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渋谷未来デザイン構想(全2記事)

2017.12.25

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行政にできるのは「多主体の共働を引き起こす仕掛け」 長谷部区長が挑む渋谷未来デザイン構想

提供:DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA実行委員会

新しい社会のスタンダードと向き合う都市型サミット「DDSS(DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA) 2017」の中で、セッション「渋谷未来デザイン構想」が行われました。登壇したのは渋谷区長の長谷部健氏と東京大学の小泉秀樹氏。モデレーターはBusiness Insider Japan統括編集長の浜田敬子氏。長谷部区長が「渋谷未来デザイン」を立ち上げた意図とはなにか。また、ダイバーシティが注目される中で渋谷区の在り方をどう考えているのか。行政からのまちづくりの仕掛けを語りました。

「ちがいをちからに変える街」を実現する7つのカテゴリー

長谷部健氏(以下、長谷部):やっぱりここに上がると緊張しますね(笑)。

浜田敬子氏(以下、浜田):緊張しますね。

長谷部:超満員の会場で(笑)。そういう冗談ですけれども。

浜田:みなさんありがとうございます。

長谷部:ありがとうございます。最初に「前フリ」ということで、渋谷区のお話を少しだけさせていただければと思います。

(スライドを指して)今ここに出ている「ちがいをちからに変える街、渋谷」が、渋谷区にとって今一番政策の最上位概念にあるステートメントになっています。

これは基本構想というものなんですけれども。「基本構想」という言葉を初めて耳にする方も多いと思いますが、地方自治体がそれぞれオリジナルで持っているもので、実際には基本計画とも言い、政策の最上位概念に来るものでございます。これをもとに、僕らは10カ年の計画や3カ年の単年度など、すべての政策がここに紐付いています。

この「ちがいをちからに変える街」を実現するために、7つのカテゴリーがあります。教育や福祉、健康スポーツなどいくつかあり、そこにまた文章があり、非常に読みやすいものとして作っています。

というのは、いろんな自治体を見比べていただければわかるんですけど、けっこう堅苦しく書いてあるものが多いんですね。そして、最大公約数をとっていくので、わりとそんなに変わり映えがしない……。「自然を大切にしよう」とか、そういうことになってくるんです。

そんな中で、渋谷はもう一歩、少し前へ進んで、ダイバーシティ、多様性、インクルージョンみたいなものを含めた意識を、基本構想として持っています。

先ほど言ったように政策に紐づくものですから、多くの人に知っていただければ基本構想に関連しているご提案を、渋谷区というか行政としては非常に受けやすいんです。それをもっと広めていきたい。その掛け声を「You make SHIBUYA」と打ち出して、みなさんと一緒に渋谷区を作っていくんだということを掲げております。

今日はこのもとに、これからいろいろお話ができれば考えております。「渋谷未来デザイン」については最後にもう1回説明しますけれども、外部で社団法人を作って、もっとアクティブにいろんなアイデアをそこで創発したり、集めたりといったことをやっていこうとしています。

実は小泉先生と浜田さんはそのメンバーとして、一緒に準備していただいている関係です。今日はこうして3人でお話しすることになりました。

渋谷区のまちづくり条例1.0をつくる

浜田:よろしくお願いします。小泉さんは渋谷にはどういう関わりが?

小泉秀樹氏(以下、小泉):もう30数年前に、高校時代に実は渋谷でよく走っておりまして。

浜田:そうなんですか?

小泉:そうですね、部活でですね。そのころよく帰りがけに原宿・渋谷あたりで遊んでいたんですが、最近はちゃんと渋谷区のまちづくり審議会というところで。

長谷部:そうですね(笑)。ちゃんと、というか。

小泉:そういうところで渋谷区の街づくりの1.0を作るのに、まちづくり条例とかですね。そういうものを作るのに協力したという感じですかね。

浜田:私は実は3月までは築地の会社に勤めていまして、渋谷は通勤で通るだけだったんですよ。もちろん渋谷の近くに住んでいたので、時々買い物に来たりなどするんですけど。4月から渋谷の会社に転職しまして、今は渋谷で働く1人なんです。

私が今作っている「BUSINESS INSIDER」というメディアは、新しい価値などを発信するビジネスメディアなんですが、いわゆるスタートアップやベンチャー企業を取材することも多いのです。そうすると、渋谷にものすごく「取材したいなあ」と思う会社や人が多いことに気づきました。私たちも渋谷にあるメディアということが1つの価値なんじゃないかなと思っています。

そんな感じで、長谷部さんや副区長の澤田(伸)さんといろいろなことをやらせていただいて。メディアとして報じるだけじゃなくて、その自治体や行政と一緒になにかを作っていくなど、新しいことができないかなと思っていたところにお声かけをいただきました。本当にこれからすごく楽しみにしております。

ということで、モデレーターを務めさせていただきます。今日、長谷部さんが先ほどおっしゃった渋谷の未来、それに関わる基本構想。つまり、どんなことを今、渋谷区は考えていているのか。そういったことを中心に、お2人にお話をうかがえればと思っております。よろしくお願いします。

長谷部:よろしくお願いします。

渋谷カルチャーは「人が混ざり合って生まれたもの」

浜田:はい。キーワードを前もっていただいています。

長谷部:そうですね。いくつかご用意しました。

浜田:1つはですね……私は仕事が多くて、(スライドを進めながら)これもやらなきゃいけないんですよね。はい。「都市の未来をデザインする、Creative City Shibuya」を、キーワードとして出していただきました。

「Creative City」。長谷部さんが「クリエイティブである」ということは、価値としてすごくおっしゃっています。その「クリエイティブである」のためには、どんなことが必要かを、少しお話をうかがいたいなと思っています。

私は、渋谷に来て驚いたのが、なんと言いますか、いい意味でのわい雑さというか雑多な感じ。今日はダイバーシティがテーマですけども、もともとダイバーシティがあることを、すごく感じました。

長谷部:そうですね。

浜田:今、なぜダイバーシティが必要かという話になった時に、「ダイバーシティがないとイノベーションが生まれない」という文脈で使われることが多いと思うんです。ということで、そのクリエイティブのためのイノベーションみたいなところから、少しお話をうかがってもよろしいでしょうか?

長谷部:当然いくつかのアイデアはもう持ってはいるんですけども。思い返してみると、僕はこの街で生まれ育ってきているんですが、ずっと人が混ざり合って生まれてきたストリートカルチャーの中で生まれ育ってきたんだなという思いがあります。

小学校の時は竹の子族、ロカビリー族、中学校の時はDCブランド、高校の時はアメカジ、渋カジ。その後はギャルやコギャル、音楽も渋谷系などありました。歩行者天国だったり、街の洋服屋さんだったりも含めて、いろんなものがストリートで交わって生まれて、カルチャーに揉まれて育ってきたんです。

だから、先ほど言った多様性ももともとあった中で言うと、もうそれが普通というか、自分の原体験を通してでも、普通に僕を育ててきたんですね。

その長所をこれから活かしていく、さらに伸ばしていくべきだと考えています。今まではどちらかと言えば一区民として、この街に生まれ育った人間として、そこに関わってました。しかし、今度は区長という立場になりましたので、今度それをどうやってリードしていくか。それを行政が主導で全部やろうとすると、少し寒いものになってしまう気もするので(笑)。

この渋谷には、先ほど「取材したい企業がたくさんある」とおっしゃっていただいたように、おもしろい企業もたくさんあるし、学んでいる学生もいる。あとは好きで遊びにくる人など、それぞれ思いを持ってる人たちがいっぱいいるんです。

渋谷にシティプライドを持ってくれる人たちと一緒になって、街をつくっていく。その時のキーワードとしては、クリエイティビティやイノベーションなど、今言われる創発系のものが1つ大きくなってくるんじゃないかな、と思っています。

「行政はイノベーションから一番遠い組織」

浜田:でも、イノベーションって黙っていてもなかなか生まれないと思っています。

長谷部:そうですね。

浜田:行政ができることは、ある種のサポートであったり支援だったりすると思うんです。そういったイノベーションに関わるような……というか、新しい価値を目指したいと思うような人に、どんな価値を行政としては提供できると思っているのか。そして一方で、提供したいと思っていらっしゃるんでしょうか?

長谷部:そうするとね、まずは行政がもう少し、イノベーションについて学ばなきゃいけないと言いますか(笑)。どちらかというと区役所は、僕がこんなことを言ったら怒られちゃいますけど、イノベーションという言葉から一番遠いところにいそうな組織だと思うんです。

しかし渋谷区の場合は、そこで発揮できることやチャンスはいっぱいあるはずなんです。そして民間企業、とくにベンチャーの人など、どんどんやっていますよね。そういうものを見て、まずは触発されてほしいという思いがあります。

行政で「イノベーションを起こしていきましょう」と言うと、先ほどお話ししたように寒くなる可能性があります。そのため、どちらかと言うと背中を押させていただいたり、その場を一緒になってつくったり、行政が持っているリソースをうまくご提供したい。規制を緩和することで変わってくることがあるとも思っています。

浜田:一定の条件を満たしたら、スタートアップ企業のオフィスの家賃が安くなるなどがあるといいですね。

「制度や仕組みを変える」は行政だからできる仕掛け

浜田:スタートアップするなら、今だと渋谷は家賃が高いというので、五反田にスタートアップが逃げちゃったりしていますよね。

長谷部:はい。

浜田:もう少しああいった人たちを呼び戻すことも必要かな、と思ったりするんですね。

長谷部:そうですね。五反田は五反田で(イノベーションが)起きるといいなと思っているんですけど。これから特区を中心にビルができてきたり、いろいろオフィスもまたできていきます。そうすると、またスタートアップする人たちが集まってくるかなという思いはあるんです。ただ、家賃の問題があるので。

浜田:新しいビルは家賃が高いですからね。

長谷部:そうですね。だから、シェアアパートメントみたいなものはもっと考えたいです。今、特区の構想を持ってまして、これは渋谷デザイン会議で揉んでいこうと思ってるんです。

例えば、エンタメやクリエイティビティ、イノベーションを起こすものをもっと渋谷区周辺に集めたい。しかし「集めたいでーす」と行政が言っても、当然集まらない。そのため、少し規制を緩和することを考えています。

もっと大中小のホール、あとはクラブスペースなど、そういうインキュベーションセンターみたいなものを、新しくビルをつくる時に敷設してくれれば、その面積に応じて容積の緩和を上(東京都)にしようと思っています。

さらに条件があるんで。そこで緩和した部分については、人に住んでもらうというもの。そこはサービスアパートでもいいです。24時間、駅の周辺にそういう人が住むという息吹が必要ですので。そういったことを考えています。

これは東京都と今話し始めたところですが、うまくいけばそういったホールや場所が、渋谷区周辺にどんどんできてくる。これはやはり、行政だからできる仕掛けじゃないかなと思います。

浜田:そうですね。制度、仕組みを変えるというのは、なかなか民間では難しいですもんね。

長谷部:そうですね、はい。

さまざまな価値観や情報を共有の場をつくることが大事

浜田:小泉さんにうかがいたいんですけど、街が……というか場所が、イノベーションに果たせる役割はどんなふうに考えたらいいのかを少しおうかがいしたいんですけども。それに関して、渋谷がイノベーションシティになれるかどうか、どうお考えになっていらっしゃいますか?

小泉:例えば、我々のまちづくりの領域ですと、最近はオープンイノベーションやクリエイティブシティというキーワードで、いろんな国のいろんな都市と競争している状態にあります。ヨーロッパやアメリカのイノベーティブなシティを見てみるとですね、1つは長谷部区長がおっしゃったような、すごく多様な人や価値がそこに存在していることがとても大事です。

そういう意味で、大企業だけの渋谷ではなくて、さまざまな裾野の広い、しかも違う種類の業態が集積しているような街がイノベーションを起こせるんじゃないか、という話があると思います。だから、そういった環境を整えてあげることが大事だと思います。

それから、やはり価値や情報を交換したり、共有したりするような場がないとなかなかイノベーションは起こらないですね。

例えば、「オープンデータ」という言葉が最近よく使われてます。行政のデータを企業にオープンするという一方向のものではなくて、いろんな企業が持っているさまざまな情報やデータを相互に共有しながら、「どうイノベーションを引き起こせるか」という多主体の共働を引き起こすような、そういうセッティングが必要です。

行政の立場、もしくはまちづくりの立場としては、そういったみんなの価値や情報を共有できるような場をつくるところが、一番大事なポイントなのかなと思いますね。

行政と企業の「場づくり」の違い

浜田:今、渋谷でのパナソニックの100BANCHなど、企業もどんどんそういったオープンイノベーションの場をつくっていますよね。でも、企業ができることと行政でしかできないことには、場づくりでも違いってありますか?

小泉:一つひとつの企業さんが主導するようなイノベーションの場は、もちろんあると思うんですね。でも、そこはやはり……なんだろう、企業主導なので、どうしても閉じた領域になってしまうんですね。

それを横につなげたりすることは、行政でないとなかなかできない役割です。一つひとつのイノベーションの場をもっとつないで、大きなイノベーションのプラットフォームをつくったり、場をつないだりすることが、行政の役割として一番重要なポイントになるのかなと思います。

浜田:そういった時に、行政の中にプロデューサー的な役割……つまり腕力のある人やコネクションがある人が必要だと思うのですが、そういう人材が渋谷区にいるのでしょうか?

長谷部:いるんですよね。

浜田:あ! そうなんですか?

長谷部:それが内部だけじゃなくて、外部からも……。区役所だけの話じゃなくて「渋谷を愛している人」という大きな括りで言えば、ものすごくいると思っています。

浜田:なるほど。渋谷区役所の中だけじゃなくていい、ということですね。

長谷部:そうですね。やはりこの街を、当然、区役所もやっていきますけども、そこでこちらも学ばせていただきながら、お互いに成長できるような仕掛けがつくれないかなと思います。

「自分の街で使える財源」を確保する構想

浜田:ありがとうございます。イノベーションといった場合に、今もう本当に切っても切り離せないのがテクノロジーだと思っています。とくに渋谷系のスタートアップは、テクノロジーベンチャーも非常に多いので、今度はイノベーションやクリエイティブに対して、テクノロジーが果たす役割をぜひ長谷部さんにおうかがいしたいんですけれども。

長谷部:これはもう働き方改革だけじゃないですね。サービスを豊かにすると言いますか、そういった意味では、テクノロジーはもう外せないし、すでに革命と言っていいものが起きていると思っています。

それを考えると、当然ながら渋谷にもチャンスはたくさんあるなと思っています。AIやIoT、AR/VR、そのほか今いろいろと言われていますブロックチェーンだったり。

その中で言うと例えば、5Gがこれからやってきますね。その時に、渋谷が先行してチャレンジしたいと思っていますし、それによって変わることがいくつかあります。

きっと読者モデルみたいな、今までは誌面で見てた人たちが街にいる状態ですよね。たぶんこの……通信速度が速いので動画で見れたりしますから。そこですぐ、どこで洋服が売られているのかなどをチェックできます。だから、読者モデルが街をもっと歩くようになったりするなど、そういう小さいことからですね。

あと、今言われているブロックチェーン。あそこにも非常に興味があるんです。地域通貨というものをずっと研究してましたけど、それに拍車をかけてやっていくヒントは、もしかしたらこのブロックチェーンにあるんじゃないかとかですね。そして、そこでの収益みたいなものを、また街に還元する。

渋谷区で言うと、ほとんど住民税で運営している組織です。それ以外の収益源というか、自分の街で使える財源みたいなものを確保できたらいいなと、そういった構想は今すごく持っています。

先ほどお話ししたように、区役所だけで閉じてやっていても、きっとひらめかないんですね。イノベーションは、やはり多様なものが混じり合って生まれるものだと、僕も思っています。オープンにして、開いて、そこにアイデアをどんどん詰めていきたい。それを、この渋谷未来デザインでやっていきたいなと思います。

渋谷区役所内はテクノロジー化されていく?

浜田:長谷部さん、先ほどお話しされていましたが、「行政の人が一番テクノロジーから遠い」と私も思っているんです。例えば、霞が関もそうだし、いろいろな自治体の方と仕事をしていると、「個人情報漏えいが怖いから」という理由で個々人の役所の方のパソコンがネットにもつながってない状況で(笑)。共有パソコンじゃないとやりとりできない。

長谷部:そうですね。

浜田:今はもうリアルタイムで、チャットで仕事することが私たちは多いんですけども。それができないと、どうしても意見交換できなかったりするなど、ハードルが非常に高いなと思っています。

5Gを入れるなど街はそうなっているのに、区役所の中はテクノロジーを活かしていなかったり、働き方もテクノロジーによって変わっていなかったり、「なんだ、区役所は変わってないじゃん」「渋谷区は変わってないじゃん」ということになると思うんですね。

せっかく区の庁舎も新しくなるので、それに合わせて、どんなふうに渋谷区役所内がテクノロジー化されていくのか。これについてはいかがですか?

長谷部:当然ネットワークも、今おっしゃるとおり、ブロックすることを優先して、防御ばかりが働いていて……本当によくないんですよ。「Yahoo!が見られない」みたいなことがあったりですね(笑)。

浜田:そうですよね。そうすると、情報にアクセスできないですね。

長谷部:それは今度の新庁舎に移った時、大きくシステムを変えるチャンスだと思ってます。その準備は着々と進んでいます。もうIT企業並みの、そういったネットワークシステムは持ちたいと思ってますし。

区役所……もちろん本体だけではなくて出張所や学校など、区が関連するところはそうやってつながります。そして小学校や中学校はもうすでに、この9月から全員にタブレットを配り始めています。そういったことを見据えて、投資もどんどん行っていくところです。

浜田:ありがとうございます。

テクノロジーの発展=人の幸せではない

浜田:小泉さんは、最新テクノロジーと街との共生に関しては、どんなアイデアと言いますか、どうなればいいなと思っていらっしゃいますか?

小泉:今、エリアマネジメントという言葉が、我々のまちづくりの領域では、すごく注目されています。そのエリアをマネジメントするということですね。データなどさまざまな情報を活かして、そこから付加価値を生んで、エリアをマネジメントする。原資にする。そういったことを考え始めているんですね。

さまざまな顧客情報、または利用者の情報、店舗の情報などを活用できることによって、その地域の価値をより高め、付加価値の高いサービスを提供する。そういう都市の新しいサービスを生み出すようなものとして、テクノロジーをどう使えるのかを、今考えているんですよね。

ただ、そこで一番重要なポイントは、やっぱりテクノロジーの発展=人の幸せではない。やはり生物として人が暮らしていく中で、渋谷で暮らす中で幸せになるようなテクノロジーのあり方について、そのベースのところを考えていかなければいけないんじゃないかなと思いますけどね。

浜田:そうですね。今、テクノロジーと幸せの間をなかなか埋められてないというお話がありましたが、むしろもっとテクノロジーによって社会課題を解決したほうがいい。「え、こんなサービスが必要なの?」というほうにばかり、テクノロジー競争が集中している部分もあるかな、と思っているんですけども。

そのあたりは小泉さん、例えば社会課題など、本当に困っているところにテクノロジーをどう組み合わせていけばいいのか。とくに行政が抱えている課題や、地域が抱えている課題に、うまくフィットする使い方はありますか?

小泉:具体的な使い方よりも、それをどうすれば社会課題や、地域にとって本当に必要なものに使えるか。大事なのはその仕組みづくりなんだと思うんですよね。

例えば、ヨーロッパではLiving Labという仕組みがあります。これは、住民や地域の企業、それから行政も参加して、みんなでデータや最新のテクノロジーを使って、新しい社会サービス、都市サービスをつくりあげるプロジェクトをやっています。

浜田:なるほど、住民参加でつくっているということですね。

小泉:そうです。その一番のポイントは、多様な主体が参加していることだと思うんですよね。多様な主体とは、住民も一枚岩ではなくて、いろいろな立場の人ですよね。ハンディキャップの人など、さまざまな立場の人たちがそこに参加しながら、自分たちのニーズをしっかり表明して伝えていく。そういう場があるからこそ、企業も意味のあるイノベーションを引き起こせる。

だから、そういう場づくりみたいなものがないとなかなか……人に役立つイノベーション、テクノロジーはなかなか生まれないのかな、と思いますけどね。

浜田:場づくりをするために、非常にテクノロジーが役に立つというか、ニーズを察知することもできる。

小泉:そういう面もありますけどね。

データ活用で区が抱える社会問題を解決していく

長谷部:あと、今の時点でも膨大な情報が区役所内にあります。それを整理整頓していくところにも、当然その力が必要です。その……企業で言えばマーケティングデータですけど、住民データだったり、生活動向みたいなデータだったりするものをどんどん蓄積されていけば、行政のサービスももっと最適化できると思います。

そうすると、今はいろいろなところに施設を持っていますけど、その位置も「ここが住民が多いから、こういう施設をここに持ってきましょう」といったことにもつながるんだと思うんです。

それをまた行政だけで抱えていると、本当に……「いいのか?」となってしまいます。

浜田:そうですね、データが活きないですよね。

長谷部:はい。そこを逆に企業が持っているデータと重ね合わせることで、先ほどお話しした消費動向など、そういったところまでつかめるようになる。例えば「スーパーマーケットをもっと増やしてほしい」という陳情が来たりするんですよ。でもそれは、区がやるもんじゃないと思っているんですけど。

なかなか難しいですけど、区の持っているいい場所があり、そこが「本当に最適なのか?」をデータで分析できたりする。「思いつきでここを出しているんじゃないよ」は、やはり大切だと思うんですね。

浜田:「スーパーマーケットをつくってほしい」は、1つは、もし高齢化している地域があり、買い物難民といった社会課題があるとわかれば、それは単に民間企業の進出を手助けするより(行政の方が)解決できたりします。そもそもそこにどんな社会課題があるかを把握するところが、必要なわけですよね。

長谷部:そうですね。もしかしたら宅配になり、本当に独居の人などがちゃんと安全に暮らしてるかを、ちょっとサポートしてあげることにつなげたり。そうすると、新しいサービスが生まれてきたりしますよね。

そうやってイノベーションが起きてくるのかなと思います。やはりどんどん社会課題をですね、確実なデータでしっかりと裏づけして解決していくことは、これから求められているんじゃないかなと思います。

浜田:はい、ありがとうございます。

行政の「縦割り問題」をいかに乗り越えるか

浜田:ちょっと次のキーワードにいきたいと思います。次は「これからの街の魅力をデザインする、Entertainment City Shibuya」。クリエイティブとエンターテイメントはどう違うのかと思うんですけども、ここを……今度は小泉さんにまずお話をうかがいたいです。

「街の魅力をデザインする」とは、そもそもどんな手法で、どんなことを考えていらっしゃるんでしょうか?

小泉:まちづくりのやり方というものが、最近すごく急速に変わってきています。(これまでは)機能を分けてつくってきたんですよね。

例えば、道路であれば、「車が走る空間」としてつくり、「車がいかに走りやすくするか」を追求してきた。それから、住む場所と働く場所をなるべく分けていた。住む場所は環境のよさを追求し、働く場所は働く場所としてだけの役割や機能を追求してきたんですね。

それを今、もう一度見直しています。例えば「住みながら働くようなライフスタイルのほうが人に合っているんじゃないか」「そうすると、そこの価値がより高まるんじゃないか」「魅力的になるんじゃないか」という話があります。

ここに今出ているスライドも、そういう発想です。例えば道路というものが、最初は確かに車が通るためにつくったんだけれども、周りにお店があったり、豊かなオープンスペースがあったりすると、もっと人が集まる場所として道路を見直すことができる。

そうやって街にある魅力的な場所を、こう……なんだろう、もともと考えられた役割だけではなくてさまざまな可能性を検討し、新しい場の使い方を考え直していく。そうすることで街の魅力がどんどん場所に合ったかたちでつくられていく。これが、今の新しい魅力づくりの方法じゃないかと思います。

浜田:小泉さんは今、実際に渋谷区のまちづくりにも関わられています。その場合に大きなハードルになるのが、そもそも行政の仕組みが「道路は道路の課」「住宅は住宅の課」「労働は労働の課」など、縦割りになっているわけですね。

まちづくりをする際に、どうしても「えっ、それは隣の課でしょう?」となってしまって、トータルでデザインすることが難しくなっていると思うんです。「街のデザインをトータルでする」となると、行政の仕組みも少し変えるなど、発想を変えないと難しくないですか?

小泉:おっしゃるとおりだと思います。例えば従来の道路行政でいうと、まさに「交通渋滞をなくす」「それから交通事故をなくす」ももちろん大事なんです。しかし、ここにあるような「じゃあ、少し公園的な利用をしましょうよ」といった話になってくると、少し違うセクションとの協力がないといけない。

浜田:そうですよね。警察も道路使用許可がありますよね。

小泉:それから周辺の店舗との協力も必要になってくる。だから、行政内部での横をつなげたような取り組みもすごく重要です。さまざまな主体が協力して初めて、魅力的ある空間にできるわけですよね。そうすると、協力してくださる方をいかに見つけてきて、一緒につくりあげるのかが重要なポイントです。

行政の中でも「こういうものをつくろう」の素地ができてきた

小泉:まさに先ほどのお話にも通じるんですけれど、行政が直接なにかをつくって演じるのではなくて、みなさんが演じていただく舞台をいかに用意できるのか。それが行政だったり、行政に近い主体の役割になったりするんじゃないかと思いますけどね。

浜田:そうですね、プロデュースというか。

小泉:プロデュースですね。

浜田:プロデュース能力が問われる。

長谷部:でも、行政ももちろんいいところがあります。「これをやろう」と決められて思ったところは、とことん突っ込んでやってくれる。そのエネルギーをもちろん横の部署ともう少し……プロジェクトチーム型でこういうものを率先していけば、解決できるかなと思っています。

本来ならば、行政の中から「こういうものをつくろう」という意見がどんどん出ればいいんですけれども、「その素地がようやくできてきた」と僕は感じているので。

浜田:変わりつつはあるんですね。

長谷部:はい。ですので、この未来デザイン会議みたいなものを外出しにして、そこから触発されてくると、期待したいなと思います。たぶん……1年やそこらでいきなりガンと変わるのは難しいんで、徐々にモーフィングのように変わっていく。その速度をどうやって上げていくかが、これから問われています。

浜田:そうですね。

長谷部:こういうイメージは、みんな同じように持っていると思うんです。

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