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基調講演・堀江由香里氏(全1記事)

2016.03.01

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ママに責任ある仕事は任せられない? 企業と女性はどうしてすれ違うのか

提供:株式会社リクルートホールディングス

リクルートが「子育てしながら働きやすい世の中を、共に創る。」をキーワードに、育児を応援するiction!プロジェクト。12月8日に開催されたMeet upイベントに、NPO法人・ArrowArrow代表理事の堀江由香里氏が登壇。産休育休の制度は女性のための福利厚生だと思われてしまいがちですが、「それは違う。企業が成長するために必要な『経営戦略』なんだ」と、堀江氏は言い切ります。子育て中の女性が働く姿をロールモデルとして提示し、女性の背中を後押しする「ママインターン」の取り組みなどについて紹介されています。

福利厚生ではなく「経営戦略」

堀江由香里氏:みなさま、改めまして、こんにちは。NPO法人ArrowArrow(アローアロー)の代表理事を務めております、堀江由香里と申します。

今、関口さんから民間連携ということでお話をいただいたんですけれど、私たちは、企業に対して女性活躍プロジェクトのサービスを提供したり、民間側として自治体と提携してプロジェクトを進めたりしています。

私からは、どういった繋がりを持って仕事しているのかや、私が企業や1人の女性、1人1人のステークホルダーと対峙するときに大事にしているスタンスについても含めお話できたらいいなと思っております。

このタイトル(女性だけではなく「男女」、福利厚生ではなく「経営戦略」)は正に私たち法人が大事にしているところで、あくまでも福利厚生ではなくて、経営戦略として女性の活躍を考えましょうということを普段から提案しています。

私たちは事業ターゲットを産育休の女性にしていますが、その方たちを中心に、組織全体、女性だけではなくて男性も、一般職の女性だけでなくて、総合職も、管理職の男性たちも変わっていきましょう、ということを大事にしています。

不妊治療に直面して繋がりの大切さを改めて実感

簡単に自己紹介をします。ライフラインチャートで説明していきたいと思います。私は、元々、人材業界に勤めておりまして、そこで人事部の立ち上げや、人材紹介のキャリアコンサルタントなどをしておりました。

その後、事業型のNPOに就職します。もしかしたら、ここにいらっしゃる皆さんはご存じかもしれないですけれど、病児保育をしているフローレンスというNPO法人に転職して、そこで広報や病児保育の事業部長をさせていただいておりました。

仕事はすごく楽しかったんですけれど、そこでは「病児保育をしたい、両立したいと思う親御さんにとってボトルネックになっていることを事業で解決する」ということをやっていて、私の場合は「両立をすでに諦めようとしてしまっている女性や男性に対しても手を差し伸べたい」という思いが強くありました。

そこで、代表の方と相談して、「頂きは同じだけど、登る道は違うんじゃないか」ということを話し合うなかで、独立を決めて活動を始めました。

独立したらしたらで、楽しいは楽しいんですけれど、お金がなくなっちゃったり、すごく失敗をしたりってことが、グジャグジャとたくさんありまして、「楽しいけれども大変」「大変だけど楽しい」という無限ループが5年くらいずっと続いています。

私は独立した年と結婚した年が一緒だったので、本当に盆と正月が一緒に来たような感じで、最初の1年くらいは記憶がありません。そんなバタバタする日々を送るなかで、自分も「ライフイベントを迎えたいな」「子どもも欲しいな」と思ったとき、「自然妊娠は無理です」と言われました。

「私、どうしたらいいんだろう」と、人生で1番ショックを受けた時期で、一応小さいながらも代表としてやっていたので、「事業を畳まなきゃいけないんじゃないか」とか、「どのくらいお金かかるんだろう」とか、「誰に相談したらいいんだろう」みたいに、すごく孤独な悩みを持っていました。

ただ、その時、今まで自分が築いてきたコミュニティに助けられたという経験は自分にとってとても大きかったです。仕事の面でもそうでしたし、「不妊治療することにしました」と言った瞬間にたくさんの人が手を差し伸べてくれて。去年、無事子どもを出産しまして、今1歳1ヶ月になる、本当にかわいいかわいい娘がおります。

そういったことも踏まえて、不妊治療をするって決めた時に助けてくれたコミュニティのことや、ライフイベントの時に「こんなに女性は悩みを抱えながらも仕事をしていかなきゃいけないのか」ということを痛感しまして。今までやっていた仕事もそうでしたが、「より力をいれていかなきゃいけないな」と思ったというのが(きっかけとして)大きいです。

固定概念を少しずつ解いていく活動

20分しかないので、今日は「女性だけではなく『男女』、福利厚生ではなく『経営戦略』」ということでお話させていただきたいと思っています。

(企業の方と話すと)「うちの会社は特別だから」って本当に言われるんですね。コンサルティングをしてても、どんな事業をやっててもそうなんですけど「うちは女性が活躍できるところじゃない。なぜなら特別な職種、業界だから」って言われるんです。でも、「みんなが特別って言ってるんだったら、もうそれは特別ではないんじゃないですか?」と思っていて、実際そういった話を企業に話すようにしています。

やはり「長く働かなければ成果を出せないものだ」「制約のある働き方で成果を出すのは不可能に近いものだ」という固定概念が強くあるので、様々なアプローチで、そういう枠を外していくことを仕事としてすごく大事にしています。

また、女性は守るものではなくて活躍してもらう人材なので、それは福祉的な視点ではなくて、経営戦略としてやるべきものなんですよってことを大事にしています。

もう1つは、後で説明しますが、産育休取得のコンサルティングと言っているので、何となく女性社員のためのプログラムって思われたりするんですけれど、そうじゃないんです。

ワークライフバランスって、元々の文脈もそうですけど、先ほどから何回も申し上げているように、企業がもっと活躍できる組織になるための重要な戦略の1つでもあるので、個人だけが頑張ればいいってものでもないし、企業が社員に与え続けるものでもない。

それぞれが今ある枠を飛び越えて新しいことを始めようということは、すごくパワーのいることなので、パワーが必要なものを私たちなりにどうやって突破していこうとしているのかについて、プレゼンテーションでお話していけるといいかなと思っています。

自分の人生を諦める人を1人でも減らしたい

当法人が目指す社会は、「子育てや介護等の理由に左右されない社会の創造」です。いろいろなライフイベントが起こりうるなかで、それらを理由に自分の人生を諦めなければいけない人を1人でも減らしたいし、そういうところで機会損失している企業を1つでも減らしたい。これが私たちの持っている大きなビジョンです。

なので、社会全体のいろんな働きを支えることをしていきたいと思っています。

ここで、当法人がどんなことをしているのかを簡単にご説明します。

まずは、企業側に対して「産休!Thank you!」という産育休取得のコンサルティングを実施しています。ここにいる皆さんはピンとこないかもしれないですけど、中小企業だと、産育休を取ると「うちの部署で第1号です」「私、この会社のなかでも産育休取得第1号です」っていうことが、けっこうザラにあるんですね。

そういった方々が諦めないですむように、また、企業としてもその社員が戻ってくることが負担にならないのはどんな働き方なのか、ということについてご提案するコンサルティング事業をしています。

あとは、今話題の女性の管理職をどう増やすか問題です。当事者になる前、管理職になる前からキャリア形成していきましょうとか、管理職になることに対して物怖じしない社員を育成するためにはどんなプログラムが必要なのか、みたいなところをお手伝いさせていだたく「社員!Shine!」というものがあります。

個人向けにも「生き方デザイン学」というキャリア講座をしていたり、NPO法人なので個人会員制度でコミュニティを作って1人で悩む女性を少しでも減らすサポートとかをしています。

「僕たちは悪くない」企業の本音

そういったところで大事にしていることがあります。例えば「私にはこの権利があるので、(休みを)取らせて当然でしょ」みたいな、「そういう社員が多くて困っちゃうんだよね」っておっしゃる企業さんがよくいます。かといって「働き方も含め、すべて企業のルールに合わせられなければ私のキャリアはもう終わってしまうんだ」と諦めてしまう人もいてですね。

権利主張型でもなく、かといって今あるものにすべて自分から寄せていくかたちでもない、企業も社員もWIn-Winになれる働き方を提案するということをサービスのなかで大事にしています。

これはけっこうスパイラルなんですけども、実は「女性の意識が低いから僕たちの会社の女性社員は活躍できないんです。だから、僕たちのせいじゃない」というのも、企業の言い分としてはありまして。これは、コンサルティングを受ける前の企業様で顕著に出てくるんですけど、こういうことが実際なぜ起こってしまうのかというと、わかりやすくいくつかの要素があると思います。

女性が活躍できる企業、できない企業

多様なロールモデルがいるかどうか、適切な対応ができるかどうか、あまり過度な配慮をしすぎないかということがけっこう大事です。

過度な配慮をしてしまう企業だと、ぶら下がり社員って言われちゃう、マミートラックにかかってしまう女性社員が増えやすい組織になってしまうので、それに対しては文化やメンターを醸成していく必要があるよね、とか。

産育休実績のない企業に対しては、第1例が成功するか否かが、その後の2例、3例目を成功させるけっこう大事なポイントになるので、ここのサービス導入に力を入れて、企業さんたちで自走できるようなところにまで持っていくのが私たちの役割です。そういうところが女性が活躍できる企業とできない企業で分かれるポイントです。

私たちが見ていた企業でいうと、そういうところをチェックしていくと、段々傾向が見えてくるというのがありました。

私たちが元々やっていた事業はこういったかたちで、今いる社員さんが活躍する働き方ができるようにというアプローチをしています。

再就職に繋げる「ママインターン」

もう1つ今実施していることが、「ママインターン事業」という子育て期の女性が再就職できるプログラムです。「多様なロールモデルがいるかどうかが、女性活躍が推進できるかどうかのポイントですよ」とお話したんですけど、仕事と子育ての両立がどんなものかということを知る機会が、ベンチャー企業さんだとあまりなかったりします。

そういったところに、子育てママがインターンに行くことで、若手の女性社員が自分のキャリアイメージを持てたり、子育て期に退職をした女性に多い、自信を無くして「もう私は戻れない」みたいに自信喪失している方々を後ろからバックアップして、もう1度「やるぞ」ってやる気をインターンのなかで学んでいってもらっています。

これはモデル事業で実施させていただいた事業で、ほかのNPOさんに受け入れをしていただいたんですが、先ほど申し上げたように、なかなか子育てと仕事の両立をしている社員と身近に触れ合う機会のない人たちに対しても、キャリアを考えるきっかけになったり、ママインターンをする女性自身も、「私のこういうところが社会や企業に貢献できる」と自信を取り戻せたということが成果として上がってきました。

家の近くで働きたい、子育てママのニーズ

このモデル事業を通じて、国分寺市と一緒に協働事業というかたちで、国分寺市に住むママインターンをやりたい女性と、国分寺市にある企業さんやNPO法人さんをマッチさせる事業をしました。

市の人にも絡んでもらって、広報を協力してもらったり、場所を提供してもらったりしました。特に、震災後顕著なんですけれど、再就職をしたい女性は「なるべく自分の住んでいる地域と近いところで仕事したい」っていう方が多くて、その思いが強かったんです。

一方で自分の住んでいる地域の近くに自分の働ける場所があるかどうかわからない女性がたくさんいたので、そういうところを私たちが開拓して、マッチングさせる事業を実施しました。

企業側のメリットもあって、小さい中小企業さんやNPOさんって、広報力がなかったり時間の制約があったりして、自分の企業や団体を上手くPRして採用活動に繋げることができていない。

なので、私たちがそういう企業を探して、私たちがご紹介をしてあげることで、自転車通勤ができる女性が、子どもを迎えに行くギリギリの時間まで仕事ができるというようなかたちでマッチングできて、事例としてもすごく評価をいただきました。こんな事業もやり始めています。

自治体と協働してやることはあまりケースとしてなかったので、新聞、テレビや雑誌にも取り上げていただきました。

そして、今回この事業を見つけてくれた企業がありまして、中小企業の活躍に興味があるので、ぜひこれを全国でやってみてほしいということで、今回寄附を頂戴して、全国展開するということを先月プレスリリースを出しまして、今動いている感じです。

すれ違う企業と女性社員の思惑

現在の活動に至るまでは、いろんな失敗もしてきているのですが、どういうケースで私たちの問題が起こりうるのかということを少しお話できたらと思います。

ステークホルダーが企業さんと女性社員ということで、女性社員の本音もあるんですね。「元々の会社が長時間労働なので、ライフイベントを抱えながら働くイメージが持てないです」みたいな。

そうすると、企業側としても「残業できないなら責任ある仕事は任せられない」となって、責任ある仕事を任せて貰えなくなると、女性側のモチベーションは下がる。更に、結婚してモチベーションが下がっていく女性を見ていると、企業側もライフイベントを迎えた女性の評価をなかなか上げられない。

「私は管理職には上がりたくないです」「このままでいいです」っていう女性が増えていくみたいな感じになって、企業としても「それじゃあ、(女性には)期待したらいけないのか」ってどんどんすれ違いが起きていく。

ここに私たちが入っていきます。上手くいっている時は両者の橋渡しができるんですけれど、失敗すると板挟みになるんですね。「お前はどっちの味方なんだ」って。「どっちの味方でもあるんですけど」みたいなのは通用しなくなって、私たちが提案する内容を全然受け入れてもらえなくなるってケースも今までにありました。

配慮されずぎても困る、女性の本音

そういう失敗を経て、わかってきたこともあります。私たちがサービスを提供する企業にいらっしゃる女性社員の方は、皆さん新卒採用試験を勝ち抜いて入りたいと思ってその企業にいる方だったり、転職して「ここで頑張ろう」と思って企業にいる方なので、まったくモチベーションがない状態で働いている方って少ないんです。

そのなかでライフイベントを迎えた女性には「配慮されすぎるのが困っちゃう」とか、「やらされ感のある仕事だけでは嫌だ。でもどこまでエンジンかけていいかわからない」という思いがすごくあることに気付きました。

そういうなかで私たちがどういうことを企業さんに提案しながらやっているかと言うと、まず中小企業さんをメインに実施しているので、その会社の働き方や文化を前提に考えることです。「一般論として、これが正解。ベストワン」というのを出すのではなくて、その企業はどういうことを考えているのか、どういうことをしたいのかを考えるようにしています。

あとは、女性社員の能力を最大限に引き上げられる働き方は何かを考えることと、イレギュラー対応を事前にどこまで伝えて対策ができるかってことを大切にしています。

企業文化を認めた上で考えていく

文化を前提にというところでいうと、「うちにはうちのやり方があるから」って言われたときに「いや、そういうことじゃなくて」と無下にしてしまうと、中小企業の経営者の方って「俺は俺で今まで頑張ってきた」って思いを持っている方が多いので、そういう文化を否定したい訳ではないということを前提に提案を考えています。

また、中小企業さんだと私たちにコンサル料を払うような予算を元々持っていないところも多いので、「こういう助成金がありますよ」「この制度を導入することによって、御社には国からの助成金でこれだけバックがあるので、私たちのコンサル費はあまり考えなくて大丈夫ですよ」、みたいなところも踏まえて提案します。

企業のお財布状況や、どういうメリットがあるのかをご提案させていただきながら、権利主張型ではないんだということを企業さんにお伝えするのが、企業さん側にとっては大事だなということです。

あとは、すごく働きたい活躍したいと思ってはいるけれど、リスクに対して漠然と不安を抱えている女性社員の方もいるので、「あなたが企業に貢献できる働き方はどんなかたちなのか」「どういうところでリスクヘッジをすれば、あなたの不安が解消できるのか」を考えて、そのリスクを解消していくことが、企業さんにも社員さんにも大事な、先ほどお話した、Win-Winの提案になっていくのかなと思っています。

時間が来ましたので、プレゼンテーションは終わりにいたしますが、中小企業にサービス導入するときにどんなところで引っ掛かっちゃうとか、「ワークライフバランスって言葉をあまり使わないようにしています」とか、小さなTipsがいろいろあるので、そういうところは後半部分でお伝えできればと思っています。企業と女性の橋渡しをしている団体としてまだまだ至らないことは多いのですが、お伝えさせて頂きました。

それでは私のプレゼンテーションは以上になります。ありがとうございました。

(会場拍手)

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