昨年の都知事選で15万票を獲得したAIエンジニアの安野たかひろ氏が、日本の行政・政治をアップデートするプロジェクト「デジタル民主主義2023」についての発表記者会見を行いました。質疑応答では、SNSなどから広く意見を集めるブロードリスニング手法の活用や、政治資金の透明化を図るオープンソースシステムの開発など、2025年夏の参院選・都議選での実装を視野に、将来的には行政のデジタル化による透明性向上を目指すと回答しました。
データ収集の多角化をどう実現するか
司会者:ではこれより質疑応答へと移らさせていただきます。質問のある方は挙手をお願いします。質問の際は、会社名とお名前をお伝えいただいた後に質問をお願いいたします。では一番左の手前の方からお願いします。
質問者1:共同通信のサワノと申します。ブロードリスニングの手法についてですけど、これは東京都がやったように、これはXとYouTubeを対象にした後は直接サイトかなにかで意見を募集するという、そういうやり方になるのでしょうか?
安野貴博氏(以下、安野):はい。東京都もですね、いろんなチャネルからなるべく偏らず情報を取得するような試みをしておりまして、おっしゃったように、X、YouTube、それ以外にもgoogleフォームを使ったもの、あるいは郵送であるとか、実際の実地で意見を集めることもやっていました。
ある意味このツールというのは、どのデータ、どういうデータソースからどれだけデータを集めるかということに関しては、一定活用者に裁量があるものでして、それは例えば利用される方、それは政党なのか自治体なのかはわかりませんが、そういったユースケースによって調整できるようなものになると思っております。
質問者1:あと、政治家のお金の話(※政治資金の透明化)ですけど、これは会計アプリを使うんじゃなくて、そういうダッシュボードを新たに作るということですか?
安野:会計のアプリをゼロからフルスクラッチですべて作るというのは、なかなか大きな開発になりますので、初期的に言えば既存の会計アプリと組み合わせつつ、政治家の用途に特化したかたちの部分を開発していきたいと思っております。
質問者1:最後に、これに参画したい自治体はどこに連絡をすればいいですか?
安野:参画したい自治体は、問い合わせ窓口のメールアドレスに連絡いただければと思っております。
質問者1:ホームページとかからは申し込めないですか?
安野:ホームページにメールアドレスも書いてありますので、そこからいけると思います。
質問者1:はい、ありがとうございました。
安野:ありがとうございます。
参院選・都議選2025を見据えた「デジタル民主主義」とは
質問者2:日本テレビのクレモトと申します。よろしくお願いいたします。すごくワクワクするデジタル民主主義の話、ありがとうございます。ちょっと質問なんですが、こちらは先ほどの冒頭発言の中で、前提として2025年の夏に控える参院選・都議選という時間軸を視野に入れつつということですが、これはもし政党や政治家が参加する場合は、もうここで活用できるように、そのスピード感を持ってプロジェクトを進めていくという理解で間違いないでしょうか?
安野:おっしゃるとおりです。やはりこの今の政治の状況、それは自公過半数割れをしているとか、そういったタイミングにおいて、早めに動くことというのは非常に大事だと思っています。なので、これも選挙の前なのか後なのかによって、政治家側の動くインセンティブも大きく変わりますし、世の中の注目も大きく変わってくるだろうと。
私としては「デジタル民主主義2030」と書かせていただいているとおり、2030年には当たり前になっていってほしいということを考えると、このある種のチャンスは逃すべきではないなと。その時間軸を視野に入れた上で、計画を作るべきだろうというふうに思っています。
質問者2:ありがとうございます。このデジタル民主主義が当たり前になるような社会を目指すにあたって、安野さんご自身が政治家となって推し進める、つまりは都議選や参院選に安野さんご自身が出馬する、という考えなどはありますでしょうか?
安野:現時点でなにか決まっているものはなくてですね。将来的になにか自分も出馬するみたいなオプションは、別に消してはいないものの、今はこういった活動を通じていろんな政治家や政党と一緒に協力しながら、なにかできないかということを模索したいと思っています。
質問者2:ありがとうございます。すみません、最後にちょっと確認なんですが、こちらはあくまで特定の政治家や政党のみを支援することはせず、あくまで中立的な立場でということなんですけど、昨日(2025/1/15)、2024年の東京都知事選に出馬された石丸伸二さんが会見を開いて、すごく話題にはなっていると思うんですけど、石丸伸二さんの政党と現時点で協力の依頼があったり、協力をする方向であったりなど、なにかありますでしょうか?
安野:特になにかまだ決まっていることはないですし、石丸新党以外の政党のみなさんにも、ぜひ興味をお持ちいただけたらご連絡をいただきたいなと思っています。もちろん、石丸さんからもご連絡をお待ちしています。
質問者2:ありがとうございます。以上です。
AI分析の透明性をどう担保するか
質問者3:AIsmileyのナカムラと申します。よろしくお願いいたします。ブロードリスニングの点に関してご質問です。先ほどデータの取得の方法に関する質問がありました。
私からは、取得したデータから代表的なコメントを抽出したりする機能があるかと思うんですけれども、そこにバイアスがかからないのか。いわゆる「教師なし」でクラスタリングされていたりするのかなと思ったんですけれども、現状とこれから、精度向上を含めてどうアップデートしていくのかという点、うかがえたらと思います。
安野:はい。まず結論から申し上げると、バイアスが完全にないということは、実現は難しいと思っています。これはどのような大規模言語モデルであっても、そういう特有のバイアスは存在すると思っています。
一方で、たぶん大事なのはなにかというと、どういうインプットデータをどのように処理をしたのかということの「処理の透明性」を高めることだと思っています。これをしっかりと担保することができるのであれば、外部の人が「これはもしかしたら、こういうバイアスがあるのではないか」という指摘をできる余地が生まれるわけですよね。なので私は、そのプロセスの透明化、ここがキーになると思っています。
質問者3:ありがとうございます。そのために脱ブラックボックスというところもキーワードになってくると思うんですけども、現状なにかそういった取り組みを対外的に発信されていたりするんですか?
安野:はい。実は「Talk to the City」自体はですね、どういうソースコードにしてあるかはレポートの付録部分ですべてオープンになるので、ある意味そのプロセスの透明性を担保することはできるようになっているかなと思っています。
ただ一方で、こちらの仕組みもなかなか、最初は「エンジニアの手がかかる」「そういった知見を持っている人がいないと使い始められない」みたいな問題がありまして。そこの部分さえ解決できれば、より広く使っていただけるものになると思っています。なので、そういったところを改善していきたい、そして使っていただきたいと思います。
質問者3:ありがとうございます。期待しております。
安野:ありがとうございます。
開発人材の確保と現場の課題
司会者:すみません、では続いての方、お願いします。
質問者4:朝日新聞のシノと申します。基本的な点で2点ほどあるんですけど、1点目が費用面なんですけど、無料でオープンソースのシステムを活用してくとのことですが、(実際に使うには)開発などをカスタマイズしていくかと思うんですけど、利用者は一切(費用が)かからないという理解でいいんでしょうか?
安野:はい。このソースコードを使うこと自体には、我々がなにか料金を取るということはまったく想定しておりません。
質問者4:(実際に使う際に)開発する時はたぶん人手がかかったりするんじゃないかなと思うんですが、そこについても(費用が)かからないという理解でしょうか?
安野:開発に関してで言うと、ボランタリーでみなさんコミットしているというものもありますし、あるいはこれは企業でも使えるものだと思いますので、そういった企業が自分の会社で使うために、自分たちのエンジニアを使って改善していくみたいなこともできると思っていまして。そこを広くどのようなかたちだとサステナブルに開発し続けられるのかということも、現在いろいろな方と相談しながら進めているところです。
質問者4:つまり「開発のリソースがないんです」と(いったときに)、「みなさん(※安野さんのチーム)のほうでやってください」ということでも、相談を受けてやってくれる可能性があるという、そんな感じですかね?
安野:それはあれですか? 我々のチームに対してお金を払って開発してくださいということですか?
質問者4:つまり政治家がいて、「自分はそういう開発とかはわからないんだけど、そのへんの全部やりたいことを作ってくれるか」というふうに聞かれた場合です。
安野:ある種、その政治家とどういうふうに連携していくかということですよね?
質問者4:ないし、自治体でもいいんですけど。
安野:はい、自治体と。いや、おっしゃるとおりでして、現状その政治家のチームであるとか、政党であるとか、自治体が自分たちでエンジニアを抱えていない場合、いきなり「GitHubにこのオープンソースのプロジェクトがあります」と言っても使えないじゃないか、ということだと思うんですけど。
そこに関してはおっしゃるとおりだと思っていて、少なくとも1人はエンジニアをご用意いただかないといけないと思っています。そこはこういった一緒に実証実験をやっていこうという政治家とか自治体にお願いをしなくちゃいけないところだと思っています。
質問者4:わかりました。じゃあもう1点だけ、2つ目の「民意による政策反映」の部分なんですが、例えば1人の人が大量にポストをした場合の対策だったり、そのへん「民意の反映をしている」という担保に対してどう対策されるか、お考えがあれば教えてください。
安野:そこも非常に重要なところで、いわゆる多数派工作というか、何個もマルチポストをするような工作は十分に考えられると思います。これはもうちょっと言うと、2つ目のプロジェクトじゃなくて、1つ目の「Talk to the City」のところでも大変問題になってくるところだと思います。
ここは2つやり方があると思って、1つは認証の仕組みをしっかり整備していくこと。例えば、匿名で投稿できるプラットフォームにするのか、あるいはソーシャルアカウント、例えばX、Facebook、そういったアカウントと紐付けるようにするのか。
さらに言うと、マイナンバー認証のようなものと組み合わせるのかによって「1人1アカウントがどれだけ担保できるか」というのは変わってくるので、たぶん答えとしては、これをうまくユースケースごとに組み合わせるということだとは思うんですけれども、認証をどこまでやられているものなのかということを意識するというのが、1つの解決だと思います。
もう1つは、これも根本的なところなんですけど、そもそも「この投稿をこれだけしているよ」という量の情報を、そこまで当てにしないということがあると思っていて、つまり量が多いからこれを採用する、量が少ないからこれを採用しないということではなくて、言われているものの中身を見ながら、意思決定する機能を別で持つ必要があると思うんですよね。
つまり、ネット上で集まってくるデータだけから意思決定するのではなくて、そこはあくまで政治家個人や行政の組織、政党の組織、そういったところが、参考にしつつ意思決定をする。ここを切り離すことが大事だと思います。
質問者4:ありがとうございます。
政治資金から行政DXの透明化へ
司会者:はい、続いて質問のある方。では手前の方から。
質問者5:じゃあすみません、時事通信のオガワと申します。今日はありがとうございました。
安野:ありがとうございます。
質問者5:ちょっと大きく3点ほど教えていただきたいんですけれども。まず政治資金とか選挙の話は、基本的には政治家とか政党の活動の話であって、自治体の関与は、不正が起きないように選挙管理をきちんとするとか、そういった事務の話だと思うんですけど、この自治体の参加というのは、どういう役割を想定されているのかというのを、まず1点教えていただけますか?
安野:はい。いや、おっしゃるとおりで、この3つ目のプロジェクト(※政治資金の透明化)に関して言うと、少なくとも初期は自治体はあまり関係ないと認識しています。ただ一方で、この3つ目の「政治資金の透明化」というところに関して言うと、より広く取るとですね、行政のお金の流れ方を透明化するというより、第2ステップ(※民意による政策反映)の課題でもあると思っています。
つまり、今予算を策定する時は議会でしっかりと議論をして、議論が煮詰まるわけですけれども、じゃあ実際にそれが何に使われて、どれくらい効果があったのかという振り返りの議論はほとんどされていないと認識していますし、それをしっかり見ていこうとするのもすごく大変であると認識しています。
こちらも実は同様の仕組みを通じて、「この行政組織のお金の流れはこうなっているよ」というのを見える化することができれば、それを見た上でいろんな市民が目を入れて、「これはいいね」「これは悪いね」という、そういう議論が初めてできるようになると思っています。
そういう意味で私は足元の、政治家あるいは政党の政治とカネの問題と言っていますが、大きく見ると、私はこの情報の透明化をしっかりしていくこと。方向性としては、その延長線上にそういった自治体の透明化みたいな話もあると思います。
質問者5:ありがとうございます。もう1点、その実証実験なんですけども、どれくらいの規模を想定されていて、実証実験の次に例えば実用化とか、どういうロードマップを想定されているのかをもうちょっと教えていただけますでしょうか?
安野:はい。これもですね、非常にプロジェクトによるかなと思っていまして、しかもその自治体側あるいは政党側がどれだけのリソースを用意できたかによっても、かなりスケジュールは変わってくると思うので、ここで一概に「これくらいです」というのは難しい状況です。
質問者5:わかりました。あとすみません、最後に安野さんはGovTech東京のアドバイザーを務めておられると思いますけれども、これもまさにシビックテックの取り組みになると思うんですけど、そのGovTech東京、もしくは東京都はなんらかのかたちで関与するのかを教えてください。
安野:はい。ここもまだ何も決まっていることはございません。ただ、向いている方法はかなり似ているかなと思っておりまして、GovTech東京の中でも「デジタル公共財というのは新しい性質の公共財だよね」という議論があります。
なにを言っているかというと、橋とか道路とか、そういうタイプの昔ながらの公共財というのは、例えば東京都で作ったものを沖縄県でも使うみたいなことというのはなかなかできないわけです。橋も道路もコピーはできないので。
なんですが、デジタル公共財の場合は、例えば東京都で使った「Talk to the City」というオープンソースのものを、大阪府でも使うとか、北海道でも使うというのは、ぜんぜんできるわけですよね。
なので、(GovTech東京側も)そういったことをどんどん広げていきたいというふうに思っていると私も認識していて、なので、向かっている方向性は近いのかなと私としては思っています。現時点で決まっていることはないですが、今後なにかあるのであれば、ぜひいろいろやりたいなと私としては思っているという感じです。
質問者5:わかりました、ありがとうございます。