2025年10月6日に開催された、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 特任教・坂口志文氏の記者会見の模様を全文書き起こしでお届けします。
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「あるわけない」と言われた細胞を40年間研究できた理由
司会者:会見の途中でございますが、ただいま石破内閣総理大臣からお電話が入りますので、会見を一旦中断させていただきます。
石破茂氏(以下、石破):坂口先生でいらっしゃいますか?
坂口志文氏(以下、坂口):はい、坂口でございます。
石破:総理大臣の石破茂でございます。この度は誠におめでとうございます。心からお喜び申し上げます。個人で言うと日本人で29人目になるんだそうですが、世界に誇る立派な研究を、本当にありがとうございます。
坂口:ありがとうございます。
石破:報道で見たんですけど、先生は「何でも研究するには時間がかかるんだよ」とおっしゃっておられました。それで「制御性T細胞はあるわけない」と言われたそうですね。
坂口:確かに、そういう人もおられたかもしれません。
石破:先生は、何でそれがあるはずだとお思いになられたんですか?
坂口:そういう細胞、現象を見つけて、本当にあるかということを、長年やってきました。だんだんそれがはっきりしてきまして、人の病気の原因にもなるし、治療にも使えるということが分かってきました。それで今回このような形で、成果を認めていただいたんだと思っております。
石破:先生は40年ぐらいずっとそれを研究してこられて、今日の受賞につながったわけですね。
坂口:そうですね。そういう意味では、ある意味頑固にやってきたことが、今日につながったんだと思います。
「がんは治せる時代に必ずなる」
石破:ちょっと私は分からないので教えていただきたいのですが、世界中にがんで苦しむ人がいますよね。私の身内もいっぱいがんで死んでいて、先生の研究で、がん治療はこの後どうなっていくのですか。
坂口:私たちの研究している制御性T 細胞は、自分に対する免疫反応を抑えます。だから病気を抑えるのですけれども、同時にがん細胞に対する免疫反応も抑えてしまいます。そうしますと、がん組織から、そのような抑えるリンパ球を除いてやりますと、がんに対する免疫反応が非常に強くなります。ご存じのようにがんの免疫療法というのは、それなりに効果があるのですけれども、せいぜい効果が20~30パーセントだと思います。
それをいかにして、より強くするか。例えば50、60パーセントは免疫で治るような時代が来るためには、どんながんでもまずは免疫反応を上げて、その後に外科的に取るとか、まず免疫反応を上げることがおそらくこれから重要なことになるのだと思います。そのような方向で、研究が進めば良いと思っております。
石破:自分の免疫でがんに打ち勝つような、強い免疫力を人間が発揮できるようになるってことですか。
坂口:簡単に言ってしまえばそういうことになります。例えば、ウイルスとか細菌に対して免疫反応が起こるように、自分から出てきたがん細胞に対しても、ワクチンのように免疫反応が作れると。もしそのようにしてがんが退治できれば、それはがんに対する理想的な治療法になるかと思います。
私は、20年くらいの間にはそこまで行けるんじゃないかと思います。私は生きてるかどうか分かりませんけれども、やっぱりサイエンスは進んでいきますので、そのうちに、がんはぜんぜん怖い病気じゃなくて、治せるものだという時代に必ずなると思っております。
石破:そうなのですね。ありがとうございます。このようなイノベーションってすごく大事なので、我々政府としても、先生方の研究にまたお手伝いを十分にさせていただきたいと思っていますので、ぜひとも先生お元気であと20年よろしくお願いします。インタビューの最中申し訳ありませんでした。
坂口:どうもありがとうございました。失礼いたします。
石破:失礼いたします。
大学の博士課程を辞めてがんセンターに…決断の背景
司会者:では質問に戻りたいと思います。順番に質問をどうぞ。
記者12:その研究されるお立場として、博士過程をやめて違う試みに行くということはすごい決断ではないのかなと我々は思うんですけれども。その時の決断をされた理由、その背景を少し教えていただきたいです。
坂口:その時の決断は現在につながっていると思います。と申しますのは、当時、大学を卒業して博士課程に入ったんですけれども。自分が本当に何をやりたいかという研究になりますと、いろんなことを勉強しておりました時に、その愛知県がんセンターで非常におもしろい研究をされておると。
その時に思いましたのは、その研究をもう少し深くやれば、何か新しいこの原理に達すると言いますか。そこまで行けば、ひょっとして人の病気につながるということを、若いなりに思ったんですね。ですから思い切って大学を辞めて、愛知県がんセンターに行き、そこで勉強させてもらったんです。その頃の研究をより一般化できるような、人にもつながるような形に研究を進めていきますと、制御性T細胞というものの発見につながっていったということになります。
若者には自分の興味を追求していってほしい
司会者:申し訳ないんですけれども、ただいま阿部俊子文科大臣からお電話が入っておりますので、再びおつなぎします。
阿部俊子氏(以下、阿部):この度はノーベル賞の受賞、本当におめでとうございます。
坂口:ありがとうございます。
阿部:ぜひ今後とも、世界の学術会でますますご活躍いただきますよう、我が国のこの学術研究、一層の発展のためにご尽力いただきますようお願い申し上げる次第でございます。
坂口:どこまで何ができるかわかりませんけれども、この受賞機会に、これからも、何らかの貢献ができればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
阿部:お願いします。先生、研究者を志す若い方々に対してメッセージを一言お願いできますか?
坂口:そうですね。サイエンスに限らず、スポーツでも何でもそうですけれども、やはり、どんな分野においても、本当に自分のやりたいことを持続していくうちに、それなりに新しいことが見えてくる。この自分の世界が作れるといいかと思います。で、その意味ではやっぱり若い人は、自分の興味を追求していく。その中からやっていくとやはり社会とのつながりも見えてきますので、そのようなことを、サイエンスに限らず、期待したいと思います。
阿部:ありがとうございます。先生、最後に1つだけ、我が国の若手研究者の育成のために文部科学省、私どもがどのような支援ができるかを教えていただけますか?
坂口:いつもよく言われることですけれども、やはり日本の基礎科学に対する支援が不足しているように私自身は感じます。このアメリカとか中国に比べますと、もちろん日本の基礎研究資金は少ないんですけれども。同じGDPでありますドイツと日本を比べますと、例えば免疫の分野では、研究の資金の規模は、日本はドイツの約3分の1です。その意味でこれからは、そういう基礎研究に対する支援をぜひともお願いしたいと思っております。本当にどうぞよろしくお願いいたします。
阿部:はい。しっかり文部科学省も予算のためにがんばってまいりますので、これからもご指導よろしくお願いします。
坂口:どうもありがとうございました。