「男らしさ」「女らしさ」からの解放
DE&Iの文脈で最も頻繁に使われる言葉の1つに「女性活躍推進」があります。この言葉は、女性の社会進出を後押しする上で大きな役割を果たしてきましたが、一方で、その言葉自体が意図せずして新たな課題を生んでいる側面も指摘されています。
DE&Iを推進する多くの担当者や当事者の中から、「女性活躍推進というキーワードが嫌いだ」という声が聞かれるのはなぜでしょうか。それは、この言葉が「女性」という特定の属性に焦点を当てるあまり、対象者が特別に「優遇されている」かのような印象を与え、結果として他の従業員との間に不公平感や分断を生むリスクをはらんでいるからです。
また、DE&Iを推進するにあたって、マジョリティであるはずの男性が推進の対象から「取り残されている」と感じ、職場での「生きづらさ」を抱えているという実態もあります。
一般社団法人Lean In Tokyoが実施した調査では、実に半数を超える男性が、自社のDE&I推進において「男性への配慮がない」と回答しています。多くの男性にとって、DE&Iは「女性やマイノリティに配慮するための取り組み」と映っており、自分たちはその対象外であるという疎外感を抱いているのです。
前述しているとおり、DE&Iの本質は特定のマイノリティグループのためだけの施策ではありません。組織に属する「全員」が活躍できる環境を目指す、「全員活躍」の思想に基づいています。子育てや介護といった制約にスポットが当たりがちですが、そうした制約のない従業員にも、自らの人生を充実させる権利があります。また、男性が抱える「生きづらさ」にも光を当てる必要があるでしょう。
DE&Iの取り組みが、一部の人々への「配慮」や「支援」と見なされるうちは、真のインクルージョンには至りません。
この課題を乗り越えるための1つの策として近年注目されているのが「ワークインライフ」という考え方です。これは、かつて主流だった「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」から1歩進んだ概念です。
2つ目は、「ワークインライフ」と書きました。一昔前はワークライフバランスってよく言いましたけど、「今はワークインライフなんだ」と誰かが言っていました。
それはそのとおりだなと思っていて、仕事は人生や生活のあくまで一部でしかないし、ライフあっての仕事なんだろうって思います。
(子育てなどの)制約がある方にどうしてもスポットが当たりがちなんですけども、自由に働ける人にも自分の人生を充実させる権利があるので、そこは私も言っていきたいなと。どうしてもマイノリティだけの話をしちゃいがちなんですが、みんな平等に自由な権利はあるよっていうところ。
引用:「女性活躍推進」という言葉への違和感 多様な働き方の実現に取り組む企業の声(ログミーBusiness)
このように、「ワークインライフ」は、仕事を人生(ライフ)を構成する一要素として捉える考え方です。この視点に立てば、子育てや介護といった理由だけでなく、趣味の時間、自己啓発、あるいは単に休息するために柔軟な働き方を選択することも、等しく尊重されるべきだということになります。
「山登りに行きたい」「ゲームがしたい」といった個人のライフを充実させるための時間も、お互いにサポートし合える文化を醸成すること。それこそが、特定のキーワードが引き起こす誤解や不公平感を払拭し、誰もが自分らしい生き方を実現できる、真にインクルーシブな組織の姿です。
DE&Iの取り組みが特別な名前で呼ばれる必要がなくなり、誰もが当たり前のこととして多様な働き方を享受できる社会。それが、私たちが目指すべき未来の姿と言えるでしょう。