2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:一般社団法人シェアリングエコノミー協会
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南:ありがとうございます。では同じような感じで、馬場さんにもAnycaの話を聞いてみたいんですが。
馬場:はい。
南:まず、車を貸すというといろいろな目的があると思うんですよね。本当に必要に応じて、ということもあれば、「あの車に乗ってみたい」かもしれないし。僕も、自分の持っている車を貸すのは若干勇気がいるな、と思いながら、それでも世の中には貸している人がたくさんいる。
どんな人が貸していて、どんな方が、どういう目的で借りているサービスなんですかね?
馬場:我々はドライバーさんとオーナーさんと呼んでいるんですけど、まずオーナーさんでいうと、維持費の削減にものすごく感度が高い方。
南:維持費の削減。
馬場:はい。車ってだいたい稼働率が5パーセントぐらいだと言われていまして、95パーセントも駐車場で眠っている。それはもったいないという金銭感覚がある方が出していただいているイメージですね。
南:なるほど。
馬場:ドライバーさんでいうと、今まだサービスが伸びている途中で、車と周りにいるドライバーさんの密度がそれほど高くないので、「少し遠くまで行ってもこの車に乗りたい」という方が多くて。いわゆる車好きの層が多いイメージですね。
南:私の周りでも、Anycaをけっこう使っているヘビーユーザーの方がちらほらいて。僕も、「Anyca使ってるんですか。どんな感じで借りてるんですか?」と聞いたら、「車は持ってないんだけど、奥さんと1泊旅行とか行くときに、ときにはオープンカーとか乗ってみたいじゃない?」とか。
その方は「ふだん使いよりもいい車をレンタカーよりも安く借りれるから、それが楽しい」なんておっしゃっていたんですけど。今の会話のなかにも、車好きの方が借りるんだというお話があったんですけど、一方で、貸す人は維持費だと。
なんとなく、維持費が重要だというと……「いい車を持っている人は金持ちだから、維持費を気にしないのかな」と今連想したときに、そこに微妙なギャップがあるように感じたんですけど、実際のところはどうなんですかね?
馬場:それはもう、めちゃくちゃなお金持ちな方はたぶん気にしないんですけど。例えば数千万とか、そういういわゆる社会的にハイエンドな方も、たぶん金銭感覚というか投資感覚というか、そのあたりの「もったいない」という感覚があると思うんですよね。
だから、高めの車もたくさん出していただいてるのは、なんとなくそれをもったいないから、維持費削減というよりは、何か動かしたいという職人の欲求というか。
南:でも持っている方も、別にすごく金持ちではないんだけど車好きというか、「所得からするとちょっとがんばっていい車を買って持ってます、うれしいです。ただ寝かしとくのはちょっとしんどいな」というなかで貸している。
馬場:そんなイメージが多いですね。ドライバーさん自体も、先ほどブランドバッグの所有の話もありましたけど、やはり所有への欲というのは、たぶんなくなっていないはずだと個人的には思っていまして。ただ実際に所有できないというステージが、車だとたくさんあるんですね。だから、ドライバーさん側はそこをうまく使っているのかな、と思いますね。
南:なるほどね。それでいくと、地域性って、たぶん想像するにまだ都心中心のサービスなのかなと思うんですけども。それでもどのエリアに住んでいる人が貸して、どのエリアの人が借りている、という傾向はあるんですか?
馬場:そうですね、まだ最初なので東京都心が多いです。港区とかですね。
南:どこまでが都心なんですか? 世田谷の人も貸すのか、港区の人なのか、みたいな。
馬場:今一番多いのは、渋谷エリアなんですよね。
南:渋谷エリア。
馬場:世田谷区もありますし、港区もあります。
南:借りる人もそうなんですか? 都心の人?
馬場:借りる人は、「ちょっと遠くに行ってでもこの車に乗ってみたい」というのが多いので、埼玉から都心に来たりということも多いですね。でもリピーターになっていくのは、やはり近くの車なので。
南:そうなると、やはりまだ本当に日常のため。例えば、「車なんか買わずに毎週末借りたらいいじゃない」というよりは、「何かのときにいい車乗りたいな」という需要のほうが今は大きいというイメージなんですかね?
馬場:サービス全体でいうとそうですね。やはり近くにたまたまいい車があって、すごく気軽に信頼関係もできて、というのがぽつぽつ生まれているので。それがいろいろな地域に出てきたら、サービス全体としてもそっち側に寄っていくのかなという感じですね。
南:僕もずっと外車に乗っていたのが、家族ができたりするとファミリーカーに変わっていくわけですよ。ときどき、「あの昔の運転感覚がほしいな」と思うときがあるんですけど。そうやって、車を持っていてもときには借りちゃう人もいそうですよね。
馬場:あります。私ももともと車を持っていたんですけど、Anycaで貸し出して、ついたリピーターさんに私の車をそのまま売ったんですよ。
南:売っちゃった。
馬場:その方に売っちゃったんです。その方がまたAnycaに出してくれているので、昔の愛車に乗りに行けるという(笑)。
(会場笑)
馬場:カーライフを楽しもうっていう。
南:おもしろいですね、それ美しいですよね。
先ほどの児玉さんと同じ質問をしたいんですけど、カーシェアは別にAnycaが日本最初ではないと思うし、過去にもあった。でもすごく普及したサービスがあったかと言えばまだない、というなかで、社内で誰かの企画が上がってきてやることになったと思うんですけど。
先ほどと同じようにできない理由、うまくいかない理由をぶつけられることはわりとたくさんあったんじゃないかと思います。どんな声が多くて、そこに対して「これだからいけるんだ」とスタートした。一番見えていた、期待していた真実みたいなものはどんなところにあったんですかね?
馬場:言われたのは、もうみなさん思われていると思うんですけど、トラブルがこわい。あとは事故がこわい。それから受け渡しが面倒。だいたいこの3つなんですよね。それをいろいろな技術や法律、保険などでつぶしていったときに、最後に残るのが「なんとなくこわい」という一番こわいやつが最終的に残る。基本的にみなさんそこで、なんとなくこわいのでやめられるのが多いんです。
「なんとなくこわい」は、たぶんサービスが成長して大きくなったAirbnbもそうだと思うんですけど、大きくなったら突破できるんじゃないか、と思います。だから最初にあげた3つを、ちゃんとテクノロジーを使ってつぶせば圧倒的に勝てるんじゃないかと思って進めている感じですね。
南:なるほど。ロジカルに、例えば「節約できるよ」「いざとなったら保険があるよ」だとか。そういったものをきちっと積み上げていけばいけるんじゃないか、と。
馬場:そうですね。まずここを2、3年ずっと積み上げつつやってきているという感じですね。
南:逆に、やっていて難しいなと思うことは何がありますか? 「ここの壁を越えてかなきゃいけない」ということ。
馬場:そうですね。さっきの空気感のところがどうしても突破できていないので(笑)。「なんかこわい」が大きくなる前に耐えておくという我々の持久力勝負にならないために、何かしら突破したいんですけども。
例えば保険も、レンタカーさんとまったく同じ保険をつけたとしても、やはり少しこわいんですよ。だからそういったところで、プラスアルファの何かしらを打ち出していかなければいけないし、トラブル解決もそうです。既存のものプラスアルファという個人間ならではのものを発明しなければいけないのは、壁というか、我々のミッションではありますね。
南:なるほど。その流れでそのまま馬場さんに質問して、そのあと児玉さんにも聞いてみたいんですけど。海外と日本の違いという視点で少し聞いてみたいなと思います。このあといろいろな、海外のシェアサービスの方のご登壇もあるので。
日本ならではのところ、真実なのか幻想なのかも含めて、例えば車にせよかばんにせよ、車だったら海外に行けば道具だけど、日本だと……なんですかね、嗜好品だったりステータスだったり、そういう志向が強いんじゃないか、とかですね。
よく昔から言われていることがあると思うんですけど、何かそういうことに対して、海外での車に対する考えと日本人の車に対する考えの違いから、何か思うこと。あるいはそこをベースとしたサービスの組み立て方や工夫って何かあったりしますか?
馬場:3ヶ月くらい前に、インドのカーシェアスタートアップの方とお話をしたんですけども。インドのカーシェアスタートアップで、車の登録台数はAnycaと同じぐらいなんですけども、流通がもう3倍ぐらいある。めちゃくちゃ使われているんですね。
それはなぜかといろいろ話を聞いていくと、そもそも車を持っている人が少なかったり、レンタカーだったりBtoCカー社というものが少なかったり。あとはレンタカーを借りるにしても、日本のレンタカーっぽいものではなくて運転手さんつきで借りて、運転手付きのレンタカーがあるとか。
そういう、そもそも車に乗るということ自体に需要がある国だから伸びるんですけど。日本でいうと、もう6,000万台も車を持っていると言われて、ほぼほぼみなさん持っている。そのなかで、やはり嗜好品だとかオプションがついているだとか、乗るだけでは需要を生み出せないので、プラスアルファの価値を生むために、いろいろな車に乗ってみたいだとか、あと人との繋がりやコミュニティというところに特化して、今日本ではやっているという感じですね。
南:コミュニティ?
馬場:コミュニティで作っていますね。
南:コミュニティを作るというのはどういう意味なんですか?
馬場:コミュニティは、例えばスポーツカーの集まりって昔からずっとあったはずなんですよ。ただそれは地域制があったり、あまり繋がらなかったような人がいるんですけども。実際にシェアして乗ってみて、ドライバーさんとオーナーさんが仲良くなって、それに似たような車を持っているオーナーさんがまた繋がって、シェアをどんどん広げていくというコミュニティがぼんぼんできていまして。
我々もアプリの仕様などを決めるときに、「こういう仕様を作ろうと思ってるんですけどどうですか?」とそのコミュニティに投げてみたりとか。
あとはやはり安心、安全というところがAnycaの運営から「安心だよ、便利だよ」と言うよりは、コミュニティ全体で一般のユーザー様から発信していただいたほうが、信ぴょう性がものすごい高いんですね。同じことを言っているんですけれども。
そういった意味でやはり、好きなもので集まっていて、価値を理解していただいて発信していくというコミットを作るために、毎月飲み会をやったりイベントをやったりしていますね。
南:なるほど、けっこう地道な。
馬場:めちゃくちゃ地道にやっていますね。
南:おもしろいですね。その流れでもう少しだけ聞きたいんですけど、CtoC型、個人間の貸し借りのサービスって、世の中的には立ち上げが非常に難しいと言われていると思うんですね。BtoCであれば、自分たちで片方は押さえてしいまっているので、あとはお客さんをとにかく引っ張ってくればいいと。お金の力でいけてしまう。
とくにディー・エヌ・エーさんなんて、予算はベンチャーと違ってあるほうだとは思うので、お金の力で伸ばそうと思ったらやれるタイプだと思うんですけど。CtoCだと、必ずしもお金の力だけだと両サイド持っていくのはけっこう難しいんじゃないかなと思います。
そのあたり、例えば今のコミュニティの話はマーケティングの1つ、ソリューションとして発見されたのかもしれないですけど。どんな期待があって、どんな失敗があって、どういう変遷があった、ということをお聞かせいただけますか?
馬場:マーケティングの話なんですけど。リリース直後は本当に広告をけっこう打っていました。広告で集めていろいろなユーザーさんでシェアしていただくかたちにしていたんですけど、やはりCtoCのサービスは理解がしにくいもので、ふらっと入ってきてしまって、ふらっとレンタカー感覚で使って、少し理解が浅いのでトラブルになりがちという傾向が出てしまったんですね。
南:トラブルになりがち?
馬場:なりがちだったり、トラブルまでは言わないんですけれども、CtoCで気を遣って使っていただきたいところを、本当に何のやり取りもなくぱっと借りるとか、そういうことが出てきてしまっていて。まだこのAnycaを育てている間に、そういうシェアが増えていくのはよろしくないなというので、広告をバシッと止めて、いわゆる口コミ型に変えましたね。
そうなってくると、本社が渋谷のヒカリエにあるんですけど、そこで毎週説明会やイベントをやったりして、そこからじわじわ広げていくとやはり理解度も高いですし、「Anycaってこういう使い方だよね」「CtoCカーシェアってこういうものだよね」ということを理解していただいて、使っていただいて、その方から広がっていくので。
レビューなどがすごく高いものが増えてきたり、オーナーさんの満足度もNPSでとっているんですけど、いい感じに伸びてきているということもあったので。広告をバシッとやるよりは、徐々にそっち(口コミ型)に広げるように切り替えたのはありますね。
南:このあたりはすごいおもしろいですね。シェアリングは2つの側面があると思っていて。経済的な価値があるというところと、一方でエモーショナルな部分で言ったときに、「人と繋がれるんだ」みたいな両面があるのがシェアリングのおもしろいところだと思います。
とはいっても日本の場合、繋がれるよりは経済的なメリットのほうが大きいという話があるんだと思うんですよね。でも、やはり最初に使う人たちは実は、そういうそっち側(エモーショナルな部分)のベネフィットを持ってる人を捕まえないとうまく立ち上がらないのかなというところで、やはりシェアの本質はそこにあるはあるんだなということが、今の話から少しうかがえたなと思います。
南:では、また前の質問に戻って、今度また児玉さんにお聞きしたいと思います。1つ前の質問ですね。日本と海外の違い。あるいはこのバッグの意味合い、あるいは中古品、新品の違いというところでなにか発見したことなり、教えていただければと思います。
児玉:画面って出せますかね? (スライドを指して)これ、マンハッタンにありましたよという話なんですけど、実はFacebook広告を使ったんですよね。そしたら、もうすごいディスられるんですよ。とにかく「こんなばかなサービスはない」と。むちゃくちゃ書くんですよ。本当に、めちゃめちゃに。
南:「stupid idea」って書いてますね(笑)。
児玉:でも、この人コンバージョンしてますからね。
南:え!? この人、使ったんですか?
児玉:うん、この人たちって、裏側でちゃんとコンバージョンしてるんですよね。登録しているんですよ。だから、やはり同じだなと思って。
南:(笑)。(スライドを見ながら)すごいですね。
児玉:すごいでしょ? めちゃくちゃなの、本当に。
南:ひどいですね。
児玉:ひどい。だけど、例えば再生があったり、シェアが60、70何件とか、すごいんですよね。
南:反応はものすごいあったわけですね。
児玉:それで、あまりに反応があったので1週間でとめたんですよ。ありがとうございました、(画面を)もとに戻してください。
というのがあったので、やはり海外でも同じようにあるんだろうな、と。それで、もう1つ、やはり海外でもブランドバッグをやろうとする人たちが、やはり我々のあとに出てきたらしいんですよね。
だけど、やはりなぜ日本人の私たちがやらないといけないのかという理由なんですけど。中古のバッグを買い取る仕組みというのが実は日本にしかなくて。
南:そうなんですか。
児玉:そうなんですよ。アメリカになくて、それを買い取りますというテレビCMを流して、30億円ぐらい突っ込んでつぶれていったベンチャーがいくつもあります。
南:そうなんですね。例えばeBayみたいなもので中古品を売買するようなサービスはあるんですか? そこもやはり弱いんですか?
児玉:あるんですけど、eBayはもう1つトラブルがあって。彼らは返品OKらしいんですよ。何が言いたいかというと、すり替えられるんですよね。日本の事業者も向こうに行っているんですけど、すり替えられて返ってくることが、よくあるみたいで。
なかなか、真贋の部分が非常に難しいというのがある。だからアメリカのリユースの一番の方がたぶん日本にきて、日本の我々と同じオークションで買っているんですよね。ドバイからも来ているし、日本に全世界から集まって日本から物を買って、持って出ているという。
アメリカのベンチャーって本当に2秒で10億円集まる世界じゃないですか。お金をガンガン集めてやるんだけど、ぜんぶダメなので、我々日本人が行く死角があると私は思っています。
南:これおもしろいですね。今おっしゃっているのは、彼らは中古を売る文化がもともとなかった。あるいは買い取る文化がなかった。その文化のなかでもレンタルはなじむはずだと思っているということなんですか?
児玉:そう、レンタルはあるんですよね。
南:レンタルはいけるんだと。
児玉:アメリカでは普通の事業ではかばんの調達ができないという。あ、話を少し遡ると、うちも実はN対Nのビジネス、CtoCじゃないですか。そういう両輪ビジネスは非常に難しいので、難易度を下げるためにはじめ、BtoCにしたんですね。我々はワンセットで。
南:なるほど。
児玉:難易度を下げるために。
南:まさに次の質問の答えが1つそれだということなんですかね。要は「CtoCってけっこう難しいよね」と。いきなり貸し借りするのが難しいなかで、ラクサスさんの工夫としては、まずは最初に自分たちが在庫を持って、借りる人たちを増やし、そこからじわじわと貸す人をそこに乗せていったと。
児玉:その通りです。なので、その最初の立ち上げるところが、アメリカの事業者にはできないんですよ。物の調達ができないから。
南:調達できないっておもしろいですね。なんだかんだでやはりそういうブランドバッグの購入意欲って、昔は日本がそういうのを席巻していたって言いますけど、最近はそうでもないのかなと思っていたんですが。
とはいえ、やはり日本人の高級バッグの所有欲や所有率みたいなものは、アメリカなどに比べるとだいぶ高いということなんですか?
児玉:どちらかというと、質屋がアメリカはあまりないんですよね。
南:単純に持っている率ではなくて、そういう流通。
児玉:そう。ぐるぐるする仕組み自体。でも本当にアメリカって、教会の前に置いておくじゃないですか。あげるというか。それを好きな人が取りに行って、もらうというのがあったので。日本のブランドバッグを換金するという概念は、質屋から生まれているんだと思うんですよね。
南:なぜそれが成り立つんですかね? 文化だと言ってしまえばそれまでなんですけど、中古を売る、買い取るというものの、肝。文化的背景って何かあるんですかね?
児玉:やはり、家が狭いじゃないですか。邪魔なんだと思うんですよね(笑)。
南:(笑)。
児玉:使っていないものがあるので、私たちがしないといけないのは、満腹感をどうやってもう1回飢餓にもっていくか、というところがあって。もうお腹いっぱいなんですよ。
でもみなさんもう十分持っているじゃないですか。だからこれ以上買わなくていいんだけど、一応ここにあるもの全部シェアして借りることができる。先ほどおっしゃった通り、やはり高すぎて買えないんですよね。
南:日本人って、別にバッグというよりは、世の中全般的に新品への信奉というか、新品志向がすごく強いイメージがあって。海外だったら、「道具だから汚かろうがなんだろうがいいんだよね」ということがあるなかで、日本人はとにかく新品を買ってきれいに扱うことにこだわるイメージがあるんですけど。
そういう国民性みたいなものを感じることがあるのかと、それがビジネスになんらかの影響があるのかが気になっているんですけど、どうなんですかね?
児玉:それはジャンプしちゃうんですよね。
南:ジャンプ?
児玉:イメージとしては、あまりにメリットがありすぎると、そのあたりのことが見えなくなってしまって。例えば10万円で中古を買うのと、15万円で新品を買うのって悩むんですよね。例えば、お金がものすごく低かったら、6,800円だったら、もうそのへんの概念もいいやということになるというか。
南:これだけ安いんだったら新品を持つのとまったく違う概念、月々6,800円でいいかばんを持てるんだったらもうそれで最高だ、と。
児玉:というふうに、もうスキップしている。
南:なるほど、おもしろいな。ブランド品って偽物リスクがあるじゃないですか? そのあたりについては、どう捉えているんですか?
児玉:うちは31人ほど鑑定士がいるんですよ。それで、(貸出用の)バッグはすごいくるんですけど、やはり一定量偽物はあるんですよ。
南:何割ぐらい偽物があるんですか?
児玉:それがですね、1割はありますね。
南:1割。
児玉:すごく本物の素晴らしいかばんを5個送ってきたうちの1個が偽物とかね。そういうのはあるんですよね。まあそれも、完璧に見抜くので。最近AIとかで見抜くのはあるんですけどね。そういうものではなくて。
南:AI。
児玉:機械をピッと当てたら偽物か本物か真贋を判断するようなもの。ある記事によると、2年間ずっと偽物だと言われていたものが、ピッてやったら本物と判定されて、20万の価値になったんですって。なんか「機械のほうが間違ってんじゃねえの?」って(笑)。
(一同笑)
南:おもしろいですね。お2人のなかで、ビジネスを立ち上げてみて「予想通りだったな」というものと、「こんなことって起きるんだ」という予想外だったものでいくと、何かおもしろいエピソードってあったりします?
児玉:逆に、南さんとかどうです?
南:予想通りと予想外ですか? 予想通りの話と、最初にあった僕らだけが見えていた真実の話でいくと、今でこそココナラって値段も自由になっているんですけど、立ち上げのときは500円均一でやっていたんですよね。
500円均一だから立ち上がったと思っていて、いい判断だったと思っているんですけど。結果として500円均一で立ち上がりました。そのアイデアを最初に、投資家の人やら起業家の人にプレゼンしたときに、みんなが言うんですよね。あるいは今もみんな言うのが「500円は安い」と。「そんな値段で売るやつがいるのか?」とものすごく言われたんです。
「そんな安い値段で売るやつがどれだけいるんだ?」と。ここは僕ら創業メンバーが、まったく逆の発想を持っていて。500円だろうがタダだろうが自分のスキルを売る連中はいくらでも無尽蔵にいる、と。500円なんて高い値段を払ってくれる人がいるんだろうか、というのがイチかバチかだったんです。正直これは自信がなかったんです。
知らない人にものを頼むのに500円、人は払うんだろうか? もう提供者はいくらでもいると思ったので、最初は500円とも決めていなかったんです。300円、500円にするか、値段も自由にするか決めていなかったなかで、安い値段でやろうとだけは決めていたんですけど。
スキルを提供する人はいくらでもいる。でも、どうやったら買ってくれるのか、こんなに高い値段を出せるのかということは自信がなかったので、「どうやったら買えるだろう?」と必死に考えました。値段が物じゃなくてサービスだと、買ってみるまでクオリティがわからないから、値段が300円と1,000円みたいにばらけていたら、もうその瞬間に比較できない。
「絶対に一律プライスじゃないと、まず最初の交流が起きないんだ」ということをものすごく考えることに繋がっていって、結果としてうまく買ってもらえるようになったということがあります。
馬場:スキルの種類は、最初から狙った通りなんですか?
南:スキルの種類ですか。いくらかは狙ったところがまずあります。領域のところの話と、売れる仕組みを作った話という2つの話があって。領域の話でいくと、まず無尽蔵に提供者がいる領域は、最低限抑えておこうと思ったんですね。
無尽蔵に提供者がいるだろうと思った当時の仮説が、似顔絵を描く人、占いをする人、声優さん、就職活動のアドバイスだったんです。2つ当たって2つこけたんですけど、何かと言ったら、似顔絵を描く、あるいは漫画を描くような人って、漫画家のアシスタントなんて1日3,000円とかでやっているんですよね。
彼らのなかでは、絵がうまいということは1ミリも価値がなくて、いいストーリーを考えついたら売れるという世界なので。それで、日給3,000円でアシスタントをやっています、と。要は僕らは「憧れ産業」と言っていたんですけど、漫画家になりたい、声優になりたい、占い師になりたいと憧れていて、なりたいけどもなれない。実力だけではセミプロみたいな人が死ぬほどいる。
この人たちは、自分のスキルがたった50円だろうがなんだろうが、売れたら最高に幸せだろう、という。ここはまず確保しておこうということでまず1つ用意しました。
あとは、やはり知らない人からサービスを買うって、行為としてむちゃくちゃ難しいなと。サービスを売るのが本当に難しいのは、クオリティが見えない。買ってみるまでその人のレベルが見えないということが本当に難しかったので、僕らが何を考えたかというと、500円という、値段をものすごく下げましたということが1つなんですけど。
ブランディングとして「小遣いを稼げます」ということは禁句中の禁句にしたんですね。とにかく立ち上げのときに言っていたのは「人の役に立とう」と。もうそれだけを言っていました。そうすると、それに共感した人がくるわけですよ。
「500円なんて儲からないのはわかってるんだけど、人の役に立ちたいからやってるんだよ」と。そんなところに「儲けましょう」と書いてあったら、優秀な人たちは絶対登録したくないわけですよ。
「まず人の役に立ちたいんだよね」と言い訳できるような感じで、優秀な人が集まってきます。そうするとどうなるかというと、その人は、自分の高いクオリティのものを安く売っているという感覚は持っているわけです。役に立とうと言っているから、「ほかの人もそうだろう」と思うんですよね。
だから最初に何が起きるかといったら、出品してる人同士で買い合うんです。それで、当然、両方クオリティがむちゃくちゃ高いんです。むちゃくちゃ高い、すごく満足する、レビューもいいこと書く、「500円でこんなことやってもらったよ!」と口コミが広がる。それで、知らない人からスキルを買うという前代未聞のものの最初のひと転がしが、500円均一にしたことと、人の役に立とうというブランディングでまわりはじめた。
あとはじわじわと広がって。やはりコミュニティのレベルって、下がることはあっても上がることはないわけですよ。だから最初にいいコミュニティの人たちがよく使って、いい口コミを広げるのが、こういうシェア系のものはすごく重要だなと思っているので。そのあたりがすごくうまくいったから立ち上がりました。
野口:先ほど、実利的な部分よりもエモーショナルな部分が重要だとおっしゃっていたじゃないですか。確かにそうで、例えばアメリカだと、環境意識の話というのがすごくパーセンテージが上がっているんです。今、エモーショナルな部分という意味では、まさに人の役に立とうというところを訴えられていますよね?
南:そうですね。
野口:そうすると、やはりそういうところは、リピート率なりシェアなりに直接的にインパクトがあるということをまさに実証された。
南:そうですね。僕らは売る側も買う側も、立ち上げる前にものすごくインタビューして調査したりしたんですけど、そこでわかったのが、何かを買うときはファンクショナルなベネフィットと、エモーショナルなベネフィット、両方揃って人ははじめて動くということが真実だと思ったので。
例えば、相談する側の立場になってみても、ソリューションがもらえるのはファンクショナルなベネフィットなんだけど、エモーショナルなベネフィットは何かと言ったら、「このクラスの人が自分のためにこんな親身になってくれた」みたいな。
この“親身になってくれた感”をどう演出するかとか、やはりCtoCなのでそういうエモーショナルなところもセットで用意してあげないと、なかなか立ち上がらないかなということは、すごく考えていましたね。
野口:今日は本当に、事業者の方がいっしょだからすごく聞きたいことがたくさんあったんですけど、一番聞きたかったのが、僕も本を書いていて、だいたい経済状況の変化、シェアリングエコノミーの背景、テクノロジーの進化とか、そういうものがいろいろあるじゃないですか。
でもなにかもっと大事なことがあるんじゃないかなとずっと思っていたんですよ。それで、成功しているところは、僕が本に当たり前のように書くような話ではなくて、もっと違うことがあるんじゃないかと思っていたんですけど。
今日は1つ、やはり感情というかエモーショナルな部分に対してやるということが、まさにシェアサービスの次の展望のなかではすごく重要だということがわかりましたね。
南:そうですね。ファンクショナル、エモーショナルがあって、たぶんもう1つ言うと、その先にどんなセルフイメージがあるんだろうというところまで捉えられると、ユーザーサービスはうまくいくと思っていて。
それこそ先ほどお2人にも聞いたのかな。やはり借りるというのが恥ずかしいことなのか。「恥ずかしいから言わない」なのか、「うまくやってる自分っていいよね」なのか。そこでどういう感情を持つかを見誤るとサービスの設計って間違えるんですよね。
だから、ベネフィットが何であって、「使っている自分のセルフイメージってプラスなの? マイナスなの?」で設計が変わるんですよ。これがマイナスだったら、絶対に口コミは起きないんです。
例えば、先ほどココナラも使った人の口コミがあったと言いましたけど、本質的には「ココナラって誰の口コミで伸びてるの?」と言ったら出品者なんです。出している人は「自分のサービス買って」と言うんですけど、相談している人は、悩みを相談していることはあまり言いたくないし、誰かのおかげで実はうまくやれたんだということは、こっそりととっておきたいんですよね。
なので、買った人の口コミよりは、やはり売っている人の口コミのほうが本質的には多いんです。本質的には多いんだけど、一番最初はそれで転がしたというだけの話なんですが。
あとはシェアリングエコノミー全体で言えば、昔と違って今はシェアそのものがポジティブになってきているというのが、実はシェアエコの本質なのかなと思いますね。
ありがとうございます。ということで、最後にひと言ずつ今後の意気込みなどをいただいて終わりにしたいなと思います。馬場さんからお願いしていいですかね。
馬場:シェアリングエコノミーの大きいところも狙っていきたいんですけど、まずAnycaで車という大事なものを扱っているので、本当に信頼できる方たちでシェアする仕組みを作って、それをガツンと大きく拡大していきたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。今日はありがとうございました。
南:ありがとうございます。児玉さんお願いします。
児玉:ラクサスはやはり、もう海外ですね。扱っているもの自体がもともとグローバルなものなので、スムーズに、しかも早く海外展開していきたいと考えています。よろしくお願いします。
南:ありがとうございました。では、野口さんお願いします。
野口:今日は本当にいろいろなお話を聞かせていただいて非常に勉強になりました。間違いなく、世代などの移り変わりによって「共有」が受け入れられやすくなってきていると思うんですよね。だから、今はまだスタートしたばかりだと思いますけど、これからまさに日本経済を牽引するようなかたちでみなさんがんばっていただいて、私も一緒にがんばりたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
南:ありがとうございました。私自身も事業者として、非常に勉強になるセッションで、楽しめました。みなさんにも、少しでも有意義な情報がいくつかでも残ったら大変うれしいなと思います。
ということで、このセッションを終わりたいと思います。どうもありがとうございました!
(会場拍手)
一般社団法人シェアリングエコノミー協会
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