【3行要約】
・仕事の成果を最大化するには計画立案のほか、実行と定着のプロセスも重要です。
・グロービス経営大学院の鈴木氏は「段取り力の高い人はリスクを想定し対策を講じられる」と指摘。
・持続的な成果を出すには、全体を俯瞰するプランニング力、細部にこだわる段取り力、個人の経験を組織の資産にする仕組み化力の習得が不可欠です。
なぜ仕事で計画を立てる力が必要なのか?
仕事で成果を出すためには、目標を設定し、それに向かって行動することが求められます。しかし、ただ闇雲に行動するだけでは、望む結果を得ることは難しいでしょう。そこで重要になるのが、物事を円滑に運ぶための計画を立てる力です。これは、いわば仕事全体の地図を作成する能力と言えます。
物事の全体像、つまり全体感を掴めていないと、何から手をつければ良いのか、次にどのステップに進むべきかがわからなくなり、行動が場当たり的になってしまいます。結果として、非効率な作業を繰り返したり、重要なタスクを見落としたりするリスクが高まるのです。
大枠さえ確認できれば、全体の地図を手に入れたことになります。その地図を俯瞰することで、優先順位をつけることが可能になります。
このように、まずは全体の地図を作成し、進むべき道のりを明確にすることが、成果への着実な1歩となるのです。
立てた仕事の計画を実行ベースに落とし込む「段取り力」
全体の地図を描き、おおまかな計画を立てることができたら、次はその計画を実行可能なレベルまで具体化する「段取り力」が求められます。
プランニングが「森を見る」マクロな視点であるのに対し、段取りは「木を見る」ミクロな視点であり、どこまで細部にこだわることができるかが重要になります。この2つの力は、車の両輪のように連携して初めて、仕事の成果を最大化することができます。
例えば、「大規模なイベントを開催する」という計画を立てたとします。ここでの段取り力とは、イベントで配布するボールペン1本に至るまできちんと配慮が行き届いているかを確認するような、細部への意識を指します。
「段取り力」が高い人は、豊かな想像力を働かせることができます。「もしかしたらこういうことが起きるかもしれない」と、さまざまな角度から起こりうる事態を想定し、事前に対策を講じることができます。このリスク想定の能力こそが、段取り力の核心です。
グロービス経営大学院の鈴木麻希氏は、段取り力が高い人の思考プロセスを次のように解説しています。
例えば、有名人を呼んだトークイベントを開催するとした場合、「段取り力」が高い人は、「もし新幹線や飛行機が遅れたら」「もし有名人がインフルエンザに罹ったら」など、ありとあらゆる状況をまず想像し、その上でどのパターンが一番のリスクかを考えます。
この例の場合「有名人が来ない」というのが一番まずいパターンになるので、有名人が来ない場合の対応に考えを巡らせて、段取りを組むことになります。事前に想定しているのとしていないのとでは、本当に来なかった場合の対応に大きな違いが出ます。ぜひ細部にこだわって段取りをしてみてください。
引用:結果を残す人は、「計画立案」と「段取り」で視点を変える 仕事で「成果」を出すために必要な3つの力(ログミーBusiness)
この例のように、「有名人が来ない」という最悪の事態を特定し、その場合の代替案、例えば代理のスピーカーを手配しておいたり、別のコンテンツを用意しておいたりなどの準備しておくことが、優れた段取りになります。
「トラブルは起こるもの」という前提に立ち、事前にシミュレーションを重ねておくことで、万が一の事態が発生しても冷静かつ迅速に対応することが可能になります。
プランニングの段階で描いた地図を頼りに、目的地までの道のりに潜む障害物や危険な箇所を予測し、安全なルートを確保したり、迂回路を準備したりする作業が「段取り」です。この細やかな配慮と準備が、計画の実現性を飛躍的に高め、最終的な成果の質を左右するのです。
仕事の計画倒れを防ぐ「仕組み化」
優れたプランニングと緻密な段取りによって大きな成果を上げられたとしても、それが単発で終わってしまっては、組織としての成長には繋がりません。
個人の成功体験を組織の資産へと昇華させるために不可欠なのが、「仕組み化力」だと、グロービス経営大学院の鈴木麻希氏は語りますこれは特定の個人に依存しない、再現性のあるプロセスを構築する能力を指します。例えば、あるイベントを成功させたとします。そのイベントは次回以降も開催される可能性があります。スピーカーやテーマは変わるかもしれませんが、会場の手配、集客のプロセス、当日の運営フローなど、基本的なフォーマットは共通している部分が多いはずです。
こうした共通部分について、毎回ゼロから計画を立てるのは非効率です。そこで、成功した今回の経験を元に、誰が担当しても一定の品質を保てるように、マニュアルやチェックリストを作成します。これが「仕組み化」です。
鈴木氏は、仕組み化を行うことで、主に2つの大きなメリットが生まれると指摘します。つ目は業務の効率化です。確立されたフォーマットに従うことで、計画立案や準備にかかる時間を大幅に削減できます。これにより、担当者は毎回発生する定型業務に時間を奪われることなく、その時々で注力すべきコンテンツの企画や改善といった、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。
2つ目は属人化の防止です。特定の人経験やノウハウに頼った仕事の進め方は、その人が異動や退職をした途端に機能しなくなるという大きなリスクを抱えています。ノウハウをマニュアルというかたちで形式知化し、組織全体で共有することで、誰が担当しても業務が滞りなく進む体制を構築できます。これは、組織の安定的な運営にとって極めて重要です。
目標を達成し、継続的に成果を出し続けるためには、自分が蓄積したノウハウを個人のものに留めてはなりません。成功の要因を分析し、再現可能な要素を抽出し、それを組織の誰もが活用できる「仕組み」として横展開していく意識が大切です。
周囲の人々の協力を得て、組織全体の能力を底上げすることこそが、真の成果と言えるでしょう。プランニング、段取り、そして仕組み化。この3つの力をバランスよく発揮することで、仕事で立てた計画を、個人と組織を共に成長させる原動力につなげることができるのです。
軌道修正を可能にする「振り返り」の習慣化
計画を立て、実行するだけでは、仕事の質を持続的に高めていくことはできません。そこで不可欠となるのが、自身の行動を客観的に評価し、次なる改善につなげる「振り返り」のプロセスです。
DaBaDee株式会社の髙桑由樹氏は、仕事の基本的なサイクルである「計画・実行・振り返り」の中でも、特にこの振り返りの質が、個人の成長速度と仕事の再現性を大きく左右すると語ります。効果的な振り返りを行うためには、まず「どこまでできて、どこからができなかったのか」を感覚ではなく、事実ベースで明確に区分することが重要です。単に「うまくいった」「うまくいかなかった」という漠然とした感想で終わらせてしまうと、具体的な学びを得ることはできません。
計画時に設定した目標やマイルストーンと実績を照らし合わせ、達成できた部分と未達だった部分を、客観的に整理することから始めます。
次のステップであり、同時に最も重要なステップなのが、「どうしてそうなったのか」という要因を深く掘り下げて理解することです。うまくいったのであれば、その成功要因は何か。それは再現可能なものなのか。
逆にうまくいかなかったのであれば、その原因は計画の甘さにあったのか、実行段階での予期せぬトラブルだったのか、あるいは自身のスキル不足だったのか。この原因の言語化こそが、成功の再現性を高め、失敗の再発を防ぐためのカギとなります。
しかし、多くの職場ではこの振り返りが形骸化していたり、そもそも十分な時間が確保されていなかったりするのが実情です。髙桑由樹氏は、振り返りが疎かになる現場の実態について、次のように警鐘を鳴らしています。
特徴的だったのは「振り返り」の項目に×が多かったことです。コメントには「できなかった時は反省しているけれど、できている時はほとんど振り返っていなかった」という声がありました。振り返りを“問題があった時だけ行うもの”として扱っている会社は、実際に多いと思います。
また、最近強く感じるのは、どの会社も人が減り、業務が忙しくなっているという背景です。その結果、目の前の仕事をこなす時間に追われ、振り返りに時間が割けなくなる。いわゆる“やりっぱなし”になってしまっているケースが増えていると感じます。(中略)
やるべき仕事を「とりあえずやればいい」という思考になってしまうと、学びも改善も生まれません。だからこそ振り返りの時間は、忙しさに関係なく必ずキープするという“意思”が必要で、守るべきものだと感じています。
引用:考えられる部下を育てる上司が実践する“5つの仕事” 「考える力」を伸ばす関わり方のポイント(ログミーBusiness)
問題が発生した時だけ反省会を開くというやり方では、成功体験から学ぶ機会を逸してしまいます。また、日々の業務に追われるあまり振り返りの時間を削ってしまうと、組織は改善の機会を失い、「とりあえずこなす」だけの思考停止状態に陥りかねません。
忙しい中でも意識的に時間を確保し、振り返りを習慣化すること。そして失敗だけでなく、成功からも学びを得ようとすること。この地道な営みを継続できるかどうかが、個人と組織の「考える力」を伸ばし、持続的な成長を実現するための分水嶺となるのです。