昨年の都知事選で15万票を獲得したAIエンジニアの安野たかひろ氏が、日本の行政・政治をアップデートするプロジェクト「デジタル民主主義2023」についての発表記者会見を行いました。質疑応答の後半では、「民意による政策反映」のポイントとなるSNSとの連携や、AIの発達によるデジタル格差の解消の可能性について語りました。
台湾の「民意による政策反映」の仕組みを日本で取り入れるには
司会者:では、時間的に今手を挙げてくださっている4名の方、前から順番にマイクをお渡しさせていただければと思いますので、よろしくお願いします。
質問者6:はい、ありがとうございます。フリーのスズキエイトです。ちょっと短めにします。「民意による政策反映」のプロジェクトについてなんですけれども、台湾の事例を挙げていただいたんですが、台湾だとさっき5,000人の賛同で政策のプロセス検討になると言っていて、これは人口の0.02パーセントで、日本に当てはめるとだいたい2万5,000人ぐらいになると思うんですけど。
そのぐらいだと特定の偏った一群の人々の意図がけっこう反映されやすいのかなと思うんですけど、例えばそういったものを検知して排除できるようなシステムは可能なのでしょうか?
安野たかひろ氏(以下、安野):はい。これも2つありまして、1つ、大前提として、数が多いことに対して検討を進めるということ自体は「Join」の場合も約束しているんですけど、それを必ず実行するという約束はしていないんですよね。なので、少数の人たちが一致団結してやったとしても必ず通るわけではないというのが担保されていると思います。
質問者6:じゃあ台湾と同じように、日本でも「何パーセント集まったら政策に乗せる」みたいなところまでは決めているわけではないんですか?
安野:そうですね。かつ、これはたぶん行政、それとも自治体で使われるのか、国政で使われるかによってけっこういろいろなアレンジができると思うので、その自治体、場所に合ったやり方があるかなと思います。
おっしゃるとおり、台湾でどういうふうにやっていたのかは非常に重要だと思っています。実際のプラクティスに出てこなかった部分があるので、そういう意味では今週末、台湾に視察に行きまして、そこらへんを関係者にいろいろ聞いてこようと思っています。そこもわかったことがあれば、ぜひ共有していきたいなと思っています。
質問者6:はい、楽しみにしています。ありがとうございます。
「民意による政策反映」はSNSとの連携がカギ
質問者7:TOKYO MXのヤマダと申します。よろしくお願いします。3番の新プロジェクト、「民意による政策反映」について、これはまだ検討中の部分がかなり多いとは思うんですが。
このプラットフォームのかたちとして、このイメージ画像とかを見ますと、既存のSNSのポストから意見を抽出するようなかたちを考えてらっしゃるのか。それとも全部作っていくというようなかたちを考えているのか、現時点でお考えの部分を具体的に教えてください。
安野:はい。非常に良い質問だと思っていまして、私の現時点の構想としては、既存のSNSとうまく連携していくことが重要なのかなと思っています。
これは台湾の事例もいくつか確認しているんですけれども、こういう類似の事例を見た時に、1つ、どのプラットフォームも直面していたことがあります。最初はアテンションがすごく集まってうまく回るんですけど、続けているうちに、徐々に過疎って人がいなくなってしまう。

それによって、「そもそもこんなに人がいないプラットフォームで話されたことって意味あるの?」となってしまうことがあるわけです。SNSってある意味その部分をうまく補完できる存在だと思っています。良いかたちのやりとり、SNSとの連携みたいなものを、このアーキテクチャの全体の中に組み込んでいくのがポイントになるのではないか、という仮説を持っています。
デジタル格差はAIの進化によって解消されていく
質問者7:ありがとうございます。あともう1点、例えばこうしたプロジェクトにおいて、デジタル格差みたいな話で、ご高齢の方とかがなかなか参入ができない可能性もあると思います。その上で、そういった方々も参加できるような、安野さんの考えるデジタル民主主義のかたちを、あらためて教えていただきたいなと思います。
安野:ありがとうございます。まずデジタル格差みたいなものは長期的に解決していかなければいけない課題だと思いますし、かつ私はそこに関しては一定楽観的な見方をしています。
なぜかというと、今までのITの技術、例えばプログラミングみたいなものは、パソコンの中身を分かっている人はどんどん使いこなせるけど、わからない人はそんなに使いこなせないというタイプの技術だったんですよね。
一方で、AIってそことまったく逆行していて、正直、プログラミングやパソコンの中身をわかっていなかったとしても、我々が普通にしゃべっている日本語で「こういうことをやりたいんだよ」と言うと実現できる。裏側を知らなくてもいいタイプの技術なんですよね。
なので、そういうデジタルデバイド(情報格差)に関して言うと、AIがインターフェースの前面に出てきて、人としゃべるのと同じようなかたちでコンピューターを操作できるのであれば、私は一定解決していくと思います。長期的に、楽観的な見立てを持っています。
現在の投票や陳述は高齢者のほうが意見を通しやすい
安野:短期で見た時に、そのご高齢の方とそうでない方、あるいは(デジタルツールを)使いこなしている方と使いこなしていない方で、そういったプラットフォームの参入障壁が変わるだろうというのはおっしゃるとおりだと思います。
その問題がある上で、それでも私は現時点からやったほうがいいと思っています。というのは、例えばすでに投票や陳情みたいなものって、どちらかというと若者ではなくて、よりご高齢の方のほうが意見を通しやすいタイプの決め方だと思っています。
そこに少しでも、こういう新しいプラットフォームで若者が意見を発せられて、意見が通るような経路を一定混ぜること。これは完全にリプレイスするんじゃなくてちょっと混ぜるわけですよね。
これはむしろ全体から見ると、よりバランスが取れる可能性すらあると思っていて、そういう意味で、私は現段階でデジタルデバイドの問題があるだろうという中であっても、こういったことを始めることはプラスに働くかなと思います。
あと1つ例で言うと、台湾で実際に「Join」を使った時に、参政権、選挙権をまだ持っていないような女子高生が書いた、「こういう法律があったらいいんじゃないか」と書いたものが実際に通って法律になりました。なので、実際にこういったデジタルプラットフォームは、若者をエンパワーメントする要素が一定あると思っています。
質問者7:ありがとうございました。
「AIが市民の意見を解析」公平性は保たれるのか?
質問者8:フリーランスのシラサカと申します。今日は大変興味深いお話し、ありがとうございます。ブロードリスニングシステムという話を聞いて、思い浮かんだ本が2冊ほどあります。
1冊目は東浩紀さんのこの『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』、そしてもう1冊目が成田悠輔さんの『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』です。これらの書籍には、まさに安野さんが実現されようとしていることが書かれていますが、安野さんはこの本を読んだりされましたか?
安野:そうですね、その2冊はすごくおもしろい本だなと思って拝読させていただいたんですけど、すごい細かいことを言うと、その著者お二人は、安野が完全に同じことをやっているとは思っていないと思います。
微妙に「違うだろう」って言う2人のお顔が思い浮かびますが、でも私としてはすごく好きな2冊でございます。
質問者:じゃあやはりけっこう影響を受けたりされたんですか?
安野:もちろんです。
質問者8:なるほど。あともう1点、昨日このブロードリスニングシステムの実現に関して「障壁となるものはなんですか」ということをChatGPTで聞いてみたんです。そうしたら6項目ほど出してきて、その中の1つが、「AIが市民の意見を解析する際、そのアルゴリズムや結果の公平性に疑問が生じる可能性がある」と。
オープンソースにする場合、例えば、悪意のある団体がこのソースを改悪してしまう可能性は否定できないと思うんです。その場合、それを監視するとか、そうさせないような仕組みについてなにかお考えはありますか?
安野:そうですね、「オープンソースで誰でもいじれるよ」ということではあるんですけど、どういうふうにいじられたものなのかは見ていてわかるので、そういう改変されたものを使わなければいいとは思っています。
なので言い方を変えると、どのアルゴリズム、どのモデルを採用するのかは非常に重要な意思決定だと思いますし、それは実際にちゃんと公表して「このモデルを使ったんだよ」と示すのが大事なのかなと思います。
質問者8:どうもありがとうございます。
前回の都知事選でも、Web上のフォーラムを通してマニフェスト改善案を募集
安野:次が最後の方ですかね。
質問者9:日経BPナガクラです。2つ目の「民意による政策反映」、熟議プラットフォームについて3点おうかがいさせてください。1点目がこれは対象についてなんですけれども、自治体と国是、両方になりますでしょうか?
安野:すみません、どっちのプロジェクトでしたっけ?
質問者9:熟議プラットフォームの「民意による政策反映」のほうです。
安野:これは自治体と政党、あるいは個人の政治家でもお使いいただけると私は思っています。例えば前回の都知事選の時には、私は完全に個人で立候補しておりましたけれども、その中でも類似のような試みをやっていたんですね。つまり、Web上のフォーラムを通じて、私のマニフェストについて何か改善点があればいつでもいただきたいと。

そこの上で議論されたものを、実際に自分のマニフェストとして取り込んでアップデートしていくというやり方をしていました。なのである意味、個人の政治家から、これは別に政党でも、自治体みたいなところでも使えると思うので、そこの射程はわりと広く取れるのではないかなと思っています。
質問者9:わかりました。台湾の例で、立法プロセスに組み込んでいくという話がありましたが、我が国はやっぱり内閣提出法案が多いので、そうすると政治家さんもですけど、行政機関、各省さんのほうにも使ってもらうというのは想定の範囲になっていますか?
安野:そうですね、各省というのもあり得ると思いますが、どちらかというと、例えば政治家がマニフェストを作る、あるいは政党が党のマニフェストを作るところのほうがまずハードルは低いのかなと思います。その次くらいにあるのが、たぶん地方自治体の条例制定プロセスに載せていくという話かなと思います。
SNSとの連携は既存のプラットフォームを活用するのか?
質問者9:わかりました。2点目はシステムについてなんですが、先ほど既存のSNSと連携するとおっしゃいましたが、これは新規のプラットフォームで作られるのか、もしくはすでにたくさんあるDecidimのような熟議プラットホームを活用されていくのか、どちらになりますか?
安野:そうですね、まぁちょっとDecidimではないものを今第一候補にして開発自体は進めていますが、そういった既存のSNSの外の部分が一部あるようなかたちだと思います。
質問者9:オープンソースとかである既存の熟議プラットフォームを使っていくイメージですか?
安野:そうですね、オープンソースの既存の熟議プラットフォームに手を入れながら日本で、あるいは今のSNS状況の中で良いものにできるといいと思っております。
政策への反映をどう進めるか
質問者9:ありがとうございます。3点目、政策反映となると、「ルールをコミットしていかないと」ってなると思うんですけど。政党はまだしも、条例に入れていくとなると、台湾の例のように、これを政策形成のプロセスの中に入れていかないといけないと思いますが、そのあたりもPoC(概念実証)の中に入っていくイメージですか?
安野:そうですね、そこにすごくご興味を示していただけるような首長の方とか地方議会の方々がいれば、そういったことも可能になると思っています。
質問者9:ありがとうございます。
安野:はい、たぶん最後の質問だったと思うので、締めさせていただきます。みなさん、本当にお忙しい中、お集まりいただきまして、またすごい熱量の高いご質問をたくさんいただきまして、本当にありがとうございました。