部下への効果的な褒め方の実践パターン2:「感謝」と「割合」を意識する
褒めるという行為に苦手意識を持つ上司の方は、「感謝として伝える」という方法をまず行ってみましょう。
株式会社ビジネスリサーチラボの黒住嶺氏によると、興味深いことに、研究では「感謝」が「褒める」こととほぼ同じ機能を持つことが確認されていると言います。感謝自体に関する研究では、感謝を伝えたり、受け取ったりする経験が、他者との関係をより親密にすることがわかっています。これは、職場で褒められることで得られる「自分はこの場に受け入れられている」という感覚と類似した効果を生み出します。
このように、感謝を伝えることは、褒めることと同様のポジティブな機能を持っているため、褒めるための有効な手段となり得ます。
職場での活用を考えると、部下が目標を達成したり、業務を遂行してくれたりしたことに対して感謝を示すことは、非常に自然で実践しやすいでしょう。「早めに報告してくれて助かりました」「無事にタスクを完了してくれてありがとうございます」といった言葉は、どのような業務においても使う機会があります。目標達成に向けたあらゆる行動は、感謝を伝える前提となり得るため、褒めることの第1歩として非常に活用しやすいアプローチです。
もう1つ、褒める際に極めて重要なのが、フィードバックにおける「割合」に注意することです。
研究によれば、指摘や訂正といったネガティブ・フィードバックよりも、褒めるというポジティブ・フィードバックの割合が高いほど、その後の行動改善が起きやすいことが確認されています。 このメカニズムの1つに「心理的な貯金」という考え方があります。日頃から多くホメられている人は、「この人は自分の成長を支援してくれている」と感じやすくなり、その信頼が心理的な貯金として積み上がります。その結果、たとえ改善点を指摘されたとしても、貯金があるおかげで「成長のために言ってくれている」と前向きに受け止めやすくなるのです。
さらに、この黄金比をどう実現するか、という工夫も紹介していきます。まず有効なのが、実際に比率を記録することです。例えば1日、あるいは1週間単位で「どのくらいホメたか」「どのくらい指摘したか」をメモして振り返ることで、自分の現状を把握しやすくなります。比率を見える化することで、自然とポジティブな行動が増えていくでしょう。
加えて、ホメる回数を増やしやすくするという視点で、ホメ方のバリエーションを増やすのも効果的です。伊達から紹介があったように、抽象的な言葉ではなく、できるだけ具体的に相手の行動や成果を指摘することや、「助かりました」「ありがとうございます」といった感謝を伝えることが、その一案になります。
引用:職場で効く“褒める×指摘”の最適バランスと実践ポイント “5対1の黄金比”とは?(ログミーBusiness)
良好な関係を築いている上司と部下の間では、この褒める割合が多いことが確認されており、その効果はさまざまな対象で報告されています。
褒める割合を意識的に高めるためには、面談などのフィードバック機会の前に「褒めることを増やす」とセルフチェックしたり、面談中に自分の発言をメモして客観的に振り返ったりする方法が有効です。また、推敲に時間をかけられるテキストメッセージを活用し、ポジティブとネガティブのバランスを確認しながらフィードバックを行うのも良い方法と言えるでしょう。
褒め方の質を高める注意点と信頼関係の構築
褒めるという行為は、前述したとおりその「内容」や「質」によって効果が大きく左右されます。場合によっては、褒めることが意図せず外発的動機づけとなり、かえって内発的な意欲を削いでしまう可能性も指摘されています。
これは心理学で「アンダーマイニング効果」として知られる現象で、褒められること自体が目的化し、「褒められるために行動する」という状態に陥ると、もともと持っていた「やりたい」という自発的な動機が弱まってしまうことがあるのです。
では、どのようにすればアンダーマイニング効果の発生を防ぎ、内発的動機づけを高めるような質の高い褒め方ができるのでしょうか。
そのカギは、人間の基本的な心理的欲求である「有能感」「自律性」「関係性」を満たすようなフィードバックを意識することだと株式会社ビジネスリサーチラボの伊達洋駆氏は指摘します。具体的には、以下のような褒め方が挙げられます。
有能感を高める褒め方 「自分はできる」「成長している」と感じられるようなフィードバック。具体的な行動やプロセスを評価し、本人の貢献を明確に伝えることで、自信を育む。
自律性を支える褒め方 自分の意志で行動していると感じられるようなフィードバック。本人の工夫や判断を認め、「自分で選んで進めている」という感覚を尊重する。
関係性を良くする褒め方 感謝を伝えたり、チームへの貢献を認めたりすることで、相手との信頼関係を深める。
褒めることの重要性を理解する一方で、「褒めるだけでは物足りない、改善点もきちんと指摘してほしい」と感じる部下がいることも忘れてはなりません。この点は非常に重要であり、研究においても、褒めることが多い方が関係性は良好になる一方で、褒めるだけではパフォーマンスが高まらないことが指摘されています。
ポジティブ・フィードバックで信頼関係の土台を築きつつも、成長のために必要なネガティブ・フィードバックを適切なタイミングで的確に行うこと。この両輪があってこそ、部下は現状を正しく理解し、次の行動へとつなげることができるのです。
興味深いことに、部下の方から「改善点を指摘してほしい」という要望が出てくること自体が、上司との間に強固な信頼関係が築けている証拠と言えます。ネガティブ・フィードバックは、受け手との関係性なしには機能しにくいものです。
したがって、そのような要望があった場合は、すでに良好なコミュニケーションの土台ができていると捉え、安心して具体的な改善点を伝えるのが好ましいでしょう。褒めることと指摘することのバランスを取りながら、質の高いフィードバックを継続することが、部下の成長と信頼関係の深化につながるのです。