会議の生産性は「準備」で決まる
会議の生産性を劇的に向上させるためには、会議そのものの進め方よりも、その前段階である「準備」にこそ注力すべきです。事実、会議の成否の約7割は、開催前の準備段階で決まっていると言っても過言ではありません。
戦略コンサルタント/事業プロデューサーの山本大平氏によると、この準備において中心的な役割を果たすのが、会議主催者の「プロデュース能力」です。最も非生産的な会議の典型は、アジェンダが不明確なまま参加者が集められ、何について話すのかもわからないまま時間が過ぎていくパターンです。こうした会議が生まれる責任は、ひとえに準備を怠った主催者側にあります。
優れたプロデューサーは、まず「この会議で何について話し合うのか」というお題を、具体的かつ粒度の細かいレベルで設定します。例えば「新製品のプロモーション戦略について」という漠然としたお題ではなく、「新製品のターゲット層である20代女性にリーチするためのSNS活用法について、具体的な施策案を3つ決定する」といったレベルまで具体化します。
お題の粒度を細かく設定することには、2つの大きなメリットがあります。1つ目に、参加者を本当に必要な人物だけに絞り込むことができます。議題が明確であれば、「このテーマなら自分は関係ない」という判断が容易になり、不要な人員の参加を防げます。
2つ目に、呼ばれた側の準備の質が格段に向上します。自分が会議で何を求められているのかがクリアになるため、事前に必要な情報を収集したり、自身の意見をまとめたりといった準備を的確に行うことができます。もし不明な点があれば、事前に主催者に確認することもできるでしょう。
このように、主催者側が明確なアジェンダを設定し、参加者側もそれに基づいて準備を行うことで、会議はゴールに向かって無駄なく進むことができます。
山本氏によると、さらに質の高い生産的な会議の時間にするためには、参加者一人ひとりにも会議の場で飛び交う情報を瞬時に読み解き、本質を捉えて自身の意見を的確にまとめる「要約力」が求められると言います。この主催者の「プロデュース能力」と参加者の「要約力」という、双方向の高度な準備こそが、無駄な会議を撲滅し、質の高い意思決定を生み出すためのカギとなるのです。
「最初の1分」と「最後の5分」が勝負を分ける
会議の生産性を最大化するためには、人間の脳の特性を理解し、それを戦略的に活用することが有効です。
2万人以上を対象とした調査とAIによる感情分析の結果、会議参加者の記憶に最も残りやすいのは、「最初の1分」と「最後の5分」であることが明らかになっています。会議の中盤では、参加者の記憶定着率は2割にも満たないのに対し、この冒頭と結びの時間帯だけが40パーセントを超える高い水準を示しています。この事実は、会議の成果を大きく左右する重要な時間帯が、まさにこの「最初と最後」にあることを示しています。
この脳のメカニズムを最大限に活かすためには、会議の進行を意識的に設計する必要があります。まず「最初の1分」では、単に議題に入るのではなく、参加者同士の「感情共有」を目的とした雑談やアイスブレイクを取り入れることが推奨されます。これにより、参加者間の心理的な壁が取り払われ、共通点を見出すことで一体感が生まれます。
実際に冒頭2分の雑談を導入した会議では、発言者数が1.9倍、発言数が1.7倍に増加したにもかかわらず、会議時間が短縮される確率が45パーセントも向上したというデータもあります。最初に場を温めることが、その後の活発な議論と効率的な進行につながるのです。
そして最も重要なのが「最後の5分」です。この記憶のゴールデンタイムに、会議で決まったことを単に要約するだけでは不十分です。成果を出すリーダーは、この時間に「まとめスライド」を用意し、参加者に対して「次に取るべき具体的なアクション」と「その期日」を明確に提示します。
株式会社クロスリバー代表取締役社長の越川慎司氏は、このアプローチの効果を次のように説明しています。
「まとめスライド」で求めるアクションは3つです。動かすこと、視覚を考慮すること、伝わること。「これがあなたに求めるアクションです、やってくださいね」と言うと、4割の人がやってくれます。
でも、たった4割です。まだ、4割しかやってくれない。やる気をあてにしちゃダメです。「まとめスライド」に書いてもやってくれないんです。
実践する人を1.5倍増やしたいんです。どうしたらいいと思いますか? 「まとめスライド」を作る。相手に求めるアクションを入れる。もう1つです。たった1行を加えると、1.5倍動くんですよ。
たった1行というのは、期日です。期日・期限を入れて、「7月29日、今週の金曜日までにその3つをやってくださいね」と、「まとめスライド」に入れたら、そこは記憶定着率が高いですから、テンションも高まり、77パーセントの人が従ってくれます。
引用:トップ5%社員がファシリテートする「会議」の特徴 参加者に決定事項を「実行」してもらうために必要なこと(ログミーBusiness)
会議の目的は、議論することではなく、行動を促し、成果を生み出すことです。そのためには、参加者が聞いていない時間を前提とし、最も記憶に残り、モチベーションが高まる「最初の1分」と「最後の5分」にエネルギーを集中投下するという、戦略的な会議運営が求められるのです。