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観光立国の鍵を握る"シェアリングエコノミー"(全2記事)

2016.12.27

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観光客も地元民もしあわせなシェアのかたちを探して--転換期を迎える日本の観光

提供:一般社団法人シェアリングエコノミー協会

シェアリングエコノミーをテーマに開催された日本初の大型ビジネスカンファレンス「Share!Summit -シェア経済サミット-」。国内外のトップランナーたちを迎えて行われた豪華セッションのラストを飾ったのが「観光立国の鍵を握る"シェアリングエコノミー"」です。日本の観光業界では今、なにが起こっているのか? シェアリングエコノミーで観光立国を目指す際にぶち当たる「3つの壁」を紹介しながら、その解決策を探りました。

今、日本の観光業界でなにが起こっているのか

江藤誠晃氏(以下、江藤):ではここからが本番です。熱くみなさんで語っていきましょうということで、観光シェアリングエコノミーの課題をみなさんと共有したいと思います。

まず市場なんですけれど、(スライドの)一番下にあります「国内観光」というのは人数がなかなか測れなくて、これは日本の旅行業界のデータなんですけれど、1年間の国内観光の泊数です。いわゆる宿泊をともなう観光が4億8,000万泊なんですね。

すごい量、と思うじゃないですか。ところが、これを国民で割ると、1人あたり年間で外泊4泊しかしていないということです。もっともっと、これを倍ぐらいにできないのかなと。これが日本の観光マーケットです。

ただ、日帰りの観光というものがありますから、実際はもっと多いです。この20兆円ではなくて数10兆円なんですけれど、ここをスケールさせていくということが非常にポイントになってくるんだろうなと思います。

そういう意味では、日本が舞台なのか、世界が舞台なのか、あるいはお客さま、日本人か外国人かというような、いろんなカテゴリーはあるんですけれど、まず国内の地域が活性されたことによって、日本人がもっとやってくる、そこに海外の人がやってくるという循環を作る必要があるんですね。

シェアリングエコノミーを観光ということで考えたらどういう概念かということを、みなさんとシンプルに共有したいんですけれど、基本的にはホストとゲスト、旅する人と迎える人がいて、従来の観光というものは、そこにレガシーエージェントといわれる代理店業があったんです。

個人の方がホテルを自分で押さえられませんよね。あるいは、飛行機の自分の席は押さえられませんよねという時代に、それを仕入れて売るというエージェントモデルだったわけなんですけれど、インターネットができたことによって、ゲストが直接ホテルやエアラインを押さえるようになった。これがOTAと言われる、Online Travel Agencyです。まさにBooking.com、この流れなんですよね。

オンラインエージェントがあったんですけど、シェアリングエコノミーはどういうことかというと、まったく新しいエージェントです。ゲストとホストがつながるんだけど、ホストがゲストになるかもしれない。

つまり、民泊でいうと、プロのホテルではなくて、一般の人がホテルなわけですね。あるいは、ライドシェアとかUberさんに代表されるような、タクシーとか運送業以外の人が運転できる時代になったということで、まったく新しいエージェントができてきた。そのなかで、従来のレガシーエージェントと新しいエージェントのなかにいろいろな確執が起こったというのが、このシェアリングエコノミーの黎明期の時期なんですが、そろそろそこから脱出していくよねということです。

シェアリングエコノミーに立ちはだかる「3つの壁」

そして、ここからみなさんとお話していきたいんですけれど、「シェアリングエコノミー本当にスケールしていくの?」ということに対して、まだ疑問符がともなうと思うんですが、ここで3つの壁を考えてみます。

まずは、今申しあげた「新旧の壁」。それから人材、それを担える人がいるのかという「人材の壁」。そして、「本当にシェアリングエコノミーは拡大するのかな?」ということはまだまだ未知数なんですね。この3つの壁に関して議論していきたいなと思います。

まず1番目の壁です。「新旧の壁」です。今日、私の1つの視点として、これがemotionalなのか、functionなのか。つまり「感動産業なのか」「機能的なサービスなのか」という軸。

それからdefenseとoffenseということで、最後にお話があったんですけど、今まで行政というものは守りだったんですけども、今、攻めの時代になってきています。defenseか、offenseかということを散りばめながらお話したいと思います。

まず新旧の壁ということで、新旧の壁ってここにある壁なんですね。(スライドの)左下と右下を見ていただいたらわかりますように、オールドエコノミーは、旅館業法とか道路交通法ということだったんですけど、今、新しいサービスは従来のいわゆる法的なものの枠組みに入らない。つまり、ここで既得権益とか法令とか、「特区をつくりましょう」とか、「信用の問題」があるんですけれど、実はこれは新旧の壁なんですね。

ここをブレークスルーするサービスとか制度づくりということなんですけれど、まずこのあたりに関して、ご意見をうかがいたいなと。

まず、ライドシェアということで、東さんのほうから。いわゆる「白タクどうなの?」みたいな話がよくあるじゃないですか。ここに関しての見解や、その壁を超えていく方法。

法の範囲で実績を作って法律を変えていく

東祐太朗氏(以下、東):ライドシェアをやっていると、「白タクの問題があるんじゃないの?」「これ、ぶっちゃけ白タクだよ」みたいな話はよくつっこまれるんですけど、まず先に言うと、説明させていただいたとおり、実費を割り勘するというところなので、今の法律のなかでは問題ないと捉えています。

ただ、これってもともと道交法で想定されていない使い方だと思うんですね。なので、例えば、これから取引させていただく会社からも、「本当に大丈夫?」みたいなことはやっぱりありますし。

今は割り勘なんですけど、本当は高速道路を使わないような距離でもやっぱりやりたいですよね。例えば、東京から京都ぐらいだったら今のままでもいいんですけど、京都のなかで、隣の平等院とかそういうところまで行きましょうかみたいな、「タクシーだとちょっと高すぎるよね」といったところに、「ついでだから送るよ」というところが、お金が回ることでもう少し促進できるんじゃないかと思うんですけど、今の法律だと厳しい。こういうところは今、壁で、弊社の課題かなと思っています。

これは今、法律で問題ない範囲の内できちんと実績を作っていくことで、法律を変えていくしかないんじゃないかなと思っています。そこが今やっている取組みのところです。

江藤:結局、旧勢力から出る「それって白タクだぞ」「民泊おかしいぞ」というのは、その壁なんですよね。ただ、実際サービスの利便性で考えたり、そこで感動を得るということでいうと、意外とこれが、その壁を超えるというところだと思うんです。

実際に行政側の塩野さんや勝瀬さんから、このライドシェアは、どういうふうに受け地として着地して受けられているのか。要は着地でいうと、いろんなメニューを作るわけなんですけれど、移動ってすごい大事じゃないですか? 例えば、地方でいうと空港から先の二次交通とか。今まさに東さんがおっしゃったように、地域のなかで移動するときに、すべての人が足を持っているわけじゃないんだけど、タクシーがあるのかとか、二次交通が整備されているのかというのは大きな問題ですよね。

勝瀬博則氏(以下、勝頼):ものすごく大きいです。これはBooking.comのときの話ですけれど、お客さまのだいたい6割が場所で選ばれます。そして、25パーセントが料金で選ばれて。それから、8パーセントぐらいの方が口コミで選ばれる。非常に大きな割合の方が「場所」で選ばれるんですね。

だから、その場所にどうやって行くのかどうかということが、その場所で泊まるかどうかを大きく左右すると言えます。そこまでの行き方、行くまでの価格というものはとても、これだけで大きな要素となっています。

地元民も観光客も幸せなシェアのかたち

江藤:島原はどうですか? お客さまの移動というのは?

塩野進氏(以下、塩野):これまでまったくそういった、どうやってお客さんが来ているかという数字がなかったので、7月にはじめて調査をしたんですが、「だいたい電車で2〜3割来てるのかな」と、みんな思っていたわけですけど、観光客の方にアンケート調査してみると、島原鉄道という電車で来ているお客さんは実は全体の3パーセントしかいなくて、残りの9割はレンタカー、あるいは自家用車で来ているということがわかって、みんなびっくりしたということがありました。

ですから、そういう車がないと来られない観光地だという意味では、こういったサービスにぜひ期待したいというところはありますけれど、当然、交通機関というものは観光という側面だけではなく、社会インフラ的なまちづくりのなかで、高齢者の足ですとか、そういったところまで含めて、行政としては当然考えていかなければならないので。観光面からはウェルカムだけれど、地元のタクシー事業者さん、今、年配の方を病院に運んでいるような方からすると、たぶん決してウェルカムではないということだと思います。

ですので、行政としては立場を使い分けながら考えていく。なかなか一概に「やりましょう」ということを公の場で言うのは難しいのかなというのが正直なところですね。

江藤:そういうことですね。つまり、地域の人にとってはdefensiveな交通機関ですよね。地域のお年寄りのための足とか、観光で人が来るというのはoffensiveな交通機関なので、たくさん来ればいいんだけど、それで渋滞したらまずいとか、そういった課題が出てくると。

塩野:ただ、すみません。今、話していて思ったんですが、私は今、ある意味、旧来型の観光地の観点からしゃべってしまったかなと思っているんですね。

つまり、観光客の方がめぐるルートとそれから地元の人が住むルートというものが、これまでは線を引かれていてまったく別だという前提だったとすると、それは「こっちに入ってきたら困る」という話だったと思うんですけれど、やはりそこの境界線が今少しずつ消えているという意味では、観光であろうが、地域の人であろうが、これを線引きすることにはもはや意味がなくなっているのかなとも、思いました。

江藤:そうですよね。今、僕は海外でやっているんですけれど、国内で20年ぐらい、いろいろと地域づくりをやっていました。

例えば、地方にコミュニティバスってあるじゃないですか。病院に行くための足。でも、だいたい空気を運んでいるところが多いですよね。そういうものに観光客がうまく乗ることによって、その空間をシェアできないかと考えると、二次交通がoffenseとdefense両方のチームが入っているようなことができて。

おそらくライドシェアの基本的なシェアリングエコノミーの考え方というのは「空気運ぶのがもったいないので……」ということですよね。そこにうまく人を集めていくような仕組みができると、融合できる可能性は当然あると思います。

ライドシェアは既存の交通を“ぶっ壊す”ものではない

勝瀬:オンデマンドというところがカギなんだと思いますね。需要のあるところに供給を出すというのがシェアリングエコノミーのすばらしいところで。先日、WILLER TRAVELの村瀬(茂高)社長とお話を……。

江藤:バスの?

勝瀬:バスのところですね。彼がおっしゃっていたのは、公共交通の場合、需要があろうがなかろうが関係ない。それはインフラだから。WILLERさんの場合は、「いや、そうじゃない」と。「観光で稼ぐためにどこでお金が稼げるかということで、どの路線を作るか決める」とおっしゃっていらっしゃいました。

そういうところで観光をどうするのかというのが、今日の切り口。公共と実業の境目というのは、稼ぐ気持ちがあるかどうかというところにあると思います。

江藤:そうですね。つまり、決まったルートやダイヤで走るだけじゃなくて、そこを柔軟に組み替えることによっていろんな可能性があるということですよね。

:いいですか?

江藤:はい、どうぞ。

:よく「ライドシェアがタクシーをぶっ壊す」みたいなことを言われるんですけど、僕はそれはちょっと違うなと思っていて。まさに公共交通手段なので、赤字だからやめるということが困る地域って絶対あると思うんですね。

全体で公共交通として担うべきところと、足りないからシェアリングエコノミーで賄っていこうという分野と、それぞれ問題が違うと思うので。

例えば、一元的に全部シェアリングエコノミーはダメだというのはやっぱり違うし、だからといって今の既存産業を壊してもいいのかというと、それも違うので、そこは共存できるような法改正や我々の取組みが必要になってくるんだろうなということはすごくよく思います。

江藤:つまり、今この壁というものを書いてあるんですけど、レガシーな交通業者もシェアの仕組みを考えることによって、新たなソリューションを作れるかもしれないですよね。

実は、観光タクシーというものが地方ではあって。2時間乗り放題、何千円とかで、観光地を回るみたいなことに実際にトライされてるところもあります。そういう意味では、そこに相乗りすれば、効果的にリーズナブルに観光地を巡れるかもしれないです。

ガイドのマーケットプレイスの可能性

そして、紀陸さん、先ほど、2人1組のユニークなTOMODACHI GUIDEをご紹介いただいたんですが、人の動きを作れたとしても、今度は、そういう意味で、従来の通訳案内士や地方のいろんなボランティアガイドから、敵視される可能性があるんですけれど、このあたりはいかがですか?

TOMODACHI GUIDEを実際に作られて、2つの職能を合わせることによって、1つの新しいガイドができるというものは、地域でどういうふうに受け入れられて、あるいは、学生の人などがどういう気持ちで今これをやろうとしているのか。

紀陸武史氏(以下、紀陸):学生はもう楽しんでますよね。国際交流をしたいので。日本って島国じゃないですか。だから国際交流をしたくてもできる環境がないし、「海外に出て学びたい」と思う瞬間が海外よりはもっと後ろのほうになるので、社会に出てからそれに気づく人がやっぱり多くて。だからこそ、手を伸ばせば学べる機会がそこにあるというのは、とてもよいことだと思っています。

よく、「通訳案内士の方と喧嘩してるんじゃないか」「ボランティアガイドとぶつかるんじゃないか」みたいなお話はいただくんですけど、まったくそんなことなくて。

僕たちはプラットフォームなんですよ。Amazonであり、楽天であり、いろいろあるじゃないですか。そのなかの、ガイドというかたちの1つのマーケットプレイスだと思っているので。

別にプロガイドの方に登録していただいもいいですし、ボランティアの方は価格0円にしてやればいいし。それはその人が選べばいいと思うんですよ。

またペアのかたちもいろいろあって、先ほどありましたけど、観光タクシー、まさにタクシーの運転手さんと学生で今、組んでやろうとしていますし。

江藤:そういう組み合わせも。

紀陸:あります。それはお寿司の職人と学生が組んでもいいし、留学生と大学生だっていいし。その組み合わせがまた多様でおもしろいねということになっているので、あまり壁は感じていないです。

江藤:これ、みなさん驚かれたと思いますけれど、留学生と日本人がペアになってガイドするケースもあるということですね。これってすごく可能性があると思いませんか? 相手の国によっていろんなパターンができたり、当然日本語を勉強されている海外の人もそこに入ってくるということは、その人たちにとっては、例えば、好きになった日本を案内するような1つの機会になると思うんですよね。

このあたりがおそらくTOMODACHI GUIDEという、画期的な発明だと僕は思うんですけど、いかがですか? 受け地側から見て、そういった新しいスタイルのガイドさんがいるという。

塩野:ぜひ島原でもこのサービスを紹介したいと思うんですが、あの、そうですね……「やってくれる人がいるかな?」というのが素朴に(笑)。

自治体の方もたくさんいらっしゃると思うので、「地元だったら誰がやるだろう?」ということは、たぶん地元に大学とかがあれば、すごく積極的な学生さんとかがやってくれるかなという気もするんですけど、逆にそういうのがないところ、本当に田舎みたいなところだと、どういう人が協力者になってくれるのかというところを教えていただければと思うんですけれど。

地方は「人材の壁」をどう越えるのか

江藤:では、次にこれを見ていただきましょう。まさに「人材の壁」のお話に入ってきたんですけれど、人材の壁は逆にここなんですよね。

先ほどもお話ししたんですけれど、ホストとゲストが入り乱れる時代というのは、プロかアマかということと、まさに地方と中央とか、そこに大学があるか・ないかによって、担い手のリソースとかが変わってくるじゃないですか。

そういう意味で、例えば地方の国立大学とか、いろんなそういったアカデミーの現場があるわけで、そのあたりの人材を使っていくことができると思うんですけど、この人材リソースの格差というのは、実際に鎌倉でやられたり、今、地方でやられてたりしていて、集める苦労みたいなものってありますか?

紀陸:僕たちは、別に学生に限っているわけではなくて、当然、主婦の方だったり、社会人の方だったり、いずれシニアの方にもやっていただくことはぜんぜん問題ないと思っています。

ただ、ある意味、シェアリングエコノミーってコミュニティを作っていくビジネスなので、一番最初に拡散力があって、柔軟で、未来への向上心を持っている大学生にフォーカスして進めています。また外客の応接を学生がし続ければ、自然と彼らが外客向けのまちづくりの中心になります。そうすれば、まちづくりは自然と未来志向になっていく。そういう流れを作れたらいいなと思っています。

そして、先ほどご質問にあったとおり、地方にはやはり人材がいないんですよね。でも、どうしても僕たちは、地方に外客を送りたい。

IターンとかUターンとかJターンとか、いろいろあると思うんですけど、そういう、その街で働ける仕事があったら戻ってもいい、そこで働き続けたかったという人はけっこういると思っています。でもみんなその選択肢に気づいていない。なので、Huber.がそれに気づくきっかけになれば、うれしいですね。

あと、まだまだ障壁はありますが、高校にもESSなどがあったりするので、一緒に勉強がてら回りましょうというのも可能性があると思います。またJETの方とかもいるので、彼らがサポートしながら一緒に回りましょうみたいなかたちもいいですよね。

そして自分の活動が「街のためになるんだ」という、そういう原体験が得られる機会が増えれば、少しずつ変わっていくと思っています。

江藤:そうですね。

稼げる仕組みが人材をあぶり出す

塩野:ちなみに、島原の場合でいうと、観光協会さんが、ボランティアを集めて、とくに年配の方とかですね。いわゆるボランティアガイドみたいな方の制度がすでにあるわけです。

たぶんほかの観光地でもけっこう似たようなパターンがあるんじゃないかと思うんですけど、それとの住み分けはどう考えたらいいでしょうか?

紀陸:ボランティアでやっていただくのでも、うちとしてはまったく問題はないんですよ。価格設定の問題なので。そしてボランティアで始めるにせよ、僕たちは事前の相談から入るので、信頼関係を築いてからガイドに入っていけます。それはボランティアの方々にとっても、望むべきことなんじゃないかと思います。

だから、そこに一緒に入って登録していただけたら僕はうれしいですし、ぜひご一緒したいなと思っています。

勝瀬:人材の話になったのでちょっといいですか? 今日の午前中のアルン(・スンドララジャン)さんのお話にもありましたとおり、プロかアマかの境界が本当になくなってきていると思います。

ですから、こういう「人材いるんですか?」と聞かれたときに、それはいますよ。間違いなくいますと答えます。「いない、いない」というところにも、必ずいると思います。ただ、そういう人たちが専門家のプロとして存在していない場合があります。アマとしている場合も多いです。稼げる状態にあるかどうか。稼ぐことが今まではできなかったので、顕在しなかったのだと思います。

ですから、さっきとdemandとsupplyの話じゃないですけど、「これで稼げるよ。これで生活できるよ」という状況になったならば、当然それで稼げるわけですから、そういう人たちが表に出て来る。

シェアリングエコノミーの強いところは、そのdemandを作ることができて、今住んでるところにいながら、その享受ができるというところが大きいと思います。

パソナとしてもこれから非常に力を入れたいのは、そういう需要を作った方たちが安心して働ける社会、セーフティネットのようなものを作ることができれば、安心して働けるんじゃないかなと。そういうものを作りたいと思っています。

大切なのは“小さな経済”が生まれること

江藤:そういう意味で人材ということに絡んで、パソナさん、先ほどの説明のなかにもあったんですけど、いわゆる今出たUターン、Iターン、あるいはJターンということで、これが仕事になるかということでいうと、そういったいわゆる地方でのアントレプレナーみたいな、そういうプログラムをやられたりしたんですよね。

勝瀬:そうですね。ファンドがありまして、実際に地方で仕事をやりたいという人たちに対して9割までお金を出して、残りの1割をマッチングしていただければ、創業ができるというプログラムがあります。

すでに3社ほど、東北のほうで震災以降会社が立ち上がっております。このお金の面の支援というものも続けてまいります。

江藤:日本ってNPO法ができたのが90年代後半ですよね。そのあと全国にいっぱいボランティアガイドの組織ができたじゃないですか。

今の議論というのは、このAirbnbの前に、例えばカウチサーフィンみたいなものがあって、無償で泊まりあうものがあって。なぜAirbnbがスケールしたかって、やっぱりそこでお小遣いを稼げるってことじゃなくて、経済の仕組みができたってことですよね。自分のおもてなしをしたいってものが、いわゆるインカムにつながるということは、少額ではあってもモチベーションが高まるじゃないですか。

きっとボランティアガイドさんも、基本的にはリタイアした方とかが本当にボランティアでやるんだけど、若い人がこれをやるというのは、紀陸さんのお話を聞いていただいてみなさんおわかりになると思いますけど、おそらくやっている方というのは、日本の伝統を学びながら、英会話教室に通ってるようなものなのかもしれないですね。

まさに片言の英語でもいいんですね。通訳のプロの英語力を問わないんですよ。逆にそういった味のある、必死で語学の壁を越えて話そうとする、日本の自分の魅力を語ろうという人に会ったほうが、流暢な英語をしゃべって当たり前の事実を語るガイドさんよりも、実はプライスレスな味がある、ここがシェアリングエコノミーの温度感だと思うんですね。

きっと地域の方々も、「自分が地域の伝統を語れる」とか「語学力を活かせる」というなかに、そこを入れたときに小さな経済があるというか、それでみなさんが新しい仕事をするときに、おそらく勝瀬さんが今おっしゃっていた働き方の変化とか、ライフスタイルの変化というので、「どこかに企業に雇われています」じゃなくて、極端にいうと、季節ごとにいろんなところでガイドをすれば、それでひょっとしたら仕事が成り立つかもしれないですよね。そういったpermanent travelerみたいな生き方も、シェアリングエコノミーによって可能なんじゃないかと思います。

本当に市場はスケールするのか?

では、時間もなくなってきたので、最後3つ目の壁ということで、今度はプロ・アマとか、こういった責任感とかも越えて、3つ目「市場拡大の壁」です。

「本当に今の話、担い手は集まるの?」、あるいは「お客さまは来るの?」と、市場拡大の壁、こういうふうに書かせていただきましたけれど、「本当にこれって大きくスケールしていくかな?」というところを。

大切なのは、着地としてdefenseとしてのサービスは、ガイドもおもしろいものができる。二次交通も可能性がある。そして地域でも、これから株式会社のDMOができてがんばっていくというなかで、今度はお客さんに来てもらわなきゃいけないですよね。

ということは、ここの議論だけじゃなくて、シェアリングエコノミーによって日本中の自治体とか観光地が活性化して、本当にお客さまが来るのか? このあたり、いわゆる市場がスケールするのかということで。

とくに塩野さんにお聞きしたいのが、株式会社になったということは、次の株主総会では経営成果を問われるってことですよね。つまり、待ったなしで、観光が健全な赤字ではなくて、この組織でもって人を呼び込んでいかなければいけない。このあたりのいわゆるoffensiveな取組みっていかがでしょうか?

塩野:ちょうど来月最初の設立総会をやるということで、今、準備をしてるんですけれど、株式会社になることが決まったときに、今、観光協会で働いているスタッフが自分のところに来て、「いや、しかし、株式会社ですか……」と困った感じで、「株式会社になって潰れちゃったら……どうしましょう?」みたいなことをおっしゃったわけです。

ある意味、それはすごく健全な反応なのかもしれないんですけど、自分の心の中では少し「しめた」と思ったところもありました。やはり今までは、「潰れるかもしれない」という緊張感が薄いなかで、地域の人とのつながりのなかで観光サービスを提供するという気持ちだったんだなと。

今、なにが起きているかというと、自分も含めてそうなんですけどスタッフ1人ひとり、車両1台リースすることすら、震えながらやっている。潰れたらやばい、と。そういう緊張感がもたらされたということでは、すごく成功だったのかなと思っています。

江藤:つまり補助金頼みで観光開発をやっているときにはなかった緊張感が出てくると。

塩野:そうですね。どうしても観光DMOというのは、観光庁、今一生懸命やっていますけど、マーケティングの強化とかよりも大切なことは、自律的な組織になっていくかというかということ。つまりは自主財源をどう確保していくかではないかと思っています。

これは決して自分で売上をあげるということだけではなくて、アメリカのように、特定財源、観光税とかですね、そういったものを取る組織もありますけれど、日本の場合にはなかなかそういったことがすぐには難しいので、当面は株式会社化をして売上をあげていくという方向に舵を切ったということです。

株主だからこそのコミットメントに期待

江藤:先ほどの資料では1口2万円の株主……。

塩野:そうですね。

江藤:やっぱりこれもおもしろい仕組みですよね。株主としては、自分が株主だからこそ、この組織を活かさなきゃいけないというモチベーションが当然あるわけです。

塩野:そうですね。今までは観光業界とか一般財団法人というのは、一部の理事さんとか評議員さん、あるいは街の有力者の方が集まって、商工会の会長さんだったり、商店街の会長さんとかが集まって、組織の議論をしていたわけですけど。

来月250人がもし集まって議論をすれば、みんなが我がこととして、自分の貴重なお小遣いの2万円がどう使われるかということになりますので、そういう意味では、このシェアリングエコノミーを通じて、「じゃあ、俺もなにか提供するよ。じゃないと売上があがらないんだろう?」という流れになることを期待しています。

江藤:クラウドファンディングで1万、2万出しているのはいるんだけど、出資して株主になって、自分が当事者になるという意識が出てくるのはおもしろいですね。

Huber.さんや、nottecoのサービスを使って地域で、例えば会社ができてくるというようなことはあり得るんですか? つまり、地域でそういったDMOができて、このサービスを使うというようなパートナーシップというのが、プラットフォーマーとしては可能性は?

紀陸:そうですね。Huber.からお話しすると、観光DMOさんからも30ぐらいの地域からお話をいただいているんですよ。やはり市民ガイドを活かせる仕組みを作りたいと。

ただ、僕たちはプラットフォーマーなので、緩く浅く、「一緒にやっていきましょう」「ゴールは一緒だけど変な提携とかいらないよね」みたいな、そんな感じでやってます。

ただ、もちろん株式会社で利益をあげなきゃいけないので、当然お客様を送客いただいたら、相応のフィーを返すとか、そういうことはぜんぜんいくらでも設計できるので、ぜひ一緒にやりたいなと思っています。

江藤:そういうことだと、30のDMOからお声がかかっているって言ってますけど、今、全国でDMOは110ぐらいですから、もうすでに30パーセントがHuber.さんに注目しているってことですよね。

紀陸:まったく対応できていないですけどね。

(会場笑)

紀陸:もうまったく対応できていない(笑)。

一人ひとりの意欲がカギになる

江藤:nottecoさんはどうですか?

:nottecoを通してDMOを作るという?

江藤:地域のDMOからそういったオファーとか来るんですか?

:どちらかというと、観光とかそういうものに特化せずに、地域でインフラとして、例えば「ある町から隣町のところまで買い物に行きたいんだけど、おばあちゃんが行けない」みたいなところで、地域の人にボランティアしてもらって乗せるプラットフォームがほしいとか、そういう話はよく聞いています。これはもうかなりいろんな自治体からお声がけいただいて、昔もあるところに導入させていただいたこともあります。

江藤:具体的な事例として?

:そうですね。

勝瀬:協会と提携させていただいた理由はそこにもあります。Huber.さんのように、いろんな自治体から声かかるけど実際に自治体のプロジェクトを運営するとなると「プロジェクトマネジメントしないきゃいけないですよね」「利用者増やさなきゃいけないですよね」「サプライ増やさなきゃいけないですよね」というところがスタートアップが多いシェアエコ、プラットフォームだけでやるというのはなかなか難しい。パソナでお手伝いできるんじゃないかなと思っています。

江藤:そういうことですよね。もっともっとお話ししたいんですけど、1時間は短いですね。最後、締めさせていただくんですけれど。

そういう意味では、いろんなプレイヤーが、この観光分野におけるシェアリングエコノミーで出てくるんですけど、1社1社じゃなくて、やっぱりつながりですよね。

それぞれのサービスの魅力を、現場でやる方、そしてそれをつなぐセクター、いろいろ出てます。そこに行政もいろいろと絡んでくると思います。ただ、やっぱり主役は1人ひとりのガイドをする方なり、ドライバーでありという、そこは間違いなくて。

シェアリングエコノミーというものは、最終的には1人ひとりの方の意欲みたいなものが、日本を観光立国にしていくんだ、と。そういうサービスなんじゃないかなと。拙い進行で、まだまだ議論したかったんですけれど、ぜひまたシェアリングエコノミー協会のなかでもやりたいですよね。「観光立国をどう考えていくか」。

ということで、いろんなヒント、きっかけを掴んでいただいたんじゃないかなということで、このセッションを終わりとさせていただきます。みなさん、どうも本当にありがとうございました。

(会場拍手)

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