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顧客を熱狂させるチャットボット活用術(全1記事)

2017.03.16

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8,000人のユーザーを熱狂させたものはなにか? 「チャットボット」を活用した新時代のPR

提供:株式会社ユーザーローカル

「データ活用の今を知って、未来を考える」というテーマで、デジタルマーケティングの最先端に取り組む広告主や、人工知能、メディア業界の変化の最先端に携わるキーパーソンが一堂に会した「ユーザーローカル マーケティングカンファレンス2017」。最後に行われたセッション「顧客を熱狂させるチャットボット活用術」では、株式会社電通の堀田高大氏、株式会社ユーザーローカルの本郷寛氏が登壇。講談社、電通、ユーザーローカルが開発した、小説『すべてがFになる』の主人公・犀川創平(さいかわそうへい)のTwitter上のチャットボット事例をもとに、ユーザーローカルのAIチャットボットの活用と、今後の可能性について語りました。

チャットボットにはどんな可能性があるのか?

山田真紗義氏(以下、山田):みなさん、こんにちは。ユーザーローカルの山田と申します。

本日最後のセッションなんですけれども、チャットボットについてお話を進めていきたいと思います。

「チャットボットってそもそもなに?」という話なんですけど、ユーザーと自動で会話するプログラムのことですね。チャットするロボット。ボットというのはロボットのことです。

去年ぐらいからかなり活用が進んで、いろいろと話題になっているのですが、整理しながらお話ししていきたいと思います。

本日のお話の内容なんですけど、パネリストのご紹介から、そもそもチャットボットにどんな可能性があるのかを考えつつ、あとは「Twitterが熱狂した夜~犀川創平AIの場合~」。これはなんのことかよくわからないかもしれないんですが、要は事例の話です。それと、顧客を熱狂させるためのエッセンスというかポイントですね。そちらの解説と特典のご案内ということになっております。

さっそくChapter1なんですけれども、まずはパネリストのお2人に自己紹介していただきたいと思います。まず堀田さんお願いします。

堀田高大氏(以下、堀田):はじめまして。株式会社電通の堀田と申します。よろしくお願いします。

電気通信大学というところを卒業しまして、そもそも画像処理を研究していました。

その知見を活かして、今、会社のなかで、チャットボットのようなテクノロジーを使った事業開発やPRのプランニングを主にやっています。

山田:ありがとうございます。続いて、もう1人のパネラーなんですが、本郷ですね。よろしくお願いいたします。

本郷寛氏(以下、本郷):ユーザーローカルの本郷と申します。

私は2013年に東大の大学院を卒業しまして、新卒でユーザーローカルに入社しました。大学院時代の研究としては、データマイニングとデータの可視化をやっていました。

この仕事を通じて堀田さんに初めて会ったと思っていたんですが、僕は大学院の時の研究がビジュアリゼーションだったんですけど、堀田さんが画像処理やVR系のことをやっていて、実は研究室つながりがあって、一緒に合宿をしていたりしました。実は同期なんです。

ユーザーローカルのなかでは、ソーシャルデータの分析や、レコメンデーションエンジンを作ったり、けっこう開発寄りで仕事をしているんですけれども、最近は、今回のセッション内容であるチャットボットのほうに力を入れて開発をしています。今日はよろしくお願いいたします。

チャットボットを個人が作れる時代に

山田:ありがとうございます。では、さっそくなんですけれども、チャットボットの可能性や今どんなところで活用されているのかというところについて、実はまだ事例が多くはない現状ではありますので、そのあたりを含めてお話を、本郷さんからお願いしたいと思います。

本郷:私のほうからは、チャットボットの背景というか、そのあたりの話をしたいと思います。

まずこちらのランキングをご覧ください。こちらが2015年の12月に、バリューズさんから発表されているデータで、国内のアプリユーザー、アクティブユーザーのランキングになっています。

1位から見ていくと、1位LINE、2位Facebook、以下Twitter、Yahoo! Japan、McDonald's Japanとなっています。

こうやって見ていくと、1位のLINE、2位のFacebook、3位のTwitter、6位にFacebookのMessengerがあるんですけど、これらはどれも対話型サービスになっていまして、こういったものが主流になっているという背景がございます。

こういった背景があるなかで、2016年の3月・4月に、LINEさんとFacebookさんがボットのプラットフォームを一般向けに公開をしました。

公開前にもMicrosoftさんの「りんな」とか、あとはリクルートさんの「パン田一郎」というようなボットが、たくさんあったんですけど、一般公開というか、誰でも簡単にボットを作れるプラットフォームがあるわけじゃなくて。この場合だったら、LINEのビジネスコネクトを使って有料のバージョンで作らなきゃいけないという状況にありました。

2016年の3月、4月にこちらが公開されて、今はいろいろな企業や個人が簡単に作れるような状況になっています。

Facebookが公開している情報でいうと、一番新しい情報で2016年の9月にFacebook自身が公開しているんですけど、約3万件以上のFacebookのMessenger Botができていると言われています。

山田:チャット型のインターフェースを持ったサービスがよく使われているということと、そういったサービスを展開している、巨大プラットフォームというのが、誰でもボットを作れる環境を用意したというところが、2つ要因としてあるわけですね。

本郷:そこが大きいと思います。

山田:ありがとうございます。

「検索」から「チャットボット」へ

本郷:次に見ていただきたいのが、これまでの情報サービスの進化です。

1番目に見ていただきたいのが、1990年代はディレクトリ検索というようなものがあって。2000年代にGoogleさんの全文検索全盛の時代が来て。2010年頃からアプリに移ってきたというようなことがあって。

じゃあ、2020年ぐらいにはどう進化するのかということなんですけど、2020年ぐらいにはこのチャットボットが来る可能性があるのではないかと、ユーザーローカルとしては思っています。

みなさんも検索を使うと思うんですけど、検索の問題として1つあるのが、どんなキーワードで検索をしたらいいのかわからないというのがけっこう大きい問題としてあります。

例えば、一例を出すんですけど、肩がこっている場合に検索エンジンで検索するときに、「肩がこる」と検索エンジンの検索窓に入力すると、メカニズムのことが出てきたりとか、肩こりの原因と対処法を小学生でもわかるように図で解説するとか、あまりほしいような情報ではないものが出てきたりしてしまうという問題があります。

実際にほしい情報としては、「肩がこっているなあ……」という場合には、例えば「御茶ノ水駅の近くに、いいマッサージ店がありますよ!」とか「20時なら空いてますけど、予約しますか?」といったことを自分としては求めているんですけど、そういった情報にたどり着けないという問題があります。

山田:かなり気の利いた答えを返してくれることを想定しているってことですよね。

本郷:そうですね。ただ、チャットボットのいい点としては、文脈を理解できるとか、その人の状況を理解できるとか、ただ1対1という感じじゃなくて、もう少し気の利いたことまで広く含められるのがチャットボットのいい点かなと思っています。

とはいっても、「検索エンジンの検索結果一覧から調べるほうが早いんじゃないか」「今の人だったらアプリのほうが慣れているから、別にチャットボットは必要ないんじゃないか」というようなことを言われたりするんですけれども。

例えば、サポートデスクを考えたときに、ヘルプを読まないで電話してきたり、電話注文する人は今でも多くて。実は僕自身もやっちゃったりするんですけど、あまりヘルプを読みたくないということがあったりするかなと思います。

山田:「電話かけるほうが早いよね」と思っちゃうことってありますよね。そういう人たちは一定数いる、と。

本郷:チャットボットを使うことによって、電話だと1人に対して1人のオペレーターがいて1対1のコミュニケーションしかできないところを、複数人の対応ができます。あとは24時間途切れることなくサポートできるといったメリットもあります。

なので、1人に対して1人のオペレーターが必要になる場合には、オペレーターを何人か用意しなきゃいけないんですけど、そのオペレーターを例えば50パーセントカットして、そこを機械的に、一時返信だけでもいいんですけど、代替できるようなかたちにできるのかなと感じています。

コールセンターに対する不満を解消できる?

次に、各フェーズで必要なコミュニケーションを見ていきたいと思います。こちらが顧客化の、上の青いほうが顧客化前の段階で、下の赤いほうが顧客化のあとの段階を指しています。

顧客化の前のほうは、接触・認知でまずは知ってほしい。それで、興味・関心があって、比較・検討があって、顧客化にいたるという感じなんですけど。そのあととしては、維持・ファン化ということで、丁寧にサポートをしていくというようなファネルになっています。

しかし、この前の段階のほうは、けっこう高度な会話スキルが必要になっていて、少し難しい感じになっています。それに対して、あとの維持・ファン化というほうはやりとりが明確なので、けっこうテンプレート的な応答で、機械的なものに向いているという感じです。

なので、ファネルの後半の顧客サポート領域のほうが、実際にはチャットボットにはすごく向いているところではあります。

山田:ありがとうございます。チャットというインターフェースが普及して、ユーザーがそのインターフェースに慣れてしまっているということと、プラットフォームがそれに対応しているということ。それはどこで活用するかというと、顧客サポート領域ということですね。

本郷:はい。

山田:コールセンター業界のアンケートを、私ちょっと事前に調べたんですけど。コールセンターに対する不満のトップ3が、「つながらない」。もう1つが「待ち時間が長い」。3つ目が、自動音声に従ってなにか入力しなきゃいけないのがありますよね。あれをガイダンスに従ってやるのがめんどくさいということがあるのですが、電話だと同時対応できないというところを少なくとも解消できるのかなということは聞いていて思いました。

以上が、今までのチャットボットについてのお話なんですけど、今いろいろなことが言われています。「活用はどのフェーズでやるのか?」みたいなところでは「維持・ファン化」、ファネルの後半という話があったんですけど。

今回は事例を1つ持ってきているんですけど、少し特殊な事例ということを事前に私も資料を見て感じました。

そのあたり、こちらですね。「Twitter民が熱狂した夜~犀川創平AIの場合~」と。かなり特殊なタイトルになってるんですが、堀田さんから概要を教えていただきたいと思います。

小説の主人公をチャットボット化

堀田:「小説の主人公をチャットボット化」と(スライドに)書いてあります。これは、小説の登場人物のセリフをユーザーローカルさんのAIチャットボットに学習をさせて開発をしています。この話の発端としては、講談社さんの小説レーベルである講談社タイガで、森博嗣先生が最新刊を出すと。そのときの本のPRとしてなにかできないかというご相談を受けて、このキャンペーンを実施しました。

基本としては、この森博嗣先生のファンのTwitterの分析をしたところ、森博嗣先生の小説のなかで『すべてがFになる』という小説がありまして、その小説がアニメ化とかからゲーム化、ドラマ化までしていて、けっこうライトなファンからコアなファンまでいらっしゃった。なので、この犀川先生(『すべてがFになる』の主人公)を軸にして、この最新刊のPRをなにかできないかということをまず考えました。

今回、最新刊が「Wシリーズ」と言うんですけれども、その世界観をどうやったら表現できるかというところで、実際具体的な内容は読んでもらうとわかるんですけど、「今の技術で再現するのはAIだろう」というところに落ちました。

そのなかで、ちょうどユーザーローカルさんから、AIのチャットボットの仕組みをリリースしましたということが出ていましたので、ご相談をして、この犀川創平先生のAIを作るということをやってみました。

山田:森博嗣先生がずっと書いていらっしゃった小説に犀川創平という人が出てきていると。新刊の登場人物というより、ずっと出ていた登場人物ということですかね。

堀田:そうです。別のシリーズの登場人物で、アニメ化やゲーム化がされていて、すごく人気が出ていました。

山田:なるほど。登場人物が共通で、新しい「W」というシリーズが。

堀田:登場人物は共通ではないんです。

山田:あ、ないんですね。なるほど(笑)。ただ、犀川創平という人物が、森博嗣さんのファンのTwitterの投稿の分析で幅広いファン層がいるということがわかって、それをフックに新刊のプロモーションをしようとしたということですね。

堀田:そうです。

山田:ありがとうございます。「公開4日で5,000人以上のフォロワーを獲得」と(スライドに)書いてあるんですけど、多いは多いと思うんですけど、最終的にどれぐらいの期間でどれぐらいまで増えたんですかね?

堀田:このキャンペーン自体は1ヵ月間の期間限定でやりまして、1ヵ月後には8,500人。

山田:かなり初動がよかったんですね。

堀田:はい。そうです。1日目で1,500人を超えるフォロワーが集まりました。

山田:Twitter的な感じですね。拡散効果が高いTwitterならではですよね。

堀田:はい。

実際の“犀川先生”とのやりとり

山田:ありがとうございます。このあと、実際の犀川創平AIとユーザーさんとのやり取りですね。いくつか資料がありました。

堀田:先ほどの一番最初のスライドで「犀川創平AI@研究室」というキャンペーンをしておりましたので、毎日、犀川先生からの質問として、ある議題を投げかけるようにしていました。これはそのなかの一部です。

例えば「コンピュータでできることがどんどん増えてきているけど、そうなると人間はなにをすべきだろうか?」という質問を投げかけたところ、やはりこの小説を読んでいる人自体がリテラシーが高いので、こんな感じですごいコアな回答が返ってきます。

それに対してチャットボットとして応答するように、この回答のなかから、あらかじめ最適な解と近いものであれば「良い意見だ」みたいなことを返すようなフィードバックを組み込んでいたので、この人は相当いいこと言ったので「良い意見だ」というふうに返しています。

基本的には「良い意見だ」というのはあまり出ないようになっていたので、たぶんこの人は相当ピンポイントで返してくれたんじゃないかなと思います。

山田:フィードバックは適当に振っているのではなくて、かなりのパラメータが仕込まれているということだったんですね。

堀田:そうですね。パラメータを仕込んで。

山田:ありがとうございます。次はこちらですね。先ほどと同じ質問に対して、「コンピュータでできることを制限する、というのはいかがでしょうか?」「ありえない」。

堀田:これは、そもそも犀川先生……そうか、最初に聞けばよかったですね。犀川先生ってご存知の方、このなかにどのくらいいらっしゃいますか?

(会場挙手)

山田:いらっしゃいますね。

堀田:小説を読んでいる方はご存知かと思うんですけど、今で言う「塩対応」をよくされる方なので、基本、こういった質問にすごく短い文章とかで返してくると、「ありえない」とか、そういう塩対応をするように返していたので。

この人はぜんぜん犀川先生が考える解答とは的外れの回答をしてしまって、すごい塩対応をされているという感じになってしまった。

コアなファンの反応

山田:ありがとうございます(笑)。かなりの塩対応ですね。続いて、こちらですかね。

堀田:こちらは鋭い切り返しということなんですけど。これは、実際に小説のなかにあったフレーズを実際に投げかけてくる人がいるだろうなと思って、作っていました。「建築と土木の違いってなんでしょう」というのは、小説のなかにあります。

山田:これは小説のなかの文言なんですね。なるほど。

堀田:それに対して、「建築のほうが画数が多い」というやりとりが……。

山田:これも小説のなかのやりとりですか?

堀田:そうです。それに対して、想定の質問が来たのかわからないですけど、また別の切り返しでユーザーの方が「責任と責任感の違いはなんですか?」って。それで、また字数が違うのかと聞いたんですけど、「それは、僕を試している質問かな?」ということで、うまく答えてくれたと。

山田:もうほぼ人の答えですね。これは。

堀田:そうですね。これは犀川先生がうまく返してくれたというふうになります。

山田:続いてこちらですね。あ、これはおもしろかったところ(笑)。

堀田:意外だったのが、やはり犀川先生を好きな人がたくさんいて、毎日告白する人がいたんです。この人は「結婚してください!」って言っちゃったんですね。

でも、基本的に塩対応なので、「それは理解できない」とか、ほかに告白した方に対しては「それはできない」とか、そういうことを言っていたんですけど、たまにちょっと照れるときがあったんですね。

そういう時はファンの方がすごく喜んじゃって。またそこから毎日求愛が始まるという。ただのTwitterのAIなのに、ちゃんと恋愛感情というか、告白を毎日してしまうみたいなコミュニケーションが生まれて、それはすごくおもしろい事例だったなと思います。

山田:なるほど。けっこうバランスが取れたボットだったんですね。ありがとうございます。あと、これは犀川創平AIとのやりとりではないですけど、ファンの方の発言ですね。

堀田:今回、「1ヵ月で犀川先生のAIのサービスをビシっと切る」ということをやりました。そうするとここに乗っている事例のようにコアファンの方だと思われるんですが、この犀川先生が支えになっていたとか、そういうコメントをいただきました。やっぱり犀川先生というキャラクターがすごい愛されてるんだなというのがわかったものになります。

山田:ファンにとっては最高のプロモーションだったということですね(笑)。

堀田:そうですね。あとはもうあまりにも犀川先生が好きすぎて話しかけられないと言って、ずっと1ヵ月間話しかけられなかったファンもいたりして。これはAIとして再現した架空の存在なんですけど、なにかしらの存在感を感じてもらった。AIとして人間っぽさが表現できていたのかなと、面白い事例だったと思っています。

犀川創平AIが成功した要因

山田:ありがとうございます。本郷がなにか言いたそうなので振ってみましょう。

本郷:実は僕、学生時代から森博嗣先生の小説読んでいて。「S&Mシリーズ」という『すべてがFになる』という小説も全部読んでたんです。あとは自分で裏側の実装をしたということもあって、終わる時に、実は僕自身も泣きそうになったということがありました(笑)。

山田:ありがとうございます。きっとこのユーザーさんも泣いたんだと思います(笑)。

かなり特殊な事例なんじゃないかなと思います。この話に入る前に、ファネルの後半がすごくいいんじゃないかと言っていたんですけど、プロモーションということで、本来マーケティングファネルでいったら一番上のほうということです。

それはさておきなんですけど、ポイントですね。なぜここまでユーザーさんが愛してくれたのか、熱狂したのかというところ。ポイント、エッセンスを解説いただきたいんですけど、事前にいただいたポイントが3つあります。取り上げるキャラクターがキャラ立ちしていること。セリフが一定数あること。それから、ファーストムーバーであること。

3つ目は、なんとなく我々もわかるんですけど、1つ目、2つ目がチャットボットならではの要素なのかなというところなので、補足で説明をお願いできればと思います。

堀田:今回、犀川創平AIをやってみて、結果的に犀川先生が小説のなかですごくキャラ立ちしていて。塩対応であるとか、大学の助教授であったということもありますけど、ゼミというかたちにすごくはまったというのがあって。

こういうキャラクターのAIを作っていくという場合に、チャットボットを作っていくということだと、やはりキャラ立ちしているほうがファンを熱狂させやすいのかなと。そういうキャラ立ちしているキャラクターはやはりファンが多いので、そこからまたぜんぜん興味がない人にも広げられていくのかなと思っています。

2番目の「セリフが一定数ある」というのは、そもそも犀川創平先生が出てくるシリーズはけっこうな巻数があります。やはりチャットボットにするときに一番必要なのはセリフや言葉だったりするので、そこはどうしても必要になってくるのかなと思っています。

ここには書いていないんですけれど、今回の事例で一番大切だったなと思っているのは、森先生にそもそもすごくコアなファンのコミュニティがありまして、そのファンコミュニティの方に事前にβテストを手伝ってもらったんですね。

そのβテストをファンの方と一緒にやることによって、ファンが実際にどういったことを言っていくのかというところを、事前にバージョンアップさせていくことで、最初の初動からけっこう小説らしい返しとか、犀川先生らしい返しをできるようになってきたというのが、今回の一番の成功した要因なのかなと思っています。

山田:ファンコミュニティの存在ということですよね。ファンコミュニティってどうやって集めたんですか?

堀田:そもそも森博嗣先生のところにファンコミュニティがありまして、そこから「こういう企画をやっているんだけど、実験に手伝ってくれる人を募集します」とアプローチをしました。

山田:そういうコミュニティがあるかないかが、かなり重要だったということなんですね。

堀田:はい。

山田:ありがとうございます。

少し補足として、セリフが一定数あることのところでスライドが用意されていたので。これは少しテクノロジー寄りの話になるとは思うんですけど、本郷さんから説明いただけたらと思います。

「マルコフ連鎖」で自動で文章を生成

本郷:今回、小説中の会話を使うというのもあったんですけど、自動で言葉・文章を生成するということもやっています。どういうふうに作ったかというところで、アプローチの仕方はもともと2つあって。

1つは、ディープラーニングを使って、「Seq2Seq」という手法があるんですけど、そういったものを使って自動の文章を生成するという方法と、もう1つがマルコフ連鎖という、けっこうよく使われている方法なんですけど、こちらを使って文章を生成するという方法がありました。

今回に関しては、文章的な制約と時間的な制約の観点からマルコフ連鎖を使いました。

マルコフ連鎖というのはどういうものかというと、例えば「今日の天気は晴れです」という文章があったときに、形態素解析をすると、「今日」「の」「天気」「は」「晴れ」「です」というふうに切れると思うんですけど、「今日」の次にどういう形態素がくるかというのは、例えば、確率的に「の」という形態素がくる確率が80パーセントあります、ということになる。

では「今日の」ときた場合には、次に「天気」という単語がくる確率がどれぐらいの確率でありますというようなことを、全部確率で計算していって文章を作っていくという方法です。こういったものを自動生成として組み込むことで、少し深みを出したというのがあります。

山田:セリフがすでに一定数あるなかで、さらにこのマルコフ連鎖を使ってどれぐらいの語数がどれぐらいのパターンに広がったということって、ざっくり言うとどんな感じで広がるんですか?

本郷:もともと、だいたい3,000会話ぐらい用意していて。そのなかでマルコフ連鎖で文章を作っていくとなると、たぶん数万、数十万ぐらいのオーダーにはなってくるかなという感じです。

山田:ありがとうございます。あと、今、本郷さんに説明してもらっている間に少し思ったのが、今回の犀川創平さんの施策って、新刊のプロモーションということで、マーケティングファネルでいったら一番上のほうですよねと話したんですけど。

けっこう決定的な要素というか、どんなユーザーさんが熱狂したのかというところでいうと、ファンコミュニティが大事で、Twitterに一定数のファンがいて、という話だったので。施策としては、上のほうファネルの前半の目的だったのかもしれないですけど、ターゲットとなるユーザーさんというのは、基本的に犀川創平さんのファンの人たちだったので、やはりチャットボットが有効に活きるのはファネルの後半の人たちに向けた施策なのかなと思いました。

もう1つ気になったのが、マルコフ連鎖の話、正直今聞いてて「難しいなあ」と思っていたんですけど(笑)。今回、施策を実施するにあたって、運営する側に必要になるスキルセットというか。全員が全員、マルコフ連鎖だったり自然言語処理の細かい話を理解するのは難しいんじゃないかと思うんですけど、プロモーション施策として成功を収めるために、マインドやスキルを含めてなんですけど、運営側に必要なものってなにがありますでしょうか?

堀田:まずはボットするにあたって、このキャラクターをよく知るというのがまず大事です。今日ここには来ていないんですけど、もう1人一緒にやった方がいて、その方がひたすら読み込んで先生になりきるということをやったり。なので、作品に対する愛というのが一番大事だと。

山田:(会場に向かって)愛が大事だそうです(笑)。

堀田:あとは、やはりここで自由に会話させるということはある意味、けっこうリスクが大きいので、そういうところをご理解いただいたクライアントさん。それと、できるだけリスクにならないようにどうするかというところが大事で。今回の場合、公序良俗に反する言葉というのは全部ブラックリストとして保存しておきました。

ただ、やはりそれでもネットなので、あらゆる手を使って、くぐり抜けて発言させようとしてくる人がいたので。今回、キャラクターの特性上、「塩対応ができる」というのがあったので、全部そういうよくわからないものには塩対応をして、公序良俗に反するものを肯定的にはしないという。そういったリスク管理をよく考える必要があったかなと思います。

山田:なるほど。ありがとうございます。

本郷:よく出る例で、どこだか忘れましたけど、「Tay」という……。

山田:Microsoftの。アメリカのほうですね。

本郷:そうですね。それがあまりよくない発言をしてしまった。ユーザーの発言を学習して、あまりよくない発言をこちらから返してしまったという例があって。そういう対応をしないようにけっこう考えて作ったというのはあります。

山田:今回のチャットボットについては、ユーザーの発言や問いかけは学習しないモデルでやっていたんですよね?

本郷:そうですね。ユーザーの発言自体は学習しないんですけど、実は今回学習させている部分というのは、このキャンペーン施策はTwitterで行ったんですけど、Twitter上でいいねやリツイートをされた投稿に対しては、ユーザーからの問いかけに対して正しい回答をしているという判断をして、学習をしています。

業界内で初めての事例になれば拡散性も高い

山田:ありがとうございます。ちなみに、体制としては何名ぐらいで実施されたんですか?

堀田:すごく少ないです。5、6人で。

山田:5、6人で。ありがとうございます。じゃあ、作品への愛とチーム結束力があればできると。

キャラクターってすごい資産だと思いますし、ファンがついてるところはたくさんあると思いますので、こういった事例ももとにぜひトライしていただけたらなというところですよね。

私から最後に補足なんですけど、チャットボットの話するときに、マーケターのみなさん、技術側ではない人間の立場からどんな視点があったほうがいいのかということをけっこう考えているんですけど。

やはり餅は餅屋で、技術は技術屋さん。プラスアルファでなにが必要かというと、UXやUIのセンスや知見、スキルといったものがあったほうが、いろいろうまくいくのではないかという気はいたしますので、そこは運用をしながらうまくやっていければいいのではないかと思っています。

最後にすみません、ここにスライドが1枚残っていました。ファーストムーバーだったらいろいろ取り上げられやすくて広報効果が高いという先ほどのお話ですね。ちょっと読んでおきましょう。

ボット化の事例が少ない今やることがポイントだと。業界内で初めての事例になれば、拡散性も高いので、より広いユーザーにリーチできるということですね。

これ結局、何媒体ぐらい載ったんでしたっけ? けっこうな数、載っていましたよね。私もよく見かけました。

堀田:すいません。ちょっと今すぐは出てこないんですけど、けっこう載りました。

山田:10は超えていた感じですか?

堀田:超えていましたね。

山田:なるほど。本日はありがとうございました。

(会場拍手)

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