「いつでも辞められる状態」がもたらす精神的な余裕
多くのビジネスパーソンは、会社という組織に属して働く中で、上司との意見の対立や理不尽な要求など、さまざまなストレスに直面します。「この会社でしか生きていけない」という思い込みは、そうしたストレスを増幅させ、精神的な窮屈さを生み出します。しかし、もし自分の中に「この会社が嫌なら、いつでも辞めて別の道を選べる」という選択肢を持っていたら、状況は大きく変わるかもしれません。
この「いつでも辞められる状態」を意図的に作り出すことが、結果的に現在の仕事に対するストレスを軽減し、精神的な余裕をもたらすという逆説的な効果を生むのです。
この状態を実現する具体的な方法の1つが副業です。
受験指導専門家の西村創氏は、塾講師として勤務していた際、長年の経験で本業に余力が生まれたため、Webメディアでの記事執筆や書籍の出版といった副業を始めました。やがて副業の収入が会社からの給料を上回るようになり、会社から副業を禁止された際に、迷わず会社を辞めるという選択をしたと言います。西村氏にとって、もはや会社員としての立場が本業ではなく、個人の名前での活動が本業となっていたのです。
このように、会社に依存しない収入源やスキルを持つことは、経済的な自立だけでなく、精神的な自立にもつながります。嫌なことがあっても、居酒屋で愚痴を言ってストレスを発散するのではなく、その時間を自己投資に充て、外部での活躍の場を広げる。これこそが、本質的なストレス解消法と言えるでしょう。
「選択肢がある」という状態が精神衛生に良い影響を与えることは、科学的にも裏付けられています。
『13歳からの進路相談』の著書である松下雅征氏は、このテーマについて次のように解説しています。
どうやら人間を含めた動物は、自分で何かを選べる状態が好きというか、逆にこれしか選べないという状態になると、非常にストレスを感じるらしいんですよね。
動物で言うなら、例えば野生の環境にいるほうが……どれだけ環境のいい動物園を用意したところで、多少環境が悪くても、どこにでも行ける、自由に動けるという野生のほうが、ストレス度合いが少ないという研究が出てたりします。
人間も同じで、どれだけ役職が上の人でも、自分はこの会社の部長や社長になるしか働けないと思うよりも、たとえ一社員だとしても、自分にはこういう選択肢もあるけど、好きでこの仕事をしてるんだって思えるほうが、ストレス度合いは少ないと言われているらしいです。
引用:「いつでも辞められる状態」を作ると、仕事のストレスが軽減 自分のキャリアや働きやすさにもつながる“逃げ道”の大切さ(ログミーBusiness)
興味深いのは、「いつでも辞められる状態」になると、不思議と「辞めたい」という気持ちが薄れていくという現象です。
前述の塾講師も、副業収入が安定し、いつでも辞められるようになった結果、逆に会社での居心地が良くなり、当初の想定をはるかに超えて10年以上も勤務を続けたと言います。上司や職場環境といった外部要因は何も変わっていないにもかかわらず、自分自身の受け止め方が変わったのです。
自分には他の選択肢がある、しかし「自分の意思で」この会社にいるのだと思えることで、以前はストレスに感じていた出来事も穏やかに受け止められるようになります。自ら「逃げ道」を用意することが、結果的に今いる場所をより快適なものに変える。これは、キャリアを考える上で非常に重要な視点と言えるでしょう。
どんな仕事でも「働きがい」を見出すための視点
多くのビジネスパーソンが「仕事はつらいもの」「楽しくない」と感じている中で、日々の業務に「働きがい」を見出すことは可能なのでしょうか。
そのカギは、仕事そのものの内容よりも、むしろ「視点の捉え方」にあると、株式会社コロプラの千葉功太郎氏は語ります。どんなに単調に見えるルーチンワークであっても、そこに改善の余地を見つけようとすれば、仕事は途端にクリエイティブな活動に変わります。例えば、「昨日1時間かかった作業を今日は45分で終えるにはどうすればいいか」「次は30分を目指すにはどう工夫しようか」と考えること自体が、ある種のゲームであり、創造的な挑戦です。
これは、アスリートが日々のトレーニングに少しずつ課題を設定し、改善を繰り返していくことでモチベーションを維持するのと同じ原理です。仕事は「こなさなければならないもの」ではなく、「システム自体を変えてやろう」という対象だと捉えることで、どんな業務にもおもしろさや達成感を見出すことができるのです。
また、人生における働く時間の長さを考えてみることも、働きがいを捉え直すきっかけになります。20代から60代、70代まで、平日の起きている時間の大半を仕事に費やすと考えると、その時間がつまらないものであれば、人生の大半を無駄にしていることになりかねません。
だからこそ、働く時間をいかに充実させるかという視点は非常に重要です。たとえすぐに大きな活躍ができなくても、自分自身の力を発揮できる「場」があること自体に喜びを見出すという考え方もあります。
東京大学の島津明人氏によると、働きがいは「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素から構成されるとされています。そして、株式会社Campus for H 共同創業者の石川善樹氏によると、働きがいが決まる要因には4つのレベルがあることがわかっています。レベル1 何をすべきか?自分が何をすべきか理解し、そのための道具が整っているか。
レベル2 貢献できているか? 毎日最高の仕事をする機会があり、直近1週間で褒められた経験があるか。
レベル3 所属しているか? 会社のミッションが自分にとって重要だと感じられるか。
レベル4 全員で成長するには?仕事仲間に「最高の友だち」と呼べる人がいるか。
特にレベル1と2は離職率と強く関係し、レベル3と4は生産性や利益率と関係すると言われています。これらの問いを自身や自社に投げかけてみることで、働きがいを高めるための具体的なヒントが見えてくるでしょう。