自ら動ける部下を育てるヒント
では、指示待ち部下を、指示を出さなくても自律的に動ける人材にするためには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。そのヒントは、意外にも国民的テレビ番組『はじめてのおつかい』の中に見出すことができます。
幼児が1人でおつかいに行き、親は家で見守っているという番組で、これはまさに細かな指示を出さないマネジメントの縮図と言えるでしょう。
DaBaDee株式会社の髙桑由樹氏はこの番組を例に挙げ、指示なしで動いてもらうために必要な要素を解説しています。
『はじめてのおつかい』って、幼児が1人でおつかいに行って、お母さんやお父さんは家で見守っていますよね。あれって、まさに逐一指示を出さないマネジメントだと思うんです。じゃあ、幼児におつかいをしてもらう時、親は何を伝えているか。そこを考えると、指示なしマネジメントのヒントが見えてきます。
まず必要なのは、「目的」と「必要性」です。例えば、「弟の誕生日パーティーを開くから、一緒に準備しよう」と伝える。そのうえで、「ショートケーキ用のイチゴを20個買ってきてね」と、ゴールを明確にします。
次に、全体像を伝えます。『はじめてのおつかい』でよくあるのは、地図をそのまま渡すことです。全体図を見せる。果物屋さんに行ったら、このメモとお金を渡して、「お釣りはちゃんともらってきてね」と伝える。細かく逐一指示するというより、必要な情報を一式、ちゃんと渡すわけです。
そこまで伝えた上で、「できそう?」と聞くと、子どもは「うん、できる!」と言って出かけていきます。この「やってみる」という気持ちが、最後に必要になるんですよね。
引用:「指示ゼロのマネジメント」のヒントは『はじめてのおつかい』にある なぜ逐一指示を出さなくても部下が動けるのか(ログミーBusiness)
この例から、ビジネスにおけるマネジメントに応用できる5つの重要な要素が見えてきます。
1. 目的と必要性の共有なぜこの仕事が必要なのか(弟の誕生日パーティー)を伝える。
2. 明確なゴールの提示具体的に何を達成すればよいのか(イチゴを20個)を明らかにする。
3. 全体像の共有仕事のプロセスや関係性を地図のように示し、現在地を理解させる。
4. 必要な情報の提供業務遂行に必要なツールや情報(メモやお金)を過不足なく渡す。
5. 「やってみよう」と思える状態の醸成本人の意思を確認し、挑戦する気持ちを引き出す。
これらの要素を自身のマネジメントに当てはめてみましょう。部下に仕事を依頼する際、単に作業内容を伝えるだけでなく、その仕事の目的や背景、最終的なゴールを共有できているでしょうか。必要な情報や権限は適切に委譲されているでしょうか。そして何より、部下が「やってみたい」と思えるような動機づけができているでしょうか。
これらの問いを自問自答することが、指示待ち部下を自律型人材へと育てるための第1歩となるのです。
部下の成長段階に合わせた個別のアプローチ法
部下を自律的に動ける人材に育成する上で、すべてのメンバーに同じアプローチを取る「一律のマネジメント」は機能しません。一人ひとりの表情や個性が異なるように、その成長段階や特性もさまざまです。
したがって、部下の主体性を引き出すためには、画一的な対応ではなく、相手を深く観察し、その状況に合わせた柔軟な関わり方が不可欠となります。
まず知っておきたいのは、人の成長が段階的なプロセスを辿るという点だとDaBaDee株式会社の髙桑由樹氏は指摘します。人間の自我は、生まれてから年を重ねる中で、信頼関係の構築、自己コントロール、成功体験の積み重ねといった発達課題を順に乗り越えることで育まれていきます。
このプロセスは、仕事における成長とも強くリンクしており、例えば「上司や先輩との信頼関係づくり」から始まり、「ルールや全体像の理解」「自発的な試行錯誤」「仕事の面白さの発見」といったステップを経て進んでいきます。指示待ちが問題となりやすいのは、この「自発的」「主体的」という段階を越えられるかどうかの分かれ目です。
上司としてまず行うべきは、部下が今、この成長プロセスのどの段階でつまずいているのか、その「現在地」を正確に把握することです。その上で、その段階で「何ができていて、何ができていないのか」を具体的に捉えることで、今すべきサポートが見えてきます。
例えば、自信がなく行動に移せないメンバーには、小さな成功体験を積ませ、意識的に承認の言葉をかけることで自己効力感を高めるアプローチが有効です。挑戦意欲が高いメンバーには、少しストレッチした課題を与え、あえて厳しめのフィードバックをすることで更なる成長を促せるかもしれません。
また、経験豊富なメンバーには、後輩の育成などリーダーシップを発揮する機会を提供することで、新たな視点や責任感を引き出すことができます。指示待ち傾向が強いメンバーに対しては、繰り返し仕事の目的を共有したり、答えを教えるのではなく問いを投げかけ続けたりすることが重要です。
このように、メンバーのタイプや状況に応じてアプローチを使い分けることが、効果的な育成につながります。
日々の業務で部下の主体性を引き出すための3ステップ
部下の主体性を引き出すための理論を理解しても、日々の業務の中でどう実践すればよいか迷うことも多いでしょう。そこで有効なのが、
株式会社dazzlyの筒井千晶氏が紹介する、「気づき・問い・一手」という具体的な3つのステップです。これは、現場で起きている状況を客観的に捉え、次にとるべき行動を選択するための思考のフレームワークです。
ステップ1は「気づく」ことです。これは、現場で感じる違和感や変化の兆しを言語化するプロセスです。例えば、「最近、チームミーティングでメンバーが自分の意見を言わなくなったな」「会議中の沈黙が長引いている気がする」「自分が話しすぎているかもしれない」といった、日々の観察から得られる気づきを書き出します。複数の気づきを並べてみることで、それらに共通する背景や、繰り返し起きているパターンが見えやすくなります。
ステップ2は「問いを立てる」ことです。ステップ1で言語化した気づきに対して、「なぜこうなっているのだろう?」と問いを立てて深掘りします。例えば、「会議での沈黙」という気づきに対して、「この沈黙は何を意味しているのだろう?」と問うことができます。
ここで重要なのは、最初の問いが表面的になりがちなため、もう一段階踏み込んでみることです。「メンバーが何かを言いづらくなっているのではないか?」「もしかして自分が無意識に場をコントロールしようとしているのではないか?」といったように問いを重ねることで、問題の本質に近づくことができます。
最後のステップ3が「一手を選ぶ」ことです。ステップ2で立てた問いに対する答えを探すのではなく、その問いを念頭に置きながら「今、自分にできる行動は何か」を考え、選択します。
「会議での沈黙」のケースであれば、「『沈黙は何を意味しているんだろう』という問い自体を、次の会議でメンバーに共有してみよう」という一手が考えられます。あるいは、「みんなの前では発言しにくいのかもしれないから、1on1の時間を設けてみよう」「沈黙を無理に破らず、少し待ってみよう」といった選択肢も考えられます。
この「一手」は正解を探すものではありません。大切なのは、自分で「試してみたい」と思える行動を選び、まずやってみることです。その結果をまた観察し、「気づき」として次のサイクルにつなげていく。この試行錯誤のプロセスこそが、上司としての「迷い方を鍛える」ことであり、チームを自走させる力となっていくのです。