【3行要約】
・職場の疲労感は単なる業務量だけでなく、業務肥大化などの構造的な問題が原因となっている部分もあります。
・株式会社営業ハック代表の笹田氏は、コミュニケーションコストへの無自覚さが職場の疲弊を招いていると警告します。
・健全な職場環境を取り戻すには、コミュニケーションの基本ステップを実践し、人間同士の相互理解を深めることが第1歩となります。
なぜ職場は「疲れる」のか?
多くの職場では「なぜか仕事が減らない」「IT環境が整備されても忙しさは変わらない」といった課題が蔓延しています。その根本的な原因の1つに、組織全体が「ムダなことに気づいていない」という状態が挙げられます。
この問題にメスを入れる上で重要な指標となるのが、ROI(Return on Investment)、すなわち投資利益率の視点だと、株式会社らしさラボの伊庭正康氏は指摘します。ROIとは、かけた労力に対してどれだけの付加価値、あるいは利益が得られるかを示す指標です。例えば、1の労力をかけて10の成果を得るのと2しか得られないのでは、生産性が大きく異なります。このROIの感覚が組織に欠けていると、価値につながらない仕事が際限なく増え続けてしまうのです。
特に、担当が細分化されやすい大企業などでは、個々の担当者が自身の業務を一生懸命遂行しようとするあまり、過剰な行動をとってしまうことがあります。その結果、組織全体の利益率には貢献しない、いわゆる「仕事のための仕事」が生まれやすくなります。
これは、組織の評価制度が成果ではなく、遂行度を重視している場合に顕著に現れます。例えば「朝から晩まで一生懸命に働いている」という姿勢自体が評価されてしまうと、少ない労力で高い成果を出す、本来評価されるべき人材が正当に評価されないという矛盾が生じます。このような環境では、むしろ余計な仕事が増え、組織全体の生産性は低下していく悪循環に陥ってしまうのです。
伊庭氏によると、さらにこの問題に拍車をかけるのが、「パーキンソンの法則」だと言います。これは「仕事は、与えられた時間のすべてを使い切るまで膨張する」という法則のことを指します。例えば、本来1分で終わる仕事であっても、8時間という就業時間が与えられていると、人は無意識にその時間を埋めるための別の仕事を探し始めてしまいます。
本来であれば「この仕事はすぐに終わるので、別の業務を担当させてほしい」と申し出るべきですが、多くの場合、与えられた持ち場で仕事を増やそうとします。人が多い組織ほどこの傾向は強まり、結果として一人ひとりが「忙しい」と感じながらも、組織全体としてはムダな仕事が膨らみ続けるという状況が生まれるのです。
これらの構造的な問題に気づき、ROIの視点を持って業務を見直すことが、疲れる職場から脱却するための第1歩となります。
「休むことを許さない文化」が疲労を生む
職場が疲れる原因は、ムダによるものだけではありません。「ハッスルカルチャー」と呼ばれる、常に働き続けることを善しとする風潮も、働く人を疲弊させる原因の1つです。このような文化は、特定の業界や企業規模にかかわらず、社会全体に広く浸透しています。
この「ハッスルカルチャー」ですが、資本主義システムそのものにより構造的に支えられているという見方もあります。
作家であり大学教授でもあるエリザベス・レイバ氏は、この点について次のように指摘しています。
資本主義と私たちが置かれているシステムは、自分の価値が自分の生産したものであるように仕向けていると思います。だから常に何かを生産したり、生産しようと考えたり、何かを思いついたりしていないと、多くの場合人々は休みたいと思うことを恥ずかしく思うのだと思います。
だから私たちは、常に次の達成を目指そうとする“ハムスターの輪の中”に入ってしまいがちで、その瞬間に自分自身を置いておくことができないのです。私たちは、自分が今どこにいるかよりも、「次に何をしなければならないか」のために生きているのだと思います。
引用:“休むことを許さない文化”が燃え尽き症候群を引き起こす 業界問わず、多くの職場に根付いている問題点(ログミーBusiness)
個人の価値が生産量によって測られるという無意識のプレッシャーが、休むことへの罪悪感を生み出し、人々を絶え間ない活動へと駆り立ててしまいます。コロナ禍以降、メンタルヘルスへの関心は高まりましたが、依然として多くの職場では人々の感情的なウェルビーイングを真に優先する文化は確立されていません。
リモートワークが普及し、通勤時間が削減された人も少なくないのにもかかわらず、多くの人が依然として疲れを感じているという事実は、問題が単なる物理的な拘束時間にあるのではなく、より根深い文化的・構造的な要因にあることを示唆していると言えるでしょう。
コミュニケーションの質も職場の疲れに直結する
職場の疲れは、人間関係に問題がある場合も少なくありません。
株式会社営業ハックの笹田裕嗣氏によると、その人間関係における疲労感の多くは、コミュニケーションの質に起因すると言います。デキるビジネスパーソンが相手を疲れさせない一方で、やりとりをするだけで精神的に消耗してしまう人がいるのはなぜでしょうか。
そのカギは、コミュニケーションに伴う「コスト」を理解し、それを最小限に抑える意識があるかどうかにかかっています。笹田氏によると、コミュニケーションコストは、大きく4つのパターンに分類できます。
1. 見るのが疲れるメールやチャットで長文が送られてくると、読む前から精神的な負担を感じます。内容を簡潔にまとめ、要点を絞って伝える配慮が欠けていると、相手の時間を奪い、疲れさせてしまいます。
2. やりとりが疲れるコミュニケーションは言葉のキャッチボールに例えられます。相手が受け取りにくいボール(分かりにくい説明、一度に伝えれば済むことを小出しにするなど)を投げ続けると、相手はボールを拾いに行く手間、つまり余計な確認や質問を繰り返す必要が生じます。これによりやりとりの回数が増え、疲労が蓄積します。
3. 読み解くのが疲れる専門用語を多用したり、前提知識を共有しないまま自分の言葉だけで話したりすると、受け手は言葉の意味を調べたり、話の背景を推測したりする必要に迫られます。この「翻訳作業」が精神的なコストとなります。
4. 時間がかかる(待機時間)「即レス」がビジネスで重要視されるのは、単にスピード感があるからだけではありません。返事を待っている間、相手は「あれはどうなっただろうか」という不安を抱え、精神的なエネルギーを消耗します。この待機時間を短縮することは、相手のストレスを軽減する上で非常に重要です。
これらのコストを意識せずに行われるコミュニケーションは「不健全」と言えます。不健全なコミュニケーションは、多くの場合、伝える側が「内容」にしか意識を向けておらず、「文脈、背景」を軽視しているために発生します。
例えば「言いましたよね?」という言葉は、伝えたという「事実」だけを主張しており、相手がどのような状況で、どのような気持ちでそれを受け取ったかという「文脈」をまったく考慮していません。
論理的に正しいことであっても、相手の感情や背景への配慮が欠けていれば、それは相手を疲れさせるだけの不毛なやりとりになってしまうのです。