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有限会社矢内石油(全1記事)

2019.01.23

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新規事業参入のきっかけは、おばあちゃんの“ある一言” 福島の矢内石油、人口5,000人の村での挑戦

提供:サイボウズ株式会社

2018年11月7~8日、幕張メッセで「Cybozu Days 2018」が開催されました。この中で過去の「kintone hive」に登壇したユーザーの中からファイナリストが集まり、グランプリを決定するイベント「kintone AWARD 2018」を7日に実施。北は福島、南は鹿児島から“kintoneマスター”と言える5社が、一堂に会しました。本パートでは、有限会社矢内石油の矢内哲氏が、住宅リフォーム事業参入においてkintoneがいかに貢献したかを熱弁しました。

矢内石油、住宅リフォーム事業参入の苦労

伊佐政隆(以下、伊佐):続いては、2番目の発表です。kintone hive仙台・東北地区を代表されました、矢内石油の矢内さんにお願いしたいと思います。それでは矢内さん、よろしくお願いします。

(動画が流れる)

動画音声:人口5,000人の村で、たった一軒のガソリンスタンドを継ぐために戻った夫についてきた妻。

「『顔パスだぞ』って感じで来る人がたくさんいるんですね。『あっちは嫁だろ』って感じで来るので、ちょっと私は、本当にわからなくて……」。

人口が減っていく未来に向けて、新事業として始めたリフォーム事業。前の経験を生かして作った顧客データベースの成果は。

(動画が終わる)

矢内哲氏(以下、矢内):みなさん、こんにちは。福島県から参りました矢内哲と申します。よろしくお願いします。

(会場拍手)

15分間、一生懸命しゃべりたいと思います。福島県と言っても、中島村という人口5,000人の村で、唯一のガソリンスタンドとして営業している矢内石油と申します。

調べてみたら、この(会場の)幕張メッセの駐車場がなんと5,500台だったので、村民全員が集まっても、まだ駐車場が足りる状態なんですよね。それくらい小さな環境で、我々は業務改善をやっています。

先ほどカクイックスの福里さんのお話を後ろで聞きながら、ちょっと震えていまして。「こんないい話、なにもできない」というプレッシャーの中でやって来ました。

我々は、20人ぐらいの小さな会社で営業しておりますが、その中で学んだものをみなさんと一緒にシェアできればと考えております。

2つの離れた店舗を1チームで運営

矢内:(事業の内容は)社名の通りでして、地域の暮らしのエネルギーを主体にやっている会社でした。7年前まではガソリンスタンドとプロパンガスといった灯油の配送ですね。そのため「石油」という会社で営業していました。

あるきっかけがありまして、我々は住宅リフォームの事業に参入することになりました。会社は、そこから徐々に変わっていったという歴史があります。今日はその住宅リフォームで行った、kintoneを使った業務改善で学んだことを、一生懸命お話しさせていただきたいと思っています。

我々の実家ですね。落ち着く田園風景の中、毎日ゆっくりした時間の中で営業しております。ただ状況は、いろいろ大変だったりするんですよね。

私たちはいま、先ほどの田園風景の場所にある本社と、隣町にある人口6万人ぐらいの街、2店舗にお店を構えるようなかたちで運営しております。これはkintoneを導入した後の画で、2つの離れた店舗を1チームで運営しています。

それをシフト1枚で対応しているんですね。なので、ある人はこちら(中島村)の店舗に今日は出勤して、別の人はこちら(隣町)の店舗に出勤することが、なんとkintoneを使ってできるようになってきました。

ただ、それがあったのは突然ではなくて、我々の歴史の中で一つひとつ積み上がってきたものだったんです。

私がものすごく大好きな写真です。社員のみんなだけじゃなくて、取引のパートナーと一緒に撮ったものです。7年前まではこんなふうに、みんなで写真を撮れるなんてことはなかったんです。

僕はずっと「仲間が欲しい」「こういうかたちで一生懸命営業したいな」と、この写真を1つの夢に思いながら、毎日過ごしてきました。

やむなく継いだ会社に訪れた契機

矢内:私が実家に戻ったのは、ちょうど2009年になります。社長である父親が大病にかかりまして、当時札幌でサラリーマンをしていたんですが、「もうしょうがない」と(思いました)。戻るしかない状況で、半分やむなく戻ったんですね。

戻った時はコスモ石油の制服を着ながら、毎日店頭に立ったり、灯油の配達をしたりする日々を過ごしていたんです。ずっとこんな毎日を過ごすので、ぜんぜんおもしろくないんですよ。

朝7時に起きて、夜の8時ぐらいまでやって。そこから毎日同じような閉店作業をしていくと、とんでもなく毎日が退屈になっていくんですよね。

うちの母親がものすごい人だったんですよ。30年間で培ってきた顧客情報が、すべて頭にある。例えば「この誰々さんの請求ってどうなっているの?」と言ったら、すべてリアルタイムで返すんですね。「この人って支払いは何日だっけ?」と言ったら全部返すんですね。さながら最高のAIですよ。2010年の話なんですけどね。

我々はこのあと社員を増やしながら、30年かけて自分の体をAIのような状況にしていくのかと思った時に、「これは社員が採用できないな」という状況になったんです。

その時に、あるおばあちゃんから、いままで問い合わせを受けたことのないリフォームのご相談をもらったんです。これが僕らのチームワークだったり、いまの矢内石油を作るきっかけになりました。ずっと油の配送しかしていなかった我々が、このおばあちゃんから「足を伸ばしてお風呂に入りたい」と言われたんです。やったことのない仕事を頼まれたんです。

でも僕は、毎日こういう仕事をしているのが大変だったので……大変と言うか「この未来はどうなるんだろう」と(思って)。やったことないチャレンジだったんですが、これに着手してみました。すると、おもしろいことが起きて。それは、お客さんから「ありがとう」と言われるんですよ。

みなさんはそんなの当たり前なんじゃないかって思いますよね。でも僕ら、いままでずっとお客さんから感謝されたことがなかったんです。油はあって当たり前。車は走って当たり前。震災の時は少し変わったかもしれませんが、いまでもそうかもしれません。あって当たり前なものに、人は感謝しないんです。でも僕は仕事をしながら、初めて感謝を受け取れた。

だから、「これはひょっとしたら自分の未来を変えるかもしれない」というかたちで、「これで事業を伸ばそう」「これで仲間を作っていこう」と思うようになったんです。

スタッフが増えることで課題が見つかる

矢内:最初の立ち上げの事務所です。事務所じゃなくて小屋です。12畳ぐらいで、うちの祖母から借りました。ここから妻と2人でスタートしたんですが、3年間はずっと赤字です。だって僕、リフォームの経験がないんですもん。あのおばあちゃんからの「ありがとう」の一言だけでやっていったんですよね。

だけど、やはりそれがずっと忘れられなくて、「がんばろう」「がんばろう」とやっていくと……やはりお客さんは見ていてくれるのか、少しずついい環境になっていくんです。

ようやくここで「仲間を増やせる」「チームワークを発揮できる」と思ったんですね。始めて4年後に、今日も来てくれていますが、2人の社員が入社してくれました。「やった。ようやくこれで少しずつチームができていく」と、思うじゃないですか。

でも、やはり人数が増えると、いろいろな問題が出るんですよね。たぶんみなさんもそうだと思うんですよ。

いままでは、私と妻の2人だけだったんです。つまり、ここでコミュニケーションを取れていたら、仕事はすべて回るんですよ。

でも、4人になるとこうなるんです。2人が4人になる。「2人増えただけじゃないか」と思うかもしれません。でも、コミュニケーションの本数は6本になるんです。つまり、1本だけのコミュニケーションの難易度が、6本に変わるという瞬間に、「これがチームワークの難しさなんだな」と思ったんですよね。

だから、人が増えることは尋常じゃないくらい大変だなと思います。ちなみに100人になると、4,950本のコミュニケーションが生まれるらしいんですよね。それくらい、人が1人増えることはすごく大変なことだと、だんだん感じていきました。

共有ができない。だから、少しずつ対立が出るんです。「なんであの人は報告してくれないんだろう」「なんでこういうときにちゃんと言ってくれないんだろう」。

情報共有不足をkintoneで補う

矢内:そんな時に、グループウェアやkintoneなどに出会ったんです。

我々の仕事は外勤と内勤の2種類だけなんです。すごくシンプルです。この2つが協力しあって、それぞれのステータスでの仕事を回しながら、最後にお客さんに納品をしていく仕事になるんですね。

でも、こうなっていくと、ステータスがいろいろ変わっていきます。このお客さんの打ち合わせの内容では、お客さんが怒り出している。すごくいいお客さんだったのに、(商談の)途中でクレームの電話が来ることがありました。

しかし、真ん中の話を知らないから、「どうなってんの?」というような。電話を受ける人が、かわいそうですよね。でも、そういう状況にならざるを得ないんです。情報共有ができていない。

だから僕らは、Gmailも使いましたしExcelも使いました。それでもダメで、サイボウズLiveも使ったんです。でも、サイボウズLiveはやはり売上のデータだったり、成約日のカウントが何もできなかったんですよね。

だからその課題を持って、僕たちはkintoneを使う。でも、「なんのために使っていこう」と思った時に、先ほどの「必ずスタートがあって出口がある。つながりと協力、この2つを充実させていくことが、チームワークの向上につながるんじゃないか」と思ったんです。

「やらないことを増やす」方針で業務効率化

矢内:6ヶ月、検討自体はしていました。サイボウズLiveを6ヶ月間使いながら、「kintoneってなんだろう?」「でも有料だしな」(と思った)。1ユーザー1,500円を使うことについて、僕はまったく価値がわからなかったんですよ。でも「ずっとこのままでいいのか」と思った時に、ようやくkintoneを使いました。

kintoneを使った時に、作ったアプリはたった2つです。私は大雪の降る日の夜、寝室にこもって遅くまで、この2つのアプリを徹底して作ることにしました。どういうアプリができたらいいかは、もうわかっていたんです。

理由は、Excelでの課題と、サイボウズLiveで叶えられない課題が、はっきり明確にわかっていたからです。でも、これは本当にラッキーでした。反省点がわかった状態でkintoneを使ったので、実はすごく導入がスムーズにいったんですね。うちの社員の協力も当然ありますし、一番はそこなんです。

僕たちはこの2つのアプリの運用の成功から、だんだんいろいろなことに取り組もうと思って、いろいろなことに取り組んだ……のではないんですよ。

ここからは、「やらない」ようにしました。いまはびこる、いろいろなものをやめるために、kintoneを使おうと思ったんです。

当時の私は、「暇って悪だよね、忙しい方が正義だ」と思っていました。社員の手が空いていたりすれば、「そのまま遊んでいるくらいだったら、なんかやってもらおう」と考える性格だったんです。

でも、違うんですよね。余裕があるから緊急対応ができたり、プランが作れたり。つまり、いい仕事ができる。僕がいままで常識だって考えていた「忙しさ」が実は正解じゃなくて、「ちょっと違うんじゃないかな」と、だんだん気付いていったんです。

とくに日本人はそうかもしれないんですけど、僕らはなんでも、「あれはやった方がいい」「これはやった方がいい」というように、いろいろな発想になりますよね。やることはどんどん増やせるんです。でも、自分の体と自分の時間には限界があることに気づいていきました。

だから私たちは、「やらないことを増やす」。この方針でkintoneアプリを作るようなかたちになっていったと、いま振り返って思うようになりました。

30個の業務課題をクリアしていった

矢内:例えば、kintoneとFAXを繋いで、発注業務をすべてPCやiPad上でできるようにする。そうすると、リフォーム・営業のメンバーがわざわざ事務所に戻らなくても、外でも発注することができる。

別にこの取り組みを増やしたいんじゃないんです。わざわざ事務所に戻るとか、事務所に電話をして、内勤のスタッフの手を止めて書類を確認する時間をやめたかったんです。

もう1つ、打ち合わせの記録アプリですね。こちらも「書類の山と戦うのをやめよう」というようなかたちです。メモを書いて、チェックしたら全部kintoneに入るので、もうその書類の山もなくなりますし、綴じる必要もなくなる。だからこれを入れました。

あとは電話ですね。先ほどあったように、いろいろなお客さんから山ほど電話がきます。お客さんの支払い条件などについて、うちの母親みたいに万能なAIに聞いていられないんですよ。

だから、その手を止めない。なにかをプラスオンするために僕らは取り組んでいるんじゃなくて「削ろう」と思って業務改善を進めてきました。そうやっていくと、いろいろなアプリがたまります。

いろいろな取り組みを集計して、例えば成約率だったり、今月の問い合わせが何件かなどを、たったの10秒でこなせるようになりました。

「リフォーム俺たちの月報」というアプリ名にしています。kintone本体だけではできないものを、やはりいまプラグインとかいろいろな外部サービスがあるので、それを連携させながら。

自分たちがどういう働き方をしたいのか、どういうプラグインを入れていけばこの仕事をやめられるのか。僕たちはそこを意識して、一つひとつアプリを作っていったんですね。

だから現在では、約30個くらいのアプリがあります。でも、作ったのはアプリ30個じゃないんですよ。「30個の業務課題をクリアしていった」。そういう自信を僕らは持っています。ただ、本音を言えば「まだまだ」なんですけれどね。

「常識の入れ替え」が業務改善を実現する

矢内:それに合わせて、俯瞰して業務を見直す活動も行ってきました。みなさんも、自分の仕事だけで手いっぱいという環境はあると思うんですよ。我々もそうだったんです。隣の人の仕事の内容について、はっきり理解できないことがありませんか?

だから僕らは、自分たちが行っている全体の仕事の流れを、みんなで見えるようにして取り組みを改善させていこう、というかたちを取ってきています。はい、こんな感じですね。

いろいろな仕事をやっていくと、どっかで詰まって、どっかで悩んだりするような箇所があるんですね。それをみんなで、「もうこれ、やめていいんじゃない?」「じゃあ、これは私のほうでやるよ」と。そういうものが生まれています。

うちで言う外勤のスタッフが抱えている「営業の仕事」を内勤のスタッフと分け合って、自分でやる。そんな環境が少しずつできている状況です。

最後のスライドになりました。私がみなさんにお伝えしたいと思うキーワードは、「あきらめましょう」です(笑)。これからがんばって取り組もうと思ったら、「あきらめよう」と。

でも、この「あきらめる」という字を辞書で調べると、決してネガティブな表現だけじゃないんですね。「まこと」「明らかにする」「真理」などの意味がこもっている言葉だと聞いた時に、僕は「この言葉を自分のエネルギーに変えていこう」と思いました。

でも、この言葉はなかなかネガティブに聞こえるので、私はもう少し別な言い方をすることにしたんです。

「常識の入れ替え」です。我々は、「『忙しい』が正義で『暇』は悪」だと思っていた。その常識を入れ替えるところから始めていきました。

最後に、やはり僕らはそれをするにあたって、やめることを考えると、なんでもやめたくなるんです。人間は、楽な方に流れます。だから、私たちはやめることを考えた時に、やはりこれに立ち返ろうとするんですね。

「何のためにやめるのか」「誰を幸せにするのか」。僕らはそれを一緒に考えながら業務改善をやっていかないと、本当の業務改善の目的が見えなくなってしまう。そんなふうにすごく感じております。

最初にあったスライドですが、もっともっとこの写真の中に収まるメンバーを、僕らは増やしていきたい。こんな楽しそうな画をたくさん作りたい。僕の業務改善の本当のゴールは、ここにあります。

ではみなさま、本当にご清聴どうもありがとうございました。

(会場拍手)

スライド37枚のプレゼンを振り返る

伊佐:矢内さん、素晴らしかったです。ありがとうございます。

矢内:ありがとうございます。

伊佐:密度の濃い共有をしていただいて、非常にわかりやすかったですね。まさに取り組みたくなるような事例がありました。

でも、緊張しましたよね(笑)。こういうのはめちゃくちゃ緊張しますよね。

矢内:いやもう……「スライド37枚って、多すぎるな」と先ほど気づきまして(笑)。

伊佐:本当にお疲れ様でした。でも自分が気づいたこと・体験したことをみんなで共有することが、まさにkintone hiveの醍醐味だなと改めて思いました。またゆっくりお話ししたい方もたくさんいらっしゃると思うんですけど、のちほどお話しさせてください。

それでは、矢内さんに大きな拍手をお送りください。ありがとうございました!

矢内:みなさん、どうもありがとうございました。

(会場拍手)

伊佐:いや、素晴らしかったですね。

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