2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
GAPセミナー 農業現場で中心的役割を担う指導員・実務者向け(全1記事)
提供:富士通エフサス
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泉博文氏(以下、泉):これから、みなさんと双方向でGAPについて考えたいと思います。
目的は、「GAPの普及を加速する上でみなさんの現場でどんな課題があるのか、今後GAPにどう取り組んだらうまく進めていけるか?」ということを導き出したいと思います。みなさんから課題をいただいたり、藤井先生からの現場の事例なども含めて、教えていただければと思います。
では、会場にいるみなさまと一緒に考えたいと思います。まず、3つの観点に絞って進めます。
例えば農場でGAPを進めるとき、「経営的視点という社長さんの視点」と、「農産物を販売するという営業的な視点」、あとは「生産現場の視点」。この3つの観点で分類をしていきたいと思います。
この分類にとらわれず、実際みなさんの現場でGAPが取り組みづらい課題があれば、この場のみなさんで共有できればと思います。
まず、みなさんに順番におうかがいします。経営的な視点、要するに社長さんがGAPに取り組むときに「これ困るんだよな」「こういうことが少しGAPをやるのに抵抗がある」など、そういった課題はありますでしょうか?
みなさん、現場でいろいろな方の意見を聞いたり、農場の方たちを支援する立場の方もいらっしゃいますので、ぜひとも共有できればと思います。
泉:まずは、経営的視点というところで、ご意見をお願いします。
参加者1:悪い面で言えば、とにかく帳票類が膨大です。率直にいうとやることがたくさんあります。あとは従業員にどうやって教えるか。このへんがあえて言えばそうですね。
逆に良い面で言えば、従業員に教えるための基準というか「こうやって教えればいいんだというのがあったよ」という人もいます。
泉:なるほど。やはり従業員さんにも同じ目線で取り組んでいただきたいということで、そこに課題がありますよね。まず、やはり運用マニュアルというか、農場ごとの取り組みマニュアルなどを作らないと進めづらいと思います。
泉:ほかにもおうかがいしたいんですけど、例えば販売する側の立場の方に対して、営業的視点でGAPに取り組みづらいものなどがあれば、みなさんと共有したいと思います。
参加者2:売るのに困っていないというか、市場に出荷するのが中心なので、例えば個別に直接取引とかしていて相手から求められていればやるんですけど、現状は求められていないので当面やる必要はないです。「市場からも『必要だね』という声が出てこないんだよね」というのはよく言われるフレーズですね。
泉:要は、出荷先からの要望・要求が来ていないのが現状で、要するに「やらなくてもいいんじゃないか?」という状況ですね。今後どうなるかわからないですけれども。
泉:もう1つ、生産現場の視点から、例えば、労働の安全に関して、先ほど藤井先生から「トラクターが倒れそうな状況だった」という言葉がありましたが、農場の管理の観点での課題はございますでしょうか?
ここは農場や営農指導もされている菊地様にぜひともお願いします。
菊地達也氏(以下、菊地):実は今日の午前中も東京で匠の方といろいろとお話をしてきました。その中で匠の技術をどうやって伝えるか。今、我々が考えているのが、匠と言われている人たちの生産技術をどう伝承しようかという、そのシステムを開発しています。
そういったところから入っていかないと、いろいろな環境の人がいます。今日も有機農業の方に「文章化できないんだよ」「あらゆる条件が違っているので、こういった文章化するのは難しいんだよね」ということでした。
このため、クイズ形式でわかりやすいシステムにしようとなりました。やはり、ここらへんは応用をどうやって利かせていこうかというところで、難しい問題だと思っています。
泉:ありがとうございます。やはり農場内のコミュニケーションというのが最も大事なところだと思いますね。継承する技術をまず標準化するところから始めないと正しく伝えられないことがあるのかなと思います。
泉:みなさんから今いただいたことをベースに、これから少し「GAP取り組みへの進め方をどうしたらいいか?」を、ご登壇いただいた3名の方にご意見いただけたらと思います。まずは藤井先生のほうからお願いします。
藤井淳生氏(以下、藤井):経営的視点、営業的視点、生産現場的視点とそれぞれに分かれていますが、GAPに取り組むことに関してやることが多くて面倒くさい。たぶんこういう方がほとんどだと思うんですね。
先日も実はJAさがみの菊地さんのところにお邪魔して、「GAPってなんだ?」のような話をしてたんですけど、わりと会場は盛り上がるんですよね。
菊地:そう、盛り上がる。
(会場笑)
藤井:そう、盛り上がるんです。「おもしろそうだな」ってみんな思ってくれるんです。「おもしろそうだな。やってみようかな」って思ってくれるんだけど、いざやるとなると、なかなか踏み出せないんですね。他のJAさんでもよく言われますものね。
私がいつも感じることが、「帳票類が多い」「マニュアル化ができない」など、散々言われてきたので、いろいろ工夫をしながら「こんなふうにも使えるよ」「あんなふうにも使えるよ」と説明するようにしています。
藤井:私がGAPの講習時によくやるのは、事故がどれぐらい損失があるのかというのを実際に体験するんですね。例えば異物混入の例で、「トマトに異物混入。髪の毛がついてました」となったとします。
「いくらぐらい損するか計算してみましょう」ということを農家の方や農協の職員たちと一緒にやるんです。「こんなに損するんだ」ということがわかると初めて「じゃあやはり損しないほうがいいよね」ということで「GAPに取り組んでみよう」という方々がいます。
みなさんならわかると思いますけど、例えばミニトマトに1本の髪の毛が入るとどのぐらいの損すると思いますか? ミニトマトに髪の毛が1本入っていて、苦情が来ますよね。売り場から残っているミニトマトを撤去して、再検品して、また納めて。
あとは異物混入を起こしてしまったお客さんのところに謝りに行く。手ぶらでというわけにもいかないですから、菓子折などを持って謝りに行きますよね。延々2時間怒られてみたいなことをやるわけです。いくらぐらい損するかわかりますか?
実は3万5,000円ぐらい損するんですよ。実は僕の農場でそれが実際に起こったんです。ミニトマトに髪の毛がついていて、謝りに行ったりして3万5,000円の損をしたんです。3万5,000円を稼ぎ出すためにミニトマトを何パック売ったらいいんだろうというのを、あとで計算してみました。
そうしたら実はその3万5,000円というのはもう経営的観点からいくと大損です。苦情処理は必要経費でもなんでもないわけですよ。かつ予備費でもなんでもないですよね。だからその苦情さえなければ、毛髪混入事故さえ起こらなければ、私のポケットに残ったはずのお金なんです。つまり、全部純利益なんです。そういう事故を起こすと純利が飛んでしまうんですよ。
3万5,000円の純利をあげるためにミニトマト何パック売ればいいのかを従業員と一緒に計算して、「1,000パック売ってようやくか!」と気づいた時に、「じゃあ頭剃ろう」という話になったんです。
(会場笑)
いや、これ本当の話。それで僕は坊主頭なんですけど。
藤井:そういうかたちでやはり見える化ですよね。見える化してGAPに取り組まない人たちにしっかり見せていく。
だから私、わざと大けがしている写真とかそういうのを使うんですよ。こんな目に遭いたいかというと、誰だって遭いたくないわけですよ。あんな痛い思いして。そうして見える化していくことが、実はGAP導入のきっかけになるんじゃないかと思っています。
その中で私がなぜ労働安全のことをよく出すのかというと、一番身近だからです。一番身近な話題として「あなた怪我しますよ」「あなたの隣のおじいちゃん、ひどい事故だったよね」と身近に感じられて、「じゃあ、GAPに取り組んでみよう」みたいな方が少しずつ増えていくと思います。私はそんな方法でやっています。
泉:今のお話ですと、GAPに取り組むということはもっと身近なもので、労働安全や身近な家族を守ることであったり、農場を守ることであったり、みんながやらなくてはいけない基本的なことなんですかね。
藤井:そうですね。だから食品安全も、農薬取締法どうのこうのと言っても、なかなか遠い話です。だから「こんだけ損するんですよ」ということを身近に感じてもらうのが一番大事なんだと思います。それがうまくいくと、「じゃあGAPに取り組んでみよう」という方々が増えてきますよね。
泉:末次さん、現場で普及しやすくするようなと言う観点でどのようなご意見をお持ちですか?
末次修一郎氏(以下、末次):そうですね、私もGAP導入の支援ツールの評価などで現場に行かせてもらうことが多いんですけど、先ほどあった話で、取り組みの帳票類の準備や整理整頓などが大変だということを一番よく言われます。
ASIAGAP(注:農場管理の基準)の管理点を確認したら、必ず文書を作らないといけないはずなんですけど、だいたい「文書化」というキーワードが23項目ぐらいあるんですね。「記録」という項が45項目ぐらいある。
農業や生産者で、できる方はいいんですけど、やはりなかなか大変ですよね。ICT屋としては、やはりそこらへんを少し手助けする方向にどうしても観点が行きがちなのですが。
逆に藤井先生におうかがいしたいのですがGAPの思想からすると、自分でやりたいようにやれる帳票を準備するのが本筋だと思います。
「そういうところどう思われるかな?」というのを聞きたかったんですよね。すいません、逆に質問になってしまって(笑)。
藤井:帳票や文書化もそうなんですけど、たぶんICTが一番力を発揮できると思うんですよね。私が本当に富士通エフサスさんにお願いしたいことは、匠の技術を持つ農家はマニュアル作りがやはり一番苦手なんですよ。こういうことは聞けば話してくれることなんですよね。あとは見ていればずっと記録できることです。
だから別にマニュアルは「文章」である必要はないわけですよ。私がいつも言っていることなんですが、文書は文章である必要はなくて、写真や動画、音声でもいいんですよね。だから、記録を音声でとれるような仕組みも、できればあると便利なんじゃないかと思っています。
実は私の知り合いの農家さんは、日々の作業日誌や作業記録を録音しています。紙に書くのがイヤだそうです。そのお父さん、指がかなり太くて鉛筆を持てないんですよ。「自分でこうやって文字を書くのがイヤだから、俺は農業やっているんだ」と。ではどうするといった時に「じゃあ録音するわ」と。
審査に行って、それを延々聞かされるの堪らないんですけど、しっかり記録ができているんですよね。「何月何日、天気はどうで、どこの畑に何の農薬撒きに行ったよ」「希釈倍率を守ったぞ。1,000倍だ」などと言いながらブツブツしゃべっているんですけど、そういう記録でもぜんぜん構わないです。
必要なのは、「記録すべき事項が網羅されていること」。文書化の中に含むべき事項が網羅されていれば、映像や紙、音声でもなんでもかまわない。そういうのを手助けしてあげるような仕組みができれば最高だと思います。それがあればたぶん農家さん喜んでやってくれます。
藤井:最近では音声認識の技術なども普及しているじゃないですか。ああいうものを上手に拾ってあげて、記録化してあげるとか。あとは記録事項は書かなければいけないことは決まっているので、それさえ記録すれば、アウトプットが自動的に振り分けられるようになっていれば便利だなと思います。
末次:ありがとうございます。音声で録音したとき、トレーサビリティはしっかり考えられていますか?
藤井:彼は日付ごとにしっかり音声で録音しています。全部フォルダに分かれているんですよ。例えばミニトマトを出荷する1日前に収穫しているので、そこを調べると、いつ・どれだけ・どこの畑から収穫したかは録音されているんですよ。録音ですよ。聞くのは大変です(笑)。
末次:(笑)。
泉:菊地様は営農指導や販売も携わってますけれども、人の育成も含めて、GAPで取り組んでいけるのでしょうか?
菊地:もうこれは絶対必要だと思います。指導する側もいろいろなグループがあるんですよ。直売直販している人から、JA共販からですね。いろいろなグループに分けてそのグループごとのGAPをしていかなければいけないので、ハイレベルの人から初級から上級まで、これをしっかり使い分けないと、上級の内容を下級の人にやっても嫌うだけなので、しっかりきちっと分けていこうと思います。
JAの看板で本当に物を売れなくなっちゃったんですね。前は「JAの袋に入ってた」「JAの帯があるから、これは信頼、安心だ」とかって言ってたんですけど、これからはGAPをやって安全安心をしっかり作ることが、これが信頼につながります。
JAの看板ではなくてGAPがメインの看板になるので、しっかりとそこを伝えて指導していかないと、みんなが毛嫌いしてしまうだけです。そこは心がけて指導していこうと思っています。
泉:ありがとうございます。もうお時間も迫ってまいりましたが、最後に一言ずつお三方から、GAP普及を加速する上でのヒントとなるように、今後このように取り組んでいきたいという思いを一言ずついただけたらと思います。
藤井:私は、GAPを普及する意味でいうと、もう本当に今年・来年がギリギリのタイムリミットと実は思っています。
なんでかというと、事故は食品安全や環境保全や労働安全など全部を含んでますけど、GAPは結局、事故を起こさない農場にしていく安定感ですよね。経営がずっと安定していることなどを作っていくツールなので、私がよく例えるのが「守備力の強化」なんですよ。守備を鍛えるための道具なんですね。
守備はいきなりはうまくならないんですよ。いきなりゴールデングラブ賞がとれるような名選手にはなれないので、日々の努力の積み重ねがどうしても大事です。だからじっくり1年2年かけて、自分の使いこなせる道具に変えていかなきゃいけないですから。
ここ数年で劇的に取引先が変わっていきます。市場が大きく変わるのに今から準備しておかないと、いきなり守備はうまくなっていかない。事故を起こす農協や農場ということで振り落とされてしまう可能性があるので、本当に今年・来年のうちにしっかりと準備をみなさんには進めておいていただきたいと思います。そんなことをぜひ農家のみなさんには伝えていただきたいと思います。
泉:ありがとうございます。
菊地:本当ですね、GAPは、いま藤井先生が言ったように「食のディフェンス」。私も直売所で店長4年半やったので、この直売所で4年半やった経験、クレームも確かにありましたしね、ここは食のディフェンスはやはり必ず必要になってきます。
それと私もよく考えているんですけど、農業経営をしっかりと持続可能な農業にしていくにはやはりGAPしかないのかなと思います。持続可能な農業を目指すならGAPです。
この中に有機農法など、いろいろあると思います。だからそのやり方をしっかりと分類して、その人に合ったやり方をしっかり教えていけば、一緒に教えるんじゃなくて、しっかりと分類別に分けて指導していくのが一番いいのかなと思います。
泉:ありがとうございます。
末次:私は藤井先生の講演を何回か拝見させていただいて、たいへん感銘を受けました。全国いろいろなところへ行くので、農業者の方に寄り添った、必ずしもICTを使わなくてもいいようなかたちで、なにか農業者の方目線で支援できる取り組みを今後やっていけたらなというふうに思っております。
泉:ありがとうございます。先ほど藤井先生の講義でもありましたけども、今後、世界の食の安心安全が、「英語やフランス語ではなくてGAPだ」と。それが共通言語になるんじゃないかということはすごくわかりやすい例えかなと思いました。
そこに対して、我々富士通エフサスでは、コミュニケーションのテクノロジーでみなさんをつないでいき、そういう技術の継承などにナレッジの共有で貢献させていただけたらなと考えております。
今日はみなさんお忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございます。今後また全国でのGAPの普及のところで、ぜひ我々もお手伝いさせていただく場面もあるかと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。お三方々、今日はどうもありがとうございました。
菊地:ありがとうございました。
藤井:ありがとうございました。
末次:ありがとうございました。
(会場拍手)
富士通エフサス
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