2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
提供:リクルートライフスタイル
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林信行氏(以下、林):今、司会の方から大宮さんがモデレーターをやるという話があったんですけれども、予定を変更しまして、ITジャーナリストの林信行がモデレーターを務めさせていただきます。
ここから後は、大宮さんに今日の発表の内容を振り返ってもらいつつ、2年前にどういうきっかけでAirレジを作ろうと思ったのか、そこら辺の思いも含めて、話していただきたいと思います。
大宮英紀氏(以下、大宮):はい、ありがとうございます。本日、Airレジを含めたいくつかのAirサービスを発表させていただきました。「なぜ、私たちが(Airレジを)やりたかったか」というと、テクノロジーを使うと、人手でやらなきゃいけないことがたくさんあると思うんですけど、そういったことから解放されて、自分らしいお店作りができるとか、自分らしいことができるとか、家族と一緒に過ごせるとか、そんなことができる。
そういうことが豊かな社会につながるんじゃないかという思いで、目の前にあったPOSレジをiPadに置き換えてしまえということで、スタートさせていただきました。
そのためには、POSレジというのもありますし、順番待ちもありますし、予約を受け付けるということもありますし、決済のサービスもあります。
なので、私たちはPOSレジだけではなくて、本当にやらなくていいことはやらないということを、テクノロジーという手段を使ってとにかく突き詰める。
僕は2年前に、本当にこのサービスがやりたかったんですよ。やれなかったらどうしたかというと、たぶんリクルートを辞めたと思います。
辞めてまでやりたいサービスを、リクルートでこういうAirシリーズという形でやらせていただいたんで、自分が情熱や人生をかけるこのプロダクトを、多くの方々とシェアしながらやらせていただけるというのは、本当に幸せだなとつくづく感じています。
林:ありがとうございます。じゃあ、たぶん今日みなさんが一番お話を聞きたい遠山さんです。遠山さんのスマイルズという会社には、本当に個性際立つ魅力的な方々がいて、そもそもどういう感じで会社をつくられたかとか、そこら辺の話を振り返っていただけたらと思います。
遠山正道氏(以下、遠山):私は元々、三菱商事でサラリーマンをやっていたんですが、あるとき絵の個展をやって、それがきっかけで今日にに至っているんですけど。「何かやりたいじゃないか病」にかかったみたいな感じで。
三菱商事はご存知のように大きな会社ですが、私はもうちょっと、食だとか小売だとか、小さい手触り感があることがやりたくて。
それで私は、たまたまケンタッキーフライドチキンの社長とうちの常務がパーティーで立ち話をしたという情報を聞いて、そこから突っ込んで、ケンタッキーに出向させてもらいました。
情報産業の立場で行ったんですが、「何かやりたいな」と。それであるときスープが思い浮かんで「スープのある1日」という企画書を書いて提示して、お店ができたんですね。その企画書には、ひと言でいうと「共感」ということが書いてあったんです。
共感ということはどういうことかというと、まず自分たちがやりたいことが先にあって、それを世の中に提示して、だからこそ共感というのがあるんです。だから、うちの会社はマーケティングもないんですよね。
例えば、アーティストが絵を描くのに、お客さんに「私、これから絵を描くんですけど、何の絵を描いたらいいですかね?」ってアンケートは取らない。
そういう感じで、自分たちがやりたいことを最初にやって、それを提案するということなんですけど。だから私、やればやるほどいろんなことが個人に寄ってくるんです。
個人の身軽な感性や情熱とか、そういったことがビジネスの根幹になっていく機会がすごく多いですし、私自身のスタートもそうでした。
個人から始まるという部分では、本当にリスクが少なく入れるというのは、とてもいいと思ってるんですね。システムではなくて、共感という理念を我々は大事にしています。
そういう意味でいうと、やっぱり人でしかできないことを我々でやって、機械のシステムでできるようなことはシステムでやってもらう。そういう感覚が我々の中にあります。
林:その理念を大事にするためにも、レジにしてもそうですし、ある程度機械に頼らなきゃいけないというのはあるわけですよね。
これまでのシステムを見ていると、例えばレジだとレジの専用ソリューションを作って、あるいはこういったニーズがあると承知して、別のソリューションを作って、バラバラのものがどんどん増えていって、ぜんぜん便利じゃないという状況だと思うんですけども。
今日の朝の発表を聞いて、(大宮さんは)Airレジというか、Airシリーズを信じて開発している感じなんですけれども。
大宮:やはりAirという名前を付けた背景として、Airは日本語で「空気」ですよね。最後は空気のような存在になりたいという思いがあったんです。
何かというと、主張しなくても、人が息をすると同じようにそこに佇んでいて、人の商業活動を支えていくという思いを込めて、Airという名前を付けました。
なので、このサービスが「こんなことをやってあげてるよ」ではなくて、人が何かをしているときに無意識に使われているものというのが、本当に必要とされているものだと思いますし。
さっきの遠山さんの話もそうですけど、まず僕らがそれを作りたかったというところから発信して、ここまで行った。
そう考えたときに、やっぱり機械が主張するのではないので、人の行動の中に機械がそれとなく入り込む、そういうサービスを作りたかったと考えると、システムが別々にあるものはシステム側の都合だと思っています。
人の行動をベースに、システムがそれをサポートし続けると考えて、今日お話させていただいたようなことを大事にしながら作っている、そういうことなるんですね。
遠山:今お伺いしながら、Soup Stock Tokyo1号店の店長をやってたときの悪夢のレジのことを思い出しました(笑)。
林:どういうふうに?
遠山:悪夢というか、当時の最先端技術でプッシュフォンがあって、そのプッシュホンで売上を本部に送るという新しいシステムを導入したんですよ。マジで地獄で……。
林:電話のプッシュホンですか?
遠山:プッシュホン。受話器を持って、「ボルシチのMサイズ42個、3万2,500円……」とか言って、1日のメニュー(と売上)を全部記号で打っていくわけですよ。
昔の電話って、ディスプレイも1行ぐらいしかないですから。途中で「あ! 間違えた」とか「どこまでいってるんだっけな?」みたいな。もう全部、記号化ですし。
夜中11時ぐらいに店を閉めて、だいたいいつも2時ぐらいなっちゃうんですよ。それでレジも最後の金額が合わないと、全部レジロールを繰って、何か打ち間違えがないかを……。すみません、思い出しちゃった(笑)。
林:そういうことって結構多いと思っていて、90年代のパソコンによるIT革命は、すごく便利だといろんな企業が導入したけれども、それによって、隣同士の人がメールで会話するようになっちゃったりとか。
あと、上司には必ずCC入れるとかでメールが増えちゃったりとか、テクノロジーを導入したことによって、不便になったこともすごい多いと思うんですね。
遠山:そっちの面もありますよね。
林:どうやったらテクノロジーの存在感を消していくかというところが大事だというところをみると、Airはいい名前を取ったのかなと思います。
林:遠山さんのお店に行くと、すごくアナログな感じがするというか、無粋なテクノロジーが一切見えないんですね。そもそもテクノロジーって、何で無粋に感じちゃうんでしょうかね。
遠山:テクノロジー感は薄いですね。私、20世紀は経済の時代、21世紀は文化・価値の時代と言っているんですけど、私は85年入社で、我々の時代は高度成長期やバブルがありました。
その頃は考えられないですが、需要と供給で、需要のほうが大きくて、供給のほうが少なかったんですね。だから、作れば売れるという幸せな時代が実際にあったわけですよね。
今は逆転しちゃって、供給過多になって、「もういらない」と言われながら、「それでも何か作って提供しなきゃ」という時代になっている。企業はだいたい、組織から制度から何から、20世紀型を引きずっていると思うんですけど。
もっと「本当のところの価値って何?」みたいな、価値あるものには価値がある、価値ないものには価値がないって……当たり前の日本語で言ってるんですが。「その価値って何?」というのを見つけていく作業。
そういうのはだいたい人に由来しているので、私はどちらかというと、システムがあっても、裏側で「生身の人間でしかできないことってどういうことなのかな」みたいなこと(を考える)。
あるいは情熱みたいなことって……機械に情熱ボタンとかあったらいいんですけど、残念ながらないので。(自分は)発想とかアイデアとか、そっちのほうに価値観、目がいっちゃうんですよね。
遠山:今日たぶん個人経営の方が多くいらっしゃると思うので、参考になると思うんですけど。我々は新しいブランドをやるときに「4拍子」って言ってるんです。
最初は「やりたいということ」で、「必然性」「意義」「なかったという価値」という4つなんですけども。最初はやりたいということ。さっき言ったように、やっぱりやるときって、何か外の理由じゃなくて、内側の理由から始めたいんですよね。
何て言うのかな、私、Soup Stock TokyoもPASS THE BATONも、giraffeも、ビジネス的にどれもうまくいかないんです。売上とか評価をいただくんだけど、最後に利益が出るかどうかはまた別問題で、もう本当にいつでも潰れちゃう可能性があった。
それでも「やりたい」とか、「誰がこれやってるんだっけ」「何でだっけ」とか、そういうので何とか粘りながら、ようやくビジネスになっているという感じなので。
だから新しいことやるときに、「うまくいかなくても、それでもやる」というのを想像するときに、今の4つ(が大切)なんですね。
外の理由でアベノミクスがどうだとか、TTPがこうだからって、それって自分は管理できないじゃないですか。
そうじゃなくて、そういうことを発想のベースにしてもいいんだけども、「これとこれが結びついたらおもしろくない?」とか、「発見しちゃった!」みたいなやつとか、それをまずやりたいというのが最初にあって。
それから「必然性」というのは、「でも、どうして?」って言われたときに、個人的な話とか、生まれた家庭環境もそうだし、「(その仕事を)ずっと見て育った」とか、「ずっと魚博士って言われてたので、寿司屋やりたい」とか、その必然性ですね。
それから「意義」というのは、そうはいっても仕事って1人じゃできなくて。周りを巻き込んだり、銀行からお金を借りたり(しなければいけない)。だから、社内的な意義だったり、世の中的な意義だったり(が必要になる)。PASS THE BATONだと、リサイクルということがベースにあったりとか。
そうやっていくと、最後に「なかったという価値」にたどりつく。
遠山:ちなみに、それをSoup Stock Tokyoで当てはめてみると、いろんな当てはめ方がありえるんですけど。
「やりたいということ」は世の中のファーストフードの、「何でこうなっちゃうのかな?」という面がたくさんあって。「女性が1人で行けるとこってなかったよね」とか、「200円高くてもいいから、いいもの出して欲しいんだ」とか、そのファーストフードを変えていきたいということ。
それから必然性というのは、私サラリーマンをやっていましたけど、「社長とかやってみたいよね」とか(笑)。すごい率直なところで、私にとってはそういう……すみません(笑)。
「意義」は、さっきの女性が1人で行けるところがないとか、ファーストフードにおけるいろんなところを引っくり返していくような、そういう意義がある。
最後、「なかったという価値」。自分たちで思いついて作っていって、後で調べたら、ニューヨークでスープ屋さんが流行っているというような雑誌記事が出ていて、何か格好良くて、行列になっているんです。
私はその記事を見たのと、自分たちが(スープ屋さんを)思いついた順序が逆じゃなくて本当によかったなと思っていて。もしそれが逆だったら、たぶんSoup Stock Tokyoってないんですよ。なぜかというと、もし雑誌の記事を見て「格好良さそうだな、儲かりそうだな」と思って始めてたら、さっき言ったように赤字とかも結構あるわけです。「遠山君、儲かるって言ったけど赤字じゃないか!」って言われたら「そうですね……」みたいな。
格好良さそうというのも、モノマネしてるんだから、実は格好悪いって自分がよくわかってる。2つの理由とも、(スープ屋さんを作る)理由になってないんですよね。
あるいは自分たちで始めたんだというある種のプライドみたいなものがあって、一人ひとりの社員やスタッフの中に「たぶん、Soup Stock Tokyoってこういうもんだ」っていうような、「自分たちで作って、こうやって広めていきたいんだよ」っていう、いろいろな理念とかがあるんですけど。
だから頑張って毎日掃除をしたりとか、そういうことにつながっていくもので。だから「なかったという価値」ということも、いろんなところの底力が出てくるんですね。
新しいことをやる方は、そういうのを照らし合わせてみると、ドキッとするところがある。「そういえば、何でやってるんだっけな?」みたいな。
林:そうやってトライしてみても、自分の理念ってなかなか叶わず、うまくいかないときもあるわけですよね?
遠山:はい。
林:そこでその4拍子がどうやって絡んでいくのか、どうやって挫けず続けられるかというのは、どういう感じなんですか?
遠山:まず、自分たちがちゃんといいもの、「どうですか?」って言えるものを作っていれば、いつかはちゃんと認めてもらえるだろうという。その中身がしょぼいと踏ん張りようがないじゃないですか。
だから、とにかく豪速球を投げられるようないい球をうまく作って、あとはどっちかというと、利益を出すという2つしかなくて、売上を上げるかコストを下げるかなんですけど。売上はご評価をされていただいていく。
あとはやっぱり、丁寧にコストを調整していくみたいな。我々も80億スープを売っていると、コストが1パーセント違うと8,000万ですから、やっぱり1パーセントってすごい大きいわけです。そういうことも積み上げながら、何とかぎりぎり合わせていったりするんですけど。あとは数字のことと、目指したい共有する場面をみんなで持ち合わせて、そこに(向かって)うまくやっているという。
林:1号店で店長さんをやっていらした時代に、そういった理念を考えつつも、実務というか、実際のお店のほうもいろいろ動かしていたんですよね?
遠山:はい。
林:そこら辺のバランスはどういうふうにやってらっしゃったんですか?
遠山:我々はよく、やりたいこととビジネスとのバランスが大事だということを言ってまして、元々、三菱商事が株主だったので、結構真面目なところもあって、例えば就業時間が177時間があって、残業はもうここまでとか。
話がちょっと飛びますけど、「価値って何?」ということを探っていったときに、今年の夏、スマイルズが作家として、アーティストとして、越後妻有アートトリエンナーレに作品を出品したんですよ。
50日間あるんですけど、コンセプトが、「食と技術とおもてなし」。食がスープで、技術がデンソーさんのロボットをお借りして、おもてなしは人ができるパフォーマンスみたいなものにしたんですけど。
50日間スープを提供するということは、店を1件出すのと同じようなもので。だから、廃校になった小学校を使って、給食室でやったんですけど、ちゃんと給食室の水質検査を保健所に出して、スープを提供する人の大腸菌検査を取って、昼はちゃんと1時間、休憩があるように組んで、とか。
そういう変な真面目さみたいなものがあって、そのやりたいことと几帳面さを両方合わせていく感じですかね。うちの会社に来ると、みんなちょっとびっくりする。私がこんな感じだけど、意外に真面目……(笑)。そういうふうに言われますね。
さっきの個人みたいなことでいうと、私、最近この3年ぐらいで50個ぐらいのブランドとか、小さなお店ができるといいなと思ってまして。
例えば、うちの会社でも元々PASS THE BATONをやっていた店長が、新宿に(お店を)始めたんですね。そういうのとか、森岡書店という、銀座で5坪で1冊の本しか売らない本屋さん。これも春に始めて、今メディアでもよく取り上げられてますけど。
「生産性はどうなのかな?」と思いながらですけど、やっぱり彼自身の魅力とか、ネットワークとかがあって、あと1冊の本という新しい考え方なんで、すごく今、評価されてますけども。
そういう個人の話のほうが信頼できるというか、誰がやっているかという責任者もわかる、どうして(やっているか)という、その人の思いもぶれない。だから、要はうまくいくまでやればいいんですよね。
例えば、うちの会社に早稲田出て、今、スープやってる古川というのがいるんですけど、彼は家がクリーニング屋さんで、おじいさんがクリーニングを湯気出してやってるのが格好良くて、「自分は将来、クリーニング屋をやりたい」と言ってるんですよ。
やつはもうやると思うんですよね。もし彼がやったら、おじいさんとは違って、インターネットでオーダーを取るかもしれないし、デザインも違うし、川に流してもいい洗剤を探してくるかもしれない。たぶん、おじいさんのそれとは違う自分なりのクリーニング屋をやって、おじいさんが生きているうちに「俺、これやったよ」って言うと思うんですね。
実際には、白洋社もたくさんあるから(笑)、「クリーニング屋はきついな」と思ったら、饅頭屋さん、たい焼き屋さんでもやって、そのおじいさんに生きているうちに見せる。そういうときに、やっぱり個人の単位になると、リスクが大変じゃないですか。
だから、今回のAirレジのような、本当にリスクが少なくて、うちにも「低投資高感度」という言葉があるんですけど、投資は低くて、それをセンスや知恵でカバーというスタイルが、たぶんこれからどんどん増えてくると思うんですよね。
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