2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
竹林一氏 プレゼンテーション(全1記事)
提供:株式会社ZENTech
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竹林一氏(以下、竹林):こんばんは、オムロンの竹林です。よろしくお願いします。
私は前職がドコモ・ヘルスケアというところで、ヘルスケア会社の社長をやっていました。だいたいヘルスケア会社の社長がプレゼンに出てきて元気がないというのは、ブランドのイメージを落とすんですね。
(会場笑)
例えば太ってるとかもそうですね。痩せてても「不健康や」って言われますから。ましてや血圧が高いとか、痛風で足が痛いなんて言ったら「まずは自分の健康なんとかせぇや」と言われるので。元気でやらせていただいています。
私はよく「しーさん」って書かれたりするんですけれども、なんで「たけばやしーさん」なのか。僕は京都出身なんですけども、大阪の人って、ちょっと視点が違うんですよね。
大阪にある会社の受付に行って、僕は名刺を出したんです。受付の女性が僕の名刺の名前を見て「すみません」って言われたんですね。なにかなと思ったら、「これ、伸ばすんですか?」って。どういうことかと思ったら、「これ、たけばやしーって読むんですか?」って言われたんです。
(会場笑)
そんな人おれへんやろって。みなさんに「話盛ってるでしょ」と言われるんですけれども、これ、本当にあった話なんです。でも、これはネタとして使えるなと。講演を受けることも多いので、この話をすると、みなさまの頭の中に「たけばやしー」がこびり付くんですね。
なにかあったときに「たけばやしー(竹林一)」って、GoogleとかFacebookで検索すると、猿にいっぱい囲まれた僕の写真が出てきます。そこでメッセージをいただいたら友だちになれるので、そこからネットワークが広がり、ビジネスにつながっていくビジネスモデルでございます。
(会場笑)
まぁそんなところから始めさせていただきたいなと思います。
今日は心理的安全性とイノベーションということでお話しをさせていただきます。もともと僕がなにをやってきたかと言うと、ベースはエンジニアなんですね。エンジニアとして会社に入って、その後ずっと新規事業を立ち上げてきました。
そのあと「会社の経営やれ」と言われたので、ソフトウェア会社の経営をやってきて。次は「生産会社が赤字なのでなんとかしてくれ」と言われて、生産会社を立て直しに行ったり。
立て直したら、今度は「これからはヘルスケアの時代だ!」となって、「ヘルスケアビジネスを立ち上げろ」というので、オムロンヘルスケアと一緒にドコモ・ヘルスケアという会社を立ち上げたりしてきました。
それもまた黒字で立ち上がったら、「いやいや、これからはIoTの時代だから戻ってこい!」って。もう、なんやよくわからん世界です。今はIoTのデータの流通市場を日本に仕掛けて、世界も含めて新しい市場自体を作ったれ、ということをやっています。
ここから今日のテーマのイノベーションと心理的安全性なんですけれども。そもそもイノベーションってなんなのか。これね、わかったようでわからないんです。
よく会社で「イノベーション起こせ!」と言われるんですけれども、イノベーション起こせって言われてもねぇ。あのね、ここだけの話をしときますよ。イノベーションは、起こさんほうが楽です。
(会場笑)
なぜかと言うと、今までのオペレーションをやっている人がいっぱいいるからです。イノベーションというのは、これまでのやり方などを新しく変えていくんですけど、オペレーションをやっている人に「変えるで!」と言ったらだいたい怒ります。覚悟がないんだったら、イノベーションはやっているフリをするのがいいんですね。
(会場笑)
やるんなら、覚悟を決めてイノベーションを起こさないといけないという話です。イノベーションをやろうとしたら、ハレーションが起こるんです。それをきっちりわかっておかないとダメですよね、という話です。
ところで、イノベーションってなんですかね? という話です。わからなかったら、いつも見ているウィキペディアで調べるんです。
1911年にシュンペーターいう人が、初めて「イノベーション」と言ったんですね。「労働力など、それまでと異なる仕方で新結合することと定義した」ってね。定義したのはいいんですけど、それで「イノベーション起こせ」と言われても、なにしたらいいのかよくわからないんですよ。
ところが、このイノベーションというのはおもしろくて。よく読むと、新しい品質・生産、新しいプロダクトを作れと言ってるんですね。
新しい生産方式を生み出すのもイノベーションだと言ってるんです。新しい販売の仕方もイノベーション、原材料の供給源の新しい確保、これもイノベーションだと言っています。
さらに、新しい組織の実現。これもイノベーションだと。例えば、心理的に安全な組織を作ったら、それはイノベーションなんです。だから、人事であろうが技術であろうが、だれでもイノベーションは起こせるんです。
「イノベーションを起こすぞ!」と言われると、往々にして「馬車から自動車を作らないといけないのか!?」と。そんなものを作れる人はそうたくさんいないですから。ところが、今みなさまがやってるところで、新しい仕組みができて新しい価値を作ったら、それは全部イノベーションなんですよ。
オムロンにおいてはイノベーションって、ちゃんと定義されています。それはソーシャルニーズの創造、社会的課題の解決です。ところが、うちの創業者はソーシャルニーズの創造、社会的課題の解決は当然のこととして、更にシュンペーターと同様、「新しい価値、新しいものを、新しいやり方で変えたら、それは全部イノベーションだ」って。
うちは当然技術の会社なので、技術でイノベーションを起こせるんですけれども、そうではなくて「人事でも総務でもだれでもイノベーションは起こせるんや!」という話です。さっきも言いましたが、だれかが会社のなかに心理的安全性を作ったら、それはもうイノベーションなんですよね。
僕がオムロンで一番すごいなと思っているイノベーションがあるんです。世界初・日本初の技術はいっぱいあるんですけれども、僕がオムロンで一番すごいなと思っているイノベーションは「人事のイノベーション」なんです。
オムロンで管理職になってから6年目に、3ヶ月会社に来なくていいという制度があるんですね。これが一番凄いなあと思うイノベーションです。だいたい3ヶ月会社に来なくていいって言うと、みんなに羨ましいなって顔をされるんですけれども。羨ましいですか? 3ヶ月の間、給料もくれるんですね。
ところが、この3ヶ月休んでもいいっていうのは微妙なんです。だいたいマネージャーになって6年くらい経ってると、みんな部長クラスになってるんです。なにを考えるかと言うと、「俺がいなかったらこの部は回らん」とかです。あるいは「俺がいなかったらこの会社は回らないんだ!」ってね。でも、部長がいなくても回るんです。
(会場笑)
3ヶ月くらい、部長がいなくても回るんです。回ってるくらいだったらいいですけど、「部長がいなかったときに、心理的安全性が確保されました!」って言われたりね(笑)。「部長いなかったから、新しいアイデアをどんどん取り入れてくれました!」なんて、なりかねないですよね。
なんでそんな制度を作ったか。6年くらい経ったときに「ところで君、なんでオムロン来たの?」ってことを考え直してもらうためです。そもそも「なにかやりたいことがあってオムロンに入ったんでしょ?」って。みなさんもそうですよね。どこかの団体に所属されてるということは、そこでなにかやりたくて入ってるんですよね。
毎日働いてると、売上がどうの品質がどうの、生産性がどうのという話ばっかりされるんですけれども。それは一旦置いて、「なにをしたいのか?」を考えてきてくれって話ですね。やりたいことがあれば、帰ってきてね。そのための制度です。微妙でしょ?
(会場笑)
「やりたいことがあったら帰ってきて」って、つまり「やりたいことがないなら帰ってきてくれなくていい」ってことなんです。また、外にやりたいことがあれば、これも帰ってくる必要はありませんよね。僕の先輩は「この機会にモンゴルの遊牧民を見に行く」と言って、そのまま帰って来なかったんです。
(会場笑)
でも、それがその人にとって幸せなんだったら、別にいいですよね。やりたいこともないのに帰ってきて、また部長の席に座られても困りますし。たぶんその人は、部門で一番給料が多かった人ですから。
僕はちょうどその時期に新規事業立ち上げをやっていて、休めると思ってなかったんですけど、急に休みがとれることになって、しかし急だったんで何をするか決めてなかったんです。
それまで15年ずっと単身赴任してたんですけど、嫁さんに電話して「休みが取れたから歩いて帰るわ」って言ってみたんですね。そうしたら「はいはい~」って。家は南草津にあったんですけど、当時住んでた恵比寿から「家まで道って続いてるのかな?」とふと思って、東海道を歩いて帰ることにしたんですね。そして朝早く、恵比寿を出発、本当に歩いて帰ったんです。
(会場笑)
1日目は、藤沢まで42キロ歩いたんです。夜に電話かかってきて、「何時に帰って来るの!?」って言われて。何時に帰るのかって言われてもね(笑)。「めちゃめちゃつらいなぁ……」なんて言いながら、そこから15泊16日かけて家帰ったんですけども。
毎日毎日「早く帰って来い」って言われてね。「まだ子どもは大学にも行ってないのに、車に轢かれたらどうするんや!」とか「山賊に遭ったらどうするんや!」とか言われながら帰ったんです。
そのときにやっぱり「なんのためにオムロンで働いてるのか?」と考えるんですね。2つありました。1つは新しい社会システムを作りたかったんです。もう1つは、僕はもともとエンジニアなので、エンジニアの目を輝かせたいというのがあって。だいたいエンジニアの目が輝いてないメーカーって、おもしろくないですよね。
でも、目が輝いてないのは、エンジニアだけじゃなかったんですよ。その上司の目も輝いてなくて。エンジニアも含めてみんなの目を輝かせる活動をしないとあかんなと思ったんですね。オムロンという場を借りてもそうですし、ほかの場も借りてそういう活動をしたいなと思っていました。
あと、会社に行くと納期やらクレームやら基本エネルギーを取られますよね。「うちの会社はエネルギーをくれます」というところあります? 「夕方になったらエネルギー貯まりまくってんねん! なにしようか!」なんて言うてね。
だいたいエネルギーを取られるんですよ。まあ、会社だけじゃないですけど。そうしてエネルギーを取られたときに、どこからエネルギーを補給するかというと、僕は自然から補給するんです。
ある時、滝に打たれに行ったんですね。御岳山です。10数メートルから降ってくる水に当たるのって、きついんです。流されそうだし、なにより痛いし。それで力が入るんですけど、力が入ると余計滝が痛くなるんです。
それを宮司さんが見ていて「力を抜け」と言うんですね。何回か打たれてるうちに、力を抜いた瞬間、滝が体の中を流れるんです。それまでは作用に対する反作用で、「なんとか流されんとこう」とするから、力が入って痛いんですけど、力を抜いちゃうと滝と一体化しちゃうので痛くない。お客さんと一体化する方法は、この時に学びました。
滝に打たれたあとは、休暇をとって出羽三山で山伏もやってみました。これはドコモ・ヘルスケアの社長をやってる時ですね。山伏やろうと思って、もう予約してて。いざ行こうと思ったら、ドコモの前の社長から電話がかかってきて「ちょっと相談したいことがある」って。さすがサラリーマンですね、「山伏に行く」とはよう言いませんでした。
(会場笑)
「わかりましたー!」って返事して本社に行きました。それから山伏するために、ちょっと遅れて行ったんですけども。山伏に遅れて行くっていうのもまたね(笑)。出羽三山の星野さんという先達のところで山伏やってみたんです。山伏は白い服を着てるんですけど、あれは死装束なんですね。1回死んだと。生まれ変わってこいっていう発想なんですけども。滝に打たれてから山伏をやってみると、いろいろなことがわかってきました。
修行のあとで、星野先達からの講話があるんです。どんな話かと言うと、例えば「山伏やりたいなら1回やってみたらええやん、今の人達はやってもいないのに頭でいっぱい考えてやめてしまう。」という話ですね。
そういった講話のあとに彼は「君たち、PDCAはDから回せ」と言うんですよ。まずDOやって、それからCHECKやACTIONして、PLANに戻せと。みんな頭が良くなってきたら、Pで終わるんですね。Pをやり倒すとリスクがいっぱい見えたり、「ちょっと忙しい」とか「お金がかかる」とか言い訳をしだすんです。
でも僕、山伏修行に行って「PDCA」って言葉を聞くと思いませんでしたね。「えぇ!? PDCAですか!?」って。
(会場笑)
是非『山伏が語る。PDCAはDから回せ』っていうサラリーマン向けの本を書いてみたいと思っています。実は、何年か前に山伏修行で出会った同期生が、今日のイベントに来てくれてるんです。これまでも何回か飲みに行ったり、山伏の同窓会をやっています。
そんなこんなで、いろいろ学んで来たっていうお話でした。
ここからイノベーションの話なんですけど。さっき言いましたように、そもそもイノベーションってやらんほうが楽ですよ、っていう話です。新たなイノベーションを創出するためには、ワクワクする仕組みを作らないといけないんですね。
僕がよく言っているのは、コミュニケーションのないところにモチベーションは生まれない、更にモチベーションのないところにイノベーションは起きません。
ところが、コミュニケーションとモチベーションをカットして、みんないきなり「イノベーションを起こせ」って言うんですよね。
モチベーションのベースになるのはなにかですが、よく言ってるのが、「I Believe、I Will、I Think、I Do」という言葉で。「I Think、I Do」は、みんな自分で考えて自分で行動できるんです。ところが、「Willはなんですか?」って話になるとなかなかね。
例えば「会社の売上を上げないといけない」といったWillもあるかもしれないし、「この組織をなんとかしなあかん」とか「いやいや、うちの会社自体をなんとかしなあかん」「いやいや、これは業界の構造をなんとかしなあかんのや!」みたいな大きな視点からWillを考える人もいます。こういうWillによって、Thinkの大きさも変わってくるんです。これは良い悪いじゃないですよ。
Willが大きければThinkも大きくなってくる。でも、私ではできないとなると、Believe、つまり信じてやるしかないんですよね。
このWillというのは非常に大切です。「じゃあ、自分のWillってなんやろうな」と考えていた時、当時の部下が僕のところに来て「やりたいことを100個書きました!」言ってきたんですね。やりたいこと100連発って。「竹林さんはやりたいこと100個もないでしょう」って言われてムカっとしてですね。
(会場笑)
僕も2006年に、やりたいこと100個書いたんですね。それから2018年まで12年間、毎年やりたいことを100個書き出してるんです。別にコミットメントしてるわけじゃなくて、自分の整理のためですね。
やってると、だいたい7割くらいは実現するんです。「やらねばならない!」とかじゃないんです。やりたいことを書いてるだけで、いつもは忘れてるんですけども。できなかったら、また翌年に同じことを書いてるんです。(スライドを指して)こんな資料を出すと思ってなかったんですけど、白で塗ってあるところは秘密ですね。けっこう、1個ずつ見る人がいるので。
(会場笑)
僕が書き始めたので、部下はなにをしたかと言うと、今度は「やりたくないこと100連発」を書いてきたんです。例えば「上司に媚びない」とか。でも彼がやってみてわかったのは、「やっぱりやりたいこと100連発のほうがいいです」ってことで。やりたくないことをいっぱい書いてたら、ものすごくネガティブになっていくんですって。
(会場笑)
人って「Will」があって、初めていろいろな人が共感して動き始めるんですね。僕もいろいろな会社を作ってきましたけど、Willがないのにアライアンス組んで「一緒に新しい世界を創りましょう!」と言ったって、相手の目は心から笑っていないし。うちから「ぶん取ったろうって思てるやろ!」というのがわかるんですよ、もう滝とか打たれると。
(会場笑)
リスクだけ見てる人が出てくると、まだ会社作ってもいないのに「会社が潰れたときはどっちになんぼ責任があんねん」と言ってくるんですね。「いや、まだ結婚してませんけど!」っていう話ですよ。結婚してないのに「財産分与はどうする?」って言いながら入ってくる人、たまにいますよね。「親戚は誰やねん?」とかね。そうじゃなくて、まず2人が愛し合ってるかという「Will」が大切ですよ、という話です。
人はWillで動くという話ですけど、これは秘密結社型ビジネスモデルマーケティングって言ってることがあって。世の中のいろいろなビジネスって、秘密結社から生まれていると思ってるんです。
僕の友だちが立ち上げた「日本ロマンチスト協会」というのがありまして。「日本の男女はもっとロマンチストであらねばならない」と心から思っている人が立ち上げた協会ですね。最初はクローズドだったんですけども、お金を回すためにオープンにしていったんですね。今は長崎県の愛野駅というところに本部があるんですけれども、JRとタイアップした聖地巡礼モデルとか、いろいろお金がまわるモデルがでてきています。
日本唐揚協会も秘密結社からできてますね。「ほんまに唐揚げをなんとかしなあかん」と思ってる唐揚げ大好きな人がいっぱい集まってるわけですね。
(会場笑)
いつまでも秘密では広まらないので、オープンにして財団にすることで認知されてビジネスにもつながります。
日本丼協会はものすごくお金を持ってるんです。なんでかと言うと、車のメーカさんがバックアップしてるからです。ミシュランモデルと一緒ですよね。丼食べるために車をもっと動かす。ミシュランもそうですよね。ヨーロッパ中のおいしいものを食べに行って、タイヤを擦り減らす作戦です。
(会場笑)
風が吹けば桶屋が儲かるみたいな感じですけども。Willで集まった空間って、実は安全なんです。それが社会を動かしていくんですよね。Willをベースにした秘密結社には上下関係もないです。「あの人は部長だから」とかじゃなくて。どっちかと言うと、「どっちが唐揚げ好きやねん!」とか「どっちのほうが丼好きやねん!」とかで上下が決まると。これは役職の上下じゃないんです。それが社会を動かしていくというモデルですね。
Willのある人って、本気出すんですね。WillがなくてThinkだけだと本気が出ないので、それならイノベーションはやめたほうがいいって言ってる理由はここにあるんですけれども。
今まで会った人のなかですごい人がいて。どことは言いませんけど、H堂の営業マンなんです。
(会場笑)
彼とプレゼンで一緒になった時、赤いスーツ着てきたんです。「変なやつやな、しゃべるの嫌やな」って思ったんですけど、すごいプレゼンするんですね。あとで「なんでそんな赤い服着てんの?」って聞くと、「自分の前に何人かプレゼンターがいて、前の人間がしょうもなかったら、自分のところまでみんなの意識が保たへん」と。せっかくすごいプレゼンを作っていってもダメになると。
そこで彼が考えたのが赤いスーツを着て行くことで。「こいつなんなんやろう!?」って、ずっと見てるんですね。前のプレゼンが全部飛ぶって言うんですね。
(会場笑)
こいつがこれからなにを言うのかだけに、お客さんは集中するんですね。逆に自分にプレッシャーかかる。それでおもしろくなくて、受注できなかったら全部自分の責任ですから。プレッシャーをかけてるんですよ。
もう1人例を出します。僕の友達の大学教授です。(授業が)ものすごくウケてるっていうので聞きに行ったら、彼は産学協同論というのを教えてるんですけど、授業でアンケートを取ってるんですって。そのアンケートがおもしろくて。今までこんなアンケート見たことないんです。紙には横に1本棒があって、「円」って書いてあるんです。
授業が終わったあとに学生にアンケートを配って「今日の授業、君たちがバイトして稼いだ金からナンボ払う?」って聞くんですね。おもしろかったら1万円とか書いてあって、おもしろくなかったら500円とか書いてあるんですね。それを全学生から集めてエクセルで集計するんです。
これでなにがわかるか? 売上が出るんです。原価はなにかというと、お父さんお母さんがその1枠に払う授業料ですね。この何倍儲けたかが、自分の価値やと言うてるんですね。「学生たちが聞かへんから悪いんや!」じゃないんです。プロやったらどうやって聞かすかということに本気になると。そこまでできるんですよね。
僕がいまやってる活動を少し紹介したいんですけれども。いろいろな新規事業を立ち上げるうえで、起承転結型の人材が必要だと思っています。
「起」は0から1を生み出す人。「承」は1をn倍化するグランドデザインを描ける人。「転」はn倍化する過程で戦略思考があって、KPIを設定してリスク管理できる人ですね。「結」はきっちりやり続けて改善してくれる人。
これはどれが良い悪いって話じゃないんです。どれも必要になってくるんです。起はアート思考ですし、承はデザイン思考、転はサイエンス思考、結はエンジニアリング思考が得意なんです。
起承は社外人脈が多いですし。転結は社内が多い。起の人は、どちらかと言うとコミュニティ理論で動いていますね。転結の人はカンパニー理論です。コミュニティ理論って、こういうところ(会場を指す)で動いているんですね。コミュニティとカンパニー理論はなかなか合わないんです。
起の人の出張なんかややこしいですよ。どこ行ってるかようわからへんから。なにしに行ってんねんって言うたら、「なにするか考えるために行ってる」とかね。「え~!?」みたいな。
(会場笑)
転のMECE分析する人からは絶対許せないタイプですよね。でも、どっちも必要なんです。
起承転結には2つのタイプがあります。今まで日本は、起承の創業者と転結の番頭さんがいたんです。ところが、「このビジネスはは勝てるな」と思うと、転・結だけを高速で回すのが一番儲かるんです。要は「KPIを設定してがんばれ、KPIを設定してがんばれ」と。心理的安全性よりも効率化のほうが大事なんです。
ところが世の中が変わってきた。もう1回、イチからどんな会社にするねんとか、新しい軸を考えなあかんので、起承の人が必要になってくるんですよね。これはマネジメントのスタイルが違うんです。転結のマネジメントスタイルの中でイノベーションを起こせと言われても、ちょっとしんどいですね。
それに境界も明確に2つに分かれてて。転結型はウォーターフォールというモデルですね。「要求仕様が明確に決まっていて、要求仕様どおりにプログラムを設計してくれ」と指示を出す、要は銀行のオンラインシステムとか、みなさんの会社の人事システムとかですね。
もう1つはアジャイル型で新しいサービスをつくる。要件を考えながらプログラムを組むんですけど、やりながら「ここはお客さんが使いにくいだろうな」となったら、クルクル仕様を変えていく。それがアジャイル型です。
ソフトの世界では、「ウォーターフォールモデルは武士の文化や」と言われています。武士の文化というのは、失敗したら切腹しなあかんのです。誰かが切腹しなあかんのです。売上が落ちたら切腹。情報漏洩したら切腹。お客さん怒らせたら切腹。だから絶対にリスクを負わないように、負わないように思考が倒れていきます。
じゃあアジャイルモデルは、なにかと言うと、忍者の文化やと言われてるんですね。忍者は切腹したらあかんのです。「相手の城に行って巻物取ってこい」って。巻物を取りに行って、鍵開けてる最中に見つかって「ピー」って笛を吹かれても、「見つかった!」って、ガッてやって(お腹を出すジェスチャー)、こんなとこで切腹したらあかんのですね。
忍者は生きて帰って「南京錠の形がちゃうやないか!」とか「見張りのタイミングが変わっとるやないか!」と教えに行ってあげなあかんのですね。
こういった忍者の文化がイノベーションを起こしていくんですよね。「忍者がイノベーションを起こすんか!」っていうことで、Googleで「忍者 イノベーション」を調べてみたら、『ニンジャ・イノベーション』って本が出てました。
(会場笑)
これは外国人が書いているんです。ゲイリー・シャピロって誰やねん言うたら、全米家電協会の会長ですね。本の帯もすごいですよ。「スティーブ・ジョブズとジェフ・ベゾスは忍者だった」って書いてありますからね。ほんまかいなっちゅう話ですね。
(会場笑)
日本はこの忍者の文化を忘れてるんちゃうか、というのがありますね。忍者と武士の文化を理解したうえで組織を作っていかないと、武士の文化しかないのに安全性って言っても、切腹せんようにしますから。リスクは負うなというのが武士の文化なのでね。これは良い悪いじゃないです。これまではそれで食ってきたんです。
それが変わり始めたから、こんなことになってくる。Googleがなぜ心理的安全性なんて言い始めたのかというと、起承の部分をやらなあかんからですよね。転結の効率化で「KPI達成するために、言うたままやれ」という世の中じゃなくなってきたら、起承は統率できないですよね。そんなところにKPIを持ち込んだり、効率を持ち込んだらダメですよ、という話です。
じゃあ、どんな組織にしないとあかんのかと言うと、武士も忍者もお互いが認め合える文化が必要だと。武士もすごい、忍者もすごいんや、とうまいことやらないと、「お前らは忍者やろ」「お前らは武士やろ」って言うてたら安全な環境はできないです。徳川家康は、どっちもコントロールしたから天下を取れたんですね。
これまで起承をイノベーション、転結をオペレーションと呼んでましたが、そうすると今度は転結の人が怒っちゃうので、最近は起承はクリエーション、転結はオペレーションという話をしています。
これが融合したときにはじめてイノベーションが起こるので、これを融合する組織をどう設計してあげるかが非常に重要になっていきます。
あとは、こういった理論でどういう組織を作っていくか。生産会社の立て直しの話をちょっとしたいと思います。
赤字会社の改革に行ったんですけども、まずなにをしたか? みんな転結を一生懸命やってくれるんですよ。それでも赤字だったと。日本の会社でサボってる人なんてあまりいないですよ。工場をやってて、「今日はちょっとハンダ付けるのやめといたろう」とか、そんな人はいませんからね。みんな一生懸命してくれてるんですけど、やっぱり起承がずれてるんです。
EMS(electronics manufacturing service)という会社だったんですけども。要はお客さんの電子機器の組み立てを受託して、そのとおりに作るという会社だったんですね。EMSの事業を調べていくとすごいことがわかってきたんです。EMSって製造業じゃなかったんですよ。
EMSのSはサービスのことなので、サービス業に分類されていたんです。なんでかと言うと、電子機器を売ってるんじゃなくて、電子機器を作るというプロセスを提供しているので、サービス業なんですね。
サービスという軸から考えると僕らの会社は、散髪屋さんとか旅館とか、居酒屋と同じグループなんです。そこがずれてるんで、ずっと赤字が続いてるのとちゃうかなということです。
そこで、会社の運営に旅館のモデルをとり入れたんです。今までは転結がんばれ、転結がんばれ、KPIもっとやれ、在庫はもっと減らせ、って転結ばっかり回してたんです。でも、製造業とサービス業というところが、そもそもずれてんのちゃうかという話ですね。そこで、徹底的にサービス業である旅館のモデルを導入しました。
それまでは偉いお客さんが来社されたときだけ「社長、挨拶してください」って営業が頼みにきたんですけど、そんな女将がいる旅館はないですよね。お客さんが来て、「あの人は社長じゃないから挨拶するのやめとこう」なんてしませんから。
挨拶しながら、お客さんがこれからチェックして回るリストを全部見せてもらいました。そのあと、現場を回られるので、チェックリストどおりに現場を改善しておけばいいわけです。旅館というモデルを徹底的に導入したことで、「新しい社長、なんか旅館や言うてはるで」って話になって。みんながどう思ってるかわからなかったから、全社員と6ヶ月くらいかけて一緒に昼飯を食いました。なんで旅館やと思ってるかという話をするためですね。
それでなにが起こったかと言うと、2年目の6月に、入り口にスリッパが並んだんですね。ある日女性スタッフから電話がかかってきて、「(来られる)お客さんって何人ですか?」と。そしたらスリッパが並べてあったんですね。お客さんにも喜ばれて。
みんなを集めて朝礼で何百人にスリッパが並んでて喜ばれたって言うたら、次の日にスリッパが並んで、手書きのウェルカムボードができて、生け花が飾ってありました。その次は、お客さん専用トイレができたんです。
応接室に入るまでは私たちの仕事やというので、経理とか総務の女性が並んで「おカバンをお持ちします」っていうのが始まって。お客さんが帰られる時に「本当に旅館に来たみたいでした」って話になりました。
いろいろな改革はしてきたんですけども、僕が一番やったのは挨拶なんですね。お客さんがこられたときに挨拶しようと言うても、社長が挨拶せぇへん会社で従業員だけが挨拶するわけないんです。
挨拶って、僕は大好きな業務なんです。挨拶って実は、上の人が下の人にするんですね。「あいつ挨拶ないやん!」じゃないんです。社長自身が挨拶して回らないといけないという話です。そういうことをずっとやってます。昼休みは工場を歩いて、自分でゴミを拾いました。昼休みに社長が拾ったゴミを食堂前に出しておくんですね。
朝会社へ行って、車を置いてから、3万2400平米くらいある7つの建屋を全部回って「おはよう」と言ってから、30分くらいかけて社長室に行くようにしてました。それから挨拶が始まって、スリッパが並び始めて。実はスリッパが並び始めた2年目の6月から、勝手に黒字化が始まったんですね。
旅館という、まったく違うモデリングを放り込んで、社長自らが挨拶することによって距離感をどんどん縮めていってあげる。それが大切やなということで、今日のプレゼンを終わらせていただきます。ありがとうございました。
(会場拍手)
金:しーさん、ありがとうございました。このあと、チームの心理的安全性についてのお話があったかと思うので、5分くらいでぜひお話しいただけませんでしょうか?
竹林:そうですよね。ここまでが前座だったんですね(笑)。心理的安全性を高めるために今までなにをしてきたかというお話ですね。
僕が新規事業を立ち上げていたときに、部下が僕のことを「隊長、隊長」って呼んでたんです。それで距離感が縮まりました。「新しい隊長や。ええやん!」って。お客さんも隊長って呼んでくれるので、名刺に「隊長」って書いたんです。怒られましたねぇ。勝手に名刺に隊長とか書いたらダメですよ。
(会場笑)
ところが、オムロンの人事がまたおもしろいんです。隊長って書いてお客さんにウケてたら、人事部長が僕を呼んで「名刺規定にないものを書くな!」って怒るんですけど、それでは僕が反発するので、うまく持っていくんです。
「竹林さん、めちゃめちゃおもしろいことやってるみたいですね」「名刺見せて」と言うてね。隊長って書いてあったら「すごいね! 隊長なんや」と言って、そのあとに一言、「なに書いてもいいんだったら、隊長と征夷大将軍と閣下と将軍がいて、そこにうちの社長がいたら、誰が一番偉いかわからへんようになるからやめてくれる?」って。
(会場笑)
「たしかに!」って。お客さんは、「誰が一番決定権持ってるんやろう、たぶん征夷大将軍ちゃうか?」なんて言うててね。
(会場笑)
閣下は微妙ですけど、偉そうですね(笑)。ニューヨークにいる友人のコンサルタントが、名刺に「DOD」って書いていたんですね。「DODってなに?」って聞いたら、彼は「ドナルドダック」って言うたんです。
(会場笑)
名刺にですよ? CEOとかCTOとかあるのに、DODってあって、ドナルドダックってなんやねんって話ですよね。アメリカでまた新しい役職がなんかできたんやろうなと思うじゃないですか。そいつも関西人なんで「またそんな冗談言うて」って。
「なんのためにこんなん入れてんの?」って言うたら、「僕は生き方を入れてる」と。「僕の生き方は、ミッキーマウスよりもドナルドダックに近い」と。ミッキーマウスの生き方もようわからへんし、ドナルドダックの生き方って言われても、どんな生き方してるのかわからないですけど。
(会場笑)
彼が言うには、ミッキーマウスってポジションらしいんです。ものすごく華やかなポジション。ミッキーだけやってたら、身が保たないんですね。ドナルドダックというポジションがあって、プーさんにはプーさんのポジションがある。ミニーはミニーのポジションがあると。
僕はこのポジションを担うんやと。名刺を渡すたびに、自分はどのポジションをちゃんとやってるのかわかるために、3文字で入れてると。パーソナルアイデンティティですよね。
ゆかりちゃんという副社長がいるんですけども、彼女の名刺には「GCO」って書いてありました。「これってなに?」って聞いたら、「がってんチームオフィサー」って言うてましたね。一旦はなんでも「がってん!」って受けるんや言うてね。
これやったらうちの人事も気づかへんやろうというので、こっそり呼んで研修して、うちの部門は全員、3文字入れたんですね。僕はYDKっていうんですけども、「やる気大好き」です。
いいお客さんは、ここに気づかれるんです。「これってなんですか?」って。この感性を持ったお客さんとは仕事ができますね。ソフトウェア会社の改革に行ったときは、800人全員にこのアイデンティティをつけていただきました。ドコモ・ヘルスケアでも全員、この3文字持っていました。ミドルネームみたいなものですね。
このミドルネームを見ると、その人の価値観とか働き方がわかるんです。「なるほど! だからそういう行動を取るの!」とかね。TOBっていうエンジニアがいて「TOBってなに?」って聞いたら「とっちゃん坊や」と言うてましたね。
(会場笑)
とっちゃん坊やの生き方っていうのもよくわからへんのやけど。要は一生エンジニアということですよね。その代わりに、若者に負けへんように技術力だけはどんどん吸収するんです。彼がお客さんのところへ行って、「めちゃめちゃとっちゃん坊やがウケた」って喜んで帰ってきたんです。「仕事の話は?」言うたら、「忘れましたー!」言うてね。
(会場笑)
こうやって1人ずつのアイデンティティを認めてあげるっていうのが大事です。
工場の改革へ行ったときには「マケレレを探せ」っていうのもやりました。マケレレというのはサッカー選手で、もう引退してるんですけど、マケレレがいなくなるとどんなチームでも負けるんです。“負けれれ”っていうんです。しょうもないですけど(笑)。
彼は有名じゃないのに、フランス代表のチームに入るんです。フランス代表の監督はなにを見ていたかと言うと、シュートを決める人はいっぱいおるんです。でも、シュートを決める人にパスを出すのは彼が一番多いんです。それを見てたんですね。
だから職場でも、とくに工場の品質部門とか生産部門って褒められることがなかなかないんです。シュート決める人ってそんなにたくさんおらんのです。いつもシュート決める人がいて、社長賞とかもらうんですけど。実は大切なのはマケレレなんですね。
工場の中で「マケレレを探せ」というのを作りました。月間MVPですね。これでなにが起こるか。自分の部下だけじゃなくほかの部門の人たちも「こいつをマケレレにしたい」というので「スタッフ系とライン系を選んできてくれ」って言うと。すると、マネージャーは褒める人を探さなあかんのです。
怒る人はすぐ見つかるんです。褒める人を探そうと思うと、現場をちゃんと見ておかないとできないんですよね。こういう制度によって、現場に目を入れていってあげる。今まで1回も褒められたことがない人が褒められるんですよね。そんなことを導入していきました。
最後ですね。まずは褒める仕組みから入っていこうというので、「褒メール」というのをやっててですね。怒られたときに人間性まで否定されたと思われたらあかんので、褒めるのをセットにして、毎朝朝礼で褒めるというのをやっていました。それがTBSが聞きつけて、取材に来てくれて、かなり長く映りましたね。日経のクロステックというので『しーさんの製造業のイノベーション』というのを連載してますので、ぜひぜひ読んでいただきたいですね。
やっぱり、原点って人なんですよね。人をどう活かしてあげるかという仕組みを入れていくと、だんだん変わっていきます。いきなりは変わらないです。
こういう仕組みをいかに入れていくか。イノベーションというのは、最初はハレーションが起こるんですけど、自分の意思に従ってやりたいことをやり続ける人がいて、やっていくうちにだんだん仲間が集まってくるんですね。これが心理的安全性ですよね。
結果が出たときに「すごいイノベーションや!」と言われるんですけれども、やっている最中は、「もう余計なことせんといて」と言われるんです。これが渦になって、最後には仲間が集まってきてイノベーションできるのがイノベーション理論かなと思います。
九州の会社の立ち上げに行った時、近くの居酒屋に「うちの店は年中夢求です」って書いてあったんですね。これええなっていうので、おばちゃんに「これ使てもええ?」って聞いたら「使てもええ」と言うんで、いろいろなところで年中夢求って使ってます。赤字会社を立て直しに行った時、「年中夢求」を使ったんですね。「みんなでがんばろう!」って。そしたら「給料ないんですか?」って言われたんですけど。その無給じゃありません!
(会場笑)
という話で、前半を終わらせていただきます。ありがとうございました。
金:ありがとうございました。
(会場拍手)
株式会社ZENTech
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