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滝口悠生氏『死んでいない者』(全1記事)

【全文】野間文芸新人賞につぐ2度目の受賞--芥川賞・滝口悠生氏の記者会見

2016年1月19日、第154回芥川賞・直木賞の選考会が行われ、芥川龍之介賞は滝口悠生氏の『死んでいない者』と本谷有希子氏の『異類婚姻譚』が同時受賞。直木三十五賞は青山文平氏の『つまをめとらば』が受賞しました。受賞者記者会見に臨んだ滝口氏は、野間文芸新人賞の受賞に次ぐ芥川賞受賞の感想や作品への思いを語りました。

第154回芥川賞受賞・滝口悠生氏『死んでいない者』

司会:滝口さん。まず、最初に一言、今のご感想をお聞かせください。

滝口悠生氏(以下、滝口):はい。大きい賞をいただいて大変光栄に思ってます。今回の作品と、これまで書いてきたものを読んでくださった読者の方に感謝を申し上げたいなという気持ちです。

司会:ありがとうございます。それでは、質疑応答に移らせていただきます。質問のある方はどうぞ挙手をお願いします。

質問者1:日本テレビ、ZIP!のオザキと申します。よろしくお願いします。芥川賞の受賞、おめでとうございます。

滝口:ありがとうございます。

質問者1:今の喜びを一番誰に伝えたいですか。

滝口:だいたいもう伝わって……。

(会場笑)

滝口:今まで小説を見てきてくださった編集者の方と一通りお会いして来て、「良かったね」と言っていただいたので、それが一番良かったなと思ってます。

質問者1:ありがとうございます。

司会:続いてご質問の方、挙手をお願いします。

作品のモチーフとして古いものを好む

質問者2:はい。niconicoのタカハシと申します。ニコニコ動画を今ご覧になっている方からの質問を代読したいと思います。ニコニコ動画はご存知でしょうか。

滝口:はい。

質問者2:ありがとうございます。では、東京都40代男性の方からの質問です。「滝口さんの作品を読んでいると、年齢とはかなりかけ離れたご趣味、音楽だったり映画だったりが出てくるような気がするんですが、そういったものはどこで触れたりするのでしょうか」

滝口:モチーフとして少し古いものが多い傾向があるんですけど、そんなに特別なことだとは思っていなくて。同時代のものに疎いというのはあるんですけど……。

だいたい、小説に限らず何かを作ろうとすると、そういった過去の作品をたどっていくということはごく自然なことだと思うので。

そういうものにいろいろ感化されて、影響を受けて、作品の中に取り入れられているということだと思います。

そんなに特別なことではない。同時代のものはあまり積極的に入れてないということなのかも知れないんですけど、どちらかというとそちらに関心が強いのかな。

質問者2:すみません。続けて同じ方からなんですけれども、今回の作品にも出てくるテレサ・テンさんはお好きなんでしょうか。

滝口:別にそんなに。

(会場笑)

滝口:すごい方というか、すごい歌手の人だというごく一般的な認識程度なので。書く前から、絶対に今回の作品にテレサ・テンを入れるんだということはまったくなく、書いていくうちに出てきたというかたちですね。

質問者2:ありがとうございます。

司会:よろしいでしょうか。じゃあ、右の奥の方。

野間文芸新人賞に次ぐ受賞の感想

質問者3:どうも、読売新聞のウカイです。おめでとうございます。

滝口:ありがとうございます。

質問者3:滝口さんは、自分が小説を書きながら、「これで賞が取れると思うとヤバい」「やっぱり不安じゃないと書けない」とおっしゃってるんですが。

昨年の野間文芸新人賞に続き芥川賞と、2回連続で取ってしまったということに対して、先ほどの感想以外に「ヤバい」とか、何か別の感想はないでしょうか。

滝口:ヤバいと思ってます。ヤバいと思っているというか、賞をいただくということは、作品が賞をいただくということが強くて、書いているときと書き終わった後では、やっぱり作品との距離というか関係というのは違って。

作品が賞をいただくということは、もう自分から手を離れたものが別の人に大事に読まれて、その結果として賞をいただくということだと思うので。

次に自分が書くものと、今回の作品がどう読まれたかとか、どう評価されたかということは別のこととして、切り離して考えたいと思ってます。

質問者3:それとの関連なんですが。ちょうど去年10月いっぱいで会社を辞めて、それこそもう後ろがない状態でフリーとして書くことにした途端に2つ連続、野間賞と芥川賞で。

ある意味、後ろがないところで勝負に出たら次々きちゃったという、何か不思議な感じはどう思ってますか。

滝口:たまたまだと思いますけど(笑)。

質問者3:最後につまらない質問なんですけども、寅さんが好きということで、「男はつらいよ」というので、今辛いことって何かありますか。

滝口:今辛いこと。そんなにないですね。そんなに辛すぎもせず、楽しすぎもせずという毎日を送っています。

司会:よろしいでしょうか。では、真ん中の奥の方。

悩んでいるときは歩く

質問者4:朝日新聞のタカツです。おめでとうございます。

滝口:ありがとうございます。

質問者4:以前の取材で、迷い歩きをするのが好きだというようなことをおっしゃっていたと思うんですが。

会社を辞められてから、また時間の過ごし方も変わってきたと思うんですけれども、またこれからも迷い歩きということは続けられるつもりでしょうか。

滝口:昔やっていただけで、そんなにずっとやり続けているわけではないので。

ただ、歩くことはすごい好きだし、僕の場合は小説を書くその前段階とか、書いている途中に今書いているものを考え直したり、止まっているものを進めたりする方法として歩くという行為がけっこうそれを進めてくれることが多いので。

迷ったりはそんなにしないかもしれないですけど、歩くことは好きだし、続けていきたいと思っています。

質問者4:作品を前に悩んでいるときはどれくらいの距離を歩いたりするんですか。

滝口:その日によって違うんですけど、2時間ぐらいならけっこう平気で歩きますね。あんまり短いと考えが進んできたときに終わりになってしまうので、眺めが良くて天気が良ければもっと長くても大丈夫です。

質問者4:ありがとうございます。

司会:よろしいでしょうか。続いてご質問の方。

質問者5:中日新聞のオカムラと申します。非常に落ち着かれてカジュアルな感じなんですけれども、今回の受賞は自信があったんでしょうか。

滝口:いや、そんなに自信も不安も何もなく、わりとフラットに。

前回もそうだったんですけど、候補になったときは「おお!」というのはあって。あとは選考なので、あまり自分が何かしたりしてどうなるとかではないし。

もう書き終わったものなので、わりと自分でもアワアワしないで待てたし、結果も聞けたかなと思ってます。

質問者5:ありがとうございます。

作品を「お通夜の話」にした理由

質問者6:日本経済新聞のミヤガワと申します。おめでとうございます。

滝口:ありがとうございます。

ミヤガワ:今回2点質問がありまして。1点は、今回の小説は、通夜で一族が集合する小説ですね。

そこでそれぞれの一族の人たちの人生が語られていくというかたちなんですけれども、このアイデアはどういうかたちで、なぜこれをやろうと思われたか、それが1点。

もう1点が、先ほどの選考の発表で奥泉(光)さんが、「非常に語りが上手」だと。「それで、空間・時間の広がりを作り出している」というような選考の理由がございました。

先ほどもありましたが、こういう語りのうまさというのをどういうかたちで学んでいったか、あるいは習得していったか。過去の文学作品などがあれば、それを教えていただければと思います。

滝口:1点目、何でお通夜の話にしたかというのは、お通夜の話をというのは事前にはなかったことです。今回の作品を書く前に1つだけ目標というか、これをしようというのは、これまで書いたものよりも少しでも長いものを書こうということがあって。

そのためにどうするといいかなということで、人を大勢出そうと思って、そのための場としてお通夜が出てきたという感じですね。

2つ目、語りのことについては、選考作品とか批評とかもいろいろあるんですが。これまで書いてきたものというのは、自分が小説を書くモチベーションとして大きかったのが、語りの中にある視点とか人称のことだったんですけど。今回の作品は、そこを少し自分の書く作業から開放しました。

これまでは、もう少しカチッとそこの語りの構造、仕組みを組んで書いてるところがあったんですけど。

今回はそういうやり方ではなく、そこは少し緩めて小説の語りを進めることというのは、いろんな動力となるものがきっとあるわけで。何をというわけではないんですけど。

小説というのはどういうことでも、どういうふうにでも語れるものだと思うので、語りがいろいろ融通無碍な感じというか。その力を信じて、書いてみようというのが、今回、自分の書くときの意識としては違ったことですね。

質問者6:その際、参考にした過去の作品はなかったですか。

滝口:書くに当たって引いたものは、これというものはないんですけど。近代の自然主義の小説が、現代になってきて、今言っていたような構造が少しカチッとしてきたという流れがあると思うんですけど。

それをまた別のかたちで崩して何か新しい、今書く意味があるようなかたちができないかということですかね。

質問者6:例えば、徳田秋声とか。

滝口:そうですね、(あとは)田山花袋の『蒲団』とか。

質問者6:ありがとうございました。もう1つ、すみません。

今回芥川賞を取ったことが、ご自身が(専業作家として)1人になって書くようになって、大きな自信になる賞なのか、それとも新しい場所を選ばれるということで、どんな受け止め方をされました。今日、文学振興会の方から連絡があって。

滝口:率直に言うと、今のところですけど、そんなに今回の受賞で何か大きな心境の変化みたいなものはないです。ただ、必ず自信になるときはあると思います。

ただ、これまでもそうだったんですけど、次の作品を書くときに、やっぱり前に書いたこととか、前に読まれたことというのは自信にしながらも、また別のこととしてやらないといけないという意識はあって。それはあまり変わらないかなと思います。

司会:よろしいでしょうか。ほかにご質問の方。

地元埼玉県への思い

質問者7:テレビ埼玉のハラダと申します。埼玉県で育ったということで、(出身地が)作品を作る上で何か影響を与えたことはあるんでしょうか。

滝口:あんまりないと思います。

(会場笑)

滝口:ないというか、僕がこれですとすぐに言えるようなことは特に思い浮かばないんですけど。育ってきた時間をそこで過ごしたということは間違いないので、ないはずはないんですけど。具体的にこれというのはあんまりない。

質問者7:追加で、育った埼玉県への思いというのを聞かせいただいてよろしいでしょうか。

滝口:……埼玉県への思い。

質問者7:故郷ではないかもしれないんですけれども。なければ、大丈夫なんですけども。

(会場笑)

滝口:ないですね。でも、嫌いなわけではぜんぜんないんですけど。埼玉、好きですよ。

司会:ほかにご質問の方いらっしゃいますか? よろしければ滝口さんの会見はこれにて終わりにさせていただきます。ありがとうございました。

滝口:ありがとうございました。

(会場拍手)

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