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【直前対談】落合陽一×小柴満信(全2記事)

2016.12.13

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落合陽一×JSR・小柴満信が“ハードウェアの未来”を語る「日本は非常にいいアドバンテージがある」

提供:SEMIジャパン

IoTやAI、ディープラーニングなどさまざまな技術が登場しているICT分野。しかし、ハードウェア分野がソフトウェア分野に比べて盛り上がりに欠けているように感じるのはなぜでしょうか。本パートでは「SEMICON Japan 2016/ WORLD OF IOT」に先駆けて、メディアアーティストの落合陽一氏と、JSR代表取締役社長の小柴満信氏が対談。スタートアップと大企業の「棲み分け」、そして大企業が次に狙うべき領域について語られています。

スタートアップと大企業は役割を棲み分けるべき

小柴満信(以下、小柴):日本のハードウェア業界が、今のままではいけないとはわかっています。ですから、我々もきちんと話し合おうと思っています。とはいえ、石油化学の大きな工場を持っている身としては、世界から見て、競争力をどう保つかも大事な問題なんです。

大企業にとって「新しいものを作り出す」は、既存事業の競争力を維持しながら戦うことを意味します。例えば、工場全体をIoT化し、いろいろなデータをとって……と、できるかもしれない。しかし、製造現場は雑音が多くて、今の技術ではデータを簡単に取れる状態ではないです。IoT化は、言うほど簡単ではありません(笑)。

最近の工場では、たいていがロボットによる配送となっています。そうなると、今度は人間が働く必要がなくなるわけです。しかし、すでに40〜50年は経っている日本の重厚長大な設備産業を、古い産業のまま放っておくわけにはいきません。こういったレガシーな設備をどう生きながらえさせるかも、大企業にとって大きな課題なんです。

落合陽一(以下、落合):僕のなかで、スタートアップと大企業では、それぞれ役割が違っている気がしているんです。

例えば、小さなスタートアップだと、そもそも無線通信の部分を実現が難しかったりします。そういうところがプラットフォーム化されていて、「そこは別に設計しなくていいよ」とソリューションを提供することは、大企業にとってすごくいい事業だと思うんです。

小柴:役割の棲み分けですね。

落合:IoTとはいえ、一般的なイメージは先ほどお話したような、出かけようとしたら腕時計が天気を知らせ、自転車にはサイクリングメーターがあり、子供には見守り用のセンサーかなにかがついていて……みたいな。イメージ先行のままでいくと、「そのサイクリングメーターは誰が作るの?」「見守りセンサーは誰が作るの?」となりがちです。棲み分けとしては、そういった個別のアプリケーションは、スタートアップがやるんですよ。

では、大企業はなにをするのか。その上の部分、技術のベースとなるところを作っていくものなのだと思っています。今こそ、パイの奪い合いに参戦すべきです。

例えば、音声認識ではAmazon Alexaがあり、Siriがある。その奪い合いのなか、GoogleやApple相手に日本企業がどこまで食い込めるのか。もしくは、今までにないような全然違った方式を出せるのか。そのあたり、けっこうおもしろそうですよね。

それでいうと、今こそハードウェアだと思うんです。ソフトウェアは、プラットフォームのほとんどを取られてしまっています。安くて誰でも使えるハードウェアで、その領域でどう出していくかがキーだと思います。

新領域として「健康」は狙い目

小柴:今のプラットフォーマーには、GoogleやFacebookなどがあります。本当にとんでもないデータを集めて、AIなどを開発しています。でも、まだそういった企業に手を付けられていない分野がいっぱいあります。例えば、健康です。

落合:健康もそうですね。

小柴:今、お医者さんにいろいろ診てもらっていますけれど、その診断部分をなかなか自動化できていません。

落合:お医者さんがカルテに書いている内容は、最も重要な情報なんですよね。でも、自然言語で書かれているから、人によって記述がまちまちなんです。投薬は電子カルテで選ばれるようになっていますが、自由記述にある「どこが悪い」などは、情報が埋もれているんです。そこをいかに自然言語解析するかが、今わりとホットトピックだったりします。

Googleの認識技術が上がったように、自然言語から情報を抽出する機械学習の精度も向上しています。

小柴:実は今、胸のあたりにこういった機器をつけているんです。(胸につけている機器を見せる)これですね。ちょうど1週間くらいつけています。

落合:心臓の情報をとっているんですか?

小柴:心臓と呼吸、それから体温など、7種類くらいのバイタルサインをチェックしています。

落合:なるほど、すごい!

小柴:この機器をつけておいて、同時に、自分で1日のなかでなにをしたかを記載しておくんです。

この機器はアメリカのベンチャー企業のものですが、専門の医師や医療機関も一緒になって試験をしているところです。ビッグデータ解析を活用して持病と生活習慣との相関を分析するなど、通常の健康診断といった一時の検査ではなかなか見つかりにくい無呼吸症候群、不整脈などがわかります。

この分野に関しては、まだまだお医者さんが中心です。カルテなども、全然データ化されていない状況です。プラットフォームとして、まだまだやれる余地がたくさんあると思います。特に日本は、長寿という意味では今、世界で一番データを持っています。

大企業は、そういったことに気づき始めていると思います。化学産業のなかでも早い段階から着手している企業もあります。そんななか、猛スピードでやっている印象があるのが、通信業界です。やはり、ソフトウェア寄り、通信寄りの人たちのほうが感度も高いのかもしれないですね。

他の業界の反応はどうかというと、気付き始めているけれど「じゃあどうするの?」で立ち止まっていて、そこから、なかなか一歩前に出られない状況です。動きが遅いんですね。

未取得かつシェアされていないデータは大量にある

IoTなどについて、いつも「とにかくやってみればいいじゃないか」と言っています。ビジネスにすることを考える前に、まずやってみる。大企業の人たちは、すぐお金儲けの話にしようとしますが、やってみることが重要だと思います。

落合:そうですね。どのくらい儲かるかの話がベースになってしまう。

最初にやることが、けっこう重要なんですよね。TryFirst。まずやってみて、課題を見つけて、事業領域が重なったところがあればおもしろいとなる。「それで儲からなくても別にいいじゃん」は、最初からあったほうがいいと思うんです。

この世界に、未取得かつインターネット上でシェアされていないデータは大量にあります。それをどれだけ取得し、進めていけるかが大事です。

健康分野に関して言えば、Appleのヘルスケアアプリも、きっと「具体的にどう運用するか」は決めかねていると思うんです。歩数や心拍、睡眠など一応記録できますが、それを落とし込むところまでたどり着いていない。だって、自分の今日の心拍をTwitterでシェアする人は、おそらくいませんよね。どこもすごくあがいている感じがあるからこそ、日本の企業が先取りしてしまうのはおもしろいと思いますね。

どういったエンジンで解決するかは、大きな企業が作る。それを運用して、社会をどうしていくかはわりとローカルな話だと思っています。

小柴:そうですね。最近、「とにかく事業戦略を作ってから、調査してから」となりがちですが、昔のタイプのままではいけないと感じています。ちょっとやって失敗して、またちょっとやって失敗して。これをくり返して、新しい道を見つけていくのが一番いいと思います。

今の時代、ビジネススクールで習ったようなことは、基礎としては役立つけれど、まったく違う状況も存在します。本当に「セグメンテーションが……」などと言っている場合じゃないんです。もちろん、ビジネススクールで習ったことは、クラシックミュージックのような大切な基礎として覚えておいてもいいですが、それにとらわれる必要はないと思うんです。

私は、新しいことをやろうとしたら、大企業の組織から子会社化してスピンアウトするのが適当だと思います。要するに、外へカーブアウトするんです。会社本体の事業部では、やらせないという考え方ですね。

落合:それが正しい気がしますね(笑)。

日本は今、エコシステムを作るいいタイミング

違う事業領域のものとコラボするのであれば、その会社を買収するのが一番早い選択肢になりますよね。僕は、それでもいいと思っています。

スタートアップを始めたときも「この技術をラボで死蔵させるのはもったいないから、どこかの会社が買ってくれたらスピンオフするよね」といった話をベースに作っていたりするんです。非常に活発に会社の権利の売買などがされるようになるといいなと考えているんです。

とくに半導体業界はそういったパワーがある会社が非常に多いと思うので、違う領域をちょっと「あの会社おもしろそうだな」と買ってみるなどしてくれるといいんですけれどね。

小柴:そろそろ、半導体を作るところから変わっていかなくてはいけないですね。そのなかの1つの流れとして、IoTへの取り組みをやり始めているのは、みんな理解できてきたと思うのですが。

日本は今、政治も安定しているし、先端技術やそれを提供するサプライヤーがそれなりに揃っていて、いろんな意味でいいポジションにいます。これをきっかけに、日本に大きなエコシステムができるのが一番いいと思います。

韓国、台湾、中国では、今はまだエコシステムは作れないです。中国には、先ほど言われたような「ものをちょっと作るエコシステム」はありますけど、これは全体的な新しいイノベーションを生み出すものではないんです。

落合:確かに。台湾と韓国はちょっと違う。中国の下のほうは最近、やたらわけがわからないことをやってくるんですけどね。

小柴:彼らはものを組み合わせることや水平分業的なところは、非常に得意なんです。ただ、エコシステムは垂直にないとダメだと思います。

基礎から製品までの垂直のバリューチェーンは、なかなか中国には難しい印象があります。まだまだ時間がかかるでしょう。そうすると、日本には非常にいいアドバンテージがあります。私たちはそういうエコシステムをなんとか作っていきたいし、いいものであればどんどん外から持ってきてもいいと考えています。改めて日本は今、いい位置に立っているのだと思いますね。

それにしても落合さんの超指向性スピーカー、楽しみです。

落合:プロダクトはもうできています。今回のSEMICONでも展示する予定なので、そちらでもぜひ。

小柴:今回のタイミングを活かして、大企業の人には「半導体の次は……」ではなく、もう少し頭をフレキシブルにして、事業外かもしれないプロダクトを、見に来てくださるといいなと思います。

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