2025年10月6日に開催された、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 特任教・坂口志文氏の記者会見の模様を全文書き起こしでお届けします。
前回の記事はこちら 科学者の卵に向けたメッセージ
記者3:受賞おめでとうございます。日本経済新聞のミスミと申します。私も2件ほど、うかがいたいと思います。毎年、ノーベル賞の発表が行われて、受賞者を見て、科学者を志す子どもたちもいると思います。そうした子どもたち、科学者の卵に向けて、どういう言葉を伝えたいでしょうか?
坂口志文氏(以下、坂口):うーん。そうですね。世の中には、本当におもしろいこと、興味をそそるようなことはたくさんあるかと思います。それはもう、スポーツでも、我々がやっておりますようなサイエンスでもいいと思うんですけれども。やはり、そういうものに興味を持ち続けて、いろいろな試みをしておりますと、だんだん、この興味もまた洗練されて強くなっていくことになります。
そういう意味で、やはり自分が興味のあることを大切にする。また、それをずっと続けることによって新しいものが見えてくる。自分の中でだんだん興味がかたち付いてくると言いましょうか、はっきりしてくると。
気がついたら、非常におもしろい境地に達していると。そういうことが起これば、サイエンスに限らず、どんな分野でもおもしろいかなとは思います。
ノーベル賞受賞を期待していたか
記者3:ありがとうございます。次なんですけど、(先生は)長らくノーベル賞候補とされていました。私たちマスコミの人間も、ノーベル賞(候補)として、長くお名前をあげられてきたんですけれども。最近、今年はノーベル賞が来るかもしれないという予感とか、そういうことはございましたでしょうか?
坂口:難しいですけど、そういうことがあればもちろん率直にうれしいとは思いますけれども。ただ、サイエンスの分野は非常に広いです。その中で毎年、3人までになりますので、ある意味、受賞できたのが非常にラッキーなことだと思っております。
今回は免疫学になったんですけれども、他にもいろいろないい仕事といいますか、良い研究成果があります。その中から選んでいただいたっていうのは非常に、光栄に思っております。
研究の歴史に対する感謝
司会者:それでは、次に質問がある方。では、女性の方からお願いします。
記者4:ありがとうございます。先生のお仕事の前にサプレッサーT細胞の存在があったために、非常にご苦労されたと聞いています。もし多田富雄先生に言葉をかけるとしたら、どんな言葉をおかけになりたいでしょうか?
坂口:そうですね、サイエンスってのは、一直線で進んでいくものじゃなくて、その時代、その時代の制限の中で、どこまで、ものが見えるかということでやるわけです。時に、その時代のテクノロジーが追いつかないために、「こうであると思うんだけど、それがうまく証明できない」ということも起こります。
ですけれども、長い目で見ますと、発見された事実というのは間違いじゃないわけで。ただ、解釈と、あるいは、より包括的な理解っていうんでしょうか。やっぱり時代が進んでいくにつれて、深まっていくということだと思います。
そのような意味で、私たちの仕事の前にもいろいろな人の仕事があり、そういうものが、だんだんと次の段階に進み、時代が進んでいく。それぞれの仕事の位置というのがまたはっきりしてくると。
それで、昔の仕事も今の目からしますと、実はこういうことだったんだという理解になるんだと思います。ですから、何か(かける)言葉と言われましたら、やはりサイエンスの中で、本当にいろいろな人のいろいろなかたちの寄与があります。私たちがやったこともまた何年か後には、また新しい考え方になっていくかもしれません。そのようなことをお話ししたいと思います。
司会者:ありがとうございます。それでは次。
ゆっくりお風呂に入って寝ます
記者5:毎日放送のイモリと申します。受賞おめでとうございます。先生はノーベル賞を受賞したら何がしたいでしょうか?
(会場笑)
坂口:(笑)。別に、ほかに何かできるわけじゃありませんので、仕事ができる間はもう少し続けたいと思います。
あえて言うならば、今までは基礎研究をやってきましたですけれども、それが実際の疾患、病気の治療予防に具体的につながるようなことをやっていきたい。そのような面で、私たちの研究している分野が、進んでいくような寄与ができたらと思っております。
記者5:先生にとって、T細胞とはなんですか?
坂口:そうですね。難しいですけれども。T細胞っていうのは、リンパ球の一部ですね。長年、それを研究してきましたが、研究すればするほどいろいろな新しいことがわかってくると。
その意味で、研究の醍醐味を味わうことができたことになります。制御性T細胞はその一部でありますけれども、だんだん、免疫反応がいかにコントロールされているか。あるいはコントロールできるか、という理解が進んできた。それがやはり、うれしいことです。
記者5:ありがとうございます。今夜は取材対応でかなり忙しいと思うんですけれど、家に帰ったら何がしたいですか。
坂口:ゆっくりお風呂に入って寝ます。それだけです(笑)。
(会場笑)