【3行要約】
・日本の企業は休暇取得率が低く、生産性も低いという矛盾を抱えています。
・日本では「Work Hard, Play Hard」の精神が失われ、「周りに迷惑」という心理的呪縛や、下請け構造などによる立場の弱さが休めない原因に。
・組織改革には経営層が率先して休暇を取得する文化づくりが重要で、 オフの時間を先に固定して自己管理することが これからのビジネスパーソンには不可欠です。
日本の休暇制度の現状
日本の休み方の課題を見ていくためには、まず休業・休暇制度について理解しておく必要があります。
みらい子育て全国ネットワークmiracoの小林あきら氏は、2023年12月時点の情報として、日本の休業・休暇制度は、大きく3つのカテゴリーに分類されると説明しています。1つ目は法律で定められた「休業」です。これは、労働者側や企業側のやむを得ない事由によって業務が遂行できない場合に適用されるもので、長期間にわたるケースも含まれます。
2つ目は、法律で定められた「休暇」で、代表的なものに年次有給休暇があります。これは労働者からの請求によって取得するもので、比較的短期間の休みが中心です。
3つ目は、法律ではなく就業規則によって企業が任意に定める「休暇」で、夏季休暇や年末年始休暇などがこれにあたり、福利厚生的な側面が強い制度です。
特に重要なのが年次有給休暇制度です。これは労働者の勤務期間に応じて付与されるもので、継続勤務期間が6ヶ月以上で、その期間の全労働日の8割以上出勤している労働者には、年に10日以上の有給休暇が、法律によって自動的に付与されます。企業側が許可するものではなく、労働者が「いつ取得したいか」を指定できるのが大原則です。
企業側には「時季変更権」が認められていますが、同一期間に多数の労働者が休暇を希望して事業の正常な運営が妨げられる場合に限られ、代替要員の確保を試みたかなどの実績がなければ、行使は認められにくいという制限があります。さらに、取得理由を問うことは禁止されており、理由によって不利益な取り扱いをすることも許されません。
このように、労働者には強い権利として保障されているにもかかわらず、年次有給休暇の取得は長年低迷していました。しかし、2019年4月から、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、企業側が年5日の有給休暇を取得させることが義務化されました。この法改正以降、取得率は急増し、直近の令和4年度の調査では62.1パーセントと過去最高の水準に達しています。
ただし、この取得率には企業規模や産業による格差が存在すると小林氏は指摘します。従業員1,000人以上の大企業では取得率が65.6パーセントであるのに対し、30人から99人の企業では57.1パーセントと6割を下回ります。また、産業別に見ると、電気・ガス・水道といったインフラ関連が73.7パーセントと高い一方、宿泊業や飲食サービス業は49.1パーセントと5割を切るなど、依然として課題が残る状況です。
世界から見た日本の休み方
日本の年次有給休暇取得率は近年上昇傾向にあるものの、世界的に見ればまだ低い水準にあります。海外と比較すると、その特徴はより鮮明です。
小林氏によると、例えばフランスやイギリスでは、法律で定められた最低付与日数自体が、日本よりも多く設定されていると言います。ドイツにいたっては取得率が93パーセントに達し、ほぼすべての有給休暇が消化されています。
年間の有給休暇取得日数を比較すると、日本が平均10.9日であるのに対し、ドイツは28日、フランスは21日と、大きな差が見られます。
しかし、このデータだけで日本の休日が極端に少ないと結論づけるのは早計です。日本には年間16日間の祝祭日があり、これは西欧諸国と比較して多いという特徴があります。この祝祭日には、勤労感謝の日や天皇誕生日などが含まれています。
この祝祭日の多さを考慮し、週休日(土日)と有給休暇取得日数をすべて合計した年間の総休日数を見ると、実は西欧諸国と大きな差異はないことがわかります。
問題は、休日の総日数ではなく、その「休み方」にあると言えます。
エクスペディアの調査によれば、日本では有給休暇を毎月分散して取得している人が39パーセントもいることがわかっています。
これは、祝祭日や週末とつなげて連休にしたり、平日の学校行事などに対応したりするために、計画的に少しずつ休暇を消化している実態を反映していると考えられます。結果として、ヨーロッパの多くの国で見られるような数週間にわたる長期の連続休暇を取得する文化が根付かず、休暇が細切れになりがちです。
年間休日数は他国と遜色なくても、心身を完全にリフレッシュさせるようなまとまった休みが取りにくいという点が、日本の休み方の大きな課題であると言えるでしょう。この休み方の違いが、仕事への向き合い方や生産性にも影響を与えている可能性があります。
日本人の心理的・構造的問題が影響している「休めなさ」
日本の有給休暇取得が進まない背景には、法制度だけでなく、日本特有の心理的・構造的な要因が深くかかわっています。
小林氏によると、休暇取得をためらう理由についての調査では、「みんなに迷惑がかかると感じるから」という回答が最も多く、6割から7割を占めています。次いで「後で多忙になるから」という理由が挙げられており、これは休んでいる間の業務を他の人に円滑に引き継ぐ文化が未成熟で、結局は休み明けに自分自身で埋め合わせなければならない状況を示唆しています。
こうした心理は、「みんなが休む時にしか休まない」という日本人の行動パターンに直結しています。多くの人が、ゴールデンウィークや年末年始、お盆休みといった国民全体が一斉に休むタイミングに合わせて休暇を取得します。
これは、周囲も休んでいるため「迷惑をかける」という罪悪感が薄れ、安心して休めるからでしょう。裏を返せば、多くの人が働いている平日に自分だけ休むことへの心理的な抵抗が根強いことを意味しており、「与えられた休みでないと休めていない」のが現状と言えます。
さらに、休暇の目的に関する考え方も影響しています。日本では、年次有給休暇以外の法定休暇、例えば看護休暇や介護休暇などは、日数の定めはあっても有給か無給かは企業の判断に委ねられています。
実際には無給としている企業が多いため、労働者は自分や家族の病気、介護といった不測の事態に備え、給与が支払われる有給休暇を「保険」のように温存しておきたいという意識が働きます。本来は心身のリフレッシュのために使うべき休暇が、やむを得ない時のためのセーフティーネットとして扱われているのです。
加えて、企業の構造的な問題も無視できません。特に中小の町工場などでは、下請けという立場の弱さから休みを取りにくい状況があります。
『休暇のマネジメント~28連休を実現する仕組みと働き方』著者でフランス在住のライター髙崎順子氏によると、金属加工業を営む栗原精機では、仕事をすればするだけ収入になり、顧客からの依頼をこなせば次の仕事が来るため、休むことができずに疲弊していくという悪循環に陥っていたと言います。リーマンショックやコロナ禍で一方的に仕事を切られた経験から、下請け構造の脆弱性を痛感し、自社の価値を高めて自律的に仕事を選べるようになる必要性に気づいたそうです。
このように、個人の心理だけでなく、取引関係における力学も、休み方を窮屈にしている大きな要因と言えるでしょう。
世界標準から見た日本の働き方の歪み
日本は、個々の労働者の能力や勤勉さが高く評価されているにもかかわらず、国全体として見ると労働生産性が低いという大きな矛盾を抱えています。
多くの時間と労力を仕事に費やしているにもかかわらず、なぜこのような矛盾が生まれてしまっているのでしょうか。国際エグゼクティブコーチで企業研修講師のヴィランティ牧野祝子氏は、海外のグローバルリーダーたちの働き方との違いを指摘します。
彼らは長期の休暇を当たり前に取得し、プライベートも充実させながら、仕事でしっかりと結果を出しています。
私の好きな言葉で、「Work Hard, Play Hard」というのがあるんですけれども、(彼らは)遊びや人生を楽しむことも、非常に時間を使ってやっている。それと同時に、仕事もちゃんとやって結果を出している方が多いなと。こういった方が、会社の中で上のほうに行くなと感じました。
「どうしたら、ああなるんだろう?」ということを、当時はあんまり言語化できてなかったんですけれども、薄々と思っておりまして。「ああなりたいな。仕事ができる人ってああなんだな」というのを考えながら、私は育ててもらいました。
引用:能力は高いのに、残業が多く生産性も低い日本人 10ヶ国でキャリアを積んだ『神速時短』著者が語る、世界標準の働き方(ログミーBusiness)
この「Work Hard, Play Hard」の精神が、日本の多くの職場では失われています。長時間労働が常態化し、山手線で見かける多くの人々が疲れた表情を浮かべているのがその象徴です。若い世代からは「あんなに仕事ばかりしたくないから昇進したくない」という声も聞かれ、次世代のリーダー育成にも影を落としています。
同じ基幹産業を持つドイツと比較すると、問題はさらに浮き彫りになります。
2026年1月時点で、ドイツの年間労働時間は日本より非常に短く、年間で30日以上も多く休んでいるにもかかわらず、国民1人当たりの収入は日本人より高いのです。この差を生んでいるのが、まさに「生産性」です。長時間働くことが必ずしも高い成果に結びつかないという現実を、これらのデータは突きつけています。日本の働き方は、どこかで負のスパイラルに陥っており、個人の能力を最大限に活かせない非効率な構造になっている可能性が高いと言えるでしょう。