2025年のノーベル化学賞を受賞した北川進 京都大特別教授の記者会見の模様を全文書き起こしでお届けします。
福井学派の流れを受け継ぎ、新たな材料化学を拓く
司会者:それでは閉会になりましたので、ただいまから、北川進理事副学長高等研究院特別教授のノーベル化学賞受賞社会意見を開始いたします。初めに本日の出席者を紹介させていただきます。
中央がこの度ノーベル化学賞の受賞が発表されました、北川進京都大学医科大学長、高等研究院特別教授です。向かって右側が京都大学総長の湊長博です。向かって左側が広報担当理事の野崎治子です。よろしくお願いいたします。それでは、総長の湊より今回のノーベル賞受賞についてご挨拶申し上げます。
湊長博氏:みなさん、今日はご苦労さまです。ずいぶん待ちましたけれども、ご案内のとおり今回、北川進教授がノーベル化学賞の受賞が決定いたしました。私も京都大学の一員として、本当に心からうれしく誇りに思っております。
北川先生の仕事の内容については、これからいろいろまたご本人からお話があると思いますけど。北川先生は、福井謙一先生以来の京都大学の化学のメインストリームをずっと歩んでこられた方で、ようやく今日の栄誉に輝かれたということであります。
彼の仕事もさることながら、北川先生はここ1年、今日の肩書きは研究担当理事ということで、大学改革に本当に力を注いでいただいてきました。私も友人として、それから同じ大学改革の仕事をしてきた同僚として、なおかつ京都大学の一員として本当にうれしい思いで、誇り高く思っております。
これからずいぶん忙しくなると思います。私も2018年以来、久しぶりにこの前に立って、「京都大学、やっぱり我々はまだきちんと底力を持ってるんだな」ということを、自分で言うのも変ですけれども、心から誇り高い気持ちで迎えております。私からは以上です。
「新しい穴のある材料」で挑んだ30年
司会者:ありがとうございました。では続きまして、北川進理事からノーベル賞受賞の報告、感想などについてお話しいただきたいと思います。北川理事、よろしくお願いいたします。
北川進氏(以下、北川):みなさん、こんばんは。こんなに集まっていただきまして、感激しております。私がやっているのは新しい材料作りということで、みなさまもご存知の活性炭やゼオライトとはまた違った、特に穴の開いた新しい機能を持つ材料開発をやってまいりました。
そういう意味で、新しいことをするチャレンジですね。これは非常に、化学者にとって大願でして、非常に辛いこともいっぱいあるんですが、実際に新しいものを作っていくことで、過去30年以上楽しんでまいりました。
今般、こんなに大きな名誉をいただくことになって非常に感激しておりますし、何よりもこの化学を一緒に進めてきた私どもの同僚、それから学生のみなさん、そして海外含めた博士研究員のみなさんに感謝申し上げたいと思います。そして当然、理解して支えてくれた家族にも感謝しております。
またあとで質問が出れば言うと思うんですが、やはり私はいい環境に恵まれたなというのを非常に痛感しています。福井先生を始めとした、この福井学派の流れにどっぷりと浸からせていただいて、今日に至ったものというふうに思います。
それで、退職年齢を過ぎてもまだ研究してもいいということで、研究させていただいた京都大学には本当に感謝しております。とりあえず以上です。どうもありがとうございます。
司会者:ありがとうございました。それでは今から質疑応答に入らせていただきます。この会見の後、個別取材の予定がございますので、本会見は9時には終了させていただきます。本日文部大臣から祝辞の電話がございましたら、質疑の途中で中断させていただきますが、それに伴う会見の延長はいたしませんので、あらかじめご了承いただけたらと思います。
なお終了後、しばらくの間、総長に関しましては、部局の関係教員と共に取材の機会は用意しておりますので、ご了解いただけたらと思います。質疑応答に関しましては、最初に京都大学記者クラブの幹事者、関係新聞社さまからの質問をお受けしまして、続いてみなさまからのご質問をお受けいたします。
ご質問の際には、社名とお名前、どなたへの質問かを仰っていただいた方でお願いしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。ご質問を当てた場合は、担当の者がマイクをお持ちいたします。それではまず、京都大学記者クラブ幹事社の産経新聞者さま、ご質問をお願いいたします。
受賞の知らせは「また勧誘電話かと」
記者1:産経新聞のスギと申します。本日はおめでとうございます。着席して失礼します。幹事社として2問ほど全般的な質問をさせていただきます。北川先生におうかがいします。まず、本日受賞決定の知らせは、どこでどういったかたちで受けられたかを教えてください。
北川:高等研究員の私の居室で、ちょうど溜まっていた仕事を片付けておりました。その時に私の横にある固定電話に電話がかかってきました。5時半ですかね。最近、変な勧誘の電話がかかってくるんですよ。
(会場笑)
北川:私は「またか」と思って、ちょっと警戒して取ったら、(スウェーデン王立科学)アカデミーの選考委員会の委員長とおっしゃったので、ちょっとびっくりしました。
「壊れるに決まっている」という常識を覆した研究
記者1:ありがとうございます。もう1点おうかがいします。先ほど、ご自身の研究についてお話しいただきましたが、今回の受賞理由について教えてください。ご自身の研究のどのような点が評価され、この「最高の栄誉」ともいわれる賞の受賞につながったとお考えでしょうか。
北川:ナノスケールというのは理解しにくいと思いますので、我々の身の回りの物を例にして説明すると、例えばダンボールですね。ダンボール箱の中に本をたくさん詰めて、その上に座っても潰れませんよね。ところが中身を全部取り出して座ると、ぐしゃっと潰れてしまう。それは素材が紙だからです。
もしこれを木や石で作ったら、壊れませんよね。そういう意味で言うと、ナノスケールの構造を持つ物質の中でも、ゼオライトはどちらかといえば石系です。一方で、活性炭は少し違いますが、やはり少し動いても形が保たれる。
私が取り組んだのは、有機分子を使ったタイプのものなんです。有機分子と金属イオンを組み合わせて研究していたんですが、当時は「そんなものはすぐ壊れるだろう」というのが、みなさんの常識だったわけです。
3人のチームワークが導いたノーベル賞
北川:それに対して、こういう構造体が実際に作れるということを示したのが、今日ご紹介のあったリチャード・ロブソンさんです。私は、それが壊れずに丈夫な構造を持っているということを示しました。もう1人のヤギーさん(オマー・ヤギー氏)は、そうしたものをどう作っていくか、そのネットワークの作り方を詳しく研究された方です。
ですから、この3人のチームワークによって認められたのだと思います。そういう経緯になります。私も、このチームワークというか、彼らは東大出身でもありますので、非常にうれしく思っています。
報われたというより、化学が認知された
記者2:読売新聞のシミズと申します。北川先生におうかがいします。これまでの研究の苦労を教えていただきたいです。そして今回の受賞によって努力が報われたと感じていらっしゃるかどうかについてうかがいたいと思います。あわせて、今回の成功の意義についてもお聞かせください。よろしくお願いいたします。
北川:苦労はもう限りなくあります。今回の受賞では、報われたというよりは、この化学の分野が大きく認知されたのではないかと感じています。ケミストリーという点では、すでにかなり評価されており、引用(サイテーション)数も非常に高くなっています。
ただ、一般の方々に理解していただくのは、まだなかなか難しいところです。製品化など、すべてが形として表に出ているわけではありません。そういう意味で、今回このように認知していただけたことを非常にうれしく思っています。
成功の秘訣は「興味を持ち、挑戦する姿勢」
北川:成功の秘訣はいろいろありますが、やはり先ほど申し上げたように、「興味を持って挑戦する」という姿勢が大事だと思います。私は研究室を運営していますが、指導者にとって大切なのは、そうした姿勢を持つこと、そして明確なビジョンを持つことではないかと感じています。
私は決して偉いわけではなくて、本当に「おもしろい」と思うことだけに突っ走ってきたんです。その中で、うまくいかないこともたくさんありました。だからこそ、一緒に研究してきた周りのみなさんには本当に苦労をかけたと思います。そうした人たちの支えがあって、ここまで来られたのだと思います。
ケミストリーというのは個人プレーではなく、やはりチームプレーなんですね。そのチームプレーがうまく機能したときには、研究はどんどん前に進んでいくのだと思います。
この分野には、今後さまざまな応用の展開が考えられます。もちろん、まだコストなどの課題はありますが、少しずつ浸透してきています。これからも協力しながら、この分野がさらに発展していくことを楽しみにしています。
幸運は準備された心に宿る
記者2:これからの若い世代や子どもたちに向けて、一言メッセージをお願いいたします。
北川:子どもたちに向けて話すのは少し難しいかもしれませんが、細菌学の父とも呼ばれるルイ・パスツールの言葉を紹介したいと思います。 彼は「幸運は準備された心に宿る(Chance favors the prepared mind)」という名言を残しています。
私自身のこれまでの歩みを振り返ってみても、良い先生や良い友人、そして学会などでのさまざまな出会いに恵まれてきました。そうしたものこそが「準備された心」につながっていたのだと思います。
幸運というのは、ある日突然、宝くじのように当たるものではありません。みなさんも、自分が育っていく過程でさまざまな経験をすると思いますが、その一つひとつを大切にしてほしい。そうした経験が、将来必ず花開く可能性を持っているということをお伝えしたいです。
※本記事はAIによる自動書き起こしデータをもとに、編集部が内容を確認・編集しています。