2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:株式会社インテリジェンス
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藤野英人氏(以下、藤野):それでは、鼎談を開始したいと思います。私の話はなるべく少なくしますが、1つだけお話をしたいと思います。2週間前、北海道の根室市に行ってきました。行かれたことある人います?
(会場挙手)
藤野:2人、3人ぐらいですかね。根室はどういう場所かというと、本土の最東端なんですよ。“とうたん”は“お父さん”って意味じゃなくって、“東の端”という意味です。最東端ということなんですが、納沙布岬(のさっぷみさき)というのがあって、そこが一番東の端なんです。
それで、実は最東端ではなくて、最東端には北方四島があるわけです。ソ連に取られたと。「俺たちの領土である」ということなんですが、実効支配している最東端が納沙布岬になりまして、そこに行ったんですね。
なぜかというと、北方領土が返るとか返らないという話をしているじゃないですか。僕らは投資という面ですごく大事なので、向こうに仕事を作って、「1回現地で見てみよう」と。それで、どういう話をしているんだろうと見てみました。
納沙布岬に行くと、北方領土返還の碑が建っているわけです。またそこに北方領土が見える望郷の塔が建っているわけです。そこに北方領土返還の碑というガス灯みたいなものがあるんですけど、日中に行ったらガス灯が消えているんですね。
さらに、そこでのぼり旗をいっぱい立てて、「北方領土返せ! オー!」みたいなことをやっていると思ったら、シーンとして誰もいませんでした。
実際に行ってみたら、駐車場にも誰もいなくて、私たちのレンタカーしかないという状態で、まったく返ってくる気がしないという雰囲気でした。実際にそこに行くと、北方四島ではないけど、歯舞・色丹(島)の先端がチラチラっと見えるような場所でした。
その後、そこの地域の人とお話をする機会があって、懇親会というか、ごはんを食べて、いろいろ話を聞きました。そうすると、やっぱり根室というところは、北方四島から逃げ帰ってきた人たちがいて「国後にいました」とか、「歯舞にいました」という人たちがけっこう残っている町です。
ところが、それは70年前の話なんです。70年前というのは、その時0歳だった場合で70歳ですよね。10歳だった場合は80歳です。実は、昔そこに住んでいた記憶を持っている人はほとんどいないんですよね。
だから一番最初の記憶というのが、けっこう75歳、76歳ぐらいの人で、漁船に乗って命からがら逃げたという光景を、人生初めての風景として覚えているという人が多いということなので、「帰りたい?」といったら、もう帰るイメージもないわけですね。
ずっと根室に住んでいて、やっぱり根室が生活の場だから、北方四島に帰りたいという人がほとんどいないことがわかる。近いという意味では切実な問題なんだけれども、「住みたいか?」というと、住みたくないんですね。
さらに、もっと寒い、さびしい、誰もいない島に帰りたい人はそもそもいないということがすごくわかる。かつ、そこで話をするのは、やっぱり6割か7割ぐらいが漁業関係者なので、「やっぱり漁業権は戻ってきてほしい」と。
周りはロシアの海なので、自分たちが漁をしようとすると、そこに使用料を払うというところがあるので、やっぱり(北方四島に)戻ってきてほしいというのが切実な問題としてあるんです。とくに今年はサンマが不漁だったというので、根室の町が沈滞しているんです。
ところが、すごく微妙な心理で、ものすごく返ってきてほしいから、みんな「返らないだろう」と言っているんです。なぜかというと、期待して裏切られた時の気持ちがつらいから。
本当は気持ちで「返ってほしい」と思うけれども、「どうせ返らないんだ」とも思っていることが、町に行くとわかります。そういう町の気分とか、そういう人たちがあって今の北方領土の交渉があるというところがあると、「どういう交渉になっていくのか?」というところはイメージが湧いてくるし、肌感覚でわかることになります。
だから、「根室に行って何がわかるんだ」「行ったって別になにもないし、そこで話をしたってなにも意味はないだろう」という話もあるんだけれども、やっぱり現場に行く意味はすごくあるんじゃないかなと思います。だから、「日本は狭い」と言うけど、けっこう南北に長くて、意外に広いんですね。地方から地方はめちゃめちゃ遠い。
東京からは行きやすいんですけど、地方から地方は東京を介在したほうがいいぐらいのところなんです。だから、そういう面で見ると、日本は意外と広くて、移動するのにも時間がかかるということがわかるんじゃないかなと思います。
そういう中で、地方と東京の両方ともに住みながら、お仕事をされてるお二人にそれぞれお聞きしたいと思います。
まず最初に、藤堂さんにお聞きしたいと思います。「もともと東京で仕事をしていて、呼び戻された」ということでした。
一番最初、「自分たちの会社がそれほど士気が高い状態ではなかった」ということがありましたが、最初に東京から地方に行ってどんなふうに思いました?
先ほど「都落ち」という話もいろいろあったんですけど、「つらいなあ」「暗いなあ」と思ったのか、それとも「チャンスがあるな」と思ったのか、どんな心境だったのでしょうか?
藤堂高明氏(以下、藤堂):最初の第一印象は、奈良というと、みなさんもご承知のとおり、緑が豊かで「最高だ」「癒される」と思いました。
ほとんど車で移動するんですけど、やっぱり東京で働いている時は、ほぼ電車とか地下鉄だったので、車が必要なかったんですね。
「こうやって車を運転して、緑を見ながら、仕事を兼ねて癒されるなんて最高だ」と思いました。ちょっと都会で疲弊していて、もうボロボロになっていたので、「ありがたい」と思いましたね。
藤野:私もけっこう行く機会があって、奈良ってやっぱりちょっと独特ですよね。山の稜線がわりと緩やかな感じで。もちろん南のほうに行くときつい稜線があるんですけど。それで田んぼが広がっているので。いろんな地域を回るんですけど、あそこ行くと癒やされる雰囲気がありますよね。
もともと、こういう褒め言葉とけなし言葉があって……「大阪、食い倒れ」「京都、着倒れ」着るのが大好きですね。それから、「神戸、履き倒れ」靴ですよね。そして、「奈良、寝倒れ」と言ったりする(笑)。
藤堂:初めて聞きました(笑)。
藤野:ただやっぱり、ビジネスをする時に、「100億を目指すんだ」「急角度で行くんだ」「より前向きに」というところがあるので、あの奈良県の雰囲気の中で、どのように意識改革、もしくは仲間を集めるのかというところで、苦労されたことはありますか?
藤堂:そうですね……人を変えるって難しいですね。ですから結局、自分が変わるしかないのですが、人が変わらないと事業も変わらないので。
私が思ったのが、自分の会社の中の出来事が小さなコップの中での争いに見えたんですね。「ちっちゃいなあ」と思いました。それで、このコップの中がすごい濁ってるわけです。もう真っ黒(笑)。
でも例えば、仮にその器がプールぐらい広かったら、もう馴染んでしまって目立たなくなるなと思いまして、会社の器を大きくすることで、そういった小さなことで生じてた争いも解消されるんじゃないかなと思いました。
お話を聞かれた方は、「そんなに赤字事業があるんだったら、閉鎖したらいいじゃん」と思うと思うんですね。ほとんどの社員が車関係で、不動産をやっていたのは父1人でしたから。
はっきり言えば、自動車部門を閉めてしまえば7,000万円浮いたといったら、もうその日から年収7,000万取ってもよかったはずなんですけれども。
私は当時30歳で、決算書も読めないまま地元に帰りました。それで地元の会計士の先生に、「君じゃできないよ」と言われてくやしい思いをして、「だったらやってやろう」と目覚めたわけなんです。
ですので、それを1ヶ所で解決することは最初から考えていませんでした。まずは大きくしよう、多拠点化しようと。
1つの工場で人数を増やしても、ケンカが増えるだけなので、拠点を増やそうというのは当初からありました。
あとは“後継者難”がありました。やっぱり実際に戻ると、「息子さんどうしてるんですか?」と言ったら、うちの父親と一緒で、「こんな車屋継がしてもしょうがないから、大学出て東京で勤めてるよ」とか、「大きい会社に入って……」という人が多かったので。その人たちは当時50歳だったのですが、「これは10年後は大変なことになるな」と。
整備ができるから整備工場を継げるというわけじゃなくて、経営ができないとダメなんです。社員さん、メカニックの人を経営者にするのはなかなかハードルが高いので、「これは経営者が圧倒的に不足するぞ」と思いました。
そこで「じゃあ、10年後にゴールデンタイムが来るから、そこに向けてがんばろう」とい考えて、社内で起こるいろんな問題も、「これも将来のための重要な経験だ」と思うようになりました。
藤野:藤堂さんの場合は事業の継承型なんですけど、実際はビジネスの中身をブラッシュアップしてクリエイトしたということで、継承型でもあるけれども。けっこう初代の要素も強いところがあると思うんですね。
丑田さんは初代で、ハバタクという会社はお父さんから引き継いだわけではなく、創業者だったというところで、多拠点の1つの拠点を秋田にしたというケースですね。実際に世界をいろいろ回られて、先進国から発展途上国まで回って、今度は秋田に行ったわけですよね。秋田に一番最初に来て、そこの人たちと接した時の感想というのは、どのように思いましたか?
丑田俊輔氏(以下、丑田):最初に五城目に行って、やっぱりみんなで(酒を)呑むわけなんですけれども、地元に日本酒の伝説みたいな店があって、地元の酒蔵の酒をみんなで呑みながら、地元の公務員の方が「あの人呼んどこう」って何人か呼んでくれて、話していると、みんな思った以上に地域とか自分の地元が好きなんですよね。メディアではいろいろ言われているけど、「自分の子供たちのためにいい背中を見せたい」とか、「まだまだやれることはあるんじゃないか」と。
それを実行してるかというと、またあれなんですけど、そういう話をされている方が本当に多いなと感じました。地方消滅とか人口減少というと、すごくネガティブな田舎の商店街の風景がバッと出てくるんですけれども、実際に中に入ってみると、そんなに不幸かというと必ずしもそうではなくて。みんなそれなりに楽しく幸せに生きているし、すごく思いも持っているなと思いました。
藤野:この間、トランプさんが大統領になって、多くの人はびっくりしたわけです。でも、その中の背景をいろいろ調べてみると、白人男性の大卒と高卒以下の人と、寿命の差という統計があるんですね。
それで、白人の1970年代の大卒と高卒以下の寿命の差は3歳あったんです。3歳はけっこう大きくて、3年間という時間はそんなに短くないと思うんですけれども。
それが去年どうなったかというと、けっこう驚いたんですけど、15歳に開いたんですね。15年あるんです。15年の差はすごく大きいじゃないですか。
要するに、所得の格差がある。それはまあ、仕方ないとは言わない。格差というのは、ある意味で平準化しないといけないのでしょうが、命の格差があったというところはけっこう驚きですよね。
実は僕はまだ調べてないんですけど、近々調べようと思っていて、日本の大卒と高卒の寿命の差はどのくらいあるのかなということです。これが今課題で、調べようと思うので、調べたらどこかで出したい。私は「たぶんそんなにないんじゃないかな」と推定しています。
日本で一番寿命が長い県と短い県の寿命の差は何歳あると思います? 寿命の差というと、3歳なんですね。これは大卒か大卒でないかという差ではないので、ちょっと軸が違うんですけれども。
おもしろいのは、東京はもちろん平均値より高いんですけど、必ずしも寿命が長いわけでもなくて、意外と地方が上位だったりしているというところに特色があるんじゃないかなと思います。
そういう面で見ると、日本とアメリカとの違いというのは、まだ日本はアメリカほど格差がない。むしろ命という面で見れば、例えば、長野県や沖縄県は上位なんですね。
別に長野県は県民所得が高いわけじゃない。むしろ失業率だって一番低いぐらいなのに、寿命という面では一番ということです。
そういう面で見ると、地方は軸を変えて見れば豊かなんですね。要は、命も短い、それから所得も低いという絶望的な環境ではなく、地方という面で見ると、東京より優れた面がめちゃめちゃたくさんあるということを発見できるわけです。
その中で魅力のある仕事、東京に対して劣っていない仕事ができるという点。実は地方は就職したり、ビジネスをクリエイトするという点で、ものすごく魅力的な場なんじゃないかなと思います。
ファーストグループの藤堂さんも、「地方、めちゃめちゃいいよ」という話なんですが、そういう雰囲気も含めて、奈良であったり、直面しているビジネスのチャンスについてお聞かせ願いたいなと思います。
藤堂:地方のビジネスのチャンスは、先ほど話にもあったんですけど、とにかくのんびりした人が多いし、そもそも競争がないんですね。ですから、ちょっとがんばっただけで圧倒的に突き抜ける可能性があります。
ただ一方で、やっぱり経済は弱いです。私はそれをマイナスに受け取らずに、弱い経済というのはある種のストレスチェックだと。その弱い経済の中で事業を伸ばせる手法ややり方がしっかり育つことができれば、当然人口が密集している首都圏では圧倒的に勝てると、前向きに捉えるようにしています。
一方で、マクロ的な経済では少子高齢化と言われていますけど、あくまで地方の1商売だけで見るとミクロ経済なんです。
いわゆる顔が見えるお客さんがいて、地域を持っているという強みがあるので、そうそう簡単に揺らぐことはないんですね。
実はそこの誤解があって、「地方=ダメ」みたいなところがあるんですけど、けっこう手堅くやっていたりします。
地方のほうが、お客さんにとってもリプレイスコストが高くつくんですね。付き合いのあるところを裏切ってほかに行っちゃうと、困った時に相手にしてもらえないということがあるから。
都心部になるともう密集していて、リプレイスコストが低いですから、簡単にお客さんが右から左に移ってしまうという意味で、市場規模もでかい分、そこをどうやって、囲い込みというと語弊がありますけど、顧客化していくかという戦いがすごく難しいですから。「地方の強みもあるな」と思いました。
ですから私は、父親の整備工場を立て直す過程で、「これは産業化ができるな」「プラットフォーム化ができるな」と思った時に、地方が人口減少するなかで、売上を伸ばすプランや手法を編み出すことができれば、全国に広げていく際の重要な成功要因になるだろうなと思って、ひたすらそこをやったという感じです。
藤野:丑田さんを外から見ていると、非常に巻き込む力が上手だなと思います。地元の人たちであったり、官庁だったり、それから東京の人だったり、他の地域の人だったり。
地方関係のところで見ていると、たまに巻き込むことが下手な人が来て、空回りしていることがわりと多いなと思うんですけれども。
この地方の中で、思いがあっても空回りしないで、地元の人や他地域の人とコミュニケーションをうまくやっていくことで、とくに意識されてることとか、気をつけていることはなにかありますか?
丑田:地域の中ですと、本当に引っ越した日から学ぶことがめちゃめちゃ多いです。先ほど、「高卒と大卒」という話も出ましたけど、東京に行った時はほとんど大卒のコミュニティですし、海外で出会う人もホワイトカラー的というか、大学を出て、「MBA持ってます」みたいな人です。国籍は多様性がけっこうあったんですけれども、価値観の多様性というか……キャリアの多様性というと、けっこう画一的感があるので。
地域に入ると、本当に中卒でもめちゃめちゃ生きる力が高いおっちゃんがいて、「この人かっこいいな」と思ったり。そういういろんな方々がいて、その人たちと仕事抜きに付き合うなかで、いろんなことを学ばせていただいたり。例えば、こちらからスマホの作業なども含めて教えられることもあるしという。ビジネスを抜きにした暮らしの中からゆっくりと関係性を作っていくことを大事にしました。
「大卒のやつが頭だけでやってる」となりがちな地域がけっこうあるんですけれども、「田んぼを1枚貸してください」という感じで、自分でお米を作るところからやらせてもらうとか。
あとはキイチゴの産業化を進めている時に、アイデアだけ出すんじゃなくて、自分たちも畑を借りて、まず生産者の組合と一緒に作り始めてやっていったりしました。
そうすると、「あいつらちゃんと地に足が着いてる感があるな」というように、1個1個丁寧に関係性をつむいでいくことを大事にしました。
外に対しては、よく地域系のビジネスで、「これを買うと秋田が活性化します」という感じで出すところが多いんですけど、秋田に縁がない人からしたら、それを買う理由がなかったりもします。「秋田サブレです」みたいに持っていったりしても、それ自体に価値がないとなかなか手に取ってもらえません。
なので、「秋田を活性化します」というよりかは、「価値自体がものすごくおもしろいものだ」というところに真摯に向き合って、そのサービスをお客さまに届けていくということは、どの取り組みでもやらなきゃいけないのかなと感じながらやっています。
藤野:世の中はどうなんでしょうね? たぶん違うことを「楽しい」と思うタイプの人と、「これは脅威だ」と思うタイプの人がいて、そういう面で見ると、丑田さんが違いを「楽しい」「興味深い」と思えたことが大きいんじゃないかなと思います。
人のタイプを変えるのはなかなか難しいところがあるんですけれども、好奇心があって、違うコミュニケーションがあるところに対して、「なんでだろう?」とか「これは違う」といった学びがあるなというところが、すごく大きかったんじゃないかなと思います。
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