっていかなくちゃいけない」みたいな考え方は社内でガイドラインを定めているので、基本的には同じようなことを考える人たちが集まっているのですが、やはり大きい変革は誰かが引っ張らなくてはいけません。ですが、起点としてはボトムアップだったりします。
それでも、トップはしっかりとコミットする。「自分は知らない」ではなく、やると決めたら、トップも決めてそれを信じる。かっちり決まった仕組みがあるかというと、もしかしたらないかもしれないですね。これは社風なんだと思います。カルチャーと表現してもよいかもしれません
――では、ここからはLIFULL HOME'S以外のサービスについてうかがって行きたいと思います。
LIFULLは、LIFULL HOME’S以外にも、不動産分野でユニークなサービスを展開しています。マンションの参考価格を地図上で簡単にチェックできる「プライスマップ」や、物件の市場価値がリアルタイムでわかる「見える!不動産価値」など、不動産に関心が低くても面白いと感じる新しいサービスを次々と提供しています。そうしたサービスが生まれた背景について教えてください。
中島:そもそも「プライスマップ」や「見える!不動産価値」といったサイトができた背景は、自分の所有している物件を売却してお金に変えるという方法は存在していますが、実際問題として、それにはさまざまなリスクが存在しています。
本当に売れるかどうかがわからなかったり、「資産価値をぜんぜん把握していないのに、不動産会社に相手にしてもらえるのか?」など、大きな障壁が存在しています。
私たちは、こういった問題が、海外に比べて日本の中で中古物件が流通しない理由なのではないかと考えました。ですので、まずは不動産情報の透明化を図って、「自分の住んでいる物件が売れるのか?」「いくらで売れるのか?」「次に住み替えるところがいくらで買えるのか?」などの情報をもっとオープンにして、選択の余地を作ってあげたいということが、当時、僕がいた部署のミッションでした。
僕たちは、そのミッションの中で自由に裁量を与えられていたので、「プライスマップ」で価格情報を調べたり、実際に売るというアクションによりフォーカスしていったときに、「この物件が売れるのか?」「資産価値が5年後にはどんな上がり方をしているのか?」といったことを可視化する「見える!不動産価値」というサイトを作って売却への後押しをするなど、そういったアプローチをすることに決めたところから、プロダクト開発が始まっています。
長沢:家は、かなり大きい買い物ですよね。ローンを組んだらほぼ一生の付き合いになりますし、失敗できません。
そのわりに情報は多いとはいえません。20年前よりは増えたと思いますが、それでもやはり少ない。家を借りる場合であれば、少しは経験値がある方は多いですが、家を買うことはそれほど頻繁に起こらないので、そういう人にとって情報がオープンでないのは不なのではないかと考えています。
そこで、我々は住み替えのデータを持っているので、「そのデータを使って、ユーザーの住み替える不を解消していけないか?」という観点で、いろいろな角度から考えました。その中で「『プライスマップ』というものがあったらきっと便利で、世の中の人たちの不も解消できるんじゃないか」ということで、開発を行いました。
LIFULL HOME'Sでは「住生活を革進する」ということを目指しています。ですので、「ユーザーのためになるには?」「ユーザーに安心して住み替えてもらうには?」「ユーザーに便利に住み替えてもらうには?」「最高の暮らしをしてもらうためには?」ということを考えた結果、こうしたサービスが誕生しています。
最初にそういったことが必要だと言い始める人がいて、その人がまず最初に考え、作り始める。そして、賛同する者が増えていき「こういうことをやらせてください」と言ってプロジェクトが発足する文化がありますね。
――そういった人はどのくらいの頻度で出てくるのでしょうか?
中島:それほど頻繁ではありません。ですが、半年に1回、1年に1回ぐらいは、そういう人が出ています。
――エンジニア発でアイデアが出ることもあるのでしょうか?
長沢:そうですね。「プライスマップ」はエンジニア発のアイデアです。
中島:サービスレベルで出たり、「HOME'Sの新しい検索の方法を提案しましょう」だったり、粒度はまちまちです。ですが、エンジニアなどのものづくり側からスタートした企画は何個もあるので、ある程度の頻度でこうしたことが起きていると思います。
――新規事業を作らなければいけないミッションを持つ部署があるわけではなく、既存の部署から新規事業が生まれるということでしょうか?
中島:そうですね。その新規事業を作った人たちをサポートするための部署はありますが、基本的には、手を挙げた人がすべて任されます。
長沢:我々は「内発的動機」をすごく大事にしています。「内発的動機」とは外から与えられる動機でなく自発的に内から湧き出る動機です。やはり一番熱意がある人がやったほうがうまくいくと思うので、機能にしてもサイトにしても、想いがないといいものになりません。声をあげた人が本当にモチベーションを持っているのであればその人にやってもらいます。
――誰かが手を挙げた際、1人では作ることが難しい場合もあると思います。そういった時は、どのようにチームビルディングを行っているのでしょうか?
中島:一番最初は、もう完全に1人ですよね。
長沢:そうですね。
中島:そこでお金や人を割り当てられる感じになっていて、その人を助けたいとか、同じ未来を描きたい人たちが徐々にその部署に異動していき、大規模になっていきます。
先ほど言った「プライスマップ」を一番最初に作ったところに関して言うと、1人で始めたんですが、その人の部署は現在では20人ぐらいの大所帯になっていて、どんどん成長しています。
――部署の異動は希望制ということでしょうか?
長沢:そうですね。個人の希望はすごく尊重されます。半年に1回のキャリア面談を必ず上司とする制度があり、その中で、「5年後、どうしていたいか」「3年後、どうしていたいか」といった今後のキャリアビジョンを全員がすり合わせます。今後のキャリアビジョンに合わせて、自分はどんなスキルを伸ばしていきたいか、どんな経験を積みたいかを話します。半年ごとに、今の部署のままでいいのか、こういうキャリアを積みたいから別の部署に行きたいのかなどを相談することができます。
そこで異動先の都合と自分の部署の都合がつけば、異動できます。利用している社員も多いですね。
――ここからは、LIFULLの組織についてより詳しくお話をうかがっていこうと思います。新卒で入社された方に対してはどのような教育制度があるのか。また、どのように適性を判断されているのかを教えてください。
長沢:新卒は、入社時の面談の中で、だいたいどんな志向がありそうかを見ています。そして、入社後には、まずエンジニアとしての研修が2〜3ヶ月あります。
そこでは座学もありますが、どちらかというと個人やチームでものを作ることに重点を置き、アウトプットすることにフォーカスした研修を行って、その後チームに配属されます。チームに配属されるとメンターがついて、OJTで教えていくということを3クオーターほど行います。
2年目になったら「2年目研修」を行います。「2年目研修」は、同じく2年目の社員同士で3〜4人ずつでチームを組んで、自分があまり習得できていない技術をを中心に研修をします。
というのも、割り当てられる部署によって、インフラをよく触る部署やフロントエンドでJavaScriptをよく触る部署など、サーバサイド、PHPやRubyなどの言語、部署によって経験できる技術が変わります。
弊社は、エンジニアに対して幅広い技術を身につけてほしいと考えているので、例えば「ふだんサーバサイドばっかりやっていてインフラが弱い」という人には、その研修でインフラをやってもらったりなど、自分の一番弱いところを学ぶ研修です。
ある程度のレベルに到達したらその後は強いところばかりを伸ばしてもいいと思いますが、全員が最低限のところまではやろうということで、自分の弱いところを伸ばす研修を実施しています。
――では、中途入社の場合はどのような研修を行っていますか?
長沢:中途入社の場合は、スキル面の研修みたいなものはあまりありません。ただ、部署に配属された当初は、どうしても相談できない悩みがあるかもしれないので、他部署の仕事上関係ないエンジニアマネージャーがサポートする制度があって、仕事はどうかを聞いたり、たまに一緒に飲み行ったりご飯食べに行ったりなど、精神的なフォローをする「なにか相談があったらなんでも言ってね」みたいな「START」というプログラムがあります。
また、これは新卒・中途は関係ないのですが、「LIFULL大学」というコーポレートユニバーシティのようなものがあり、ゼミ形式でいろいろな研修を実施しています。例えば、AWSやクラウドを触ってみるゼミや、機械学習を学ぶゼミなど様々です。
技術系はもちろん、デザインやUI・UXを学ぶゼミ、企画系・営業系では分譲マンションの業界を知るゼミなど、非常に幅広いテーマで実施しているので、自分で好きなものを学んでいく仕組みです。
――「LIFULL大学」の先生役は誰が担当しているのでしょうか?
長沢:9割方は社員です。1割は外部から先生を呼んで話を聞くこともあります。自分が講師としてやったものは「実際にクラウドをどのように使っていくか」ということをハンズオン形式でやってみるゼミや、Rubyを学ぶゼミなどをやっていました。
自分で受講したものとしては、新卒で入社した時にアーキテクチャを勉強するゼミに入りました。いろいろなシステムのアーキテクチャを「この場合はStrategyパターンがよくて」といったようにケーススタディ的に学びました。他には、当時、英会話ゼミがあったので、外部から先生を呼んで勉強したりもしましたね。
――エンジニアと非エンジニアがクロスするようなゼミもあるのでしょうか?
長沢:ありますね。技術系のゼミでも、入門的な内容であれば営業の方が受けに来る場合もあります。
中島:エンジニアがデザインゼミとかを受けたりもしますね。
――では、そういった制度を通して、会社はエンジニアに対してどのようなことを求めているのでしょうか?
長沢:「エンジニアとして経営をリードする」ということですね。これは2、3年ほど前に、エンジニア全員が目指すスローガンとして作ったものです。どんな意味かというと、言葉だけ聞くと「エンジニアも経営の数字的なことも理解できるようになろうよ」みたいなことかと思われるかもしれませんが、そうではありません。
エンジニアとして率先してものを作ることや、新しい技術を取り入れて「もっとこんなことができますよ」と提案することは、「なかったものを作る」ことだと考えています。例えば、企画にしても、エンジニア不在で作った企画よりも、エンジニアがいて作った企画のほうがよりよい企画ができたり、当時みんなが想像していたものよりもよくなったり、今までなかったものになったり……例えば「今はブロックチェーンという技術があるので、この技術を使ったらこんなことができますよ」といった提案ができると思います。
そうした新しい技術をきちんと持ってきて、可能性を広げたり「もっとこんなことができるよ」と提案したり。「その技術がなければ創造できなかったことで、経営をリードしていこう」という意味で、このスローガンを掲げています。
この「エンジニアとして」という言葉は、特にこだわったポイントです。うまく調整をしたり、プロジェクトマネジメントを円滑に進めるなど、会社への貢献の仕方はいろいろあると思います。それはそれでいいんですが、やはりエンジニアである限りは、エンジニアとしてものづくりし続けることやエンジニアリングによって経営をリードしていくことが必要だと思います。
長沢:このスローガンを実現するために、4つの要素が必要だと考えています。
まずは「問題・課題に対して本質を考え続ける」こと。ユーザーのことをしっかりと考える。その解決策で本当にいいのか、エンジニアなりに論理的に考えて、本当にそれでいいかを考え続けましょうということです。
2つ目に「建設的にエンジニアとして伝え・表現し続ける」ということです。エンジニアというのは、やはりものを作れることがいいところだと思うので、ものを作って、きちんと表現し続けましょうと。
例えば機能追加の話が出ても、みんなが頭の中で話しているだけではどうしてもイメージが湧かないですし、机上の空論になってしまいがちです。しかし実際に作って見せれば、「これ、いいね」「もうちょっとこうしたほうがいいんじゃない?」といったように、前向きな議論になることがすごく多いと思います。エンジニアなので「きちんと作って見せましょう」というところは大切にしています。
また、自分の得た知見を発表するということも大切にしています。
3つ目は「世の中は変化していくものだと理解し、自分自身も変化し続け、周囲の人・環境も変えていく」です。エンジニアの世界では特にそうですが、先週まではよかったものが今週には違っていたり、新しい技術が発表されて構造がガラッと変わってしまうこともけっこうある話だと思います。ですので、「周囲が変化することだと理解した上で、自分自身を変え、また自分が変わるだけでなく、周囲を巻き込んで変えていく」ということを大切にしています。
最後は、これらを実行するために「それらをなし得る技術力を身につける」です。3ヶ月に1回、エンジニア総会をやっています。エンジニア全員が集うんですが、そのテーマも、「エンジニアとして経営をリードする」ためにどんなことをしたのか、各エンジニアが「自分はこういうことをしました」ということを発表する機会を設けています。また、「それに向けて、こういうふうに考えていきましょう」みたいなこともやっています。
――それでは、現在のLIFULLの技術スタックついて、具体的に教えてください。
長沢:4割がPHP、4割がRubyで、あとの2割はいろいろな技術を使っています。
クラウドに移行してから、マイクロサービスのように、サービスや部署ごとにAWSのアカウントも全部切って、それぞれ自分たちでインフラから表まで管理しようという方針にしています。
例えば分譲マンション領域の開発チームは、自分たちでクラウドのアカウントを持っていて、自分たちでアーキテクチャを決めています。言語やフレームワーク、インフラやサーバ、ミドルウェアに何を使うか、自由に決めて良いということにしています。
そのおかげもあり、さまざまな言語を採用するチームが存在しています。その中でGolangとNode.jsは比較的多いですね。他には、サーバレスで進めているチームもあります。機械学習などをやっている部署はPythonを使っていたりします。
iOSのチームはSwift、AndroidのチームはKotlinとJavaを使っています。RubyとPHP以外の残りの2割に関しては(使用している言語は)散っているという印象ですね。そして、その残りの2割の部分がだんだん増えてきています。
――近頃、企業の開発環境に注目が集まっています。LIFULLとしては、どのような方針を取っていますか?
長沢:2018年4月に現在のオフィスに移転してきたのですが、それまでは椅子に関する不満が比較的多く寄せられていました。現在は全社員がアーロンチェアライトです。
PCについては、スペックは青天井ではありませんが(笑)、そこまで不満の出るようなことは、いまの所ありません。
中島:CPU・メモリ的にはけっこういいものを使わせてもらえています。別に「最初からこれ以上はだめだ」と言われていたわけではありませんが、当初は「これでいいですかね?」と言われていたストレージ容量が、現在では「少し小さいのでは?」と言われ始めているので、新しくPCを申請する際は、容量が倍になると思います。
予算は限られているものの、問題があったら改善されていくという感じですね。
長沢:あまりにスペックの低いPCを配布することは基本的にありません。入社のタイミングでOSも選べるようにしているので、エンジニアではMacを使っている人が多いですし、逆に営業の人はWindowsが多かったり。必要な人には必要に応じたスペックのPCが用意されます。逆に、機械学習をやるような部署では高スペックなものが必要だと思うので、必要だと言われれば用意しますし、そこに関しては柔軟に対応しています。
――いま、機械学習というお話がありましたが、AIやブロックチェーンなど、新たな技術を用いた開発事例はありますか?
長沢:ブロックチェーンは、サービスを弊社内で直接手がけているわけではありませんが、ブロックチェーンを推進していく部門があります。不動産とブロックチェーンは相性がいいと思っています。登記簿がうまく登記されていないといった問題なども存在しているので、そういった部分で、弊社のエンジニアも入って、外部の方と協業しながら業界団体を作り、一緒に進めています。
――それでは最後に、LIFULLさんが今後目指す場所、それからエンジニア組織の今後についてお聞かせください。
長沢:LIFULLとしては、コーポレートメッセージにもあるように、「あらゆるLIFEを、FULLに。」ということで、住宅・不動産分野ではグローバルスタンダードになるために国際展開も進めています。そんな中で、人が家を住み替える時に、とくに意識せずに「LIFULL HOME'S」を使うような状態にしていきたいと考えています。
不動産以外でも、「あらゆるLIFE」ということで、人の暮らしには本当に色々なことが存在しています。例えば医療であったり、教育であったり今後は様々な可能性があると思います。新規事業をどんどん広げていくつもりです。
その中で、世界の人たちに当たり前のように使われるサービスになるためには、開発組織も世界レベルになる必要があると思います。
まずはいまの足元のサービスをよくして、日本一にしていきたいと思っていますし、開発組織も日本一、世界一にしていきたいと思っているので、もっと技術に特化していきたいと考えています。
先ほどお話ししたマイクロサービス化によって、インフラからフロントエンドまで幅広くやっていけるエンジニアが増えてきているので、「LIFULLのエンジニアは技術力も高いよね」と思ってもらえるようになりたいと思います。
他には、Webサイト以外の部分も少しずつ手を伸ばしているところもあります。「VRはWebか?」というと定義は難しいところではありますが、ビッグデータを使ったり、AIを使ったり、XR(AR/VR)みたいなものを使いながら幅を広げていきたいと考えています。
いまはまだ、LIFULLに技術が強いというのイメージは少ないなと思います。ですので、しっかりと技術に強いイメージを持ってもらうために、新しい技術にもどんどんチャレンジしてあらゆるLIFEをFULLにしていくことをどんどんやっていきたいですね。
株式会社LIFULL
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