【3行要約】
・多くの起業志望者は完璧なアイデアを求めますが、実際は小さな種から育てる「副業起業」を行うことでリスクを抑えつつ成功確率を高めます。
・ウクライナ出身の学生起業家、株式会社Flora CEOのアンナ・クレシェンコ氏は、「誰もやっていない」市場の落とし穴について警鐘を鳴らしています。
・起業は情報発信や勉強会主催といった低リスクな活動から始め、自分の「パーパス」に基づいた事業構築が成功へのカギです。
起業アイデアは「探す」のではなく「育てる」もの
起業を目指している方の中には、「起業は、ある日突然降ってきた完璧なアイデアを元に始めるものだ」というイメージがある方もいるかもしれません。しかし現実には、小さなアイデアの種を蒔き、時間をかけて育て、事業として成熟させていくアプローチの方がはるかに成功の確率を高めます。その最も有効な手段の1つが「副業」として事業を始めることです。
いきなり会社を辞めて起業するのは、収入が途絶えるだけでなく、精神的にも大きなプレッシャーがかかるハイリスクな選択です。事業が軌道に乗るまでの間、成功するかどうかもわからない不安と戦い続けなければなりません。このプレッシャーは、冷静な判断力を鈍らせ、時に人を潰してしまうことさえあります。
代表や立ち上げメンバーとして8社の創業に携わり、4社をExitした起業家の池田朋弘氏は、最初の起業の際に、本業のコンサルティング会社に勤めながら、約8ヶ月間にわたって副業として事業を運営していたと言います。この期間は単に事業の実現可能性を試すだけでなく、自分自身が起業という過酷な環境に耐えうる「心・技・体」を備えているかを試す重要なテスト期間でもありました。
彼は、本業と並行して副業を行うことの多忙さは、起業後の圧倒的な大変さに比べれば「時間が忙しいだけ」で、精神的な負荷ははるかに小さいと振り返ります。この副業期間を乗り越えられたからこそ、「自分はこの挑戦を続けられる」という確信を得て、本格的な起業に踏み切ることができたのです。
副業としてスモールスタートすることには、多くのメリットがあります。
・リスクの低減本業の収入があるため、経済的な不安なく事業の検証に集中できる。
・事業の検証実際に顧客から受注し、フィードバックを得ることで、アイデアが本当に市場に受け入れられるかを確認できる。
・自己の適性の確認時間管理能力やストレス耐性など、起業家として必要な資質が自分にあるかを実践の中で試すことができる。
・実績の構築本格的な資金調達や法人設立の際に、副業での実績が信頼性を高める材料となる。
池田氏は、この副業期間の重要性について、以下のように強調しています。
起業する前は、本業もあってそれなりに忙しかったんですが、起業した後のほうが圧倒的に大変なんです。本業をしながら副業でやるのは時間が忙しいだけで、精神負荷は大してない。その程度のことすら時間を捻出して耐えられないようであれば、おそらく起業してもぜんぜん耐えられなかったなと思います。
副業をしたことで自分の覚悟ややる気を持って続けられるとわかった上で、起業に至ることができた。
失敗もめちゃくちゃしていますが、それでうつ病になったりすることもなく、結果的にはM&Aに成功し、今の状況にある。
そこまでいけたのは、副業でスタートしたことがあったからかなと思っていて。もし8ヶ月間の副業期間がなくいきなり起業していたら、成果が出るまでもっと時間がかかり、その間子どもがいるのに仕事も収入もないとなると非常につらかった。これに耐えられたかどうか、ちょっとわからないですね。
引用:4社Exitした起業家も、いきなり起業せず8ヶ月間「副業」した 勤めている会社を辞めずに、本業と並行して事業を始める価値(ログミーBusiness)
アイデアが思いつかないと嘆く前に、まずは今ある小さな関心事やスキルを元に、リスクの低い副業というかたちで1歩を踏み出してみる。その行動の中で顧客と向き合い、試行錯誤を重ねるプロセスこそが、机上の空論ではない、生きた事業アイデアを育てる最良の土壌となるのです。
起業のアイデアは閉じた世界からは生まれない
画期的なビジネスアイデアは、往々にして既存の要素の新しい組み合わせから生まれます。しかし、多くの人は無意識のうちに自分の専門分野や所属する業界という「閉じた世界」の中で思考してしまいがちです。
その結果、生まれるアイデアは既存の枠組みの中での改善案にとどまり、真のイノベーションには至りません。
一般社団法人i-ba代表理事/クリエイティブ・マネージャーの柴田雄一郎氏は、この現象を「馬の話」に例えて説明しています。馬車が主流の時代に、馬を飼っている人々に「何が欲しいか」と尋ねても、返ってくる答えは「もっと速い馬」や「もっとエサを食べない馬」といった、馬の性能向上に関するものばかりでしょう。
「自動車」という馬とはまったく異なる概念は、馬の世界の中から生まれることはありません。それはエンジンやガソリンといった、馬とは無関係な分野の知識との組み合わせによって初めて誕生するのです。
この例えが示すように、革新的なアイデアを生み出すためには、意図的に自分の専門外の分野の情報に触れ、異なるバックグラウンドを持つ人々と交流することが不可欠です。自分の業界の常識は、他の業界では非常識かもしれません。逆に他業界では当たり前の技術やビジネスモデルが、自分の業界に持ち込むことでまったく新しい価値を生み出す可能性もあります。
では、どのようにして異業種の人々と出会い、新たな知識をインプットすればよいのでしょうか。もちろん、ビジネス交流会やセミナーに参加するのも1つの方法です。しかし、出会いの場はそれだけではありません。行きつけの居酒屋で隣り合わせた人や、趣味のサークルで出会う人々との何気ない会話の中に、思わぬヒントが隠されていることもあると柴田氏は言います。
重要なのは、「新しいアイデアの種を探す」というアンテナを常に張り巡らせ、あらゆる出会いや情報を自分事として捉える姿勢です。
現代では、Peatixのようなイベントプラットフォームを使えば、多種多様なコミュニティや勉強会を簡単に見つけることができます。最初は興味本位で参加してみるだけでも良いでしょう。数をこなし、さまざまな価値観に触れる中で、自分に合うコミュニティや、刺激を与えてくれる人々との出会いが生まれるはずです。