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【直前対談】ソフトバンク宮内謙×JSR小柴満信(全2記事)

2017.12.07

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ソフトバンク宮内社長「思考を切り替えなければ破壊される」 これからの時代に立ち向かう既存事業の生存戦略

提供:SEMIジャパン

IoTやAIの進化が起こすゲームチェンジで、人間の働き方も大きく変わるのか? 前回に引き続き、SEMIが主催する世界を代表するエレクトロニクス製造サプライチェーンの国際展示会「SEMICON Japan 2017 / WORLD OF IOT」に登壇する、ソフトバンク 代表取締役社長 兼 CEOの宮内謙氏とJSR 代表取締役社長の小柴満信氏による対談。イノベーティブな時代に最先端を走り続ける両者は「AIに仕事を奪われる論」をどう考えているのか。また、エレクトロニクス産業がターニングポイントを迎えている今だからこそスタートアップとどのように手を組むべきなのか。日本のテクノロジーをさらに進化させるためのヒントを語り合いました。

「AIに仕事奪われる論」をどう考えているのか

ーーAIやロボットの話題になると、やはり働き方に関する変化が取りざたされますよね。「人間は働かなくてよくなって、ベーシックインカムで暮らすようになる」とか、逆に「仕事を奪われてしまう」といったネガティブなイメージがあったりとか。

宮内謙氏(以下、宮内):働くって、実は一番楽しいことなんですよね。時間でいうと拘束される・されないというものがありますが、そもそも「働く」自体は自己表現することでもあるじゃないですか。

僕は今、ソフトバンクの社内で一生懸命にやっている働き方改革があり、そのスローガンが「Smart&Fun!」なんです。

小柴満信氏(以下、小柴):Smart&Fun!

宮内:これはITを徹底的に駆使して、繰り返し作業のようなルーティンなものをすべてコンピュータに置き換える。そして自由な時間をいっぱい作って、もっとクリエイティブ・ワーキングしようというものです。

今年4月からスーパーフレックスも導入して、残業などの縛りをなくし自由に仕事ができる状況をつくろうとしています。まだ完全ではないですが。そういったことを可能にするのは、本当にAIの力、データの力です。

それこそ、今はWatsonならびに独自のAIをいっぱい使っています。AIを使って1,000時間かかっていた仕事を10分の1にしたり、20分の1にしたりできる。

最近、RPAというロボティックスプロセス・オートメーションがありますよね。このソフトウェアを使って、社内で400プロジェクトくらい動かして無駄な仕事を大幅に減らしています。そうすると、Googleさんが昔からやっていますが、自分の働く時間の1割を新規プロジェクトや考える時間に充てることができる。これは本当にいいんじゃないかと僕は思うんですよね。

AIの進化は、化学産業の「働き方改革」につながる

小柴:僕らの場合、設備を多く持っていることもあって、クラシックな部分と新しい部分を組み合わせる必要があります。これがなかなか難しいんですよね。化学産業は最新企業に比べると、やはり制限が多いんですよね。

ただ、我々も働き方改革についてはいろいろ始めています。そもそも働き方改革は手段であり、ゴールじゃない。例えば、僕らにとってコンビナートという運命共同体があります。原油から石油が精製されてクラッキングされ、いろいろな原料に分解されていく。そこにはいろいろな企業が関係しています。これをコンビナートと呼んでいます。

そういったなかで、国際競争力をどう磨いていくのか。いろいろな手法がありますが、僕らが生産でやろうとしているのは、工場をIoT化し、予防保全から予知保全へ変えることです。

現状では予防保全として、1〜2年に1度工場を止めて1ヶ月くらいかけて点検しているんですよ。そして、点検が終わればまた立ち上げるという。日本の化学産業の稼働率は相当低いですが、やはり事故が起こらない環境を徹底すべく、予知保全で根本的に解消していく。それが1つ。

もう1つは、やはり研究開発企業なので、だいたい研究プロジェクトが3年間くらい続くんです。その期間を10分の1、100分の1くらいにしようとしている。それをやるためには、量子コンピューティングと機械学習を含めたAIをいかに取り入れていくか。これを真剣にやっているところですね。

これがあれば、例えば研究の成功率が1,000に3つ……0.3パーセントと言われているんですが、それを0.6パーセントまで上げるだけでも生活が変わる。1パーセントを超えたら、もっと変わりますよね。

宮内:変わりますね。

「働き方改革」だけでなく開発費削減にも

小柴:今、薬の世界では1つの新薬を開発するのに3,000〜5,000億円かけていると言われています。でも成功確率は0.01パーセントとか0.02パーセントなんですよ。

宮内:すごく試行錯誤した結果ですよね?

小柴:そうですね。あとはやはりフェーズ1やフェーズ2、フェーズ3と臨床をやっていくうちにいろいろな問題が出てきたりします。そういった開発の成功確率を0.01パーセントから0.02パーセントにするだけでも、3,000億円の開発費が1,500億円になるんです。

宮内:本当に製造工程や研究開発の部分にテクノロジーを使えば、僕は爆発的に改善できると思いますね。

研究開発の場には優秀な人がたくさん集まってテストしながら研究を進めていますが、その情報をもっとオープンに見える化する。そしてまさにオープンイノベーションができるようになったらすごいことになるんじゃないですか?

小柴:生化学の分野って、ドクターやマスターがピペットで研究を進めていたりするんです。ドラマなどの研究シーンでよく見る風景ですね。そこにロボットを入れようとする。

宮内:ロボットを使ったら、抜群ですよね。

小柴:生化学の分野だと、DNA解析などがあります。ここにAIやロボットを入れることで、スループットと成功率を上げる。そうすると、自然に働き方が変わるかなと思うんです。そういったところに踏み込んでいかないといけない。でも、単純ではないので。地道に、5〜6年ペースで今考えてやっていますね。

宮内:なるほど。

小柴:既存産業と僕らは一蓮托生ですからね。化学産業は1社が変わるだけではダメなんです。先ほども言いましたが、すべてコンビナートのようにつながっているんですよ。

思考を切り替えればチャンスがある

宮内:この間、IBMさんとWatsonのセミナーを日本でやったんです。その中でいつも話しているのが、新しいテクノロジーはどちらかというと情報システムという世界の名の下にありました。だから、OAであったり、工場のなにかであったり、そういったコスト・リダクションのためのシステム、というイメージが強かったんです。

でもこれからは成長戦略の1つとして、今話しているようなことを真剣に考えるべきときが来ていると思いますよね。その典型例が、アマゾンだと思います。本から始まったEC(イーコマース)が、スマートフォンによって爆発し、たくさんの商品ジャンルへ拡大しました。その結果、アメリカのショッピングモールやスーパー、百貨店が厳しい状況になりました。

新しいICTのテクノロジーを駆使して既存事業を再定義していく中に、成長のビジネスチャンスが生まれます。もし思考を切り替え、成長戦略を描ききれなかったら、新しいディスラプターが現れ、そして既存事業は破壊されてしまうんですよね。

そういう意味では、むしろICTの進化はチャンスだと思います。既存の事業ラインに新しいICTの力を利用する。そうすると、製造メーカーは事業体として「モノを売る」ではなく「サービスを売る」という世界になっていきます。

車を売るのではなく「サービスそのもの」を売る。そういった時代が来るんじゃないかなと思います。

小柴:サブスクリプションモデルというんですかね。

宮内:僕らが携帯電話でやっているようなモデルですよね。「月々いくらで、いろんなサービスが受けられる」みたいな。

小柴:今だと3Dプリンティングがそうなってきていますよね。その背景になにがあるかというと、元Teslaのエンジニアが開発したりしているんです。

だから、本当に今はモノに価値があるわけではなく、それを提供するファンクションを通じてモノを提供していく。僕らのモノづくりはそうやって変わってきているんですよね。

今こそスタートアップのテクノロジーを取り入れていく時なのに?

ーーソフトバンクさんがARMのような会社を買収されたことは、けっこう大きな影響力があるように思っているのですが。小柴さんはそのあたりどう感じられていますか?

小柴:そうですね、ARMに限りませんよね。

僕は先日のSoftBank Worldに参加させていただいていて、その後のイベントで孫正義さんの話を聞く機会があったんです。やはり地球規模でのビジネスというか、全体を俯瞰している会社だなという感じがしましたね。

どう考えてもコンピュータだけで走っていてはダメですよね。通信も見ないといけない。そうすると、そこで省電力の、IoT化に必要な技術を持っていることが強みになる。そういったカタチで、僕からみるとARMというより、全体観にすごくそそられていますね。

宮内:ありがとうございます、褒めていただいて(笑)。

ーーARM以外にも、ソフトバンクさんはいろんな企業・スタートアップに投資したり買収したりされてますよね。大企業がやらないような領域の研究開発は、自社でやるよりスタートアップと提携したり買収したりしたほうが早い、ということなのかと思うのですが。

宮内:それはものすごく重要なことだと思いますよ。FacebookにしろGoogleにしろ、すべて自分で開発したかというと違います。Googleで言うと、最初の検索エンジンくらいじゃないですか。あとはYouTubeなどスタートアップをバンバンと買収しています。FacebookもInstagramを買収したり。そうやってテクノロジーを買って、取り入れていく。

小柴:そうですね。

宮内:日本企業に僕がサジェスチョンしたいのは……マイナス金利みたいな世界なんだから(笑)。

小柴:(笑)。

宮内:お金を借りたとしても、0.8パーセントや1パーセントなんですよ。1パーセントでインフレ率が1パーセントだったら、金利はゼロですよ。日本の企業はみんなキャッシュリッチでね……我が社を除いて(笑)。

(一同笑)

キャッシュリッチなのに使い道を持たず、ただじっとなにかしらのチャンスを待っている。そんなことをしていると、アメリカのアクティビストがやってきて「あなた、クビね」となる世界です。

「誰とやればドカンと大きくなれるのか」

宮内:先ほどもお話ししましたが、既存のトラディショナルな企業にとってチャンスなのは、そういった新しいテクノロジーで事業をしようとしている人とコンバインさせてハイブリッドした瞬間、新しい事業体ができることだと思うんです。だからこそ、世界中にアンテナを張ってやっていくときだと、僕は思う。

小柴:ファイナンシャルのインベスターがいるから、みんな価格が高くなっちゃうところもあるんですよね(笑)。

宮内:(笑)。

小柴:要するに僕らは投資リターンをとるのが目的ではないし、IPO目的で買うわけでもない。言われたように、ビジネスにして1つのクラスターをつくっていくのが目的じゃないですか。でも最近、投資ファンドとの競争もいっぱいあって。彼らは短期の目線でやっているから、強気に来るんですよ。

宮内:でも、ターゲットにした企業がJSRさんの事業とリンクさせてガツンといきたいと思ったら、変わると思いますよ。そういうの、あるんでしょう?

小柴:そうそう。

宮内:単に投資マネーをもらうよりもいいですよね。ソフトバンクの投資戦略は、ICTに絞り、かつ、本質的に事業シナジーを感じてくれて、そこから投資できているものが中心です。

小柴:そうですね。

宮内:我々は通信もやっているし、アメリカでも通信をやっています。それとリンクして、それこそOneWebや衛星通信、ライドシェアなどもそうです。もちろん「投資資金が必要だ」というベンチャーの気持ちもわかりますが、一方で「誰とやればドカンと大きくなれるのか」と考えるはずです。

短期投資ですぐイグジットを要求するようなPE的なベンチャーファンドより、本来は事業を持っている人の方に興味があるはずです。うちの強さはそこなんです。単なる投資ファンドではなく……投資ファンドであるけれど、事業も持っている。これは強みだと思っていますけどね。

小柴:僕はいろいろなところへそういう話をしに行っていて、そこにはほとんど孫正義さんが来ているんですよ。僕より前に。1ヶ所だけ、僕のほうが行くのが早かった時がありましたが(笑)。

宮内:行っている(笑)。

小柴:あれだけいろいろなところを回っていて、そういった話をしている。それはやはり(投資が)実るだろうなという感じがしていますね。みんな、やはりソフトバンクさんのような事業会社を選ぶんです。僕らも買収を進めたりしますが、蓋を開けてみるとファーストビッドじゃなかったりするんです。

ソフトウェアの世界からハードへの揺り戻しが来ている

宮内:半導体があるから、僕らの産業が成り立っているところもあります。iPhoneⅩ然りです。自動車もこれからどんどんオートノマスになっていく。あらゆるところにセンサーが入り、チップが入ります。それが重要なパワーになってくると思っています。そういう意味では、ますます発展してほしいと思っています。

ただ、やはりICTの動きが激しいわけですよね。これからは1社だけでなく、エコシステムやプラットフォームのようなものをつくっていかなければならないと思いますよね。

それこそSEMICONのような、そこでいろいろな方に会い、エコパートナー的に作っていく場は非常に重要になると思います。そして、世界中に新しいベンチャーたちがいっぱいいます。その成長に目を向けて、提携や買収などをやっていくメリットを感じてほしいと思いますね。

小柴:今年、World Economic Forumのダボスでおもしろいなと思ったのは、サイバーはこれからもいろいろある。IoTもAIもそうですが、キーとなるのはやはり「材料」と言われているんですね。

半導体だとフォトレジスト、自動車にとっては電池。ここは非常に重要なところなのですが、1つのキーはやはり2020年のショーケースですよね。IoTの世界、AIの世界、そして自動運転の世界。そういったところで次世代通信の規格がもうすぐできるんですよね。

宮内:2019年末でしたよね。

小柴:そうですね。そんな時にインフラが整っているところはないわけですよね。日本にはそれなりの電池メーカーも、高性能の電池材料を作るメーカーもいます。だからこそ、我々としてはそういったものを実現するために材料技術などを支援します。

東京って、世界的に見ても密度が高いんですよ。アメリカの友人がくると、みんなびっくりするんです。「東京は20分歩けばほとんどの社長に会えるんだな」と(笑)。

宮内:(笑)。

小柴:本当にありえないほどの集積なんです。これを利用して、先ほど言われていたエコシステムを作ればいいと僕は思うんです。

だからこそ、日本企業としてなにができるのかをもう一度見直す。そしてみんなで2019年から2020年に向けて、世界に先立って実現する。そこで僕らはフィジカルな、要するにリアルな世界のリアルなプロダクトでそれを実現する。そのベースをやりたいですね。

日本の材料産業は今、半導体でいうと65パーセントが日本企業のものなんです。それくらい強いわけですよ。その力を、やっぱり発揮したい。ソフトバンクさんもお客さまですし(笑)。

宮内:おっしゃるとおり、ソーラーパネルとバッテリーですね(笑)。

今、中東でもインドでもリニューアブル・エナジーが始まっています。だからこそ、根本的な部分となるバッテリーは絶対ですよね。だってこの先、車はすべてEVになるはずですから。

小柴:そうですね。

宮内:そういう意味ではすごいですよね、これから重要なのは半導体の世界です。

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