【3行要約】
・勉強時間を確保しても成果が出ないと悩む人は多く、効率的な学習法の確立が現代のビジネスパーソンの課題となっています。
・受動的な学習より能動的な学習の方が定着率が高く、特に「教える」行為は90%の定着率があると指摘されています。
・効率的な学習には自分に合った方法を見つけて学習を習慣化することが成功への近道となります。
勉強の効率をあげる「心構え」
効率よく勉強を行いたい場合に重要になるのが、心構えです。学んだ知識を単なる情報として頭に入れるだけでなく、それをいかにして自分自身の「血肉」としていくかという意識が、学習効果を大きく左右します。
グロービス経営大学院の鈴木麻希氏によると、効果的な学習のための心構えは、主に2つ挙げられると言います。1つ目は、学んだことを常に自身の日常とつなげて考える習慣を持つことです。例えば、ビジネス書を読んで新しいフレームワークを学んだ瞬間に、「この考え方は、自分の仕事におけるどの場面で具体的に活用できるだろうか」「日常生活のこの問題に応用できないか」といった問いを自らに投げかけるのです。このプロセスを経ることで、知識は抽象的な概念から具体的な活用イメージへと変わり、記憶に定着しやすくなります。
2つ目は、得た情報を自分の中で「仕分ける」ことです。インプットした情報を「これはどのような成果につながる学びなのか」という観点から分類し、頭の中にある引き出しへ体系的に整理していきます。このように整理された知識は、必要なタイミングで迅速に引き出すことが可能となり、実践の場で活きる力となります。
また、これらの心構えの根底にあるのが「意味づけ力」です。同じ作業を行っていても、その仕事にどのような意味を見出すかによって、モチベーションや成果の質は大きく変わります。
これはイソップ童話の「3人のレンガ職人」の話によく表されています。ある人はただ「レンガを積んでいる」と考え、別の人は「建物を建てている」と考え、そしてもう1人は「人々の心を癒す、歴史に残る大聖堂を建てている」と考えていました。言うまでもなく、最も高いパフォーマンスを発揮するのは最後の職人です。
自分の学習や仕事に対して、より大きな目的や意義を見出すこと。これが、学習を継続し、高い成果を上げるための原動力となります。
阪急東宝グループの創設者である小林一三氏の「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみよ。そうすれば誰もあなたを下足番のままにはさせておかない」という言葉も、この「意味づけ力」の重要性を説いています。どのようなことであっても、自分なりに意味を見出し、探求していく姿勢が、学びを血肉に変える上で不可欠なのです。
勉強の効率アップのために意識したい「能動的な学習」
学習方法とその定着度の関係性を示したものに、「ラーニングピラミッド」という研究結果があります。このピラミッドが示す重要なポイントは、学び方が受動的であるよりも、能動的であればあるほど、学習内容の定着率が高まるという点です。
この「能動的な学習」について、グロービス経営大学院の鈴木麻希氏は具体例をあげつつ説明しています。例えば、講義を聞くだけ、本を読むだけといった受動的な学習の定着率は低いとされています。一方で、音声や動画を活用して目と耳の両方から情報をインプットする方法では、定着率は20パーセントほどに上がると言われています。
さらに能動的な学習方法を取り入れることで、定着率は飛躍的に向上します。グループでディスカッションを行う学習法では、自分の意見をまとめ、他者に伝える過程で、学んだ内容が頭の中で体系的に整理されます。このアクションにより、定着率は50パーセントにまで高まるのです。
次に、具体的な経験を通じて学ぶフィールドワークや実践的な演習では、定着率は75パーセントにまで上昇します。これは、例えばビジネス書で得た知識を使って実際に企画書を作成し、提案してみるといった行動が当てはまります。実践を通じて得られた経験と、そこからの振り返りが、知識を深く根付かせます。
そして最も学習定着率が高いとされるのが、「他者に教える」という行為です。その定着率は90パーセントにも達するとされています。誰かに何かを教えるためには、まず自分自身がその内容を完全に理解している必要があります。他者にわかりやすく伝えようとすることで、自身の理解度が深まり、知識が強固に定着するのです。
歴史上の人物である徳川家康も、インプットをアウトプットにつなげることで学びを自身の力に変えていきました。武田信玄に敗れた後、信玄が兵法書『孫子』を深く研究していることを知り、自身も『孫子』を読み込み、戦略に活かすことで戦上手になりました。
また政治においては、唐の皇帝の言行録である『貞観政要』を読み、その教えを江戸幕府の構築に実践しました。家康にとって読書は趣味ではなく、仕事に活かすための能動的な学習だったのです。
「学び方を学ぶ」時代のインプット法
勉強の効率をあげるためには、「学習能力」、すなわち「学び方を学ぶ」力も重要です。この学習能力には、過去の成功体験や知識に固執せず、新しい状況に合わせて思考をリセットする「アンラーニング(学習棄却)」のスキルも含まれます。自己変革力や柔軟性とも言い換えられるこの能力は、未知の課題に直面した際に、ゼロベースで最適な解決策を模索するために不可欠です。
高い学習能力を身につけるためには、戦略的なインプットが求められます。情報が溢れる現代では、何をインプットするかを見極めることが重要です。無数にある書籍や動画コンテンツを手当たり次第にインプットするのではなく、1つのテーマを深く掘り下げることが、結果的に質の高い学びにつながるのです。
10冊の本を浅く読むよりも1冊の本を深く読み込み、その内容を実践し、また読み返すというサイクルを繰り返す方が、知識は確実に血肉となります。
インプットの方法として有効なのが、自分と似たタイプの人を参考にすることだと株式会社學天堂の大中尚一氏は言います。ビジネス書を読む際、その著者がどのような経歴を持ち、どのような考え方をしているのか、その背景を知ることは学びを深める上で役立ちます。しかし、注意すべきは「憧れる人」をそのまま追いかけることの危険性です。
人は、自分にないものを持っている人に憧れる傾向があります。そのため、憧れの対象と自分自身のタイプが異なっている場合、その人のやり方を真似しても、うまくいかない可能性が高いのです。本来はサポート役が得意な人が、リーダーシップを発揮するタイプの人に憧れて無理にリーダーになろうとすると、どこかで無理が生じてしまいます。
自分とタイプが近い成功者を見つけ、その人がどのように学び、実践してきたかをトレースする方が、はるかに効果的です。そのためには、まず自分自身の特性や強みを深く知ることが前提となります。
また、武道や伝統芸能の世界で語られる「守破離」の考え方は、学習プロセスにおいても非常に重要です。最初は師の教えや基本の「型」を忠実に守り(守)、徹底的に反復練習を重ねる。その基礎が身についた上で、少しずつ自分なりの工夫を加えて型を破り(破)、最終的に独自のスタイルを確立して師から離れていく(離)。
この「守」の段階である基礎的な訓練を、地道に続けられるかどうかが、学習能力の根幹をなします。この退屈に思えるかもしれない反復練習を継続するためにも、前述した「意味づけ力」が大きな助けとなるでしょう。
勉強効率をあげるノート術
勉強の際、何らかのインプットの際に、メモを取る方も多いことでしょう。学習においてノートやメモを取る行為は、単なる記録以上の重要な役割を果たします。効果的なノート術は情報の整理を助け、理解を深め、記憶の定着を促進します。その効果を最大化するためには、目的意識を持って取り組むことが不可欠です。
ただ漠然と情報を書き写すのではなく、「後で要約するためにメモを取る」といった意識を持つだけで、情報の取捨選択能力や整理力は向上します。
さらに、メモを取る時間を短縮し、より効率的に情報を整理するテクニックとして、2021年時点に東京大学に在籍していた片山湧斗氏が紹介する「軸ノート」が挙げられます。これは、あらかじめ「重要か/重要でないか」「新しい情報か/古い情報か」といった自分なりの「軸」を設定し、その軸に基づいて情報を分類しながらメモを取る方法です。
例えば、講義を聞きながら、先生が「ここがポイントだよ」と言った重要な情報は「重要」の欄に、雑談は「重要でない」の欄に書き分けることで、情報の重み付けが視覚的に明らかになります。後でノートを見返した際に、重要な部分が一目でわかり、効率的な復習や要約が可能になるのです。
もう1つ重要なのが、「粒度を合わせる」という考え方です。メモした内容を誰かに説明する場面を想像してみてください。その時には「重要なポイントが3つありました」と簡潔に伝えられるのが理想です。これを実現するためには、リストアップする各項目の抽象度や具体性のレベル、すなわち「粒度」を揃える必要があります。
例えば、「1つ目は基礎の重要性、2つ目は基礎の活用法」と抽象的な話が続いた後に、「3つ目は特定の英単語の意味」といった具体的な話が来ると、全体としてまとまりがなく、要点が伝わりにくくなります。常に全体の構造を意識し、各要素の粒度を揃える訓練をすることで、論理的な思考力と情報整理能力が養われます。
ノートの色使いに関しても、自分なりのルールを設けることが効果的です。例えば、「見出しは赤」「重要な用語はオレンジ(後で隠して問題として使えるように)」「補足情報は青」といったように、色に特定の機能や目的を持たせるのです。「なんとなく大事そうだから青線を引く」というような漠然とした使い方では、色分けの効果は半減してしまいます。自分だけのルールを一貫して適用することで、ノートの視認性が高まり、情報が頭の中で整理されやすくなります。
時間がない場合に他人のノートを参考にするのも1つの有効な手段ですが、その際も注意が必要です。
ドラマ『ドラゴン桜2』の脚本監修を務める西岡壱誠氏は、可能であれば、複数人のノートを見比べることを勧めています。一人のノートでは抜け落ちていた情報が、別の人のノートには記載されていることがあるからです。複数の視点から情報を得ることで、より多角的で深い理解につながります。
ただし、他人のノートを参考にする場合でも、最終的には「自分で書く」というプロセスを経ることが極めて重要です。そのノートの要点を自分なりにメモし直すだけでも、受動的なインプットが能動的な理解へと変わります。どんなかたちであれ、自らの手で書き出す行為が、学習の本質であり、理解を定着させる最も確実な方法なのです。
ChatGPTを活用した勉強で意識しておきたいこと
最近は、勉強のお供にChatGPTをはじめとする生成AIを活用する方も少なくないでしょう。ChatGPTをはじめとする生成AIの登場は、私たちの学習のあり方に大きな変化をもたらしています。
あらゆる問いに即座に答えてくれるAIの存在は、「もはや勉強は不要ではないか」という議論さえ生み出しました。しかし、その本質を理解すれば、むしろ現代においてこそ、主体的な勉強の重要性が増していることがわかります。
ChatGPTは、膨大な言語データを学習した大規模言語モデルであり、いわば非常に賢いデータベースです。しかし、データベースが自ら結論を出せないように、AIもまた最終的な判断を下すことはできません。
そして最も重要な点は、「AIは責任を取れない」ということです。AIが生成した情報が正しいか誤っているか、その真偽を見抜き、最終的な判断を下し、その結果に責任を負うのは、常に人間です。
したがって、これからの時代に求められるのは、単なる知識の丸暗記ではなく、物事を深く理解し、情報を批判的に吟味し、それを活用していく「考える力」なのです。
この変化に伴い、学習に対するパラダイムも大きく変わります。
1つ目に、生涯にわたる学習が必須となります。AI技術の進化により、社会で価値を持つスキルは絶えず移り変わっていきます。かつてのように、一度習得した技能だけで一生安泰という時代は終わりを告げ、常に学び続ける姿勢が不可欠となるのです。
2つ目に、学習の個別最適化が進みます。従来の学校教育では、クラス全体の進捗に合わせて授業が進むため、個人の理解度やペースに合わないことがありました。オンラインコースもある程度は自分のペースで進められますが、コンテンツはあらかじめ決まっています。しかしChatGPTを活用すれば、自分の理解度に合わせて質問を重ね、苦手な分野に特化した解説を求め、完全に自分だけの教材を作り上げることが可能です。
エンジニアの星野恵瑠氏は、ChatGPTを学習に活用するメリットを次のように語っています。
昔の学校の勉強というのは先生がクラス全員の進み具合でペースを決めるから、必ずしも自分に合うとは限らないんですよね。
Udemyとかそういうオンラインコースもできてきました。これならある程度自分のペースでできるんですが、ただ内容は基本的にはあらかじめ作った内容なので、「自分がこれがわからない」とか、「これはすごい知っているから別にもう聞く必要がない」とか、そういった自分に合ったカスタマイズが効かないんですよね。
でも、ChatGPTだったら完全に自分のペースで、さらに自分の弱みに特化した内容で作れるから、最終的に自分だけの教材ができるんですよ。
引用:ChatGPTを使えば自分に最適化された内容やペースで勉強ができる エンジニアが教える勉強効率を上げる4つのTips(ログミーBusiness)
具体的なChatGPTの活用法としては、以下のようなものが挙げられます。
・深掘り学習解説に出てきたわからない単語について、さらに説明を求めることで、知識をどんどん深掘りできます。
・理解度の確認学習した内容を自分の言葉で要約し、「この理解で合っていますか?」と問いかけることで、認識のズレを修正できます。
・フォーマット指定特定の情報を表形式でまとめるよう指示するなど、自分にとって最も理解しやすいかたちで情報を整理させることができます。
・テスト作成学習した範囲についてテスト問題を作成してもらい、解いた後に採点させることで、アウトプットを通じた知識の定着を図れます。
ChatGPTは、広大な知識の海を航海するための優秀な舵取り役です。しかし、目的地を決め、羅針盤の誤りを正し、舵を取るのは船長である私たち自身です。この新しいツールを賢く活用し、考える力を養うことで、学習効率を飛躍的に高めることができるでしょう。