2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
基調講演・小笠原舞氏(全1記事)
提供:リクルート
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小笠原舞氏(以下、小笠原):おはようございます。私は今、合同会社こどもみらい探求社の共同代表と、asobi基地という子育てコミュニティの代表をしています。
甲田さん(甲田恵子氏)と吉岡さん(吉岡マコ氏)は、お母さんでいらっしゃいますが、私はまだ結婚もしていないですし、子どももいません。ですが保育士としていろいろな活動をする中で「社会に声を上げることで役に立てることがあるんじゃないか?」と思い、いろんな活動をしています。
もしかしたら保育士の話なんて聞いたことのない人が多いのかなと思うのですが、皆さんの新しい気づきになればということで、子ども視点からお話をさせていただきたいなと思っています。
いきなりですが、問いをぶつけてみようかなと思います。質問を出すのでちょっと考えてみてください。
「子どもたちに学んでもらいたいと思うことは、どんなことですか?」
という問いです。本当は当てたいところですが、今日は時間があまりないので、頭に思い浮かべながら話を聞いてもらえたらなと思います。
私は、保育園の現場に入った時にいろいろなことを感じて、それが今やっている「子育てコミュニティ」や「起業」ということになりました。その感じたことの1つが、さっきの問いに対して、「そもそもそれって大人達はみんなができているのか?」ということでした。
現場に入った時に、「もっと子どもの教育はこうがいい」とかいろんな大人たちの話が聞こえてきて「え、大人たちはそもそもそれができてるかな?」という疑問が生まれました。そして、私が子どもたちを毎日見ていて感じたことは、これに尽きるなと思いました。
「子どもたちはすでに全てを持っている」ということでした。
「レッジョ・エミリア アプローチ」というイタリアの小さい町の中で始まった教育メソッドに出会い、その中にあった「100の言葉」というものがあるのですが、まさに私が思ったことが書かれていました。
今読みたいところですが、読むと時間がかかるので、「100の言葉」で調べると出てくるので、あとでゆっくりじっくり、見ていただきたいです。
お話しすると、大人たちがつくり出した社会とか概念によって、子どもたちがもともと持ってるものって奪われてるんじゃないかという文章です。
「子どもも1人の市民である」「子ども達にも人権があるよ」っていう考え方に私は出会って、「保育士ってなんて素晴らしい仕事だろう。」と思うと同時に、「子どもたちが自分で発信できないことを、近くにいる代弁者として社会に伝えていかなきゃいけないな」と思いました。
私はもともと福祉の学部で学んでいました。そのあとすぐに保育士をしたわけではなくて、1回社会人経験をして、オフィスの空間デザインの会社で営業をしました。
18歳からボランティアを始め、社会人になっても続けてく中で、思いの部分とビジネスの部分の中で、自分の中でどうやってバランスを取っていこうかな? というところで悩みました。でも「やっぱり子どもたちの現場にいきたい」という思いが強く、会社を辞めて保育士になることにしました。社会人から保育士になって、子どもたちの現場に入ってみて様々な出来事に出会いました。
私が1個目に行った保育園で、5歳児たちのクラスに入っていったとき、「先生、何階住んでるの?」「車、何に乗ってるの?」「どの塾が偉いと思う?」こんなことを突然聞かれて、私正直すごく驚きました。
家に帰って考えた時に、どこからこの質問が出てきたのだろう?と思った時に、社会の価値観が子どもたちにこんなにも反映しているのかと思いました。きっと親たちも悪気があるわけではもちろんないので、親を責めることはできないと思いました。
社会の価値基準がそのまま影響してしまっているので、私がいくら現場でいい保育を追求しても、この先この子たちは保育園にずっといるわけではない。「社会」っていうところを意識していかないといけないなと思い、園を出ることになる1つの出来事でした。
もうひとつの理由ですが、「保育士になったよ」といってSNSなどで友達に言ったときのこと。私は今31歳なので、子育てをしている友達がいっぱいいました。ご飯についてとか、どうやったら賢くなるか? とかそういったことを、結構聞かれるようになりました。
これって1人が思ってるってことは、多分何千人も思ってる人とか、思ってきた人がいるんじゃないかな、と思ったと同時に、そういった悩みを保育士に聞けないというお母さんもいたりして、そこに何かニーズがあるのかなと思いました。
あとは今でも相談が多いのですが、自分が子育てを完璧にできていないっていうことに対してすごく罪悪感を持っていたり、働きたいんだけど子育てとの両立が不安ですという相談も多いです。
そもそも人に完璧はないので、どっちも全部100パーセントっていうのはなかなか難しいと思いますし、みなさんそれぞれバランスがあるもので答えがないんですが、どうしても子育てのHow toがほしくなってしまうんだなと感じました。もちろん私は自分の子ではないからそう考えられるのもあると思います。
「保育士です」と言った瞬間に質問を受けたり、電車で座っていて赤ちゃんが泣いていたときも、私は赤ちゃんとか子どもがもちろん好きなので声を掛けると、「実はミルク飲まなくて……」みたいな育児相談が街中で始まるという経験が何度もありました。保育士仲間に聞いてみると、よくあるよと言うんです。
「あ、これ、もっともっと保育士としてできることが何かあるなあ」と思って、起業することや子育てコミュニティをつくるところに至りました。
今でもニュースで山のように報道される子どもや子育てを取り巻く社会の課題を見ていると、こんな中で子育てを楽しむにはどうしたらいいんだろうということを考えます。
保育士になってみてわかったことですが、みんな「3年いたらいいほうだよ」と言うぐらい、どんどん入れ替わっていきます。体力勝負なのもありますし、出産するとなかなか両立が難しかったり、あとは自分には向いてないんじゃないか?ということまで。
子どもが好きなのはもちろんですが、保育士の仕事で大事なのって親御さんだったり同僚とのコミュニケーションだなと 。
コミュニケーションスキルが高くないとなかなか難しい仕事なんだなというのを感じました。
私は親御さんと話すのが大好きだったのですが、なかなかそういう保育士ばかりではない。保育士も個性があるので。
みなさんご存じかもしれませんが、潜在保育士は全国に今60万人以上いるといわれていますが、その人たちがなぜ戻ってこないのかっていうのをデータで見てみると、人間関係の問題だったり、賃金の問題が多くあがっています。
保育現場も一生懸命やっていますが、やはりここだけに頼る子育てのシステムにも限界もあると思ったので、もっと違うところで子育て支援をできないかという考えが、子育てコミュニティをつくる大きなきっかけになりました。
ここまでの話の中で、初めて知ったことももしかしたらあったかもしれませんし、全部知っていたかもしれないんですが、「実際の現場で感じたこと」というのが、すごく私の中での大きな原動力だったり、原点になっています。
今は、LGBTや障がい者、高齢者などのいろんな問題を、国をあげてみんなでやっていますね。そんな中で、私が子どもの近くにいる立場として思うことがあります。子どもっていう1人の人としての人権というのをもっともっと日本は考えていかないといけないんじゃないかということです。
「働く女性」にスポットが当たっていくときに、子どもたちが持っている力についても同じくらい考えて欲しいなと思うんです。子どもたちのことが置き去りにされてしまわないかという不安を、私の周りの保育士たちもつぶやいています。そのバランスをどういうふうにとっていくのかっていうことやどんな子どもに育ってほしいのかという子ども観をもっと国として考えていきたいなと。
私は子どもも産んでいないので、教育者、保育士としての視点が強いと思います。子どもたちの幸せを願いながら、お母さん達や社会とチームになって何かできないかと様々な活動をしています。
保育士が社会に飛び出たら何ができるだろうということで、2012年から「asobi基地」という子育てコミュニティを始めています。そのあと2013年にもう一人の保育士、小竹めぐみと2人でこどもみらい探求社という会社を立ち上げました。
その他もいろいろと活動しているんですけれども、今日フライヤーもお配りしているので、asobi基地というのが何をしているのか簡単に紹介します。
保育園に勤めている時に、「保育園っていうハードがなくても子育てコミュニティってつくれないのかな」という疑問を持ちました。社会全体が子どもたちの園庭だと想定したら、もっといろんなことが社会の中でできるんじゃないかと思ったので、公園で絵の具あそびをしてみたり、商店街で販売体験をしてみたり、ライブハウスでおもいっきり楽器にさわって遊んでみたり。
ハンデキャップのある方たちと交流したり、畑に行ったり、0歳で集まったり、ハロウィンパーティーをしたり、っていう何気ないことなんですけど、募集するとたくさんの親子があっという間に集まりました。
離乳食の回なんかは、本当にすぐ埋まりました。現場で感じたニーズをイベントにして、どのくらい反応があるのかと感じることを大事にしながら企画していきました。今でもそうしています。
親子の今のニーズを感じたり声を聞いたりする現場として、現場を持ち続けなきゃいけないと思っています。でも、やりたい活動をすべてやるには保育園に属しながらの両立が無理だったので、私の中での現場は「asobi基地」や会社で自主事業としてやっている「おやこ保育園」だと思っています。
asobi基地というコミュニティでは、Skypeでフィリピンとの交流してみたり、保育士養成の専門学生と一緒に企画してみたり、森でやってみたり、ということで自分が世の中にあったらいいなと思う企画をしています。
ただ、0から6歳の子どもがメインターゲットでやっているので、親が楽しそうだと思わないと1人で来れない年齢です。なので、お母さんたちにも、もちろんお父さんたちにも何かメリットがあるように組み立てるというところを意識しています。
子どもにとっても、親御さんにとってもWinだし、保育士や学生、運営側にとってもWin。みんなにとっていい形でないと持続していかないなと思ったのでそうしています。社会人経験がかなり活かされていますね。
相談で多いのが、「どうやって遊んでいいかわかりません」とか、「0歳だからまだ遊べません」というもの。先に決めつけてしまっていることが多いなと思うので、asobi基地に置いてある遊ぶものは家でも簡単にできる素材にしています。あと、一番大事にしていることは子どもが一番自由に解放されるだろうという環境の設定で、大人たちにルールを設定するということをしています。 これはおやこ保育園も同じです。
例えば、「否定語を使わず、言いかえて言おう」というものがあります。誰も否定語を使わずにいると、子どもたちがすごくその子らしくいられたり、初めましての子ども同士で遊びを発展させて盛り上がっていたり。昨日も多文化交流のイベントにブースを出していたのですが、0歳から小学生まで一緒に入り乱れて遊んでいました。
意識していたわけではないのですが、結果、昔の村のコミュニティの片隅に子どもたちが遊んでいるような環境になっていました。
あと仕掛けとして、保育士が日常で頭の中でやってることを観察シートに見える化して、子どもという人を客観的に見れるようなツールをつくりました。そうすると自分の子以外の観察も楽しくなり、はたまた自分の子どものことがもっとわかるんです。asobi基地という場所が特別なものではなくて、家でも実践できるように保育士の専門性をおすそ分けすることをしています。
さっき言ったように、こういうふうに来てくれる親御さんにも気づいたら多くのメリットがあるように組み立てているのがasobi基地というコミュニティです。
こんな形で、ソーシャルメディアを使って発信して、イベントにきてもらったり、どんどんお家の中にasobi基地が入ってくっていうような順路をつくっています。
asobi基地の活動をしていた時、いろんな企業さんからお声がかかるようになりました。実はリクルートの住まいカンパニーさんとも今保育園向けのアプリの開発で、もう1年ぐらいお仕事させていただいています。保育園の中のことを1から10までお話ししたり、親御さんや保育士にヒアリングをしたりしながら、一緒に新規商品の開発をしています。
こどもみらい探求社という会社としては保育士らしさを残しながら、子どもにとって本当にいい社会をつくるために、様々な企業さまと手をつなぎながら、環境をつくっていくてチャレンジをしています。
基本はコラボ事業ですが、唯一の自主事業として、親子で通う保育園があってもいいんじゃないかということで、「おやこ保育園」というのをやっています。asobi基地よりもさらに保育士らしい現場の1つとして、こっちもとても大切にしています。
「こんなに子どもたちと楽しい日常が送れるよ」ということを全8回の体感型で学んでもらっています。
カリキュラムは「じかん」「かたち」「おと」「ひかり」「ぶんか」など。ここを卒園してからでもいろんな世界を親子で楽しんでもらえるようにということで選び、それぞれに教科書を作ってポイントをお知らせしながらやっています。
あとは保育士たちがもっと社会で貢献できる環境をつくろうってことで「保育士マーク」をつくったり、現代アートと掛け合わせて子どもたちの世界に対して価値を付けていくということもやっていたりします。
今日は時間も短く、ざっと話してしまったんですが、最後に少し私のバックグラウンドについてお話しします。私幼少期にハンデキャップのある友達が身近にいたり、外国人と触れ合う機会が多かったりして、「もっとみんなが幸せな社会をつくりたい」と思って福祉の学部にいきました。
「差別のない社会をつくるにはどうするのか」という問いも持っていたのですが、保育士という仕事に出会って、この仕事は「私がつくりたい社会を実現できる仕事なんじゃないか?」と思いました。
やりながら試行錯誤していく中で、それには起業して社会に発信していかないと、解決できないなっていうところに至ったので、会社をつくることになりました。全然つくる気はなかったのですが。
本当に何かを始める時に大事なのは、「自分自身の内側と向き合うこと」。自分のバックグラウンドを見つめ直すと、自分にしかできないことが見え、きっとすごく力が湧いてきて人を動かすような事業になるんじゃないかなと思っています。
ということで最後になりますが、私にとって出会った子どもはみんな自分の子どものように大切です。社会全体で子どもたちが豊かに育てるような環境づくりっていうのを考えると、もちろんそれにはお母さんお父さん達がイキイキと生きる・働くってことも含まれてきます。
そういった社会をつくっていけるような人たちと出会えることを願って最後とさせていただきたいと思います。駆け足となりましたが、ありがとうございました。
司会:では、同様に1つだけちょっと質問を承りたいと思います。みなさん何かご質問はいかがでしょうか?
質問者:貴重なお話ありがとうございます。特にお伺いしたかったのは、話の途中で「親のメリット」っていう話があったと思うんですけれども、これはどのようにつくられているんですか?
小笠原:はい。親によってそれぞれ違うんで、ざっくりメリットって書いてしまったんですが。
サードプレイス的なところにいる第三者の保育士なので、すっと1人で悩んでいる人や保育園に行っていない人が気軽に相談してくださることが多いです。泣きながら、「良かったです」「子どもをもっと信じてみます」と言って帰って行ったりすることも。
あとは親御さんによってはなかなか人とコミュニケーションをとるのが苦手な人もいて、自分らしくいられるコミュニティや繋がりがなかったりするようです。
そういったところで、 子ども同士が繋がり、そこから周りのお母さんたちと繋がっていけたり。同じ価値観の親と出会えたり、心を開ける仲間ができたり。本当にお母さんも一人の人間です。得意、不得意があるので、それぞれのペースを大事にできるようにしています。
常に、「あそこに行けば何でも話せる」という大人たちの安心できる場所をつくって、親も学びあえる環境にしています。
それぞれの家庭によってメリットって違うのかなって思うんですが、それは本当にひとつずつ、「あのお母さんからこういう話を聞いたから、みんな困ってるかもな」と考え、イベントにして、その時の現場の声を拾う。それをまたビジネスのほうにも活かしていくというループにして、みんなでよりよい社会をつくれるようにしています。
質問者:ありがとうございます。
小笠原:はい。ありがとうございます。
司会:はい。以上で終会です。ありがとうございました。
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