逆パワハラを起こさないために企業に求められる4つの対策
逆パワハラという複雑な問題に直面した際、企業には場当たり的な対応ではなく、組織的かつ体系的な対策を講じることが求められます。放置すれば組織の崩壊にもつながりかねないこの問題に対し
、株式会社PDCAの学校の宮地尚貴氏は、明日からでも実践できる具体的な対策は大きく分けて4つ紹介しています。1つ目に「就業規則への規定の明記」です。パワハラ、セクハラ、マタハラといった各種ハラスメントに関する禁止規定を就業規則に明確に盛り込むことが基本となります。その際、上司から部下への行為だけでなく、部下から上司への逆パワハラも禁止対象であることをはっきりと示す必要があります。
さらに、どのような行為がハラスメントに該当するのかを具体的な事例とともに示すことで、従業員の理解を深め、予防効果を高めることができます。厚生労働省の指針などを参考に、自社の実情に合わせたガイドラインを作成することが重要です。
2つ目に「相談窓口の設置と機能化」です。法律でも設置が義務付けられているハラスメント相談窓口ですが、形骸化させずに実質的に機能させることが不可欠です。多くの企業で「窓口はあるが利用されない」という課題が聞かれますが、相談しやすい環境を整える工夫が必要です。
例えば、相談担当者を1人に限定せず、人事部門や他部署の信頼できる人物など複数人を配置し、相談者が選択できるようにするだけでもハードルは下がります。また、窓口の役割をハラスメント相談だけに限定せず、キャリア相談やメンタルヘルス相談など、より間口を広げることで、従業員が気軽に利用できる場所に変えていくことも有効な手段です。
3つ目に「ハラスメント研修の全社的な実施」です。ハラスメント研修は管理職だけを対象に行われがちですが、一般社員にも実施することが極めて重要です。なぜなら、逆パワハラの加害者となりうる部下自身が、どのような言動がハラスメントに該当するのかを正しく理解していないケースが多いためです。
一般社員向けの研修では、パワハラの定義や具体例に加え、業務上必要な指導とパワハラの境界線、仕事における責任やミスが与える影響などを伝える必要があります。これにより、上司からの指導を正しく受け止める素地を育むことができます。
4つ目に「管理職のマネジメント能力の強化」です。管理職に求められる役割は年々複雑化・広範化しています。プレイヤーとしての業務に追われ、自発的にマネジメントスキルを学ぶ時間を確保することが難しい管理職も多いのが現実です。
そのため、企業側が学びの機会を積極的に提供し、部下との適切なコミュニケーション方法や指導スキル、アンガーマネジメントといった能力を体系的にインプットさせることが不可欠です。特に、部下との信頼関係を構築するための1on1ミーティングの定期的な実施などは、逆パワハラを含むあらゆるハラスメントの予防につながります。
逆パワハラを防ぐためには組織文化の醸成が不可欠
逆パワハラ問題の根本的な解決には、組織文化の醸成が不可欠です。その中でも特に重要なのが、上司と部下の間のコミュニケーションの質と量を確保し、強固な信頼関係を築くことです。
株式会社PDCAの学校の宮地尚貴氏は、ハラスメントが発生しやすい職場の共通点として、コミュニケーション頻度の低さや信頼関係の欠如が挙げられると指摘します。日常的な対話が不足していると、いざという時の指導や注意が唐突なものに感じられ、部下の反発を招きやすくなります。
従って、上司は意識的に部下とのコミュニケーション機会を確保する必要があります。その有効な手段の1つが、定期的な1on1ミーティングの実施です。最低でも月に1回、理想を言えば週に1回程度の頻度で、業務の進捗確認だけでなく、部下が感じている課題やキャリアに関する考えなどを聞く時間を設けることが望ましいです。
こうした対話の積み重ねによって、部下は「上司は自分のことを見てくれている、気にかけてくれている」と感じるようになり、信頼関係が醸成されます。ふだんから何でも話せる関係ができていれば、業務上の重要な報告・連絡・相談がスムーズに行われるだけでなく、厳しい指摘や指導も「自分の成長のためを思って言ってくれている」と前向きに受け止められやすくなるでしょう。
逆パワハラの問題に直面した際、上司個人が「自分のマネジメント能力が低いからだ」と1人で抱え込み、我慢してしまうケースが見られます。しかし、これは極めて危険な状況です。
逆パワハラは個人の資質の問題だけでなく、組織全体で取り組むべき構造的な問題です。上司が一人で問題を解決しようと奮闘することは、多大な精神的労力を要し、最悪の場合、心身の健康を損なうことにもなりかねません。会社として毅然とした対応を取らなければ、問題は解決せず、職場の士気は低下し続けます。
管理職は我慢する必要はなく、問題を早期に発見し、会社(さらに上の上司や人事部門、相談窓口)に報告・相談し、組織的な対応を求めることが正しい行動です。企業側もまた、そうした相談があった際には、個人の問題として突き放すのではなく、会社全体のリスクとして捉え、迅速かつ適切に対応する責任があります。