2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:SEMIジャパン
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―この対談は、村田社長から西川社長をご指名されたとうかがっています。お二人の関係性からお聞きしてもよろしいでしょうか。
村田大介氏(以下、村田):今年の2月に、G1サミットというイベントでご一緒したのが最初でしたね。朝一番のパネルでしたが、前夜にお酒を飲みすぎてしまって……そういう今日も少し二日酔い気味なんです。
西川徹氏(以下、西川):じつは私も昨日の夜に製造業の方と飲んでいて、まだ少しお酒が残っています。やはり製造業の方はお酒が強いですね。つい負けじと飲んでしまいました(笑)。
村田:そうだったんですね(笑)。そういえば、よくAIに取って代わられる仕事のランキングで、最後まで残る仕事として飲み屋のお姉さんが挙げられていたりするじゃないですか。でも、お客さんとの会話のパターンのデータが溜まっていけば、こういう面はAIにやらせた方がいいだろう、みたいな話に花が咲きました。
―飲んでいるときまで、世の中のことを考えていらっしゃったんですね(笑)。ところでお二人は、なにかビジネスをご一緒にされていらっしゃるのですか。
村田:直接はないですね。ただ、私どもの工作機械にはファナック株式会社の製品が組み込まれていて、西川社長とは、そこで間接的にお付き合いしているようなかたちですね。
西川:そうですね、私たちも今、ファナックさんの工作機械にフォーカスした事業を行っています。例えば、今後私たちが物流の現場に関わっていく際に、村田社長のほうでお持ちの技術を必要とすることもあるかと思います。
村田:うちは自動倉庫や無人搬送車などをつくっているんですが、自動化に関連する仕事の伸びは特に大きいです。半導体工場の天井から吊り下がって走り回るビークルなど、そういったところにもこれからどんどんAIが入ってくるんだろうなと考えていますね。
―今回はそんな村田社長が推進委員長を務めるSEMICON Japan(製造業が集う展示会)の基調講演に西川社長が登壇されるとうかがいました。
村田:そうですね、この展示会も、単に機械を並べて商談するイベントから、新しい技術や異業種とのシナジーを目指したカンファレンス・セミナー中心のプログラムに変わりつつあります。
なかでも、初日のオープニングキーノートは目玉講演なのですが、昨今のAIが半導体の需要を喚起し、半導体の発展がAIの進化を促すという流れを踏まえて、AIにとてもお詳しい西川社長にご登壇いただくことが決まりました。
―西川社長が代表を務めるPreferred Networksでは、機械学習の分野のなかでも、特にディープラーニング(深層学習)に重きをおいているとうかがっています。なぜこの分野に着目されたのでしょうか。
西川:今の会社の前身となるPreferred Infrastructure時代から機械学習をメインに取り組んできたんですけれども、ディープラーニングという技術が登場したことにより、その精度が飛躍的に向上したんですね。1つには、高い表現力を処理できるだけの計算能力をコンピュータが持てるようになったこと。また学習させるためのデータもそれまでに比べ飛躍的に集まるようになったことがあります。
こういった状況が融合することで、実世界の問題に応用したくても精度が不足していた部分が、ディープラーニングでまかなえるようになりました。これには私たちも驚きまして、「これからはディープラーニングにフォーカスしよう」と決断するに至ったんですね。
―機械学習にはデータ量が重要だということですが、以前よりデータが集まるようになったのは、集める側の仕組みが改善されたということなんでしょうか。
西川:Googleの画像検索機能が、猫の写真を識別できるようになったと話題になったことがありましたが、そこで1つ重要だったのはデータ量でした。YouTubeをはじめ、検索で大量の猫の画像データが手に入るようになり、さらにそれを処理できるようになったことが大きいですね。
最近ではその研究もどんどん進化していて、より少ないデータ量でも高い精度を出せるニューラルネットワーク(人間の脳の仕組みをコンピュータで表現するための数学モデル)も研究されてきて、必ずしもデータ量がなければいけないわけではなく、手法を改善することでカバーできるような方向にも進んでいます。
―AIの飛躍的な進化に対して、ごく普通のビジネスパーソンが一番気にしているのはおそらく、これから自分の仕事がどうなっていくのかといった身近なことだったりすると思います。大きなテーマにはなるのですが、我々のワーク&ライフスタイルがどう変わっていくかについてお話しいただければと思います。
村田:機械が人間の仕事を奪うとか、技術の発達が格差を生むなど、そういった話はよく聞きますね。私どもの会社は村田機械という名前だけに機械のメーカーで、創業以来80年間、ずっと自動化と省力化を進めてきましたから、そういった意味では犯人の一人なんですね。
社会に課題がある限り仕事は永遠にありますが、その種類は変わります。仕事から仕事へのモビリティと言いますか、その過程で一時的・過渡的に不幸を被る人は出てきます。でも、それを防ぐのもやっぱり技術だったりすると思うんです。それはコミュニケーションだったり、学習だったりします。
技術が社会を変え、社会が技術を変えながら、お互いに関連しあって回してきたのが人類の進歩の歴史です。だからここで足を止めてはいけない。ここで急に技術を敵視するのは、あまりにも近視眼的だなと感じますね。
西川:私はコンピュータが大好きなんですけれど、コンピュータ自身もこれまで人の仕事を奪ってきましたよね。ただ、それによって私たちのできることは増えたわけです。インターネットの登場とともに手紙を扱う人は減ったかもしれないですが、一方でコミュニケーションが促進されることで、新しい産業が生まれました。
AIは、世界や環境の多様性に対応しうる力を持った強力なツールでもありますから、このツールを使って人間は次にどういう社会を作りたいのかで、また大きく変わっていくと思います。たぶん、機械にやってもらいたい仕事のなかには、人がやりたいこととやりたくないことの両方があると思うんですね。いくら機械にできるからって、それを全部やらせてしまっていいのかということは、ちゃんと考えないといけません。
あくまでツールとして、AIの特性を理解したうえで活用していかないと、逆に道具に使われてしまうことは大いに起こり得る、と私は思います。
―より具体的なお話をうかがいたいと思います。例えば人事評価のシステムにおいて、今後はAIが評価するようなことも増えてくると思います。嫌いな上司に評価されるよりは、客観的に判断してくれそうなAIに評価されたい人もいると思いますが、「人間がやったほうがいい仕事」みたいなものなんでしょうか。
西川:そうですね、評価してもらうことで言うと、客観的に評価してもらうほうが納得感は高いですよね。一方で、メンバーが正しく評価されているかを分析するうえで、数字ではわからない部分もたくさんあると思うんです。私はメンバーの評価を個々に行っていますが、数字で評価するのは極めて難しいと感じています。
村田:例えば、テニスの試合で「チャレンジ」の回数を限定せず、全部機械で判定すれば誤審がなくていいんじゃないかという話がありますよね。野球でも、審判の判定の正確さでは人より機械のほうが上なのに、なかなかそうはならない。これはおそらく、審判の誤審も試合の一部ということじゃないかと思うんです。
選手は人間だからミスをするし、審判も人間だからミスをする。もし審判はロボットにしたほうがいいというなら、次に考えるのは「ロボット同士がテニスをしたら?」ということになって、話が変わってくるんですね。
人間の評価もそうで、組織として機能するためには、感情があってたまには間違ってしまうこともある上司が評価することにこそ、チームとしてまとまる意味のようなものがあるんじゃないかという気がします。西川社長がおっしゃったように、機械と人間の仕事の線引きは、きちんと意識しないといけないような気がしています。
―最近は流行りのガジェットとして、AIスピーカーがありますが、あれが普通の人の家に置かれるということは、生活レベルにAIが浸透してきている、ということでもあると思います。生活にAIが自然に同化している世界は、そう遠くない未来にやってくるんでしょうか。
西川:そうですね、おそらく5年以内には来るんじゃないかなと思っています。私たちは今、パーソナルロボットに力を入れているんです。AIスピーカーはすごいですが、足がついていないですから、その規格にあったデバイスじゃないと制御できないんですね。
人間の生活空間で、まだまだネットワークに繋がっていない部分がたくさんあるなかで、ロボットのようなものは、現実世界に直接アクションを起こせるんです。つまり、まだインターネットに繋がっていないものを繋げられるようになるわけですね。こういったロボティクスとAIの技術がともに発展して、実生活で役に立つAIの技術が一般の社会に浸透している世界が、この5年の間に現れるんじゃないかと思います。
―Google Homeのように、音声に反応してなんらかの信号を発信するのではなく、物理的にモノを運んだりするロボットのようなもののほうが、よりインパクトが強いということでもあるんですね。
西川:ソフトとハードということに関して言うと、これからたぶん、ソフトウェアとハードウェアの境界はあいまいになってくるんだと思います。今の複雑なソフトウェアは、むしろハードウェアよりも変えるのが難しくなっているわけですよね。
一方で、ハードウェアの技術に関しては、例えば金属の3Dプリンターなどでいろんな部品を柔軟につくれるようになってきていますし、おそらく工作機械のピッチングもAIの力によって、もっと簡単にできるようなります。すると、開発期間ももっと短くできるかもしれません。そうやって、ソフトウェアとハードウェアの境界はあいまいになっていくだろうなと考えていますね。
それに、例えば最適な制御方法を考えるうえでも、機械の特性がわかっていなければソフトウェアで制御することはできないですよね。ソフトウェアが、これまでのルールベースの制御から、例えば強化学習をベースに、前より適応性の高い制御の技術を実現したとします。すると、それを前提としたハード側の制約も大きく変わってきます。つまりソフトとハードの両方を同時に設計していかないといけないので、境界線はあいまいになっていくと考えています。
―現代人は働くことにたくさんの時間を取られていると言われていますが、AI技術が浸透することにより、「働く時間がこれまでの十分の一になりました」「食うにも困らなくなりました」「エンタメも普通に楽しめます」という時代になった場合、人のあり方はどう変わっていくのかなと気になります。
村田:すごくよくないですか、そんな世界がきたら(笑)。生物にとって「仕事」ってなんだと思います? アゲハの幼虫の仕事はたぶん食べることですし、成虫の仕事は次の世代を残すことじゃないでしょうか。恒常性の維持と種の保存が生物の主目的で、それがきちんとできたら快楽を得て幸せを感じるわけですよね。アリやミツバチになると仕事が社会性を帯びてきますが、人間も含めて生物は基本的に同じだと思います。
私もいま、ここでこうして仕事らしきことをしていますが、これは食べることに直接関係する作業ではありません。すでに人間の社会というのは、そういった生きるための仕事からどんどん分業していき、農業や漁業をしている人はわずかになっています。つまり、生物本来の仕事からかけ離れたことを「仕事」と呼んでいるわけです。さきほど「社会に課題がある限り仕事はなくならない」と言いましたが、せちがらい仕事から全て解放されて、恒常性の維持と種の保存に専念できる社会がもし到来すれば、それは究極の幸せだなという気がします(笑)。
西川:私は、これまでずっとプログラミングをしてきたんですが、基本的にプログラマーは、プログラムを書くことによって自分の仕事をいかにアピールするかばかりを考えているわけです。働く時間が少なければ少ないほど、最大の成果を出せていることになりますよね。長時間働くために生きて、それを最適化したいのではなく、生産性を向上させたいだけなんです。だから、時間に関してそんなに考える必要はないんじゃないですかね。
村田:お金には、富の分配への請求権という側面があります。限りある資源をだれがどれだけ取るかという、ある意味で競争の部分が避けられないんですよ、生物ですから。現実の社会ではその分配権をどれだけ手に入れられるかが「イコール仕事」になっているので、まったくの平等社会がいいのかという問題になってきますよね。
いくら平等にと言っても、好きな子と付き合いたい、美味しいものを食べたいという欲望は、個人として自然に生まれます。資源は有限ですが、欲望は無限です。それにどう折り合いをつけるかが、経済学の基本テーマだと、経済学の一番最初の授業では習うんです。結局は、その問題に行き当たるんじゃないでしょうかね、きっと。
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