【3行要約】
・チームメンバーががんばっているのに成果が出ない――多くのリーダーが抱えるこの悩みの背景には「心理的リソース」と「組織課題」が隠れているかもしれません。
・真の人事マネジメントでは「人」と「事」の同時実現が必要で、心理的リソースという有限な資源の管理がカギとなります。
・成果を出すには精神論ではなく状況の可視化と対話が不可欠で、認識のズレを解消する建設的なコミュニケーションが求められます。
「がんばっているのに成果が出ない」チームに潜む問題点
多くのリーダーが「チームメンバーはそれぞれがんばっているのに、なぜか思うように成果が出ない」という悩みを抱えています。どうしてこのような問題が生じるのか。
この問題の根底には、チーム内で発生している「見えない資源の無駄遣い」が隠れている可能性があると、株式会社コーチェットの櫻本真理氏は指摘します。チームマネジメントの役割は、お金・工数・スキル・情報といった限られた資源を最大限に活用し、成果を生み出すことです。しかし、これらの目に見える資源と同様に、あるいはそれ以上に重要なのが「心理的リソース」という見えない資源だと櫻本氏は語ります。
心理的リソースとは、人が思考や判断、衝動をコントロールするために必要な「心のエネルギー」と考えることができます。「面倒くさいけれど、やるぞ」と主体的に行動するためには、このエネルギーが不可欠です。
この心のエネルギーが枯渇している状態では、たとえ十分な工数やスキルがあっても、メンバーは本来のパフォーマンスを発揮できず、成果につながりません。情報が適切に活用されなかったり、資材の無駄遣いが起きたりと、他のあらゆる資源の非効率な活用にもつながってしまいます。
多くの組織では、この心のエネルギーがあたかも無限に湧き出るものであるかのように扱われがちです。「やる気がない」という言葉は、その典型例と言えるでしょう。しかし、心理的リソースは有限であり、使えばなくなり、休息によって回復します。そして、意図的な取り組みによって増やすことも可能です。つまり、心理的リソースはリーダーが積極的にマネジメントすべき、チームの重要な資源なのです。
例えば、上司の機嫌をうかがったり、勝手に進めて怒られないか心配したりすることに心理的リソースを消耗しているチームでは、本来であれば顧客価値の向上や課題解決に向けられるべきエネルギーが浪費されてしまいます。
チームの成果が出ないと悩んでいるリーダーの方は、心理的リソースの状況を把握・管理できているかを見直し、その上で価値創造に集中させるための取り組みをすることが重要です。
成果が出ない理由は組織環境の可能性も
チームの雰囲気は良いものの成果が上がらない状況は、心理的リソースとは別に、「ぬるま湯」な組織に陥っている可能性も挙げられます。
人事という概念を「人を生かして事をなす」ことと捉えた場合、この状態は「人は元気に生きているが、事が成されない」という状況だと、株式会社壺中天の坪谷邦生氏は指摘します。これは本来の人事の役割を果たせていません。
一方で、「人を犠牲にしてでも、事をなす」という状態は「搾取」であり、これもまた健全な組織ではありません。真に目指すべきは、「一人ひとりの力が十全に発揮され、組織の目的が成し遂げられる状態」、つまり「人」と「事」を同時に実現することです。この両立は非常に難しく、リーダーや人事は常に経営と現場、短期と長期といった二項対立の交差点に立ち、そのバランスを取るという葛藤を抱えることになります。
この葛藤の中で、どちらか一方に安易に流されるのではなく、自分なりの「持論」を持ち、両極を統合する道を探求することが求められます。例えば、現場の声に寄り添うあまり、組織としての目標達成を疎かにすれば「ぬるま湯」になり、経営の方針を押しとおすあまり、メンバーの心身を疲弊させれば「搾取」になります。
リーダーシップとは、まさにこの葛藤の中で自ら思考し、選択する意識の用い方そのものと言えます。組織とは、共通の目的を持った人々の集まりであり、相互作用によって成り立っています。
その中で、個人の自己実現の欲求と、組織の存在意義である目的達成を両立させる機能を担うのが人事であり、それは人事部門だけでなく、すべてのリーダーに求められる視点です。
一人ひとりの力が十全に発揮され、組織の目的が成し遂げられる状態。つまり「人」と「事」を同時に実現することが人事だと私は考えています。
この同時実現というのが、もう肝中の肝なんですけど、やはり難しいんですよね。「人」側に寄ってしまう時もあれば「事」側に寄ってしまうこともあって、我々はよく「交差点に立っている」みたいな言い方をするんですね。
引用:社員は元気だが成果が出ない「ぬるま湯」な組織 経営と現場の交差点で踏ん張る人事の役割(ログミーBusiness)
成果を出すチームを作るために必要なメンバーの状態の可視化
成果を出すチームを作るためには、リーダーが精神論に頼るのではなく、チームやメンバーの状況を正確に把握し、それに基づいて最適な打ち手を考えることが不可欠です。
そのための具体的なアクションが「観察」と「可視化」だと、株式会社dazzlyの筒井千晶氏は語ります。まず重要なのは、決めつけで判断するのではなく、「なぜだろう?」と問いかける姿勢でメンバーやチームを観察することです。例えば、依頼した仕事に対して、あるメンバーは本当はできないのに「できます!」と答え、別のメンバーはできるのに「無理です」と答えるケースがあります。ここで「なぜなんだ!」と感情的になるのではなく、「なぜそう言うのだろう?」と、背景にある事情や前提を探る問いを持つことが、状況を深く理解する第1歩となります。
次に、観察して得られた情報や仮説を「可視化」することが重要です。頭の中だけで考えていると、思考が渋滞したり、思い込みから抜け出せなくなったりします。人物相関図を描いてみたり、各チームの思惑や置かれている状況を書き出してみたりすることで、複雑な状況が整理され、問題の構造が見えてきます。
例えば、上手くいかないプロジェクトチームのケースでは、各チームのリーダーやメンバーが抱える事情(兼務で忙しい、上からの圧力が強い、プロジェクトリーダーを怖いと感じているなど)を可視化することで、連携が取れない、報告が遅れるといった問題の根本原因が明らかになります。
状況を可視化することで、見えている情報と見えていない情報(情報の盲点)が明確になり、打ち手のヒントが隠されている部分に気づくことができます。可視化は単なる図解ではなく、自分自身の認知の解像度を高め、次のアクションへとつなげるための重要なプロセスなのです。
メンバーに対して「これをやってほしい。お願いしたい」とお伝えしたところ、「承知しました! やります! 自分でできます!」っていう返事がありました。でも実際は「本当はできないんだけどな」「でも『No』って言えないしな」と思っていたらしいです。
また別の方に「こういったことをお願いしたいんだけど」と言ったら、「それは無理です。できません。難しいと思います」っていう返事がありました。でも実際は「できなくはないんだけどなぁ」「でもちょっと『無理』って言っておこう」と思っていたようです。
こんな人たちがいた時に、「なぜなんだ!」と思うか「なぜなんだ?」と思うかで、その先の対応が変わってくるかなと思います。
「観る」ために必要なスタンスでいくと、当然「なぜ?」のほうが大事になってくるスタンスになります。
なんでかっていうと、「なぜなんだ!」となると、そこで決めつけて終わってしまうので。そうではなくて、「なぜ?」っていう問いかけになると、自分の中に持っている前提や、見えていないものに気づけたりはするので、そういった問いかけの姿勢を持ちながら、状況を可視化していくっていうところが、状況把握のポイントにはなってきます。
引用:“成果を出すチーム”になるための2つの実践的ヒント “メンバーとチームの観察”でわかるリーダーシップの本質(ログミーBusiness)
「成果が出せない部下」と向き合うための対話
リーダーが「成果を出せない部下がいる」と感じた時、まず自覚すべきは、それが「自分にはそう見えている」という主観的な認識であるという事実です。
「成果が出せない=能力が低い」という安易な図式で思考停止するのではなく、「成果は周りとの相性によって作られている」という前提に立つことが重要だと、組織開発専門家の勅使川原真衣氏は指摘します。もしかしたら、本人の能力の問題ではなく、環境や他のメンバーとの組み合わせの問題であり、リーダーとしてもっと工夫できることがあったのではないかと、自らを客観視する必要があります。
そして最も重要なアクションは、その認識を本人と対話することです。「自分の目からは成果が出せていないように見えるのだけれど、どうだろうか?」とフィードバックするリーダーは驚くほど少ないのが現状です。
多くの場合、リーダー自身が期待する成果を明確に言語化・定義できていないと、勅使川原氏は語ります。「自分はこういうものを成果だと思っていて、あなたはそれを満たしていないように感じる。やりにくい点などあるだろうか?」といった対話を通じて、初めて認識のズレが明らかになります。
この対話は、相手の能力を問いただす場であってはなりません。「能力論にするのはNG」といったグランドルールを設けた上で、「お互いにできていないことがある」という前提に立ち、どうすれば一緒にやりやすくなるかを建設的に話し合うことが求められます。
一方で、リーダー自身も、これまでのキャリアで能力主義によって傷つき、報われない経験をしてきた可能性があります。特に40代〜50代の管理職世代は、ダメ出しされながら育ってきた経験から、部下を承認することに困難を感じるケースも少なくありません。人的資本経営を本気で考えるならば、こうしたリーダー世代が抱える「こじらせ」や「傷つき」をケアし、癒やす場所を提供することも組織の重要な役割です。
会社全体として能力主義からの脱却を目指すという大きな建てつけのもと、上層部と現場が連携し、対話的な組織文化を醸成していくことが、真の課題解決につながるのです。