2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:渋谷区役所
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司会者:次はワークライフバランスをテーマとして質問させていただきます。「残業は日本企業と比べて少ないの?」から、お願いします。
久保田恵理氏(以下、久保田):コロプラストの就業時間は9時~17時半なのですが、17時半になると社員が続々と帰って行きます。時間管理対象社員(非管理職)の中で一番残業が多い人でも、先月は27時間でした。他の企業と比べて本当に少ないですね。
ただ、これは自然発生的になったのではなくて、かつてはもう少し長い時代があったのですが、マネージャーが中心になって業務分析をしたり、声掛けをしたり、という努力の成果もここには入っています。
全体的に早く帰れるのですが、一部のマーケティング・マネージャーなど、特定の人に負荷が掛かっていますので、その人たちのワークライフバランスをいかに改善するかが課題です。
小林実加氏(以下、小林):うちの場合は、2017年平均の残業時間が、月次で21~22時間ぐらいです。1日1時間という程度なんですけれども。
ただ、この数字をどう受け取るかという見方が少し違うかなと思っていて、20時間の残業が大問題になっています。「20時間も残業するのか」ということで、今はオフィスを挙げての取り組みになっています。
小林:私、実はすごくコテコテの日本企業からキャリアをスタートしています。20時間、1日1時間という残業が、以前の私自身にとっては、あまりにも当たり前でした。「20時間しか」と見るのか、「20時間も」と見るのかで、同じ事実に対しての取り組み方がまったく違うので、そこはすごく今学んでいるところではありますね。
たしかに「1日1時間ぐらい」って思ってしまうんですけれども、その1時間コストが発生しているということに変わりはないです。どうしたらその1時間をなくすことができるのかを真剣に考えていかないと、どうしてもダラダラと、あっという間に1時間ぐらいが経ってしまいます。
そのあたりが、会社側もそうですけれども、本人たちがその1時間をどう残業しなくていいのかが今問われていて、双方から取り組むかたちを取っています。
渡辺文世氏(以下、渡辺):ルンドベックの場合は、就業時間が9~18時になっています。だから、1日8時間労働で、残業時間は月平均がだいたい10時間ぐらいですね。なので、(実労働時間が)7時間半と考えると、20時間ぐらいの残業になっています。そこをゼロに持っていくように、今取り組んでいるところです。できるだけ自分で調整をしてもらって、なるべくゼロにする。
デンマーク人やスウェーデン人には、「残業に寛容だね」「残業を自らしてくれるなんてすばらしいね」と言われます。でも、「仕事が終わらないから当たり前じゃない」と返すと、「終わらなくても、明日できることは明日に回して帰るのが、デンマーク人にとっては普通だ」と言われました。
だから、「『できる・できないじゃなくて、とにかく帰るように』という指導をするように」と言われていますが、日本人としては「ここまでやりたい」といった気持ちもやはり大切で尊重したいので、そのへんの兼ね合いが難しいと思いながら、残業時間ゼロを目指して進めているところです。
司会者:次に「フレックスタイム制度やテレワークの導入状況は?」をお願いします。
久保田:フレックスタイム制度はあるのですが、限定的な利用に留まっています。と言うのも、コールセンターの人たちがお客さまとの第一線で対応してくれているものですから、その人たちを差しおいてみんなが遅く出社するのでは、全体の士気が下がってしまう、ということがあります。
制度としてはありますが、基本的にみんなが「9時前に来て5時半になったら帰る」、それが総労働時間を減らしている、という側面があります。管理職など時間管理から解放される人は、もう少し柔軟な働き方にできるよう意識改革をしていくべきでは、という段階です。
テレワークに関しては、この1月から在宅勤務制度を導入したところです。この時も、「誰でも・いつでも」というより、「活用できない・利用できない」人たちのモチベーションを下げないような運用を心掛けています。誰かの仕事の効率が上がることはみんなにとっていいことですので。「働いていない人を働いたことにしない」ことにも気を配っています。
小林:弊社はフレックスタイムやテレワークを完全導入していて、利用率はすごく高いと思います。
フレックスタイムについては、毎日使っている人たちが一定の割合でいますし、テレワークの利用も広く受け入れられています。日本法人は50名の会社なのですが、社内の外国人比率が高いんですね。3割が外国籍で、日本で採用されたメンバーがいます。
例えば、彼らが「クリスマスに母国に帰りたい」「ただ、クリスマスで日本が休める時期まで待っていると、クリスマスを逃してしまう」「航空券が高い」と言ったとします。「なので、どこかの週末に先に本国に帰ります」そして「本国から働きます」となるようなケースでも、母国に帰国後仕事をしている時間はちゃんと勤務とみなしています。
家ではないところでも働ける。オフィスにいなくても、どこの国から働いてもらっても、働いたら働いたことになるので、お給料がもらえます。ですので「働いたかどうか?」という事実を運用の基本として、活用するかたちにしています。
なので、これがけっこううまく使われているケースが、介護や看護、男性の育休などですね。男性の育休は「できれば育休もとりたいんだけど、長期で仕事を休めないよ」という社員の感覚もありまして、昨年の実際に会ったケースでは、3ヶ月の在宅勤務で対応した社員がいました。
そうすると、在宅勤務とフレックス勤務を使うと、早朝にメールを見て、昼間はお子さんの世話。昼から夕方ぐらいまで働いて、ごはんを食べて、夜にメールを少し見るようなことをしていると、あっという間に1日7時間半ぐらい働いてしまいます。
そういうかたちで家にお父さんとしていて、必要な時は役割を果たし、自分自身でスケジュールすることで仕事もちゃんとする、というような使い方で、コンビネーションで回してたケースがあります。昨年だと、その形態でいわゆるパタニティリーブ、お父さんの育休を取ったケースが3件あります。
渡辺:ルンドベックも、フレックスも在宅勤務も両方導入しておりまして、ほぼ全員がそれぞれの事情に合わせて利用していると思います。例えば、お子さんを早く迎えに行くから先に帰って、その後、夕食後にお子さんを寝かせてから、メールのチェックなど仕事に戻るような仕事のやり方ですとか、うまく組み合わせて取っていると思います。
この間、雪が降った日も、上司には一報を入れますが、社員自身で判断して「今日は家で働く」、あるいは15時前に「雪が降り始めたから帰ります」という人たちがいました。自分で自分の時間をコントロールしている働き方は定着していると思います。
司会者:そうした労務管理などは、どの会社も柔軟にされているんですか?
渡辺:そうですね。勤務時間をつけなければいけないので、とにかく自己申告です。タイムカードというか、オフィスに来れば出退勤のシステムがあるんですが、「来ない場合は、必ず逐一つけてください」ということを徹底しています。「何時から何時まで、移動とか他のことしていました」「何時から何時まで、仕事しました」というのを、細切れでもいいので記録することを徹底してもらっています。
自宅勤務は月に4日が上限ですが柔軟な運用を認めていたら、社員の間に不公平感が出てしまったことがありました。人事としてハンドリングがよくなかったと反省しました。
先ほど久保田さんもおっしゃっていましたが、感覚としてやはり日本人は公平・不公平を気にします。デンマーク人はそういうことをあまり考えていないんですね。自分の仕事は自分の仕事だし、相手は別の仕事を持っている。まったく違う働き方で、仕事の内容も違うし、働く時間も違うので、他の人がオフィスに来ていようが来ていまいが、別に関係ないんですけど、やはり日本はそういうわけにはいかない。
同僚の働き方が気になったり、自分だけが早く帰ることを気にしたり。そのへんはかなり配慮して、導入・運用をしなければいけないと思います。
小林:今の話に少し付け加えるんですけれども、運用する企業側の視点でいくと、このフレックスタイムやテレワークを、本当の意味で活用していこうと思うと、ある程度社員に対する信頼を持っていかないといけないと思います。
性善説でやるのか、性悪説でやるのか、ということだと思います。「こういうやり方をしたら、ズルする人がいるんじゃないか」「働いてないのに『働きました』と申告する人がいるんじゃないのか」と問い始めてしまうと、もうできなくなってしまいます。
それは社員側も、そういったズルをしないことで返していかないといけない。相互の信頼がすごく大事です。社員側も自分が他の従業員から見て、「この人、在宅勤務していて会社に来てないけど、ちゃんと働いているよね」ということが、ちゃんと理解されるようなコミュニケーションや、働き方のパフォーマンスなどを出していかないといけないです。
「ただ会社に来なくて、ゆったり働いている人」となってしまうと、そもそも制度が効率よく働くことに対して貢献しているのかを問われてしまいます。
外資系だと「コミットメント」という言葉をよく使うんですけれども、どれぐらい使う側が覚悟を持って、正しい使い方をするのか。会社側が社員を信じて、その機会を与えるのか。バランスがうまく取れてないと、どこかでひずみだったり、不平不満が出てきてしまうのはあると思います。
フレックスやテレワークは、運用や活用がよくできないところの多くが、社員側から「あの人、不公平なんじゃないか」という意見が出るのがすごく多い。決して会社がやりたくない・やってないということではないんですよね。
制度があるんだけれども、そういうひずみが組織の中で出てしまって運用できてない、というケースが多々あることは理解しています。そのあたりは運用する側や使う側の社員も、自分自身も含め、責任を持って使っていくところが必要になるかと思います。
司会者:そのへんは日本企業と共通する部分が日本支社の方にはあるということですね。ありがとうございます。
次の(テーマの)「年次有給休暇は取りやすい?」と「子育てしている人、介護している人へのサポートは?」は、カルチャーの話でも少し出ましたが、もう一度お願いいたします。
久保田:お休みのことをまとめてお話しますね。有給休暇の消化率は、残念ながら多岐に渡っている感じです。15日以上消化している人が20数パーセントいる一方、5日以内という人も約20パーセントいて、その中間の人たちもいます。
やはり営業の場合は、お客様から電話が掛かってくるかもしれないため、遠慮して取れないという。週末には学会対応などもあり、その代休消化で精一杯、有休取得までいかない、ということがあるようです。計画有給休暇の制度を取り入れたりしています。あとは声掛けをする等、地道な努力の繰り返しです。
女性の育休取得率は100パーセントで、時短は子どもが小学校に上がるまでという制度です。全部利用する人もいますし、自分の仕事の関係で、選択して早めに切り上げる人もいます。介護休暇はまだ事例がありません。
小林:弊社は、年次有給休暇の付与数は、日本の法律とまったく同じなので、デンマーク本国のように5週間与えていることはないですね。ですので、日本の企業の運用と同じか、もしくは、日本企業でももっと多く付与されているケースもあると思うので、それより少ないぐらいかもしれないです。
取得率としては、付与数がそんなに多くないので、取得率としては必然的に高くなります。また昨年から、1年間に10日間ある有給の傷病休暇を、入社のタイミングにかかわらず付与することにしました。1月入社の人は1月から12月までの間で10日間。2年目以降は毎年1月に10日もらえるかたちです。
この休暇は、自分の傷病以外に家族の介護とか看護など、「ケアギバーリーブ」と呼んでいるのですが、ケアを与えるための休暇ということで使えるようになっています。長期にならない限りとくに証明はいらないかたちで、申告ベースでその10日を利用してもらっています。
つまり、有給休暇は完全に休暇として使ってもらって、傷病、自分や家族の病気などは傷病休暇というふうに、分けた使い方をするようにしています。
司会者:その次の「子育てしている人、介護している人へのサポートは?」というところで、なにかございますか?
渡辺:ルンドベックは、日本のスタンダードな育児休業手当と介護休業手当、時間短縮の勤務の規程です。とくに手厚い制度があるわけではないんですが、制度・休暇を利用しやすい雰囲気ではあるんじゃないかなと思います。
小林:弊社もとくに特別な設定というかたちでは行ってはいないです。ただこういったケース、子育てや介護が発生した時は、「どうやったら休めるか?」ではなくて、「どうやったら仕事を続けながら両立できるか?」というところが、会社側と本人が話し合う時の(重要な)視点です。
先ほど紹介したフレックスや在宅勤務、有給の傷病休暇など、どう組み合わせたら、その方たちのケースにもっともサポートがいくかたちになるか、ケースごとに話し合って、上司と人事と本人とで合意を取って進めるかたちを取っています。
お休みを完全に取ることだけが、ご本人にとってもハッピーではないケースもあります。「キャリアを続けながらやりたい」「バランスを取りながらやりたい」というニーズが、すごく多くなってきているイメージがありますので、その部分をサポートすることで、従業員にとって、もっともベストな支援になるようにと気をつけています。
司会者:これで、予定していた質問はすべて終了となります。
みなさんにはデンマーク企業でのお話をいただきました。会場のみなさんからもいくつか質問が寄せられているんですが、では日本はどうしたらいいのかと(笑)。
(会場笑)
(日本とデンマーク)両方で働いて感じるところ、学べるところなどはありますか?
久保田:先ほども出ましたが、日本人のいいところは、ここぞという時に本当に献身的に、個人を後回しにしてでも集団のために心を尽くせる、力を合わせられるところだと思います。
実は初めての社員旅行で、帰りのフライトが欠航になってしまい、日曜日に帰れず、月曜の朝に着いたのですが、その足で発送センターの人たちはすぐ出荷作業にあたりました。外国人の社員は驚いて、「デンマーク人だったらあり得ない」「絶対にそのまま家に帰って寝る」「日本の人は本当にすごいね」と話していました。
「日本人は生産性が低い」とよく言われますよね。もしかしたら付き合い残業みたいなところもあるのかもしれませんが、誠実さや丁寧さのようなものも含まれているのではないかと思います。
私も、本当は電話してはいけないんだけれど、夜間に取引先に連絡をして助けていただいたことがありました。そういう積み重ねは、たぶん生産性の低さに出てしまうけれども、バッサリ、ドライに失いたくないところでもありますね。
小林:私からは少し、物の見方とか、心の持ち方というところで、私自身が学んだことなので、シェアできるかなと思っています。
先ほどの夏休みの件で、デンマークの人は「休む」と言ったら、本当に3週間も連絡が取れなくなって「そういう休み方ができていいな」と思う一方で、本音としては「もう少し責任感を持てばいいのに」などと思っている自分もいるんですね。
ただ、自分が同じように休むような環境を整えてもらうには、そういうふうに「責任感を持てばいいのに」と思われない環境があるという安心感がないと、どこかで「3週間も休んでいいのかしら」と躊躇してしまうと思うんです。
なので、自分が「こういうバランスで働きたいな」と思うようなことを相手にも許していかないといけないし、相手がそういうバランスで働いていて、自分がなにかカバーをしなければいけない時に、それを心地よくできる、お互いさまみたいな感じだと思うんですけれども。
そういう環境や心持ちが、組織の中に少しずつでもできていくことによって、ご自身が望むペースで有給を取れたり、その時に優先したいことや家族のことだったり、介護だったり、そういったことを優先したいという日や期間にできるようになると思います。
なので、こういう「ワークライフバランスをどうしたらいいかな?」という時には、けっこう自分の要求やニーズに目が行きがちなんですけれども、実は周りの方も同じようなニーズを持っています。
1チームに10人いたら、10人の一人ひとりが、自分がニーズを満たしている時に、他の人にお世話になります。同じように他の人がニーズを満たしている時には、自分がそれを受けてあげるような、相互の信頼を築けることが必要かと思います。
勤めている企業が大企業であれば、5,000人や1万人みんながそう思わなくても、働いている組織で、隣に座っている人、一番サポートしてくれる人、一番業務上の関わりが多い人、そういったところから始めようと思うと、意外と影響を与えていけることが、明日からできることがあるんじゃないかと思います。
やはりそういったところから始めていかないと、どんなに会社が制度を整えてくれたところで、運用できる環境は、やはり自分の身の周りから作っていくところが、デンマーク人の感覚を見て学んだところではありますね。
渡辺:私も小林さんのおっしゃったことにかなり同感と共感をしています。やはり相手を尊重する、自分への尊重にも返っていくる気持ちで、自分の働き方なり、相手への接し方を変えていくと、少しずつ変わっていくと感じています。
私がどうして外資系に行ったかを少し共有させていただきます。自分自身が人事労務管理をやっていながら、すごい長時間労働で会社にコミットしていました。ワークライフバランスではなくて、ワークワークワークの生活をしてたんですね。
そうして働いていた会社が倒産しまして、「あれ?」となった時、自分の時間や働き方にオーナーシップを持っていなかったと、ふと気がつきました。
もっと自分の時間を自分でコントロールするような働き方を見つけたいなと思って、他の外資系などに目を向けてみようと思って来たら、デンマークの働き方が、みんなが自分の時間は自分でコントロールしているという働き方だった。「え、こんな働き方があったの?」となりました。
それでキャリアもそうなんですね。先ほど、高校進学率が7割とおっしゃっていましたけど、デンマーク企業で働いて、キャリア設計において、自分で主体的に考えているところに、気づかされました。未だに私もまだまだ迷うところもたくさんあるんですが、オーナーシップというか、そのへんは少しずつ見習っています。
あまりワークワークにならないように、調整をしながら働いているところです。
久保田:「どうしたらいいか」という点について、一言付け加えさせていただきますね。
日本人には、集団を重視することが遺伝子に組み込まれているそうです。ご興味のある方は「セロトニントランスポーター遺伝子」というキーワードで検索していただきたいのですが、私たちの性質に脈々と受け継がれているものがあるようです。
1人で突飛なことをするのは難しいと思うので、仲間を増やして、少しずつ賛同できる人たちで変えていく。一歩ずつ変えていくことが、例えば残業を減らしたり、有給休暇をもう少し取れたり、というところにつながると思います。
ポジションパワーのある人を巻き込めれば効果も高いので、管理職や、誰か後押ししてくれる人から号令掛けてもらうとか、そういうこともできたらいいと思います。
司会者:ありがとうございます。デンマークという国が多様性を尊重する風土がある。今、こちらのセンターでも、多様性社会を推進するということで、推し進めているところです。
それに一番大事なことは、他者の気持ちを理解して、相手の気持ちに共感することが大事だと日頃感じているんですね。そうすれば、自分のことだけじゃなくて、相手の気持ちに立って、お休みもお互いさまで取り合えるというか、そういうことが進めていける。日本の企業でも、自分の周りから進めていけると、みなさまのお話をうかがって私も思いました。
司会者:予定の時間を少し過ぎてしまったんですが、みなさまからご質問いただきました。寺田さんへの質問が多かったようなので、質問の中から何点かお答えいただけるものがあればご紹介ください。
寺田和弘氏(以下、寺田):たくさんありがとうございます。たぶん真面目に答えていると時間がいくらあっても、本も何冊も書けるような質問をたくさんいただいています。もしよかったら、この後、個別にお話させていただければと思います。
「医療無料・学費無料が、今後も破綻することなく続けられますか?」という質問がありました。デンマークは確かにいろいろ手厚くやっています。
もう1つ、「私は線維筋痛症と慢性疲労症候群という病気を持つシングルマザーです。日本ではまともな福祉を受けられず」という方の質問もいただいていますが。
デンマークであれば、できるだけその方の必要な福祉を手当てしようとするし、実際できているのは事実だと思います。もちろん他方、お金は無限ではないので、それは国民が高い税金を負担していることもあって、それはデンマークであってもバランスは必要です。
寺田:医療については、もちろんなにがあっても無料で受けられる代わりに、最初に、医者にきちんと予約を取って行かないといけない。それがかなり時間を待たされる。軽症であれば、さっき話があったように、風邪だったら誰もわざわざ医者には行かず、「1週間寝てなさい」みたいな社会です。
日本ではいつでも、ほぼそれほど待ち時間なく医療を受けられる代わりに、お医者さんの働き方は日本では問題にとてもなっていますけれども、遅くまで働きづくめで、有名な病院であってもお医者さんが過労死されるような状況があったり、バランスをどうしても取らないというのは、どこの国でも同じだろうと思います。
学費は無料ですが、(ベーシックインカムを)10万円を払う代わりに、日本みたいに、誰でも彼でも大学に行くという社会ではない。限られた、大学に行きたい人が行く。割合は日本よりももう少し低いです。ただし「行きたい」と思って、その能力がある人には、社会人になったらきちんと税金を払ってもらうということをやっているんだろうと思います。
幸い人口も増えているので、日本と違って、人口が減って将来的に税金も減るという暗い見通しではないです。もちろん今は、右派・保守側の政権が取っているので、かなり効率化しようとしています。
例えば、「大学院で2つ目の修士を取ろうみたいな学生には、ちょっと我慢してもらいましょう」みたいな議論はしていますが、重い病気にあったり、それで子育てをしないといけないみたいな人に対しては、できるだけ自治体のほうで必要な介護やサポート、子育てを必ずしないといけないことになっている、最善を尽くすことになっていると思います。
それから、「1人当たりの生産性がこんなに差があるのはなぜでしょうか?」というのは、今日の話の全部のまとめのようなことです。
寺田:エピソードを1つだけ話します。去年、バスの運転手や配管の工事をするような、現業というか比較的体を使う人たちの労働組合と使用者側が騒動を起こしました。
今、デンマークは37時間労働で、その人たちには去年まで残業という規程がまったくなかったので、会社側は、働いている人に残業をしてほしいと思っても、させることができなかった。
どうしても忙しい時期に、週に5時間だけ残業をしてほしい。要するに「37時間のところを週に42時間働いてほしい」という提案をしようとしたところ、これが大騒ぎになって、ストライキを組合側がちらつかせました。実際、私が仕事でも、デンマークに行けないみたいな騒ぎになったんですけど。
その時に、結果的には、「どうしても必要な時には週5時間残業をして、週42時間働きます」という合意はしました。しかし他方で、今後3年間にわたって、実際に残業するしないにかかわらず給料は7パーセント、必ず上げる。
それから、有給休暇も、年間2日だったかな、育休・産休も100パーセントの給与を保障すると。それから、当然42時間働いた翌週は、その分どこかでマイナス5時間してあげるみたいなことを、会社側が条件を飲んで、ようやく42時間働くことを組合側が合意しました。
何が言いたいかというと、日本は合意社会なので、一人ひとりがそのことを望んで声をあげて、誰かと一緒に協力したほうが力が大きいと思います。そんなこと、できないことではないんですよね。
寺田:デンマークは比較的税金も払っているから、「税金払っているんだから、ちゃんと政治家を通してこういうことをやってもらおう」という声が強いし、そういう声をあげる教育も子どもの頃からされているので。
年上であろうが誰であろうが気にせず、自分の言いたいことを言うメンタリティがあるので、日本よりそれができていることだと思いますけれども、それは日本でまったくできないことではないと思いますので、可能性は日本でもあると思います。
司会者:ありがとうございました。他にもたくさんご質問いただいたきましたが、後半のお話の中でお答えがあるものも、かなり多かったと思います。みなさん、ご自宅で今日の講座を思い出して、自分の働き方を考えてみてください。
では、これで今回の講座は終わりにしたいと思います。今回の講座は、デンマーク大使館が渋谷区の代官山にあるということで、大使館の方に多大なるご協力をいただきまして、デンマーク企業のみなさんにもお声かけいただき、実現することができました。
このような機会が持てて、私どもも大変充実した講座になったと思います。ありがとうございました。それでは登壇のみなさまに、もう一度、盛大な拍手をお願いいたします。
(会場拍手)
渋谷区役所
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