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未来会議『2020年“エンジニアショック”は起こるのか?』(全2記事)

2016.05.10

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2020年以降の“エンジニアショック”とは何か 佐々木俊尚が読み解くIT市場

提供:株式会社PE-BANK

2016年4月19日、株式会社PE-BANK主催の未来会議『2020年“エンジニアショック”は起こるのか?』が開催されました。モデレーターを務めるジャーナリスト・佐々木俊尚氏は、登壇したMCEAホールディングス・齋藤光仁氏、エルテス・菅原貴弘氏、プロエンジニア代表・尾張孝吏氏の3名と、ITエンジニアの市場動向の変化と2020年以降に求められるスキルについて語り合いました。

「2020年“エンジニアショック”は起こるのか?」

佐々木俊尚氏(以下、佐々木):今日はどういう話をするのかというと、ご存知のように、今2020年に向けて、マイナンバーの需要が高まり、同時に人材に対するニーズがすごい勢いで高まってくるであろうと。

これはIT業界だけじゃなくて、日本全体で「2020年、オリンピック以降どうなるの?」ということが話題になってますけど、そこでどういう状況変化が起きるのか?

さらに、その背景にはいくつかの要因があります。1つは、ここ数年ずっと続いているオフショア化です。それがどういう影響を与えるのか? もう1つは、プログラミングがどんどん自動化していくという状況があります。これがITエンジニアにどういう影響を与えるのか?

そのへんの背景を踏まえつつ、2020年以降のIT業界がどうなって、そこで「人材」がどのように扱われるようになるのかという話を掘っていければと思います。よろしくお願いします。

まず最初の、「現在のITエンジニア業界の動向。2020年にかけて続くエンジニアバブルを紐解く」というトピック。

今、エンジニアの人材の市場の動向はどうなっているのかというあたりからお話を聞きたいと思います。まず齋藤さん、最近の市場動向を少しうかがえますでしょうか?

齋藤光仁氏(以下、齋藤):「人材が不足している」ということはあちこちで言われております。募集しているところはもう必死でやっておりますけども、なかなか人材が見つからないというのが現状です。

私どもはフリーのエンジニアを共同受注というかたちでいろんなプロジェクトに参画させているわけですが、一度プロジェクトに入って、その企業に入っていきますと、なかなか出てこない。

私どものところでは、毎月約1,800人ほど稼働させていただいておりますが、契約が切れて戻ってくる人たちが30〜40人ぐらいです。あとはみなさん、そのままずっと(企業に)入ったままの状況です。

今後もますます続いていくのだろうなという気がしていますが、どこでどうなっていくのか、今はわからない状況です。これは私どもだけではなく、IT業界全般に言えるのかなと感じております。

エンジニアの人材不足の背景

佐々木:みなさんに聞いてみたいんですけど。そんなに人材はひっ迫しているものなんですか?

菅原貴弘氏(以下、菅原):そうですね。我々インターネットベンチャーからしますと、みなさんもご存知のとおり、昨今巨額の調達ができるようになりました。昔であれば1億円で巨額と言われてたんですけれども、最近は当社も含めて10億円調達する会社が多いんですね。

そのなかで、そういう会社がなにをするかというと、「とりあえず技術者を採用する」というのが今の流れになっています。とくに利益率の高いゲーム業界では、すごい金額を払って(技術者を)採用しています。

我々のような普通のBtoBのサービス業者は、そういったところと普通に戦っても採用がほとんど不可能です。ミッションベースというか、ゲームじゃないことをやりたい人を見つけて説得しないと、なかなか採れないような状態になってきています。

佐々木:条件もかなり上がってきてるんですかね?

菅原:そうですね。とりあえずプログラミングができるという人は、それだけでもう月額何十万円みたいな感じになっちゃうので。プログラミングの素養さえあれば、とりあえず欲しいというところはすごく増えてきていると思います。

佐々木:なるほど。背景として調達が容易になっているというのは、なかなか鋭い指摘ですね。確かにおっしゃるとおり、2000年代前半ぐらいまでは、VCの調達も本当に1億円とか、下手すると何千万円みたいな話をよく聞いたんですけど。

ここ数年、メディア業界も含めて、調達額が10億円を超えるケースがけっこう増えてきているのは事実です。そうなると、技術者を内製して、自分のところで抱え込もうという方向性に少しずつ動いてきているのがあって。そこに人材需求のひっ迫があるような感じはしますよね。

尾張さん、エンジニアから見ると、そこらへんの状況はどう見えてるんですか?

尾張孝吏氏(以下、尾張):やはり僕の周りでも、現場に入るとなかなか離さないというかたちです。優秀な方の場合、案件が終わっても、次の案件までにちょっとつなぎ止めておいて、「こういう仕事あるけど、いてくれないか?」というお声がけがあります。

あとは単価もどんどん上がってきている。あとは、「知り合い誰か知りませんか? 紹介してください」という声はよく聞きますね。

佐々木:仕事内容に変化はあるんですか? どういうことを求められてるのかというのは?

尾張:仕事の内容というよりも動き方ですかね。「現場で臨機応変に動けるような方」とか。それをよく聞かれますね。

現在のITエンジニアに求められる要素

佐々木:2番目のトピックに入ってくると思うんですけれども、「現在のITエンジニアに求められる要素。現場に多いエンジニアとは?」

お手元のプレスリリースで「意識調査発表」というのがあると思うんですけど。これを見ていただくとけっこうおもしろくて。

例えば3番の、「採用基準は難化傾向。より専門性の高い技術者が求められている」と。これは、実際に採用する側がどんなポイントを重視するのかというアンケートなんですけど。

もちろん「開発力がある」というのが非常に重要で、これが55パーセントになっています。それ以外には、「コミュニケーション能力が高い」とか、「マネージメント力がある」とか。従来の技術者とはちょっと違う、交渉能力に近いものが求められる傾向がちょっと出てきてるんですね。

5番の「2020年以降活躍するITエンジニアの鍵は自主性」というところの下のマトリックスを見ると、右上のオレンジで囲んであるところは、理想的なエンジニアの人物像なんだけど、現在応募がないと。

要するに、企業側はこういうエンジニアを求めてるんだけど、なかなかそういう人は来ないよねというのが右上にあると。

そこに書いてあるのは、「自主的に行動できる」とか、「計画実行力がある」とか、「柔軟性が高い」とか、「コミュニケーション能力が高い」など。意外とそうだろうなとは思いつつも、そういう結果なのかと。おもしろい傾向が現れてきています。

「今、どういう人材が求められているのか?」という話を菅原さんにおうかがいしたいんですけれども。

菅原:基本的にはこのアンケート結果と似てると思うんですけれども。マーケティング上、商品がどんどん新しく開発されていってしまうので、それに適応できるような人材じゃないと。

コミュニケーションを取らず、一度仕様を決めたらそれだけ作ってればいいというよりも、ウォーターフォールと言うと思うんですけど、そういったものではなくて。

アジャイル型というか、行ったり来たりしながら開発するというのが今のトレンドになってきています。

そういう意味では、コミュニケーション能力がないと、戦略上あまり意味のないプロダクトを作ってしまう可能性があるんじゃないかなと思います。

佐々木:大きな流れとしては、やっぱりシステム保守みたいな世界からだんだん戦略的なITみたいな。ITそのものがコアコンピテンスになる大きな流れのなかで、いかに技術力をそのままビジネスに活かすかというところに来ているんでしょうね。

菅原:これはアメリカではとくに顕著なんですけれども。日本の場合はどちらかというと、ITがコストセンターみたいなイメージであるんですけれども。

アメリカの場合に顕著なのは、日本では景気が悪くなるとIT投資が減るんですけど、アメリカでは景気が悪くなると効率化するためにIT投資が増えたりします。そもそもの考え方が変わってきてるんじゃないかなと思います。

エンジニアにもコミュニケーション能力が求められる

佐々木:なるほど。ありがとうございます。こういう状況に対して、はたして人材の市場が対応できてるのかどうかが気になります。齋藤さん、この辺はどうなんですか? ミスマッチが起きてるんじゃないかという感じもするんですけれど。

齋藤:おっしゃるとおりだと思います。結局、人材が足りないなかで、スキルのミスマッチが生じています。とくに企業のウォーターフォール型のプロジェクトは掛け持ちでいる人もいらっしゃいますし。

とくにベースの、プログラミングする人たちが一番足りないというところじゃないでしょうか。企画したりする、CIOの方々はけっこういらっしゃるんですけれども、実際にやる人たちが足りないというところで非常に困ってます。

佐々木:企画を立てる・商品開発をするというレイヤーと、実際に手を動かして作るというレイヤーを別として捉えたほうがいいということですか?

齋藤:そういうことですね。

佐々木:そうすると、実際に手を動かす人のほうが足りない?

齋藤:足りないということです。

佐々木:尾張さん、その辺いかがなんですか?

尾張:今までのように開発して終わりじゃなくて、また次の新しい案件とか、現場での改修とか、臨機応変に動ける・対応できる・提案できるというところがすごく求められています。

IT開発スキルが高い方もずっと求められているんですけれども。やはり「コミュニケーション能力どうですか?」と聞かれますね。

ある会社に面接に行ったときにも、「あなたはコミュニケーション能力ありますか?」というどストレートな質問とか。

佐々木:すごい質問ですね。

尾張:それは裏を狙ってるのか、あえてそこでおもしろい回答したほうがいいのか。「この面談終わったあとに逆に回答をください」みたいな返しをしましたけれども。やっぱり現場でいろいろ提案できる方というのが残ってることが多いですね。

佐々木:残ってるというのは?

尾張:現場にずっと居続けられる方ですね。

佐々木:最終的にそういう人材が残り、そうじゃない人は淘汰されていくという流れはあるということなんですね。なるほどね。

エンジニアが求める雇用環境

尾張さんにそのまま3つ目のトピックを聞いてみたいと思います。ITエンジニア側が求める雇用のあり方は、以前と変わってきてるんですか?

尾張:僕の周りのエンジニアだったり、これからフリーランスになりたいという方の意見を聞いていると、数年前まではやはり高い報酬、収入を求められる方が多かったんです。

ここ1、2年いろいろ聞いてますと、フルタイムで働くよりも週に3〜4日程度働いて、あとの1〜2日で新しい技術に取り組んだり、勉強したり。あとは子供や家族と一緒に時間を過ごしたいという意見をよく聞きますね。

佐々木:なるほど。なにを生活のプライオリティにするのか、ワークライフバランスをどこに取るかというのが以前とはかなり変わってきているということはあるんですね。

尾張:そういう働き方ができるところも増えてきている気はします。以前は、週にフルタイムで来てもらわないと困るということだったんですけれども。自宅で開発してもOKというところも増えてきてますね。

佐々木:僕の知り合いでも、渋谷のオフィスに勤めながら、実際に住んでるのは兵庫県の片田舎で、遠隔で仕事しています。会社の席にタブレットを置いてあって、そのタブレットには彼の兵庫県の自宅内が映っているという。

逆に兵庫県の自宅のデスクの上には同じようにタブレットがあって。そこを見ると、渋谷のオフィスの様子が常に映っているという。ミーティングの席にそのタブレットを置いて、みんなで議論するという。そういうやり方も段々少しずつ出てきてますよね。

尾張:それぞれのニーズも増えてきてますし、チャットツールやSkypeなどの環境も整ってきているのかなと。

佐々木:なるほど。菅原さん、企業の側もその辺に対応するようになってきてるということなんですか? もう少し自由な働き方みたいなものが。

菅原:そうですね。当社も一部クラウドソーシングみたいなかたちも使っているんですけれども、2パターンぐらいあると思っています。

単純に「成果が確認しやすいので遠隔地でも問題ない」というパターンと、もともとスキルのある方でビジネスがけっこうわかっているパターン。なので、ビジネスの仕組みを想像した上で開発していただけるような方がけっこう増えています。

さらに、先ほど佐々木さんがおっしゃったように、常時インターネットに接続して、本当に同じ部屋にいるかのようなかたちで開発できる環境が整ってきたんじゃないかなと思います。

佐々木:そういう場合に、コミュニケーションをどこまで密にするかというのと、どこまで自由な働き方をしてもらうのかというバランスの取り方が難しいかなと思うんですけど。

例えばフルタイムじゃなくて、パートタイムでいいみたいなことも企業として受け入れる余地はあるんでしょうか?

菅原:当然そちらのほうが効率がいいと判断すればそういった働き方。尾張さんもそうだと思うんですけど、できる方ほど自分で事業をされてる方もいらっしゃるので。そういう方を引き込もうとすると、自動的にそういった働き方になるのかなと思います。

エンジニアの2極化が進む

佐々木:なるほど。結局優秀であれば、別にリモートでもなんでも、パートタイムでも構わないと。最後はちゃんと成果物出せるかどうかのほうが大事なわけですから。常に24時間会社に張り付いているのがいいということではなくなってきたということですよね。齋藤さん、こういう変化に対して市場は対応できてるんですか?

齋藤:非常に遅れてると思ってます。私どもでも非常に稀なケースですし、そういう働き方の人は千数百名のうちの数名しかおりません。

佐々木:これは、なんでそんなに遅れてるんですか?

齋藤:やっぱり企業が許してくれない。

佐々木:企業側が開発者や技術者に求めてるものが違うということなんですか?

齋藤:それもあると思います。やっぱり側に置いて、今なにをやってるか監視しておきたいというのが。

佐々木:まあ、そうですよね(笑)。ただ、成果物がきちんとできるかというのと、監視しておきたいというのは、微妙にずれてるような気がするんだけど、でもやっぱり求めちゃうの?

齋藤:そうですね。求めるプロジェクトマネージャーが多いと思います。

佐々木:それは意識が変わらないということですかね。

齋藤:やっぱりコミュニケーションでしょうか。

佐々木:先ほど菅原さんの話もあったけど、優秀な技術者であればある程度の柔軟な働き方ができると。

一方で、そうじゃない人はプロジェクトマネージャーが監視していないと気が済まないみたいなことになってしまうと、ある種の2極化が進むような感じもするんですけど。尾張さん、その辺はどうなんですかね?

尾張:やっぱり優秀な方は作業が早いんですよね。開発スピードも圧倒的に早いので、時間で縛るのが合ってないというのはありますね。

よく「月いくら」とか「時間いくら」となるんですけれども、優秀な人ほど短時間でコードを書いてしまいますので。

人より2倍できるならば、本来2倍の収入があってもいいいんですけれども、スピードの遅い方と同じ単価になってしまうんですよね。

佐々木:そうすると、できる人はフリーランスで複数の仕事の同時並行でもOKだと。一方で、できない人は1つの仕事をまるでブラック企業のように張り付いてやらないといけないという構造になってしまう。そこの2極化はやっぱり避けられないということですよね。

尾張:そうですね。

佐々木:僕の関係している会社でも、始業時間を9時にしてるんですけれど、開発の責任者から「始業を9時にしちゃうと優秀なエンジニアが集まらないので、開発部門だけ始業時間11時にしてくれ」とか言われて(笑)。それでもちゃんと開発できるならOKかなということで11時になっちゃったみたいな。実際にそういうケースもあります。

尾張:エンジニアは朝弱いですね(笑)。

佐々木:そうすると、この2極化プラス、今の市場がどんどん巨大化してお金がどんどん回るようになり、マイナンバーやオリンピックのある種のバブルみたいな状況もあって、優秀な人はどんどん仕事がしやすくなってくるという状況が明らかに起きてくるのかなと。

一方で、そこからこぼれ落ちてしまう人はどうやってカバーするのかというのは、それはそれで難儀な課題になってきそうな感じがします。

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