【3行要約】
・「仕事に行きたくない」と感じる日本人は約7割に達し、仕事への熱意を感じる人はわずか6パーセントという危機的状況です。
・高橋克徳氏らの調査では、1990年代以降の「断ち切る経営」により職場の人間関係が希薄化し、孤立感が増大していることが判明。
・ 解決には「三角形の関係性」構築や副業による選択肢創出、視点転換による働きがい発見が重要です。
「仕事に行きたくない」と多くの日本人が感じる構造的理由
現代の日本において、多くのビジネスパーソンが仕事に対して何らかの悩みを抱えています。国際的な調査データを見ても、その傾向は明らかです。
例えば、
株式会社ジェイフールの高橋克徳氏によると、ギャラップ社が実施しているエンゲージメント調査では、日本は世界の中でも最低水準に位置しており、仕事に対して強いつながりや熱意を肯定的に感じている人は約6パーセントに過ぎないという結果が出ています。これは、国内の別の調査でも同様の傾向が見られ、
仕事のおもしろさや充実度について「そう思う」とはっきりと肯定的な回答をする人は全体の約1割にとどまっていると高橋氏は指摘します。残りの多くの人々は、「ややそう思う」と答えるか、あるいは肯定的な感情を抱いていないのが現状です。
この働きがいの低さは、バブル期までは世界的に見ても高い水準にあったことを考えると、1990年代以降に深刻化した構造的な問題であると言えるでしょう。
では、なぜこのような状況が生まれてしまったのでしょうか。高橋氏によると、その原因の1つとして、多くの職場で「閉じこもる働き方」が常態化していることが挙げられると言います。
互いの状況が見えにくくなり、対話や議論が不足することで、人々はますます孤立していきます。このような環境では、たとえ懸命に働いても「よくやっているね」「ありがとう」といったポジティブなフィードバックを得る機会が失われ、働く喜びややりがいを見出しにくくなります。
また、他者への関心が薄れることで、「大丈夫?」といった些細な声かけも減り、共に働く仲間としての連帯感が希薄になります。結果として、仕事に対する思いや志が湧きにくくなるという悪循環に陥ってしまうのです。
この背景には、1990年代以降に進められてきた「断ち切る経営」の影響があります。かつての日本企業が抱えていた馴れ合いやしがらみといった負の側面を解消する必要はあったものの、その過程で個人が自力で成果を上げることを過度に求め、リスク対応やコンプライアンスを理由に情報を閉ざす傾向が強まりました。
これにより、人と組織、人と人、上司と部下といった、本来であれば組織の活力を生み出すはずの大事なつながりが断ち切られてしまったのです。
さらに、
ライフシフト・ジャパンの豊田義博氏によると、従業員数100人以上の企業で働く会社員・役員1,582名を対象にした調査で、働く人の約7割が自社に対して「辞めたい」「我慢している」といったネガティブな感情を抱いていることが明らかになっています。この数値は、多くの職場が従業員のエンゲージメントを高める上で深刻な課題を抱えていることを示しており、個人の努力だけでは解決が難しい根深い問題が横たわっていることを物語っています。
社員を不幸にする「V字型」の人間関係
職場の生産性や従業員の幸福度を著しく低下させる要因の1つに、特定の人間関係のパターンが存在します。それは
「V字型」と呼ばれる関係性です。
これは、自分(A)がふだんよく話す2人の人物(BとC)がいるとして、そのBとCがお互いに直接話をしない関係を指します。自分を頂点とし、BとCが底辺に位置するV字のような形になることから、このように呼ばれています。
このV字型の関係性は、職場だけでなく家庭など、あらゆるコミュニティで発生しうるものですが、特に組織においては深刻な問題を引き起こす可能性があります。なぜなら、組織図というもの自体が、本質的にV字の集合体で構成されているからです。
組織図は、上司が各部下と個別につながる構造を基本としており、そこには本来、横や斜めのつながりを示す「三角形」の要素は1つもありません。したがって、組織図どおりのコミュニケーションを徹底すると、必然的に不幸で非生産的なV字型の関係性が蔓延する職場環境が生まれてしまうのです。
V字型の関係性がもたらす最大の弊害は、コミュニケーションのボトルネックと心理的負担の増大です。例えば、あるプロジェクトにおいて、自分はプロジェクトリーダー(B)と、自身の評価者である直属の上司(C)の両方と密に連携を取る必要があるとします。
もしリーダー(B)と上司(C)が互いにまったく話をしないV字型の関係であれば、自分はその間に挟まれ、両者の意向を調整する役割を一人で担わなくてはなりません。意見の対立や認識の齟齬が生じた場合、その負担はすべて自分にのしかかり、深刻なストレスの原因となります。
さらに深刻なのは、
V字型の人間関係が蔓延する職場では、うつ病の発症率が高まることだと、株式会社日立製作所の矢野和男氏は指摘します。近くにいるにもかかわらず、つながりが希薄で、用事だけの関係性が増えることは、従業員の孤立感を深めます。
人間は、単に業務上の指示をやり取りするだけでなく、雑談や相談ごとを通じて信頼や連帯といった人間的な関係性を築くことで、精神的な安定を得る生き物です。V字型の関係性は、こうした人間的なつながりを阻害し、個々人を孤立させます。
複雑化し、常に変化する現代のビジネス環境において、担当範囲外の突発的な事態に対応するためには、横や斜めの連携が不可欠ですが、V字型の関係性はその連携を著しく困難にするのです。
生産性と幸福度を高める「三角形」の関係性の作り方
職場の人間関係が不幸や非生産性を生む「V字型」に陥るのを防ぎ、より創造的で幸福度の高い環境を築くためには、「三角形」の関係性を意識的に作ることが極めて重要だと、株式会社日立製作所の矢野和男氏は語ります。三角形の関係性とは、自分(A)がよく話す2人の人物(BとC)が、互いに直接コミュニケーションを取る関係を指します。この3人が相互につながり合うことで、コミュニティの最小単位が形成されます。
では、この三角形の存在が、なぜ生産性と幸福度の向上につながるのでしょうか。それは、この関係性が自己決定の機会を増やし、創造性を発揮しやすい土壌を育むからです。V字型の関係性では、間に立つ1人が情報のハブとなり、調整役として大きな負担を強いられますが、三角形の関係性では3者が直接対話できるため、情報伝達がスムーズになり、問題解決も迅速に進むのです。
では、職場で三角形の関係性を構築するには、具体的にどうすればよいのでしょうか。マネージャーが実践できるアプローチとして、矢野氏は大きく分けて2つ紹介しています。
1つは、雑談や昼食、飲み会といったインフォーマルなコミュニケーションを促進することです。一見、業務とは無関係な「無駄」に見えるかもしれませんが、こうした時間こそが、信頼や連帯といった人間的な関係を育む上で非常に重要です。
休憩時間の過ごし方や雑談の活発さが、生産性や創造性に大きな影響を与えることは、多くのデータで示されています。特にリモートワーク環境下では、用事のある人としか話さなくなりがちで、V字型の関係性が固定化しやすいため、意識的に雑談の機会を設けることが有効です。
もう1つのアプローチは、よりフォーマルな、仕事を通じた三角形の構築です。これは、マネージャーの役割として特に重要です。通常業務がV字型の組織図に沿って行われるのは当然ですが、既存の担当範囲だけでは対応しきれない課題や、部署をまたいで検討すべき問題が発生した際に、マネージャーが意図的にチームを組成するのです。
「この件について、AさんとBさんとCさんで検討して、1週間後に提案してほしい」というように、特定の個人に仕事を振るのではなく、異なる部署や役割を持つメンバーからなる小さなチームに仕事を任せます。これにより、メンバーはふだん関わりのない同僚と協力せざるを得なくなり、自然と三角形の関係性が生まれるのです。
このプロセスを通じて、従業員は自分の担当範囲を超えて物事を考えるようになり、視野が広がります。それは、自らの仕事の影響範囲を広げ、より大きな視点で自律的に動くこと、すなわち「自己決定」につながり、ひいては個人の成長と組織全体の成長のスパイラルを生み出す原動力となるのです。