2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
第1部 なぜデンマークは世界一幸福な国になったのか(全1記事)
提供:渋谷区役所
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司会者:本日は「ジェンダー平等とワークライフバランスの先進国デンマーク」と題しまして、大使館の職員の方、デンマーク企業で働く方から直接、「デンマークとはこういう国ですよ」というお話を、アットホームなかたちでお聞きできたらと思っております。みなさまも、気軽な気持ちでお聞きください。
第1部では、寺田さまからデンマークについてのご説明をいただきたいと思います。
寺田和弘氏(以下、寺田):デンマーク大使館の寺田と申します。お手元の資料を映しながら、まず最初にデンマークの全体的な話をさせていただきたいと思います。
私も若い頃デンマークに住んでいたのですが、けっこう前の話です。今、デンマーク大使館で働いていますが、実際の企業で働いていらっしゃる方のお話は後半の2部で聞いていただければと思います。
今日のジェンダーとか、平等とか、ワークライフバランスというテーマは、よく取り上げられます。同時に「デンマークが世界で一番幸福な国だ」とよく言われるのを、聞いたことがある方も多いかもしれません。
デンマークには「幸福調査研究所」というところがありまして、「幸せというのはどのような条件で高まるのか」というのを、8つの要素で分析しているものがわかりやすいと思いますので、少し(資料に)書いてみました。
この後のいろんなお話を、この8要素で見ていただけると整理しやすいのではないかなと思いますので、適宜戻ってご覧いただきながら、聞いていただければと思います。
デンマークはヨーロッパの北方面にある国です。今日ここにお越しのみなさんは、おそらくご存知だと思いますけれども、女王がいる王国で、今、マルグレーテ2世という女王がいる国です。
左のほうにユトランド半島、右のほうに小さい島があって、東のほうに小さい島があって、首都のコペンハーゲンはデンマークの中でも一番東の端っこ、スウェーデン対岸にあるということなので、島国の日本に近い、海に囲まれた国ということが言えると思います。
日本とデンマークの比較をざっくりとしてみると、人口は(日本の)20分の1ぐらいです。国土面積も随分小さい、日本のほうが大きいですね。
ただ、1人当たりGDPで見ると、デンマークのほうが大きいです。日本が3万ドル台に対して、デンマークは5万ドル台であったり、働く人の幸福度も先ほど申し上げたとおり、国連の調査でけっこう差があります。
デンマークがどのように国の仕組みを、とくに政治面で統治されているかをまとめてみました。日本と同じように国(中央政府)のレベルが一番上にあって、それから真ん中に県のレベルがあって、一番下に市町村があります。
日本の場合と違うのは、真ん中の県のレベルが5つあるのですけれども、基本的に医療しかやっていません。住民に身近なサービスというのは、すべて一番下の市のレベルでやっています。
それで、結果的に何が違ってくるかというと、日本の場合は、おそらくみなさん日本に住んでらっしゃって、例えば東京都、それから渋谷区という3つの層で、それぞれ選挙もあると思いますし、投票されることもあると思いますけど、(それぞれの層が)何をやっているか答えられますか?
私も東京都内に住んでいますけど、例えば区議会議員選、区長選挙、それから東京都議会選挙、都知事選挙といろいろやりますけど、それぞれのレベルで何をやっているのかは、なかなか日本だとわかりにくいので、選挙に行く時も「何のためにこの選挙をやっていて、投票するのか」ということがけっこうわかりづらいんです。
デンマークの場合は、比較的役割がクリアです。このデータは少し古いかもしれないですけど、デンマークと日本では総選挙での投票率にこれだけの差があります。
デンマークより(投票率が)高い国は、このグラフだとオーストラリアとルクセンブルクとベルギーという3ヶ国がありますが、この3ヶ国は選挙で投票しないとペナルティがある国なので、まったくそういうペナルティのない自由な選挙をやっている国の中では、デンマークはたぶん一番投票率が高い国だと言うことができると思います。
国民の自由度とか、汚職・腐敗指数、報道の自由といった、各国で比較される指数も、デンマークは日本よりかなり高いと言うことができると思います。
ではデンマークは「小さい国でどうやって豊かな経済を築いてるのか?」ということですけれども、今日は後からお話のあるみなさんの会社もありますし、風車は今、日本でもけっこう使われています。医薬品も有名です。家具・デザインも、日本人の方にはよく知られてるかと思います。
ベーコンなども、みなさんが食べられているのは、けっこうデンマークのものが多いです。畜産も有名です。音響機器、コンテナ船……世界で一番大きな船会社はデンマークのMaersk社です。海運大国ということですね。
ビジネスに関する指標、どれだけ自由に経済活動ができるかという指標も、デンマークはかなりランキングが高くなっております。
日本と違って、少しずつですがデンマークの人口は増えています。統計を見ると、2016年の出生数が6万少し。死亡数が5万2,000です。近年、自然増に加えて、中東からの移民・難民が政治的にも問題になったり、報道されているのを聞いたことがあるかもしれませんが、日本と違って移民・難民も多いので、まあ順調にというか、増えています。
出生率を日本と比較すると、若干見づらいかもしれないですけど、60年代、70年代に社会構造が、どんどん大きな会社が経済を占めるようになって、やはり女性も働くようになると、日本と同じように出生率が下がった、というのがデンマークの経験です。
ただその後、今日のテーマであるような、働きやすい、子育てをしやすい政策が強化された結果、今では日本よりかなり高い出生率をキープしています。
子育てに関する主な政策と教育について書いてみました。子ども手当は、為替レートにもよりますけれども、単純に日本の5倍以上と言われています。
産休や育休も、かなり充実した制度が保証されている。デンマークの場合は、国会議員も産休・育休を取ることができて、100パーセント給料を保証されながらお休みを取ります。
日本でも最近ちょっとそういった例があったようですけれども、デンマークでは問題なく休暇を取ることができます。
それから小中学校の教育です。中学校の前半ぐらいまでは、まったくテストというものがなくて、一部の本当に上位の人は、テストをやったら結果うれしいと思うかもしれないのに対して、それ以外のほぼ9割以上の人は、テストやったからといって、うれしいことはなにもない。
それよりも子どもたちが、いろんな子どもたちと一緒に遊んだりする中で、「周りの人たちは自分と違うな」とか、「自分はこういうことが好きなんだな」「あの子はこういうことが好きなんだな」ということを認め合う中で、「一緒にやるにはこうしたらいいんじゃないか」ということを考えるために、自分自身をきちんと肯定するとか、自尊心を持つことが重視をされているように思います。
いわゆる高校に進学するのも7割程度で、日本に比べると随分少ないんですけど、これは生き方が自由で、自分がどう生きたいか、何をしたいかということで、結果的に高校に行きたければそうするし、そうでない人生も当然あって、それは自由に選べます。みんなが何かするから、同じ道を歩むという感覚はデンマークではないのかなと思います。
小中学校、高校も全部そうですが、大学、大学院まで教育はすべて無料です。(資料の)一番下に書いたように、子ども手当が終わった後の(親と別居の)18歳以上の学生には、国が月マックスで10万円ぐらいお金を出します。
なので、学校がタダなうえに10万円ぐらいもらえるので、基本的にはどんな経済状況にある子ども、学生であっても、経済的に困ることは基本的にはないということになっています。
社会保障に関して、医療・介護・年金とも充実しているというのは、みなさんイメージでお持ちだと思います。日本と違うのは、社会保険ではないということです。税金で必要な経費をカバーしていて、日本のように医療保険あるいは介護保険という、保険料を払った人になにかあった時に給付をするというシステムではないです。医療は無料なんです。
例えば日本だと、病院に行くとすごく並んで会計をして、最後にお金を払ってという、すごく時間がかかることも、デンマークではそもそもお金を払うことがないので、(時間がかかることは)ありえないということになります。
介護の人の平均給与は46万円と書きましたが、デンマークでいうと、市に属している人たちが介護を行っていて、最低これだけの金額が保証されていると。
そういうわけで、年金も税金でやっていますので、日本のように保険料を払って、結果として、老後に年金をもらえるという制度ではないので、必ず年金がもらえて、いわゆる無年金という問題は、制度上、理論的に起こりえないということになっています。
それを支えるのがこれだけ高い税金で、所得税は半分ぐらい取られます。法人税は日本のほうが高いんですけど、消費税にあたるものは25パーセントです。その代わり、保険制度ではないので、社会保険料も存在しないということも含めて、理解していただければいいかなと思います。
こちらは、とくに日本とデンマークで違いが顕著だったので取り上げました。やはりどうしても社会的、経済的に弱い人が多くなってしまうのが母子家庭で、その割合がデンマークでは5パーセントを下回っているのに対して、日本ではちょっとこのグラフで表示しきれないというのは……いろんな制度の結果だと思います。
これは若干テクニカルなんですけれども、社会保障というか、国の政策でどこにお金を使うか。社会政策に使うお金を、上位のリッチな2割の人に使っているか、貧しい2割の人に使っているかを示したグラフです。
日本から先に見ると、上位のリッチな2割の人に払っているお金のほうが若干高い。それで、貧しい2割の人に使うお金のほうが少ない。他方デンマークでは、貧しい人たちにより多く使っていて、リッチな人にあまり使っていないということが特徴的だなと思って、載せてみました。
働き方に関してよく言われるのは、デンマークの「Flexicurity(フレクシキュリティ)」というのは、「Flexibility=柔軟」という意味の言葉と「安全=Security」という言葉を合わせた言葉です。
「Flexibility=柔軟」というのは一言でいうと、企業にとって解雇しやすい、自由に解雇できる、お金を払いさえすればできるというのが、デンマークの制度です。
一方で「安全=Security」というのは、解雇されて仕事を失った人に対しては、手厚い失業保険を保障して、きちんといろんなトレーニングや教育など、次の仕事を見つけられる手助けを代わりにするということです。
日本だと、解雇を柔軟にできるかというとそうではない。その代わり、失業すると手当は何ヶ月から何ヶ月間まででないと支給されなくて、その支給額も十分かという議論があるのは、ご存知のとおりかと思います。
結果として、「平均4年に一度転職」と書きましたが、デンマーク人は、人生の間に6回ぐらいは転職をして、その間、特段生活に困ったりということはなく、むしろいろんな経験を重ねてキャリアをアップすることができると言われています。
最近、日本でも「Hygge(ヒュッゲ)」という言葉が使われるようになりました。これはデンマーク語で「快適」とか、日本語に訳すのは難しいのですけれども。
例えば、家族と一緒に週末のんびりした時間を過ごす快適さ、幸福さを味わうという気持ちのことですけれども。このような言葉がデンマークで生まれるのも、やはりいろんな社会の仕組みが可能にしてるんだろうなと思います。
例えば、日本でもようやく同一価値労働・同一賃金を導入しようという話になっていますが、デンマークでは1960年代に始まって、同じ仕事をしていれば同じ賃金をもらいます。
最低賃金は110クローネ、(資料を)書いたときのレートで1,650円です。最近はもう少し円安クローネ高なので、2,000円ぐらいになるかなと思います。
これは当然、学生のアルバイトでも適用されるので、110クローネは当然もらえるし、学生でも仕事によっては200クローネ、日本で言うと3,000円、4,000円ということですけれども、もらえると言っていました。
働き方については後でお話があるので、ちょっと飛ばそうと思います。
一番下、30歳以上の人で何かの学校に通っている人の割合がおもしろいなと思ったので載せておきました。やはりデンマークのほうが高くて、これは平日でもすぐ仕事が終わって、早く家に帰って学校に行ける余裕があるからかなと思います。
男女の平等に関する指標をいくつか書いておきました。デンマークの家事分担割合は、2012年の時点で男性4:女性6で、まだフィフティフィフティではないので、女性側から男性のほうが少ないことについての批判があります。
管理職の割合も、これは民間企業の割合で、日本の11パーセントよりは高いですけど、やはりデンマークの男女比率からするとフィフティフィフティではないので、低いという批判はまだあります。
賃金の格差は、2014年の調査では92パーセントで、企業や産業によっては女性のほうが高い例も時々見られます。
どれだけの人が働いてるか(労働市場参加率)の割合は、日本では男性70パーセント、女性50パーセントとけっこう差があるのに対して、デンマークでは女性のほうがまだちょっと低いですけれども、そんなに差はない高い数字です。
右側のいわゆるM字カーブは、年齢が進むにつれて、女性の人たちがどれぐらい働いてるかを示している割合です。20〜30代で結婚して出産すると、日本の赤い線はガクッと下がるのに対して、デンマークの灰色の線はぜんぜん下がらないというのが特徴です。
右下の写真は、Gender Equalityに関してよくがんばってるっていうことで、国連がデンマークに旗を送りました。左の受け取っている人はメアリー皇太子妃です。
日本とけっこう違うなと思いましたので、婚外子の割合も載せておきました。デンマークでは(婚外子の)半分以上が、もうすでに結婚していないカップルあるいはシングルの人から生まれてきている。韓国が一番左で、日本も極めて少ないです。
下のほうに、家族に関連する、デンマークで顕著に取り上げられる制度を書いておきました。婚外子が可能なのは、結婚しなくても、そのカップルから生まれる子どもになんの法的なデメリットがない制度になっているので、別に子どもを産むときに「結婚しなきゃ」みたいな、日本であるようなプレッシャーはないということです。それから、デンマークは1989年に世界で初めて、ほぼ結婚と同じ制度をつくった国でもあります。
デンマーク大使館で経験した人がいたので、学生で出産したらこれだけもらえる、というのを参考までに書いておきました。
もちろん学生ローンを借りるとか、アルバイトするというのは、実際に子どもを産んだ女性だと難しいかもしれないので、それは差し引いて考えたほうがいいかもしれないですけど。
恵まれている場合には、学生で子どもをつくっても、これだけの月収が保証されるので、私の友達などを見ていても、若くして子どもを持つということに、日本のようなためらいが少ないなと思います。
右上の写真は、1989年に世界で最初に同性婚をしたカップルです。右下の写真は刑務所です。自分のこれまで使っていた家具や自分の物を持ち込んで、自分の好きなように部屋の中を飾っています。それで自分を保ちながら社会との関わり方を学んで、社会に復帰することを目指している刑務所です。
左下の写真は電車の中です。乳母車を乗せたり、自転車を乗せたり。そもそもそういう余裕があるのは、日本の満員電車と違うので幸せなんですけれども、そういうことが自然にみんなできる社会であるということです。
私からは以上にさせていただきます。ありがとうございました。
(会場拍手)
渋谷区役所
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