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田舎でもcreativeに生きる鮮魚店(全1記事)

2016.12.20

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3.11で失った「4000」をいかに取り戻すか--南三陸町の老舗鮮魚店が再構築する“自立した環境”

提供:サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社が主催する「Cybozu Days 2016」のなかで、「kintone hive ~kintone AWARD ファイナリストによる事例講演〜」が行われました。今回は34件から、5人のファイナリストを選出。本パートでは、創業65年目の株式会社ヤマウチが登壇。3.11で失った「和気あいあいと暮らせる町」を目指し、自立した環境を作るためにkintoneを活用した事例を紹介しました。

3人目は、創業65年目の「田舎でもクリエイティブに生きる鮮魚店」

伊佐政隆氏(以下、伊佐):次の事例、ファイナリストにご登壇いただきたいと思います。3番目は株式会社ヤマウチの山内専務にお願いしています。

山内恭輔(以下、山内):みなさん、こんにちは。株式会社ヤマウチの山内と申します。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

今日は「田舎でもクリエイティブに生きる鮮魚店」ということで、「南三陸町みたいな田舎でも、クリエイティブにこれからならなくちゃいけないんじゃないか」「そのために、我々はkintoneを使ってこういうことをしてきました」という事例をご紹介します。

株式会社ヤマウチは、創業65年目くらいになります。鮮魚店から始まりまして、今は水産加工をしています。魚を使ったり、魚介類を使った水産加工品を製造する工場が2つあります。あとは、eコマースですね。インターネットを使って、全国のお客さまに直接、旬の魚介類を販売する。こういう業態で、うちの会社は成り立っています。

私が事業をやっているのが宮城県の南三陸町というところでして、ちょっとわかりづらいですけど、黄色いところが仙台市になります。ここから上の青いところが南三陸町で、だいたい車で90分くらいかかる場所にあります。ほぼ宮城県の一番上のあたりですね。

宮城県沖は、上下の海流が交わるところで、俗に言う「世界三大漁場」と言われている場所です。だいたいこの沿岸の地域で会社をやっているところは、ほとんどが海産物の恩恵を受けての事業や商いがほとんどです。

震災前の南三陸町の写真を、今日お借りしてきました。南三陸町も同じく、海の向こうを見ると、すごく養殖のポンポン、ポンポンというものがあります。養殖業と、あとは、漁師さんが魚を捕ってきて、それをB2Bで売ったり、B2Cで売ったり、という会社がほとんどです。それで成り立っている町です。

3.11から考える「10年後の港町構想」

これは僕が撮ってきた、現在の南三陸町の写真です。

みなさんご存知のように、3.11の津波で、町の8割くらいが消失しました。震災後5年が経ち、山を削って、昔は家が建っていた場所に、ポコポコしている部分が10メートルほどかさ上げされるような状況です。

「-4000」。これは震災後、減少した人口の数なんです。現在、南三陸町の人口は1万4,000人です。震災前は1万8,000人。この「4000」という数字のなかに、亡くなられた方も含まれていますが、町外への流出もあります。

やはり再建できない会社や仕事がないなど、若い人はどんどん出ていく現状も否めません。2030年には人口が9,000人代となる予想が出されています。

「これはなんときゃしなきゃいけない」とすごくいろいろ考えました。そこで考えたのが「10年後の港町構想」です。10年後、どうやったら人口が戻り、昔のように和気あいあいと楽しく幸せに暮らせる町になるのかを考えました。

「うちの田舎にはいいところがたくさんある」と自負している人達は田舎には多いと思いますが、そもそも心から誇りを持って働く環境を会社が提供できていないこと、それが田舎の弱さだと考えました。これに、我々は着手しようということになりました。

とはいえ、鮮魚店もやりつつ水産加工品も作っている会社は、みなさんからすると「魚を仕入れて、売るだけなんでしょ?」「冬は寒いから嫌だ」「工場でずっと魚をさばいてるだけなんじゃないか」というイメージがもちろんあります。これは地元の人間のなかでもあります。

つまり「水産業は、楽しくない仕事なんじゃないか」というイメージがあるんですね。我々水産業は非常に人手不足なんですが、この「楽しくない仕事」「つらい仕事」というイメージで、非常に今大変な状況になっております。

そこで僕が考えたのが、社員1人ひとりが自立した環境を作ること。どういうことかというと、トップダウンではなく、田舎の人間1人ひとりが自分で意思決定して、仕事、業務を進めていく。例えば、魚を仕入れて売る価格を自分で決めたり、インターネットで販売する商品の企画を考えたりとか。

それを僕のような専務、もしくは社長に聞くのではなく、自分でどんどん意思決定していけば、自分事になるわけです。そしてそれがやりがいにつながる。そういう環境を作っていく結論にたどり着きました。

FAQアプリで周囲の疑問を大小問わず蓄積

では、具体的にどこから着手すべきか。それはトップダウンではなく自分たちが考えるためのデータベース、業務の可視化という点にたどり着きました。そのとき、僕の知り合いでIT関連をやっている方がうちに来まして、目の前でkintoneを使ってアプリを作ってくれたんですね。そのとき、非常に感銘を受けて、その場ですぐ「契約します」となりました。

ちなみに、最初はどこの会社さんも一緒だと思いますが、とくにうちみたいに小さい田舎の会社は、ITに慣れていない。日々のデータを入力すること自体が面倒くさいんですよね。当社も入力させるまでにけっこう時間がかかりました。でも会社の営業といった、パソコンを使うような業務に関しては、合言葉は「kintoneに入力する」「kintoneを見る」として、データを蓄積することを心がけてもらいました。

そうすると、見えてくるものがあるんです。だいたい半年から1年くらいかけ「なるべく入力するように」とスタッフにお願いしました。結果、データが蓄積されてくると自分たちにとっていいことばかりが起きてきます。

うちはkintoneを特別にカスタマイズするなど、一切ありません。自分たちで作れる範囲のアプリを活用しています。例えば、案件管理でもテンプレートをそのまま使っていますが「営業担当が変わっても、1つのページで過去のやり取りを時系列で追えるようになる」。つまり、いちいちメールやExcelを開いて……という手間が省けたのです。

製造・出荷の場合もしかり。今まで紙を使っていろいろ指示をしてましたが、工場のおばちゃんたちにiPadを持っていただき、指示書やマニュアルをすべてkintoneで作り、彼女たちがそれを見て、出荷をしたり、製造をしたりしてもらうかたちに変えました。

こうすることでB2Bに関しては、見積もりなど、いろんなやりとりの時間が削減され、それを社員全員が見られる。極端に言うと、担当じゃない人、担当じゃないスタッフでも、ある程度は返答できるスタイルが確立しました。

それと、当社は特にeコマースに力を入れていますが、例えば、お客さんから「サンマが届いたんだけど、食べきれないので保存するのにはどうしたらいいの?」といった問い合わせが寄せられるんですね。年配のお客さまが多いので、電話のついでに聞かれることがあります。

今までは、常に、返答に困ったスタッフから私の携帯に電話がかかってくる状況でした。「これはどういうふうに返答したらいいんだ?」とか、そういう電話がすごく多くて。出張に行っているときなど、非常に困ったこともありました。

そこでFAQのアプリを作りました。ある程度は検索できるようなかたちにして、小さなことでも不明なことでも、回答をどんどん蓄積できるようにしました。そうすると、私にかかってきていた電話は一切なくなりました。また、新人スタッフが入っても、これまでのFAQが共有できていることで、スピーディーに返答できる。今ではよくお客様から「すごく返答が早い」という声をいただくまでになっています。

例えば今、eコマースに関しては、商品企画や価格決定も、スタッフがやっています。MQ会計を使い、「この商品をどれだけ売ったら損益分岐点になるのか」といった表もkintoneで作っています。それによって、価格決定と販売目標を、ほとんど僕の指示なしで、彼女たち……20歳や40歳の女性たちが行っています。

業務を見える化することで、作業時間を短縮

ほかのファイナリストの方々もおっしゃっていますが、kintoneを導入すると、とにかく時間が短縮されますよね。それによってなにが起こるかというと、サービスにかける時間的な余裕ができます。その分、いろんなこと考えられる時間が非常に多くなる。

結局、自分たちで考えて行動する「意思決定」のところまで、考える時間を生み出した。会社のなかに余裕ができたことが、非常にあります。すごく実感してます。

先ほどお話した商品企画については、お客さまからの電話やメールなどで、非常にいろんなヒントをいただくことが多いんです。でも。それらのヒントは忙しいとどうしてもスルーしてしまいます。だけど、時間に余裕があるから、それをkintoneに入力する作業もでき、どんどんお客さまのデータも蓄積される。

そして「それを形にしよう」「コンテンツページにしよう」という結果が、写真を撮ったり、動画を撮ったり、文書に置き換えるコンテンツ化。それと社内FAQです。

今までは、それらのほとんどを僕が1人でやっていました。でも今は、スタッフからの「写真を勉強したい」「動画を勉強したい」という要望もあり、定期的に勉強会を開いています。今はもうスタッフが商品写真もプロ用のストロボを使って撮れますし、動画も撮影できます。動画も編集できるスタッフもいます。

それと食品に多いのがレシピです。単純なんですが、レシピや素朴な疑問などお客様の役に立てるページをどんどん増やせる余裕が生まれているんです。そしてそれをコツコツと実践していったら、自社サイトのアクセス数が飛躍的に伸び、売上も上がる結果になっています。

田舎ですから、今までトップダウンでやってきた会社がほとんどだと思うんです。ですが、スタッフが自分で考え・自分で取り組み・責任を持って意思決定し、結果、それが自分に返ってくる。これは非常に創造的でクリエイティブなことだと、僕は思っているんです。

主婦の方、高校卒業したばかりの女性社員など、そういう彼女たちにも意思決定できる環境を作ることが、今でき始めていると思っています。これはkintoneによる、見える化、時間短縮といったことが、非常に関わっていると思います。

kintone導入と同時くらいに、ちょうど新しい工場と事務所を建てました。

職場は、1日の大半を過ごす場所です。うちは女性が非常に多いので、殺風景なオフィスよりcafeのようなとにかく居心地のいい空間にしようと、がんばってオシャレな家具を買ったりとかしました。せっかくならオシャレな空間で働きたいという気持ちは必ずあると思います。最初はこういうハード面から、kintoneの導入とともにスタートしました。

「専務はいなくていいです(笑)」の環境

kintoneの良さは、やはり「誰でも簡単に作れること」ですね。最初のころは、僕が作って運用していたんですが、今ではスタッフが自分で作成しています。その容易さが、kintoneの魅力でもあります。

それと、クラウドということです。クラウドならいつでも誰でも同じ画面を見れる。僕は出張が多いので、iPhoneで全部やっちゃいます。実は今、kintoneのおかげで指示ゼロ経営というのを実践しています。まったくスタッフに指示せず、「自分で考えて、自分で意思決定していいですよ」という経営スタイルです。でも、最終的責任は取ります。だから、「自分たちで考えて、のびのびと運営していってください」と言っています。

僕は出張がほとんどなんですが、今では、社員からのメールも電話もほとんど来なくなりました。時々、サイボウズのメッセージ機能で「これ、どうしたらいいですか?」と来るくらいです。

時々会社に帰って面談をすると、「専務はいなくていいです」「私たちができます」と言われる(笑)。そうなったのは、本当にkintoneのおかげと思います。

プラス、kintoneを入れて驚いたのが、実は12月は繁忙期です。お歳暮の時期ということで非常に忙しいんですが、それでも残業がほぼゼロの状況が実現できています。これは非常に助かっています。

最後になりますが、僕は3.11のときにすごく思ったことがあるんです。それは人間いつどうなるかわからないということ。なんのために働くのか、そういうことを非常に考えるようになりました。

プラス、会社としての在り方を、すごく突き詰めるようになりました。やはり社員が笑顔で、元気で、楽しく幸せに暮らしていけるのが、僕の一番の幸せなんですね。だから、我々はそういう環境を提供し、整備する。それが経営者、僕の役目ではないかと思っています。

以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)

伊佐:ありがとうございます。働く環境から考えてシステムを導入するという考え方、すばらしいなと思いました。

山内:はい。

伊佐:みなさん、山内さんの話、もっと聞きたいですね。ナイトイベントもありますので、またそこで直接コミュニケ―ションをとっていただけるとよいかなと思います。改めまして、ありがとうございました。

山内:ありがとうございました。

(会場拍手)

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