山口組分裂の背景とは 専門家が解説の会見を開催

総会屋での稼ぎができなくなり、ヤクザの活動は拡散した

久保利英明氏（以下、久保利）：私弁護士の久保利英明でございます。こんな格好をしていますけど、ヤクザではありません。

私は弁護士になって45年ですけれども、その間ほとんどヤクザを相手にする仕事にからんできました。

最初の10年間は倒産事件で相手方はヤクザでした。倒産事件が起きるとヤクザがその潰れた会社をむしりにきます。

しかし、10年ほど経つと日本の景気が良くなって、1980年代には会社の倒産がなくなりました。そこから後、彼らがビジネスにしたのが総会屋です。

彼らは会社から巨額のお金を取って、なんのために取るかというと、株主総会を荒らさないためにお金を取り続けています。

1982年に日本の商法が変わりまして、総会屋に利益供与をしてはいけないと変わりました。多くの会社が弁護士の力を借りて総会屋を締め出そうとしたけど必ずしも成功しませんでした。

なぜなら日本を代表する銀行、証券会社、大メーカーが総会屋に利益供与を続けたからです。しかし1977年、第一勧銀四大証券事件が起きました。

この事件は東京地検特捜部が介入しました。その結果、多くの企業で「総会屋に利益供与をすることは、とんでもない犯罪なのだ」という認識が広がりました。

そして21世紀に入ると総会屋は影をひそめます。その後、暴力団は非常に幅広い活動をするようになります。ありとあらゆるお金の動くところに介入します。

もはや日本の経済は暴力団を必要としなくなった

しかし1992年に暴対法が施行されました。そして暴力団はこの適用を逃れるために、マフィア化して地下に潜ります。表で暴力団的な活動をすることを差し控えるようになったのです。

こういう過程の中でたくみに経済取引を行う山口組が勢力を拡大しました。10万人いた暴力団がどんどん縮小する中で、逆に山口組は暴力団の過半数を占めるような大きな組織になっていきました。

2009年からは暴対法だけではなくて、各地方自治体が定める条例によって暴力団排除の動きは強まりました。

そういうなかで山口組のなかに自己矛盾が発生してきて、ひとつは名古屋をベースに山口組という名前を残し続ける山口組と、神戸を本拠にする神戸山口組に分裂をする。

そしてみなさんが関心を持っている、撃ち合いははじまるのか、抗争はどうなるのか、というテーマが2015年、いま目下の一番大きな問題となっています。

今後の推移は予断を許しませんけれども、この分裂によって暴力団の力は弱まると考えています。

日本の経済の発展とともに大きくなった暴力団ですけど、もはや日本の経済は暴力団を許さない、あるいは暴力団を利用したり、暴力団にお金を払ったりするような経済システムではなくなったと思います。

これが弁護士である私の目からみた45年間の暴力団の変化、推移の歴史でございます。以上です。

約１万人の組員を抱える山口組とは

溝口敦氏（以下、溝口）：ご紹介いただきました溝口敦です。ノンフィクションライターです。

山口組は1915年、初代の山口春吉によって神戸市兵庫区に創立され、今年で創立100年です。創立100周年の今年、山口組は2つに分裂しました。

分裂されたほうが六代目山口組、司忍、本名・篠田建市という人が組長です。そして分裂したほうが神戸山口組と名乗りました。これの組長は井上邦雄という人で、山健組の組長です。本拠地はどちらも神戸にあります。

山口組はご存知のとおり、親分、子分あるいは兄、弟の関係。血縁関係を真似た組織でまとめています。そういう関係で山口組は通常、120の直系組から現在は59の団体が加わる形で山口組本家を構成しています。

六代目山口組は59直系組長、神戸山口組は13〜14の直系組長からなっています。山口組全体の組員数は1万300人と言われています。現在それが神戸山口組が3000人、六代目山口組がだいたい7000人だろうと。そんなふうに見られています。

六代目山口組の司忍組長は名古屋に本拠をもつ弘道会というところの出身です。神戸山口組の井上邦雄組長は神戸に本拠をもつ山健組の組長でもあります。山健組は山口組内で最大多数、だいたい2000人の組員を持っていると言われています。

司組長が脱税で狙われている可能性がある

なぜ分裂したかですが、まずお金の問題があります。山口組は直系組長たちから毎月会費を集めています。直系組長たちは1人あたり月に115万円の会費を収めます。そのほかに積立金が10万円あります。

その他に、飲料水とか日用雑貨品の半強制的な購入があり、これにだいたい毎月50万前後の金を毎月払っているといわれています。

毎年直系組長たちは、お中元、お歳暮の時期に司忍組長に対してプレゼントをします。その額はお中元の時期には各人合わせて合計5000万円をつくり、それをプレゼントする。

お歳暮の時期には同様に、1億円を集めて司組長にプレゼントする。そして、1月25日の司組長の誕生日にも1億円を集めてプレゼントすると、そういうことになっています。

分裂前の話ですが、毎月山口組本部では、7000万円ぐらいの会費が集まり、そのうち3000万円が司忍組長に渡っていたようです。

直系組長達は毎年月会費のほかにお中元、お歳暮、誕生日祝いなどありますから、だいたい1人あたり年間3000万円を山口組本部に納め、司忍の年収はおおよそ10億円程度と推定されています。

そしてこうしたお金は課税されていないと見られます。

要するに民間団体の、任意団体といいますか、それの会費収入というのは、日本では非課税が習慣みたいなもので、そういうのに類するお金であるため、司組長の毎年10億円程度の推定されるお金には課税されていないと見られるべきです。

ところが、今年6月北九州市を牛耳る、工藤会の野村悟総裁に対してこの会費収入の課税といいますか、長年非課税だったのが、課税になおして、これは組員からする上納金であって、本来課税すべきものだと福岡県警が考えまして、はじめて課税されたという経緯があります。

このことを根拠にして、警察庁も各都道府県警に対して「暴力団首脳部を脱税で挙げよ」という指示がなされており、かつ、また、神戸山口組においても、こういうことを材料に司忍容疑者を脱税での容疑で逮捕させることができるんではないか。という観測が行われています。

山口組の執行部というのは、若頭と若頭補佐、本部長からなっています。だいたい10人弱の執行部です。これら執行部が、山口組の運営とか会計を司ります。

こういう執行部を経験した人間が、5人ほど神戸山口組に移動しています。そのために彼らは「司忍組長にいくら渡ったか」というデータを持っているとされています。

山口組と神戸山口組 対照的な2人の組長

分裂のもう1つの大きな理由は弘道会による人事の独占があります。

現在の司忍組長は弘道会の出身です。若頭の高山清司という人は現在、府中刑務所で服役していますが、この人も弘道会出身です。

若頭というのは、組内のナンバー2を意味します。そして、若頭補佐の1人である、竹内照明という人は弘道会の現在の組長です。

若頭から直系組長に上がることが多いんですが、こういうふうに見ていただくとわかりますが、組長、若頭、若頭補佐というふうに弘道会が独占し、そのことにより、6代目、7代目、8代目まで弘道会系が組長の座を独占するのではないか。という危惧があります。

こうしたお金の問題と人事の問題が、今回の分裂劇の大きな2つの原因になっています。

このために、批判派である神戸山口組では新しい自分たちの会費システムを作りました。役付きの直系組長は月額30万円、中堅組長が20万円、ヒラの組長が月額10万円ということで、ヒラを基準に比べれば6代目山口組の10分の1程度の会費で済ませられるシステムを取りました。

そのほかに神戸山口組では、中元、歳暮を禁止すると。それと、組長の誕生日祝いはしないということで、このあたりも参加する直系組長たちにお金がかからないようなそういうシステムを作り上げました。

司忍組長はイタリア製ブランドで身をかため、洒落者として知られています。対して、井上邦雄組長は着ている服がユニクロであり、風邪を防ぐマスクも、1度使ったものを2度使ったりして、洗濯してアイロンをかけて使っているというような話があります。

これは山口組の歴史の終わりを意味するかもしれない

両者、対照的であるわけですが、神戸山口組では現在の分裂劇について江戸時代の百姓一揆あるいは、室町期からはじまる逃散（ちょうさん）。つまりその場所からいなくなって、どっかよその場所に移ってしまう、そういう運動であると彼ら自身が述べています。

普通暴力団の場合、自ら組を割って出たほうが負けるというふうに決まっています。

このことは山口組からわかれた一和会との抗争、あるいは道仁会からわかれた九州誠道会の抗争、みんな共通して出たほうが敗れています。

ところが今回、組を出た側の6代目山口組（ママ）なんですが、これと付き合おうという団体という団体が既に現れています。大阪の酒梅組は6代目山口組の後見を受けているんですが、後見を断って付き合いをやめ、神戸山口組と交際すると言いはじめています。

そして関東を中心とする住吉会の中でもっとも武闘派的組織とされている加藤連合。加藤組長も神戸山口組にシンパシーを感じているようです。

山陽道の侠道会もそのようですし、ゆくゆく沖縄の旭琉會も神戸山口会接近するんではないかと言われています。

というわけで、現在のところ勢力比は7対3で6代目山口組が優勢なわけですが、ただ勢いとか人気の点でいうと、どうも神戸山口組が優勢なんじゃなかろうかと。

ゆくゆく五分五分になり、そして最終的には割って出た側の神戸山口組が勝ってしまうのではなかろうかと私自身は観測してます。

どちらにしろ先ほど久保利先生がおっしゃられたように、私も神戸山口組も6代目山口組も、どちらに転ぼうと、相対的には力を弱めていく。そういう暴力団山口組の歴史があるんではなかろうかと思っています。

今回の分裂はおそらく山口組最後の分裂であり、そしてこれは山口組の歴史の終わりを意味することになるかもしれないと考えております。