2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
第2部ライトニングトーク 御手洗瑞子氏(全1記事)
提供:株式会社朝日新聞社
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御手洗瑞子氏(以下、御手洗):ご紹介にあずかりました、気仙沼ニッティングの御手洗です。どうぞよろしくお願いいたします。
今日は気仙沼ニッティングの話をしようと思って用意してきたんですけれども、先ほど伊藤穰一さんのお話ですとか、加藤(崇)さんのお話で、「人間の仕事が何になっていくんだろう」という問いかけもありましたので、その辺にも触れながらのお話にしていきたいなと思います。
気仙沼ニッティングという会社ができたきっかけは何かというと、やはり2011年の東日本大震災です。これなくしては語れないところなんですけれども、私、この大震災が起こった当時はブータンという海外の国の政府で仕事をしていました。
産業育成の仕事をしていたんですけど、日本でこの震災が起きて、これは大変だなということで日本に帰ることにしました。この状態から復興させて、また人の暮らしを取り戻すという仕事は、最終的に私たち日本人がやらなきゃいけない仕事だなと思ったんです。
私が日本に帰国したのは2011年の秋でしたから、ほとんどの方は仮設住宅に入られていましたし、支援物資や寄付などもありました。雨風をしのげる場所はありますし、食うものに困って倒れてしまうという状況ではない。
ではそれでいいかというと、もちろん、全然そんなことはないのです。被災地では、住宅だけでなく、多くの会社や工場も流されていて、仮住まいの家に住んでいます。そうすると、仕事もない状況です。生きていくために必要なものというのは基本全部もらったものになるんですね。お金にせよ、そのとき着ていた洋服も支援物資でもらったというものが多いです。
そうすると、いつも人に「すいません、ありがとうございます」と頭を下げながら暮らしていかなくてはいけない。それが、こんなにつらいことなのかというのを、東北でいろんな人とお話して思いました。自分の親がその状況だったら、と想像してみてください。辛い気持ちになるのではないでしょうか。
仕事というのは自分が仕事をする、人の役に立つ、それで自分の生活も成り立っていくというのは、人間の尊厳の源なんだなということ感じました。
東北で被災してしまった人たちが、もう1回自分の足で立って、仕事をして、自立して生活していけるようなサイクルを取り戻す仕事がしたいなと思ったんですね。
その方は、震災後仮設住宅の集会所などで手芸の小物をつくる活動には参加する気になれなかった、と話してくれました。彼女たちがつくったものを、学生ボランティアたちが東京などに持っていき、「被災して大変な思いをしている人たちがつくったものです。買ってください、よろしくお願いします」って頭を下げて売る。そうしたものに参加する気になれなかったと。
なぜなら「仕事というのは、お客さんに喜んでもらうためにやるものでしょう」と。「もっといいものをつくって、お客さんが喜んでくれたらうれしいし、そうしたらもっと頑張ろうと思える」と。
それが「かわいそうな人がつくったものなんで、よろしくお願いします」と若者が頭を下げて売るものを、自分はどういう心持ちでつくったらいいかわからないと、その人は言ったのです。
この話は、深く胸に刺さりました。そしてあらためて、人が誇りを持てるような仕事をつくらなくてはいけないと思いました。
ただ、震災直後の気仙沼は地盤沈下していて、地盤整備をしないと建物を建てられない。「そういう状況で産業をつくるにはどうしたらいいだろう」と考えました。
今うちがやっている事業は、気仙沼の編み手さんたちが、手編みのセーターやカーディガンをつくって、お届けするというものです。
なぜ編み物なのかというと、最大の理由は、編み物は毛糸と編み針があればどこでもできるものだからです。大きな工場をつくる必要もなく、仮設住宅に住んでいる人でもすぐできる。これが最大の理由でした。
加えて、気仙沼というのは漁師町で、編み物の文化がありました。漁師さんたちは漁網を直したり、ロープワークをすることもあり、もともと手先が器用です。さらに、気仙沼で盛んな遠洋漁業では、漁場に着くまでに何ヵ月もかかるので、その間に漁師さんが自らのセーターを編むこともありました。
もちろん、漁に行って1年以上も帰ってこない漁師さんのために、家族がセーターを編むことも。気仙沼には、編むという文化がしっかりとあったんですね。編み物であれば、気仙沼の人たちが自信を持って挑戦できるだろうと考えました。
さてみなさん、将来編み物会社の社長になることってあんまりないと思うんですけど、もし自分が社長になるとしたら、なにから考え始めますか? 事業として成立させるためには、なにが必要か。
編み物の事業は、コストの大半は編み代、人件費になります。日本はグローバルで見たときに、比較的人件費が高い国ですから、この国でこうした労働集約的な事業をやるのであれば、結構コストがかかります。
ちなみに1着のカーディガンを仕上げるのにどれぐらいの時間がかかるかというと、50時間以上かかります。そこに対して正当な対価を支払っていく。ということは、かなりいいものをつくり、それなりの値付けにしないと、この事業は成立しないんですね。
それに、お客さんは厳しく正直です。「ちょっと時間がかかっちゃったんで高いです」では通用しない。価格が高いからには、最高のカーディガン、最高のセーターですと胸を張って言えるものをつくり、ハイエンドで勝負しないかぎり、気仙沼で、東北で、日本で手編みの会社は成立しないなと思いました。
いいセーターをつくるために、私たちは、毛糸をつくるところから始めました。それに、デザインが大事です。どれだけ丁寧につくっても、ダサい服では人は買ってくれませんから。そこでデザインは、人気の編み物作家さんにお願いしました。
ここで「いいものをつくる」が合言葉、という編み手さんたちの写真が出てくるんですけど、今日はちょっと話す内容を変えて、どうやって編み手さんを集めたかという話をしたいと思います。
先ほど「2035年にどんな仕事が残るか」という問いかけを加藤さんがされてましたけど、この時点で気仙沼には「編み手さん」という仕事は存在していませんでした。その中で、編み手になってくれる人を募ろうとしていたんです。
どうやってこの仕事に就く人を探すかということで……歩いてたって見つからないんですね。誰が編み物上手かも、わからないですし。
そこで最初にやったのは、手袋を編むワークショップを市内で開催することでした。編み物作家さんにかわいい手袋をデザインしてもらい、その手袋の写真を撮り、「これ、編めます」といういうコピーをつけてポスターをつくり、町中に貼りました。
そうしたら町中の編み物好きの人がそのワークショップに来てくれて、「わあ、楽しい!」って手袋を編んだんですね。その場は、すごい盛り上がりでした。編んでいると気持ちが落ち着く、震災後初めてこんなに笑った、と会場からはうれしい声がたくさん聞こえてきました。
このワークショップがよかったのは、編み物好きな人たちに会えたことと、誰が本当に編み物が上手なのか見れたことです。会場で「あ、あの人とあの人は上手だ」と目星をつけて、あとからその方々の住む仮設住宅を訪ね「実は編み物の会社をやりたいんです。やっていただけませんか」とお願いしました。こうやって、最初の編み手さんが集まってくれました。
こうやって準備を重ね、2012年の冬に最初の商品を出しました。オーダーメイドのカーディガン「MM01」です。これは15万円です。最初にこの事業をやろうと思ったときに、「15万円で売れるものをつくらないと、うちの会社は成立しない」と思いました。
それに見合うものをと思って、毛糸の開発からはじめて、ついに出したオーダーメイドのカーディガンです。当時は編み手さんが4人しかいなかったので、4人の編み手さんが1人1着ずつオーダーメイドのカーディガンを編もうということで、4着のカーディガンを受注することにしました。
できることはすべてやってここまで来たつもりでしたが、、やっぱり、注文を受ける直前は、「1件も(オーダーが)こなかったらどうしよう」とドキドキしました。編み手さんは私を信じて、ひと夏ずっと練習してくれたのに。でもフタを開けてみたら、100件近い応募があり、抽選販売になりました。
今は抽選販売をやめて、お申し込みいただいた方に順番におつくりすることにしているんですけど、120人待ちになっているのでお届けまで2年以上かかるという状態です。どういう人が申し込んでくださってるかというと、「一生物の服が欲しくて」とか「娘にも引き継げる服を」というような方が多いんですね。
これはもしかしたら、着物の文化にも似てるのかなと思います。私も友人の結婚式に出るときに着物を着たりすることがあるんですけど、それはだいたい母が仕立ててくれた着物に、祖母の帯に、おばの帯留めとかを使うんですね。
いいものを1回つくっておいて代々使うというのは、もともと日本人の中にあったのかなと。着物は今そんなに着ないので、そういう服が欲しい。いいものを長く使いたいというようなことがあるのかなと思っています。
例えばこのご家族は海外にお住まいなんですね。年に2回だけ帰国の機会があるんですけど、いつもお子さんたちを連れて気仙沼に遊びに来てくださるんです。
日本の田舎の夏休み、冬休みを味わわせたいということで、いつも来てくださるんですけど、本当に編み手さんが本物のおばちゃんみたいに、「大きくなったね」っていつも交流してるんです。
最近気仙沼にお店もつくったんですけれども、気仙沼って東京から4時間ぐらいかかるへんぴなとこなんですけど、ここまでお客さんたちが来てくれるようになりました。
今、編み手さんは30人以上になりました。プロの編み手として、みんあ真剣に、誇りを持って働いています。最後にご紹介したいエピソードがあります。それは今までで編み手さんが一番喜んだ瞬間のこと。
これまで気仙沼ニッティングをやってきて、編み手さんたちが一番よろこんだ瞬間がいつかというと、気仙沼ニッティングが立ち上げて初年度の決算を終えたときなんです。本当にありがたいことに、うちの会社は、初年度から黒字で終わったんです。
そこで編み手さんたちに「みなさんがコツコツと一生懸命セーター、カーディガンを編んでくださったおかげで、うちの会社は初年度黒字でした」と発表したんですね。「これで無事に気仙沼市に納税できます」と。
そしたらそのときに「わー!」って「夢みたい!」って編み手さんたちが喜んで、そのときに編み手さんのひとりがしみじみと「これで私は肩で風を切って気仙沼を歩けます」って言ったんです。実は、このひと言を言った方は、一番最初に「『かわいそうな人がつくったんで、よろしくお願いします』って頭を下げて売るようなものをつくれない」って言った方なんです。
このひと言が、心に刺さりました。人の誇りってそういうことなのかと。仕事の喜びってそういうことなのかと。単に自立して自分の生活を支えられるだけではなくて、お客さんに一生物と思ってもらえるものをつくれる、喜んでもらえる。さらには仕事を通じて町のため、みんなのために役に立てると。そこまで含めて仕事の喜びなんだなということを学びました。
そのときに、どんなことをみなさんとお話できたらいいかなと考えていたんですけど。、今日これからワークショップに参加される方々にお伝えしたいことが、2つあります。、1つは、仕事は創れるということ。編み手さんという仕事は、もともとなかったんですね。それは、つくった仕事です。
先ほど、今ある仕事の多くは将来はなくなるという記事が最近出てるというようなことを、会場の方から質問でいただきました。なくなる仕事はある。でも同時に、私たちは新しい仕事って創れるんですね。
どうやったらみんなもっとうれしいだろうとか、楽しいだろうとか、ワクワクするだろうというとことを考えて、じゃあこんなことやったらいいんじゃないかって考えて、仕事を創っていくことができる。
それはやっぱり人間の持つ力だと思います。今ある仕事が減っていくとか、ロボットやAIに取られるというだけではなくて、私たちは、生む力を持っている。
それからもう1つお伝えしたいこと。それは、よく地方創生とかいうと政府や市役所など人がやってくれることと思いがちですけど、一個人がスタートできることだということです。
こんな小さな小娘でも、何かを始めることはできる。まぁ、やっている会社は小さいですけど。みなさん全員、そういうポテンシャルを持っているし、全ての町に可能性があるんだと思うんです。
御手洗:ぜひ今日は建設的な議論、具体的な議論がしたいなと思っています。特にうちのセッションは、いろんな地域で具体的に行動されてる方が多いので、どうすればもっとおもしろいだろうとか、どんな可能性があるだろうということについて、お話させていただけたらと思っております。では、ご清聴いただきどうもありがとうございました。
(会場拍手)
株式会社朝日新聞社
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