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【直前対談】ソフトバンク宮内謙×JSR小柴満信(全2記事)

2017.12.06

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AIやIoTはキャズムを超えるのか? ソフトバンク宮内社長×JSR小柴社長が語る半導体業界の曲がり角

提供:SEMIジャパン

GoogleHomeやAmazonEchoなどの登場で、これまで特定の業界内だけで盛り上がっていた「IoT」や「AI」の技術を用いたプロダクトが、いよいよ一般へ普及する兆しを見せています。そんな2017年を、エレクトロニクスの最先端を見つめ続けるキーマンらはどう見ているのでしょうか。世界を代表するエレクトロニクス製造サプライチェーンの国際展示会「SEMICON Japan 2017 / WORLD OF IOT」の開催に先駆けて行われた、ソフトバンク 代表取締役社長 兼 CEOの宮内謙氏とJSR代表取締役社長の小柴満信氏によるスペシャル対談。スマート化が急速に進みつつある今、エレクトロニクス産業全体が迎えているターニングポイントをどう感じているのか。それぞれの考えを語りました。

今年1年の印象は「さらにIoTの世界が一気に広がった」

ーー本日のテーマは「ゲームチェンジ」ということで、IoTやAIによって世界がどう変わっていくのかをお2人にお話しいただければと思っています。

また、お2人にはもともと親交があるとうかがっています。でも、ふだんはこういった話をあまりしないと……(笑)。

小柴満信氏(以下、小柴):まったくないですよ(笑)。

宮内謙氏(以下、宮内):でも、小柴さんはたまにしてるよ(笑)。

小柴:いやいや、仕事の話なんてしたことないでしょう(笑)。

ーー今日はせっかくなので、SEMICON Japan開催前ということもありますし、ふだんできないお仕事の話をしていただければと(笑)。

さっそくなのですが、IoTやAIの分野におけるここ1年くらいの変化について感じていることをうかがえますでしょうか。

小柴:じゃあ、僕からいきますか(笑)。

昨年の今頃、今回と同じようにSEMICON Japanのスペシャル対談として、筑波大で助教をされている落合陽一さんとお話ししたんですよ。そのとき、彼が指向性スピーカーの話などいろいろしていたんですね。その対談前から私は「ボイスが次のインターフェースだ」と思っていたので、彼の話を非常に興味深く聞いていました。

今年の変化はやはり、GoogleHomeやAmazonEchoなどがやっと日本語対応してきましたよね。そして、ボイスのインターフェースが一般家庭に入ってきた。それくらい精度が上がってきましたよね。

それでいうと、今年の変化といえばもう1つ、去年のディープラーニングに続いて量子コンピューティングが大きいですよね。

あらゆるものがネットとつながり、シームレスな世界になる

宮内:(スマホを手に取って)これ、iPhoneⅩなんですけど。

小柴:あー!

宮内:これにはフェイス・レコグニション(面相認識)が実装されましたよね。だから、小柴さんだと絶対にロックが解除できない(笑)。

フェイス・レコグニション然り、Siri然り。要するに、今年はこのようにIoTの世界が一気に広がると思います。いつも言っているんですけどね。iPhoneⅩは、最初のiPhone発表からもう10年経ったんですよ。その間に、社会はガラッと変わっちゃいましたよね。

今やビジネスマンも主婦も学生も、みんなiPhoneを持っている。それによって、人と人がコネクトするようになった。コネクテッド・エコノミー(テクノロジーによって人間同士だけでなく、機械など幅広い範囲でつながっていくこと)ができたわけです。

僕は勝手に自分で決めていたんですが、iPhoneⅩでコネクトされた世界が「コネクテッド・エコノミーV.1」。そしてこれからIoTでモノとモノ、モノとモノと人、モノとモノとロボットがつながる世界が「コネクテッド・エコノミーV.2」だと思っているんですよね。

たまたまうちのグループ会社にARMのサイモン・シガースというCEOがいるんですが。彼がいつも言っているのは「20数年かけてARMベースのデザインチップを1,000億個出した。でも、これから4年間でさらに1,000億個出す」と。

小柴:ほお!

宮内:なぜかというと、それだけ彼らも自動車メーカーなどいろいろなところと取引しているわけです。それも右肩上がりに。その1つのけん引役がスマートフォンです。今から本格的にIoTの世界……センサーといったところにARMのデザインチップが入っていくわけです。

なにを言いたいかというと、ターニングポイントは、IoTやAI、ロボットのある世界が爆発する年じゃないかと思うんです。元年みたいなものですね。そして、4〜5年で一気に具現化していく。

iPhoneⅩのフェイス・レコグニションもボイス・レコグニションも、言ってみればものすごく膨大なデータが必要です。本当にコネクテッド・エコノミーの世界が来ている。そしてシェアリングモデルが爆発している。中国のMobikeやofoなんかそうですよね。最近では、地下鉄を出たら傘のシェアリングまでやっています。

スマホにせよセンサーにせよ、あらゆるものがネットで繋がる。ネットのコストが安くなり、デバイスのコストも下がりました。さらに膨大なデータを処理するクラウドコンピューティングのトータルコストも下がった。だから、フェイス・レコグニションもできるようになった。

当社の入口でそういったシステムを使えるようになったら、小柴さんの顔も登録しておかなきゃね。そうするとセキュリティチェックなしでサーッと入ってくることができますし(笑)。

(一同笑)

そういったことが今から一気に起こると思いますよね。シームレスな世界を作ることができるんですよ。

テクノロジーが揃った今こそ「仕切り直し」のタイミングへ

宮内:小柴さんが先ほど話していた量子コンピューティングも……あと4〜5年後くらい?

小柴:量子コンピューティングがスパコンの京を超えるのが、たぶん2019年くらいですかね。

宮内:それが量産化されると、コストが下がりますよね。なぜかというと、ある調査によるとみんなスマホで1日1.何ギガ程度使うかくらいなんですよね。ところが、車の前につけると1.4テラくらいいくと言われています。

膨大なデータをどうやってネットに流し、あるいはゲートウェイをかましてクラウドに流すのか。要するにエッジとゲートウェイ、クラウドのトータルコストがどんどん下がってくると、完全に自動運転もOKになってくるんですよね。データが正確であれば、本当に運転手は不要になるからです。

ただ、今まではそれができなかったんです。CPUの処理能力も遅いし、コストも電気もかかる。でもこの10年でiPhoneがヒットし、そのおかげであらゆるテクノロジーがダウンサイジングされた。すべて揃ったと思っていただけたらいいと思います。

そうすると、次になにが起こるのかが読めますよね。

小柴:仕切り直しですよね。

宮内:そうそう。仕切り直す。だからある意味、自動車メーカーも大変だと思うんですよね。中国のBYD(電気自動車の販売数で世界一を誇る中国の自動車メーカー)など、どんどん新しい勢力が生まれています。EVメーカーって、本当にiPhoneかパソコンみたいな世界ですよね。ドンガラ(骨)であるハードとOS、アプリケーションがある。まさにこの世界でしょう?

小柴:そうですよね。

宮内:Teslaの車に乗っていますが、自動車というより……スマホカーみたいな感じですよね(笑)。だから、ターニングポイントはそんな感じで迎えるんじゃないかなと考えています。

半導体産業が迎えつつある「大きな曲がり角」

小柴:半導体産業は、PCやモバイルなどができてはじめてテクノロジーを確認できます。でも、この産業も今、ある意味で大きな曲がり角に来ているんです。

半導体にはムーアの法則(半導体の集積率が18ヶ月程度で2倍になること)というものがあるんです。微細化し、低コスト・省電力を達成できる1つの限界にきているんですよね。だから半導体も1つの曲がり角に来ているんです。

こうした中、従来のPCやモバイルとはぜんぜん違う世界が見えています。今までのようなプログラムするコンピューティングから学習するコンピューティングへ変わり、そしてこれからはコグニティブ(認知)するコンピューティングの世界に入ってきています。

AIというと、僕らのイメージで言うと例えばWatsonのような1つのコンピュータがドカンとある。でもこれからの世界はネットワークに分散していって、実態のわからない世界になっていく。これが次のAIだと思うんですよね。

そういった世界がこれから広がってくる。そういった中で、ソフトバンクさんは地球規模で見ているんですよね。ロボットも含めて。その新しい世界をどんどん伝えていかないといけないと思っていました。

宮内:今おっしゃったようなマシンラーニングというかAIなどが、エンベッドしたCPUなどのチップの世界になっていくと思うんです。最近言っているのは「高速処理する」ですね。その世界はもう目の前です。もちろん僕らもどんどん準備していますが。

そういった高速処理ができる世界で、ローレイテンシで膨大につながり、大量のデータを扱うことができる。

一方で、モノの中に入っているチップ自体がAI機能を持つ。そんな世界もやってくると思うんですね。それが上手くリンクして、エッジとゲートウェイなど、本質的にクラウドコンピューティングとリンクするような世界が絶対にくると思うんです。

コネクティングから「スコアリング」へ

宮内:僕は最近「コネクテッド・エコノミーになって、シェアリング・エコノミーがやって来ました」と言っているんです。次に来るのは間違いなく「スコアリング・エコノミー」だと思うんです。なぜかというと、例えばAppleWatch。僕はこれで脈拍を測っているんです。そして常時スコアリングしている。スコアというか、点数づけみたいなものもできるわけですね。

ほかにも、例えばサプライチェーンにおいてすべてのモノとリンクしたとしたら、もっとダイナミックにコントロールセンターを通じて、あらゆる情報をコントロールできます。倉庫など、物流の中のものがすべて見えたら、ストリームラインにできますよね。

小柴:そうですね。

宮内:あるいは、人事の世界とか。僕らも部下を評価しますが、それが本当に正しいかどうかというのは(笑)。

小柴:(笑)。

宮内:いろいろなファクターをどんどん学習させていくと、その人の行動……例えばEメールをどう打っているのか、会議をどうやっているのか。あるいは、どんな感じで発言しているのかをすべてセンシングし、学習させていく。そうすると、上司よりAIの評価のほうがいいかもしれないとかね(笑)。

まあ、いろいろなことができるわけですよね。「本当かな」と思われることもスコアリングできる。

ちょっと宣伝になるけど、みずほ銀行と組んで、自分の生活データや性格、ファイナンス情報を入れていくと点数がつくというものを作ったんです。例えば僕で言うと金利1.0パーセントで、10年ローンをこの場で1,000万円借りることができます。

小柴:なるほど。

宮内:そういった制度がどんどん仕上がっていくわけです。今後IoTによってはすべてのものがリンクしていきますよね。

ヘルスケアなんかもそうです。シャツにセンサーがついていたとしたら、ここから日々の健康が記録され、それをかかりつけ医などとリンクすると「この人はこんな生活を送っているんだな」とわかるとか。そういったあらゆる場面でスコアリングが活きてくると思いますよ。

みんなで監視し合うほうが低コスト

宮内:中国で今言われているのは、スコアリング・エコノミーで悪いことができなくなりつつある。例えば自転車をそこらへんにバサッと放置したら、次からレンタルできなくなるとか。

小柴:結婚もできなくなるとかありましたね(笑)。

宮内:そうそう。オートマティックにスコアされていくから「できれば高いスコアにしたい」というインセンティブが働くと、悪いことをしなくなったりね。そういう意味でポジティブにスコアリングできれば、世の中は変わりますよね。

小柴:その動きはIoTやAIの世界では始まっていますもんね。中国なんかまさにそう。評判が落ちる、という意味で結婚できなくなったりすると言われています。

ほかにも、自動車もすべてスコアになっていて自分の点数が決まっています。それが結婚やお見合いの時の参考になるという現象がもう起き始めていると聞いています。

宮内:Uberなんかがそうですけど、あれは運転手だけでなく乗客もスコアリングされていますよね。

小柴:乗客である我々もスコアリングされていますもんね(笑)。あと、タイムズのレンタカーにもスコアリングが入ってますからね。

宮内:そうですよね。この間アメリカで久しぶりにレンタカーに乗ったのですが、返却時はポーンと車を返すだけでした。日本みたいに細かく調べたりしなかったんですよ。

小柴:タイムズだと、ちゃんと洗って返したりするとフィーが下がったりするんです。そういう意味では非常によくできていますよね。

Uberなどがそうですが、自分でアセットを持たず、持っている人と必要な人を結びつけるP2P。このスタイルが今流行っていますよね。

でも、タイムズは違うんです。あれは、自分たちでアセットとして持っている。でも、ITシステムはけっこう最先端をいっています。だから日本にもあるんでしょうね。これまでレンタカーショップが信頼性を担保していたという部分がなくなり、P2Pになりつつあるわけです。

ブロックチェーンも同じようなものですが、結局みんなで監視し合うほうが低コストなんです。そうすると、今まで信頼を担保していたような銀行などの権威が消えていくという。もう、これは絶対不可逆的な方向性です。

テクノロジーは便利でポジティブな方へ進んでいく

宮内:昔、日本にクレジットカードが出てきた時は「大変なことになる」「現金以外は危険だ」と言っていたんです。でも本当は、現金のほうがもっと危険。

小柴:そうですよね(笑)。

宮内:クレジットカードを落としたところで、仮に1日分使われたとしても保険に入っています。それに、気づいた段階ですぐ連絡すれば使用停止できますしね。

インターネットペイメントになって危険かというと、もっと安全だと思うんです。顔認証で遮断されるから、他人は使えない。そういった状況のなかでお金を支払う。こっちのほうが安全だと思いますよね。

データ倫理、制度みたいなものは必要だと思います。例えば僕らソフトバンクは通信業者として、個人の電話履歴などのデータを持っているわけです。でも、それはなにがあっても、警察の方から「こういう理由で」と言われない限り、絶対に外へ出しませんよね。

一方で、Yahoo!ショッピングを使うとわかるのですが、ネット経由でいろいろな買い物をしたとします。そうすると、ページで「この間、これを買いましたよね」とレコメンドが出てきます。あれ、便利ですよね。名前などを外したクッキー情報は使っていいというのが現状なんですよ。

そういう意味で、どんどん便利でポジティブな方へ進んでいく。ネガティブな部分が露出した時は、それをつぶすためのテクノロジーがまた出てくると思うんです。

日本とアメリカの決定的な差は「まずやってみよう」となれるかどうか。日本はなんやかんや、ああだこうだ言いながら議論してしまう。その間に、アメリカだけでなく中国にも先を越されてしまう。最近だと、むしろ中国のほうがアメリカっぽくなっていますよね。まずやってみる。ダメだったらそこで規制がくるんです(笑)。

小柴:(笑)。

宮内:どちらが正しいかは、難しいところがありますよね。でも新しいテクノロジーをどう活用するか、その勝負の時代がきていると思います。

ーー国の規制面やルール整備に関してはどうでしょうか? ソフトバンクさんは光の道構想など、そういうものに対して闘われている印象がありましたが(笑)。

宮内:いえいえ、いまはあまり。いい子にだんだんなってきてますよ(笑)。

小柴:余裕ですね(笑)。

(一同笑)

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