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360度評価(多面評価)(全1記事)

360度評価(多面評価)とは ? 目的・メリット・効果的に運用するための方法を紹介

【3行要約】
・ 360度評価は多面的な評価で自己認識を深められる一方、適切な運用がなければ職場の不信感を生む恐れがあります。
・心理学の「ジョハリの窓」フレームワークによれば、360度評価は組織内の「開放の領域」を拡大し、相互理解と信頼関係の構築に貢献します。
・360度評価を導入する企業は、自社に合った設問設計、建設的な意見を引き出す事前ガイダンス、育成特化の目的設定、そして継続的なフォローアップ体制の構築に取り組みましょう。

360度評価(多面評価)とは? 導入メリット

360度評価は、上司、同僚、部下といった複数の関係者から対象者のふだんの行動についてフィードバックをもらい、本人の成長や組織内の関係性向上につなげる手法です。

360度評価がもたらす最も大きな効果の1つに、「職場関係性の向上」が挙げられます。この効果を理解する上で有効なのが、「ジョハリの窓」という心理学のフレームワークです。

ジョハリの窓は、自己を「自分も他人も知っている領域(開放の領域)」「自分は知らず他人は知っている領域(盲点の領域)」「自分は知っているが他人は知らない領域(秘密の領域)」「自分も他人も知らない領域(未知の領域)」の4つに分類し、自己理解と他者との円滑なコミュニケーションを促すモデルです。

このフレームワークにおいて、人間関係を良好にするためには「開放の領域」を広げていくことが重要だとされており、360度評価は、まさにこの「開放の領域」を拡大させるための強力なツールとして機能すると、WillMap株式会社 取締役社長の柿沼昌吾氏は言います。

柿沼氏によると、対象者にとって、360度評価は主に「盲点の領域」にアプローチします。上司や同僚、部下からの客観的なフィードバックを通じて、「自分では気づいていなかったけれど、周りからはこんなふうに見られていたのか」「無意識にこんな行動をとっていたのか」といった、自分では認識していなかった自己の姿に気づかされます。これは、自分だけでは決して得られない貴重な学びであり、自己認識を深める大きなきっかけとなります。

一方で、回答者側にとっては、対象者について知ってはいるものの、ふだんはなかなか伝えられずにいた「秘密の領域」にある感情を、フィードバックという公式な機会を通じて伝えることができます。例えば、日頃の感謝の気持ちを伝えたり、さらなる成長への期待を伝えたりすることが可能です。

このように、対象者は「盲点の領域」を、回答者は「秘密の領域」をそれぞれ開示し合うことで、相互理解が深まり、両者の「開放の領域」が広がっていきます。これにより、お互いの認識のズレが解消され、これまで以上に円滑なコミュニケーションが生まれる土壌が育まれるのです。

このように、360度評価は単なる評価ツールに留まらず、組織内の風通しを良くし、信頼に基づいた強固な人間関係を築くための重要なきっかけを提供してくれます。

360度評価の事前準備として最も重要な「設問設計」

柿沼氏によると、360度評価を効果的に運用するための事前準備として、最も重要なプロセスの1つが「設問設計」だと言います。設問は、単に評価項目を並べたものではなく、組織が従業員に何を期待しているのかというメッセージを伝える強力な媒体となり得ます。

これは「コレクション効果」と呼ばれるもので、アンケートなどで特定の項目について質問されると、回答者は「これが組織として重要視していることなのだ」と認識し、その項目を意識して行動しようとする心理的な効果のことを指します。

したがって、設問設計を慎重に行うことで、360度評価を、企業が目指す方向性や価値観を浸透させるための戦略的なツールとして活用できるのです。

逆に、既成の設問を安易に使用してしまうと、意図しない誤ったメッセージを従業員に伝えてしまうリスクがあるということです。そのため、設問は自社の状況に合わせて独自に設計することが推奨されます。

自社に最適化された設問を設計することで、360度評価は単なる現状把握のツールを超え、組織が目指す方向へと人材を導くための羅針盤としての役割を果たすのです。

360度評価で建設的な意見を引き出すための「事前ガイダンス」

360度評価の成否を分けるもう1つの重要な要素が、実施前に行う「事前ガイダンス」だと柿沼氏は言います。これは、対象者と回答者の全員を集めて、約60分程度の時間をかけて行う説明会を指します。

このガイダンスの最大の目的は、回答者、特に部下に360度評価の本来の趣旨を正しく理解してもらうことです。このプロセスを省略してしまうと、フィードバックが単なる日頃の不満や批判をぶつける場になってしまう危険性があります。

例えば辛辣なコメントによって上司への鬱憤を晴らすような機会として利用されてしまうと、対象者は深く傷つき、モチベーションを著しく低下させてしまいます。これでは、本来目指すべき「対象者の成長支援」や「組織関係性の向上」とは正反対の結果を招いてしまいます。

したがって、事前ガイダンスでは、360度評価はあくまで組織をより良くするために、対象者にどう変わってもらうのが望ましいかという建設的な視点で評価やコメントを行う場であることを明確に伝える必要があります。つまり、回答者は単なる評価者ではなく、組織の未来を共に創る当事者として、対象者の成長を支援する役割を担っているのだという意識を醸成することが極めて重要です。

この丁寧な事前準備を行うことで、回答者は安心して建設的なフィードバックを行うことができ、対象者もそれを前向きに受け入れやすくなります。結果として、360度評価が単なる評価イベントで終わらず、組織全体の成長を促す有意義な対話の機会となるのです。

360度評価の活用は「育成支援」のみに限定すべき理由

360度評価は機能的に人事評価にも育成支援にも活用できますが、その効果を最大限に引き出すためには、活用目的を「育成支援」に特化させることが極めて重要です。なぜなら、360度評価の結果を人事評価、つまり報酬や処遇に直接結びつけてしまうと、いくつかの深刻なデメリットが生じるからだと柿沼氏は言います。

まず、評価結果が自身の給与や昇進に影響すると知った対象者は、フィードバックを素直に受け入れにくくなります。結果に対して自己内省を深めるのではなく、「この評価は本当に信頼できるのか」「誰が低い評価をつけたのか」といった疑念や他責の念にかられやすくなるのです。

これは、自己の行動変容という本来の目的から遠ざかるだけでなく、職場内の不信感を助長する危険性もはらんでいます。このような状況では、育成という目的は到底達成できません。

さらに、評価を意図的に操作しようとする動きも現れやすくなります。例えば、報酬に影響することから、対象者同士が結託してお互いに高い評価をつけ合ったり、部下に対して事前に「良い評価をつけてほしい」と働きかけたりするケースです。

こうした行為が横行すれば、収集されるデータの信頼性は著しく損なわれ、フィードバックそのものが意味をなさなくなってしまいます。

一方で、目的を「育成支援」に限定し、処遇には一切関係しないと明確に宣言することで、対象者は安心してフィードバックに向き合うことができます。結果を客観的な自己認識の材料として捉え、純粋に自身の成長のために活用しようという意識が芽生えやすくなるのです。

また、回答者も人間関係のしがらみや報復を恐れることなく、対象者の成長を願って、より誠実で建設的なフィードバックを提供しやすくなります。

このように、データの信頼性を担保し、対象者が結果を前向きに受け入れる土壌を作るという観点から、360度評価は人事評価から切り離し、純粋な育成支援のツールとして活用することが不可欠なのです。

事後のフォローアップ体制も重要

360度評価を導入しても、その効果が十分に発揮されるかどうかは、事前・事後のフォローアップ体制が整っているかどうかに大きく左右されます。単にシステムを導入し、結果レポートを配布するだけでは、せっかくのフィードバックが行動変容に結びつかず、形骸化してしまう可能性が高いのです。

ある調査によれば、360度評価に意義を感じると回答した管理職は全体で51パーセントでしたが、事前・事後に何らかの施策(研修やコーチング、結果の読み解きフォローなど)を受けた人に限定すると、その割合は75パーセントにまで上昇します。

一方で、何の施策も受けなかった人では、意義を感じた割合はわずか25パーセントに留まりました。このデータは、360度評価が「やりっぱなし」では効果が薄く、一連の育成プロセスの中に組み込むことの重要性を明確に示しています。

理想的な運用フローとしては、まず事前準備として、これまで述べてきたような丁寧な「設問設計」と「事前ガイダンス」を行います。そして360度評価を実施し、結果が出たら、それを本人に渡すだけでなく、人事担当者や外部の専門家が介入する機会を設けることが重要です。

具体的には、1on1面談や集合研修の場で、結果レポートの読み解き方をサポートします。これにより、対象者は結果を客観的に受け止め、感情的になることなく自身の強みや課題を正しく認識することができます。

次のステップとして、その気づきを基に具体的な「アクションプラン」を作成してもらいます。今後どのような行動を改善・強化していくのかを自ら言語化することで、成長へのコミットメントが高まります。

そして、最も重要なのがその後の「進捗フォロー」です。職場の上司による支援や、定期的なコーチングセッションなどを通じて、アクションプランの進捗状況を確認し、実践の中で直面する課題について共に考え、サポートします。この継続的な関わりが、行動変容を確実なものにします。

最終的には、一定期間が経過した後に2回目の360度評価を実施し、1回目との比較を通じて成長度合いを確認します。

このように一連のサイクルを丁寧に回していくことで、360度評価は単発のイベントではなく、持続的な人材育成と組織開発の強力なエンジンとすることができるのです。

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