【3行要約】
・コーチングは単なるテクニックではなく、部下の可能性を信じ、成長をサポートする信頼関係に基づいたコミュニケーション手法です。
・変化の激しいVUCA時代において、マネジャーには「存在・結果・成長」の3つの承認スキルを使い分け、部下の自己肯定感を育む役割が求められています。
・部下の性格タイプに応じて指導法を最適化することで、チーム全体のパフォーマンス向上につなげていきましょう。
VUCA時代におけるコーチングスキルの重要性
現代は「VUCAの時代」と称されるように、環境変化が激しく、常に決まった答えがあるわけではない時代です。このような状況下で企業が生き残り、成長し続けるためには、変化に柔軟かつ迅速に対応できる組織と人材が不可欠となります。
マネジャーがこの結節点としての役割を十分に果たせなければ、経営方針は現場に浸透せず、実行に移せません。
日本のビジネス競争力は国際的に見て低下傾向にあり、特に人的資本領域におけるマネジャーの競争力が課題であるというデータも存在します。これは、裏を返せばマネジャーがこの困難な時代に適応力を身につけさえすれば、日本の競争力は再び大きく伸びるポテンシャルを秘めているとも言えます。
このような背景から、現代のマネジャーには、部下に一方的に指示を出すティーチング型のマネジメントだけでなく、部下の主体性を引き出し、自律的な成長を促すコーチングスキルが強く求められているのです。
コーチングを成功に導く5つのプロセスと注意点
ティーチングが答えを「教える」アプローチであるのに対し、コーチングは対話を通じて答えを「引き出す」アプローチです。部下の主体性や潜在能力を引き出し、自律的な成長を促す上で非常に効果的ですが、その実践には適切なプロセスと注意点を理解しておく必要があります。
株式会社PDCAの学校の宮地尚貴氏は、コーチングの基本的な流れとして、以下の5つのプロセスを紹介しています。1. 状況確認まずは部下がどのような状況にあるのか、何を考え、どう感じているのかを確認することから始めます。頭ごなしに意見を言うのではなく、「今回その選択をして、これでやってみようかなと思った理由を教えてもらっていいですか?」といったように、部下の思考プロセスを尊重し、傾聴する姿勢が重要です。
2. 気づきを促す次に、質問を通じて部下自身に新たな視点や可能性に気づかせます。「ちなみに、もっと良い方法はあったかな?」「もし違う手法を取っていたら、どんな結果になったと思う?」といった問いかけにより、部下は自身の行動や思考を客観的に振り返り、改善点や他の選択肢を発見することができます。
3. 選択肢を広げる(拡大)気づきを得た上で、さらに視野を広げるための質問を投げかけます。うまくいった点について「最も効果があったポイントはどこだと思う?」と尋ねることで、本人の強みや工夫を言語化させ、成功体験を再現可能なスキルへと昇華させます。これにより、部下は自身の能力を再認識し、自信を深めることができます。
4. 行動計画具体的な次のアクションプランを考えさせます。「今回の反省を活かして、さらに良くするためには何が必要ですか?」という質問を通じて、自律的な改善を促します。部下自身が次の行動を決めることで、その計画に対するコミットメントが高まります。
5. コミットメント最後に、策定した行動計画をいつまでに、どのように実行するのかを具体的に確認します。「じゃあ、それはいつまでに、どのタイミングでやりますか?」と問いかけることで、計画の実行性を高め、やりきる意志を確認します。
コーチングを実践する上で最も注意すべき点は、冒頭から否定的な意見を使わないことです。例えば、「なぜそんなやり方をしたの? 絶対に〇〇の方法でやったほうが良かったよね?」と頭ごなしに否定してしまうと、部下は萎縮し、本音を話さなくなってしまいます。
その後に続く言葉も取り繕った反省の弁になる可能性が高く、本質的な成長にはつながりません。もちろん、業務上、指摘しなければならない場面はありますが、その場合でも、まずは事実を受け止め、本人の考えを聞いた上で改善点を考えさせることが重要です。
言葉の選び方次第で部下の反応は大きく変わります。コーチングは単なるテクニックではなく、部下の可能性を信じ、その成長をサポートするという信頼関係に基づいたコミュニケーションなのです。
部下の自己肯定感を育む「承認」のコーチングスキル
コーチングにおいて、部下の主体性や成長意欲を引き出す上で核となるスキルが「承認」です。承認とは、相手の存在や行動・変化を認め、それを言葉や態度で伝えることです。
多くの人は「褒めること」が承認だと考えがちですが、承認にはより深い意味と種類があると、株式会社コーチ・エィの鈴木義幸氏は指摘します。1. 存在承認相手の存在そのものを認める、最も根源的な承認です。何か成果を出したかどうかにかかわらず、「そこにいること」を認める関わり方を指します。例えば挨拶をする、名前を呼んで声をかけるといった日常的な行為がこれにあたります。
2. 結果承認部下が何かを達成した時や、良い結果を出した時に「よくやったね」と認める承認です。一般的に「褒める」と言われる行為は、この結果承認に含まれます。結果承認は部下のモチベーションを高める上で有効ですが、これだけが唯一の承認手段になると、結果を出せない時には承認されず、部下は存在不安を感じてしまう可能性があります。
3. 成長承認結果の有無にかかわらず、部下の成長や変化、プロセスを認める承認です。「1ヶ月前と比べて、こういうことができるようになったね」といったように、過去との比較によって生まれた差を具体的に伝えることです。この承認を行うには、日頃から部下を注意深く観察している必要があり、実践は容易ではありませんが、部下の成長実感に直結するため、コーチングにおいては非常に重要な承認と言えます。
これらの承認の中でも、特に土台となるのが「存在承認」です。心理学では、幼少期に祖父母などから受ける「アンコンディショナル・ラブ(無条件の愛)」が、精神的に安定した大人を育む上で重要だと言われています。これは、できた・できないにかかわらず、存在そのものを肯定される経験が、自己肯定感の基盤となるからです。
職場においても同様で、存在承認の総量が減ると、チーム内のエネルギーは低下し、動きが悪くなる傾向があります。上司は意識的に存在承認の量を増やし、チームのエネルギーをチャージしていく役割を担っています。
鈴木氏は「叱る」と「怒る」の違いについて、承認の観点から次のように解説しています。
ちなみに、褒めるの逆の「叱る」なんですが、心理学辞典では叱ることは「挽回への励まし」と書いてありました。叱るというのは、何か失敗をしたということだと思うんですが、それを自ら相手が挽回しようと思うように、ある意味でストロークをかける言葉をかけるのが「叱る」。それが挽回への励まし。
「叱る」と「怒る」は違うわけですね。何が違うかをすごくシンプルに言うと、叱るのは基本的に相手のため。挽回への励まし、相手の成長に向けて叱ってるわけですが、怒るというのは、スタンスが「for me」なんですね。自分のために怒っている。
だから親や上司やコーチにストレスがかかっていて、反応的な状態になっていて、なんかイラついていて、気に入らない部下の行為があると怒るということですね。だから、叱ってるのか・怒ってるのかはものすごく違うわけです。
引用:ただ褒めるより、部下のやる気アップにつながる“声のかけ方” コーチングのプロが教える“やりにくい職場”を変えるコツ(ログミーBusiness)
「叱る」は相手の成長を願う「for you」の行為であり、挽回への励ましという承認のかたちの1つです。一方で、「怒る」は自分の感情を発散させるための「for me」の行為であり、承認とは対極にあります。
地道な承認の積み重ねが、部下の自己肯定感を育み、信頼関係を構築し、チーム全体のパフォーマンスを向上させるのです。