【3行要約】
・睡眠不足を補おうと週末に長時間寝る「寝だめ」は、実は心身の健康に悪影響を及ぼしています。
・医学研究では、平日と休日の睡眠リズムの乱れが「社会的時差ボケ」を引き起こし、生活習慣病や精神疾患のリスクを高めることが判明しています。
・質の高い睡眠のためには、平日・休日の睡眠時間差を小さくし、睡眠環境の整備や食事タイミングの見直しが重要です。
週末の寝だめは効果があるのか? 効果がないのか?
多くのビジネスパーソンが平日の睡眠不足を補うために実践しがちな「週末の寝だめ」。睡眠不足解消のため、効果があるものと思い行っている方も少なくないこの習慣ですが、かえって心身の不調を招く可能性があることが指摘されています。
寝ることは休養において重要な要素であることは間違いありませんが、「寝る=休養」という考え方は必ずしも正しくはないと、一般社団法人日本リカバリー協会 代表理事の片野秀樹氏は指摘します。片野氏によると、例えば、1日中体を動かさずに横になっていると、筋肉が1〜2パーセント減少するというデータもあるとのこと。これは、過度な睡眠や安静が、必ずしも活力の向上にはつながらないことを示唆しています。
特に問題となるのが、週末に長時間寝ることによって引き起こされる「ソーシャルジェットラグ」、いわゆる社会的時差ボケです。これは、平日の睡眠リズムと休日の睡眠リズムが大きくずれることで、あたかも時差のある海外へ移動したかのような状態に体内時計が陥ってしまう現象を指します。具体的には、平日と休日の睡眠時間に2時間以上の差が生じると、この社会的時差ボケに該当すると考えられています。
この状態に陥ると、週明けの午前中は頭が働かなかったり、本来のパフォーマンスが発揮できなかったりと、仕事に直接的な悪影響を及ぼすことになります。さらに、この社会的時差ボケは多くの疾病の発症リスクを高めることもわかっています。
不眠症や睡眠覚醒リズム障害といった睡眠に関する疾病はもちろんのこと、肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病のリスクを根本的に引き上げる要因ともなるのです。
また、精神疾患やうつ病の罹患者の9割が不眠症状を併発しているという報告もあり、睡眠リズムの乱れが心身の健康に与える影響は計り知れません。
衝撃的な研究結果として、平日の睡眠時間が6時間未満の人が週末に寝だめをすると、死亡リスクが有意に高まるという報告も存在します。さらに、たとえ平日の睡眠時間を6時間以上確保していたとしても、休日に2時間以上の寝だめをすると死亡リスクは減らないとされており、休日の寝だめという行為そのものが、効果があるどころか、健康上のリスクをはらんでいることが示されています。
株式会社ニューロスペースが2023年に実施した調査によると、平日の睡眠時間が6時間未満の人は44パーセントにも上るという実態があり、多くの人がこのリスクに晒されている可能性があると言えるでしょう。
寝だめのデメリット引き起こさない休日の過ごし方
週末の寝だめが引き起こす社会的時差ボケを避け、平日のパフォーマンスを高めるためには、休日の過ごし方に対する意識を根本から変えることが重要です。
多くの人は、カレンダーの並びや「ウィークエンド」という言葉の響きから、「5日間の平日があり、その後に2日間の休みがある」と考えてしまいがちです。しかし、このような思考パターンでは、金曜日になると「あと1日乗り切れば休みだ」という発想になり、疲労を翌日に持ち越すような働き方をしてしまうことがあります。そして週末は、その疲労を解消するために「寝だめ」という選択肢に頼りがちになります。
これでは前述のとおりの社会的時差ボケを招き、月曜日の不調につながるという悪循環に陥ってしまいます。
この悪循環を断ち切るために一般社団法人日本リカバリー協会 代表理事の片野秀樹氏が提案しているのが、「オフファースト」という考え方です。これは、週末の2日間を平日の「後ろ」ではなく「前」にあるものとして捉え直すアプローチです。週末が「次の5日間を生産性高く過ごすための準備期間」であると認識できれば、休日の過ごし方は大きく変わることでしょう。2日間をただゴロゴロと寝て過ごすのではなく、次の週に100パーセントのパフォーマンスを発揮するために、いかにして活力を高めるかという視点を持つことができます。これは、休日を自分自身でマネジメントするという発想です。
片野氏は、この意識改革の重要性について次のように述べています。
私たちはよく「休日は権利じゃない。義務だ」と言っています。権利というふうに考えた瞬間に、「この権利は自分に与えられたものだ」となり、その休みに対して思考停止で何もしなくてもいいという発想になってしまう。
一方義務とすれば、「なんで私はこの休日を義務として捉えなければいけないのか?」「パフォーマンスを100パーセント発揮するために、この義務において、何をしなければいけないのか?」というように意識が変わってきます。
意識が変わると行動が変わります。それによって自分自身の活力をいかに高めるか、意識的に活力を高める行動を取っていただくということです。そこにたどり着いていただけると、次の5日間は効率的に回るということなんですね。
引用:「週末の寝だめ」で平日のパフォーマンスが下がる 「疲労」しにくくなる習慣づくりのコツ(ログミーBusiness)
このように、休日を「与えられた権利」ではなく「果たすべき義務」と捉えることで、思考停止状態から脱却し、パフォーマンス向上のための具体的な行動へとつなげることができるのです。
平日に少しでも早く仕事を終え、自由な時間を確保したいと考える人にとっても、この「オフファースト」の考え方は非常に有効なアプローチと言えるでしょう。
睡眠の質を左右する「睡眠休養感」のつくり方
健康的な睡眠を考える上で、単に睡眠時間の長さを確保するだけでなく、「睡眠休養感」という指標も極めて重要になります。睡眠休養感とは、朝起きた時に「ぐっすり眠れた」と感じる主観的な感覚のことです。
これは単なる気分の問題ではなく、心身の生理的な状態を反映した重要な指標として、世界各国の医学研究でも利用されていると、株式会社ニューロスペースの小林孝徳氏は紹介しています。ただし、睡眠時無呼吸症候群や不眠症といった睡眠に関する特定の疾病に罹患している場合、本人が感じる睡眠休養感は必ずしも実際の状態を正確に反映していない可能性があるため、例外として注意が必要です。
この睡眠休養感は、さまざまな要因によって大きく左右されます。適正な睡眠時間の確保はもちろんのこと、睡眠の質を阻害するような食事や運動の量、内容、タイミングなどといった生活習慣が深く関わってきます。
さらに、夏場や冬場の寝室の温度や湿度といった睡眠環境も無視できない要素です。これらの要因を適切に管理し、セルフケアを促すための知識や技術、いわゆる「睡眠リテラシー」を向上させることが、高い睡眠休養感を得るためには不可欠です。
厚生労働省が公表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、高い睡眠休養感を得るためのポイントが示されています。基本的には、「適切な睡眠時間の確保」と「睡眠休養感を阻害しない生活習慣の実施」という2つの要素が満たされていれば、高い睡眠休養感は自然と実現できるとされています。
しかし、これらを実践してもなお休養感が得られない場合は、背景に睡眠時無呼吸症候群や不眠症、あるいは脚がむずむずして眠れない「むずむず脚症候群」といった何らかの疾病が隠れている可能性が考えられ、その場合は、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
現代の医療システムでは、従業員個人が自身の睡眠や生活に違和感を持ち、自ら産業医や保健師を含む医療機関にアクセスしない限り、診断に至らないのが現状です。そのため、潜在的に睡眠関連の疾病を抱えている人は、統計上の数値よりも多いと推測されています。
自身の睡眠休養感を意識し、質の高い睡眠を得るためのセルフケアを実践することは、隠れた健康リスクの早期発見にもつながる重要な取り組みと言えるでしょう。