温度感のズレがストレスを引き起こす
コミュニケーションにおけるストレスの一因として、見過ごされがちながらも非常に重要なのが、当事者間の「温度感」のズレです。
ある事象や目標に対して各人が抱く思い、熱量、モチベーション、解決意欲には差があり、この差が大きいほど、お互いにとってストレスフルな状況が生まれると、株式会社営業ハックの笹田裕嗣氏は語ります。例えば、経営層が「これは会社の一大プロジェクトだ。絶対に達成するぞ」と高い熱量で臨んでいる一方で、現場の担当者が「また上から面倒な仕事が降ってきた」と冷めた気持ちで作業をこなしている場合、両者の間には大きな溝が生まれます。
上司から見れば「なぜこんなに重要なプロジェクトなのに、主体性がないんだ」と不満を感じ、部下からすれば「なぜこんなに熱くなっているんだ。ただの作業なのに」とプレッシャーや違和感を覚えるでしょう。このような「熱すぎ」「冷めすぎ」といった感覚のズレが、不信感や対立を生み出すのです。
人のやる気の燃え方は、一般的に4つのタイプに分類されると笹田氏は言います。
自燃型自分でモチベーションをコントロールし、自らやる気を高められる人。
他燃型人の影響を受けてやる気が上がる人。誰かと一緒に取り組んだり、誰かに励まされたりすることで燃えるタイプ。
可燃型一時的にテンションが上がる人。「良いことがあったから」といった外部の刺激で瞬間的に燃えるが、持続しにくい。
不燃型何に対してもなかなかやる気にならない人。
重要なのは、これらのタイプは個人の固定的な特性ではなく、取り組む「お題・テーマ」によって変動するということです。例えば、営業活動には自燃型として情熱を燃やせる人でも、請求書作成のような事務作業には不燃型になってしまうといったケースは珍しくありません。
この多様性を理解せず、全員に同じ「温度感」を強要することが、コミュニケーションストレスの根源となります。多様性の本質は、単に多様な人材がいる環境を作るだけでなく、それぞれの価値観やモチベーションの源泉を理解し、組織として前に進むために「温度感を合わせる」努力をすることにあります。
個々のメンバーがどの業務に情熱を感じるのかを把握し、対話を通じてプロジェクトの意義や目的を共有し、お互いの温度感をすり合わせていくプロセスこそが、健全で生産的な職場環境を築く上で不可欠なのです。
健全なコミュニケーションを取り戻し、職場の疲れを軽減する第1歩
職場の不健全なコミュニケーションを改善し、互いの疲弊を防ぐためには、コミュニケーションの基本的なあり方を見直す必要があります。
多くの人が「どう話せばいいか」「どう伝えればいいか」ということばかりに意識を向けがちですが、健全なコミュニケーションの出発点は「話す」ことではなく、「聞く」ことから始まります。
相手の家に土足で踏み込むような一方的なコミュニケーションを避け、敬意に基づいたやりとりを確立するためには、以下のステップを意識することが不可欠です。株式会社営業ハックの笹田裕嗣氏は、このプロセスを次のように説明しています。
健全なコミュニケーションを生むためには「まずは話す」じゃありません。まずは聞く、そして相手の言葉を受け取り、内容を理解する。背景を想像して、自分が言葉を発してください。ここを間違えないでくださいね。
逆に言うと、「聞く」「受け取る」「理解する」「想像する」ということをすっ飛ばしてしまうと、相手の家に土足で入っている状態と同じですよということを、ぜひ意識いだきたいなと思います。
引用:やりとりが疲れる、返事がなくて不安、相手の言葉がストレス… 職場でよくある不健全なコミュニケーションの解消法(ログミーBusiness)
この4つのステップは、健全な関係性を築くための土台となります。
1. 聞くまずは相手の言葉に真摯に耳を傾ける姿勢が重要です。パソコンの画面を見ながら、あるいはスマートフォンを操作しながら話を聞くといった態度は、相手に「受け取ってもらえていない」という感覚を与え、信頼関係を損ないます。目を見て、相槌を打ち、相手の話に意識を集中させることが第1歩です。
2. 受け取る相手の言葉を評価したり否定したりするのではなく、まずは「そう感じているんだね」と、ありのままに受け止めることが求められます。特に相手が感情的になっている場合や、悩みを打ち明けている場合には、解決策を急ぐのではなく、共感的な姿勢で受け止めることが安心感につながります。
3. 理解する相手が伝えている言葉の表面的な意味だけでなく、その言葉の裏にある意図や目的、つまり「コンテンツ」だけでなく「コンテキスト」を理解しようと努めることが重要です。なぜ相手はそう言うのか、どのような背景があるのかを考えることで、より深いレベルでの理解が可能になります。
4. 想像する相手の立場や状況、感情を想像する力は、円滑なコミュニケーションに不可欠です。「この言葉を伝えたら、相手はどう受け取るだろうか」と1歩立ち止まって考えることで、相手を傷つけたり、誤解を招いたりするリスクを減らすことができます。
コミュニケーションは、情報を伝達するだけの「作業」ではありません。感情を持つ人間同士の相互作用です。この基本に立ち返り「聞く」ことから始める意識を持つことが、職場に健全なコミュニケーションを取り戻し、誰もが気持ちよく働ける環境を作るための確かな1歩となるのです。