勉強の集中力を維持するための仕組み作り
「集中力が続かない」「ケアレスミスが多い」といった悩みは、学習において多くの人が直面する課題です。これらの問題を「注意力が足りないからだ」と個人の資質の問題として片付けてしまうと、自己肯定感が下がり、学習意欲の低下につながりかねません。
しかし、これらの課題は、注意力の特性を理解し、適切な「仕組み」を作ることによって攻略することが可能です。
まずは「注意」と一括りにせず、その種類を理解することが第1歩になります。
株式会社キズキの林田絵美氏によると、注意には、主に以下の4つの種類があるとされています。1. 注意の維持1つのことに注意を向け続ける力。いわゆる「集中力」のイメージに最も近いものです。
2. 注意の取捨選択多くの情報の中から必要な情報だけに注意を向ける力。例えば、騒がしいカフェで読書に集中する能力がこれにあたります。
3. 注意の分割複数の事柄に同時に注意を配る力。試験中に残り時間を意識しながら問題を解く、といった状況で必要になります。
4. 注意の切り替え1つの作業から次の作業へ、スムーズに注意の対象を移す力。
自分がどのタイプの注意が苦手なのかを把握することで、具体的な対策を立てやすくなります。例えば「気が散りやすい」という悩みは、「注意の取捨選択」が苦手なケースかもしれません。この場合、叱咤激励で解決しようとするのではなく、物理的な環境を整えるという仕組み作りが有効です。
勉強中はスマートフォンを別の部屋に置く、机の上には学習に必要なもの以外は置かないといったシンプルな工夫が、集中力を大きく改善させることがあります。
また、「1つのことに集中しすぎて、他のことがおろそかになる」という場合は、「注意の分割」や「注意の切り替え」に課題がある可能性があります。この場合も、自分の意志の力に頼るのではなく、仕組みに任せることが得策です。
例えば、ある科目の勉強を終える10分前と終了時刻にアラームを設定するという方法があると林田氏は紹介しています。終了時刻だけにアラームを鳴らすのではなく、10分前に予告のアラームを鳴らすことで、脳が次のタスクへの切り替えを準備する時間が生まれます。「もうすぐ終わりだ」と意識することで、スムーズに次の行動へ移ることができるのです。
試験本番での時間配分ミスも、同様の考え方で対策できます。試験開始時に問題数を数え、1問あたりにかけられる時間を計算しておく。そして、ふだんの演習時からストップウォッチを使い、時間を意識する訓練を繰り返すことで、本番でも冷静に時間管理ができるようになります。
「注意力を高めよう」と精神論に頼るのではなく、自分の脳の特性を理解し、それを補うための外部のツールや仕組みを積極的に活用するという発想が、集中力に関する悩みを解決するカギとなるのです。
大人の学びを継続させるモチベーション管理術
ここまで勉強の効率をあげるさまざまな方法を紹介してきましたが、学生時代とは異なり、社会人になってからの学習には、そもそも特有の難しさが伴います。仕事や育児などとの両立が必要となり、学習時間の確保が大きな課題となります。また、多くの場合、大人の学習は誰かに強制されるものではないため、継続するための強い意志やモチベーションの維持が不可欠になるのです。
しかし、この「強制力がない」という点は、同時に大人の学習の醍醐味でもあります。学生時代は好きではない科目も学ばなければなりませんでしたが、大人になると、自分自身の課題感や好奇心に基づいて、学ぶ内容を自由に選択できます。
お金のリテラシーを高めたい、栄養学に興味がある、あるいは単純に「おもしろそう」と感じたからといったように、自分の興味関心に沿った学習は、それ自体が楽しみとなり得ます。制約がある中でいかに学習を進めるか、試行錯誤するプロセスそのものにおもしろさを見出すこともできるでしょう。
とはいえ、「今日はやる気が出ない」「どうしても集中できない」という日は誰にでも訪れます。
このような短期的なモチベーションの低下に対しては、「作業興奮」の原理を活用することが有効だと、勉強法デザイナーのみおりん氏は言います。これは、やる気は行動することで後からついてくる、という考え方です。
例えば、問題を解く気が起きずにベッドで過ごしている時でも、まずは机に向かい、ノートを開いて日付と問題番号を書き出すだけでも行動の第1歩となります。問題を解くための「箱」を用意することで、「これを埋めなければ」という気持ちが自然と湧き起こり、学習へとスムーズに移行できることがあります。最もハードルの低い作業から始めることが、やる気のエンジンをかけるきっかけになるのです。
一方で、学習が長期的に継続できない場合は、その原因を深く探る必要があります。もしかしたら、その学習内容が現在の自分にとって最優先事項ではないのかもしれません。あるいは、目標の立て方に問題があるのかもしれません。自分自身と向き合い、「なぜ今、これに前向きになれないのだろうか」と問いかける時間を持つことが重要です。
株式会社人材研究所代表の曽和利光氏は、仕事を楽しむための「意味づけ力」の重要性を強調しています。これは学習のモチベーションにも通じる考え方です。
自分のやっている仕事を、つまらないものだと思うのではなく、いかに楽しんでいけるかっていうことが、出世だったり、いい仕事を得ていくためのポイントだ……みたいなことを彼は言ってたわけです。これも「意味づけ力」の後ろ支えですよね。
イチローさんにしても、自分の人生でいろんなルーチンの練習とかがあったと思うんです。イチローさんの小学校の時の卒論とか見ていただくと、ものすごく自分の人生で目標を立てています。それを逆算するかたちで、今の練習も意味づけがされている。日々のルーチンの練習がどうなるかって(自分で意味づけできているから)、ずっと続けられる人になるわけですね。
引用:今の社会で一番強いのは「学び方を学んでいる」人 良いキャリアを歩むための「学習能力」の高め方(ログミーBusiness)
漠然と「やる気が出ない」と悩むのではなく、その原因を具体的に言語化し、対処法を考えること。そして、学習そのものに自分なりの意味や目的を見出すこと。これらが、大人の学びを豊かで継続的なものにするためのカギとなります。
自己理解から始める自分に合った学習スタイルの確立
最後に、勉強の効率をあげるためにとても重要なことに触れておきましょう。効果的な学習を継続するためには、テクニックやツールを導入する以前に、まず「自分自身を深く知る」というステップが不可欠です。なぜなら、どんなに優れた勉強法であっても、それが自分の特性や現在の状況に合っていなければ、継続することは困難だからです。
学習が長期的に続かないと感じた時、それは意志の弱さや能力不足が原因なのではなく、単にその方法が自分に合っていないだけかもしれません。その際は、1度立ち止まり、自分自身と対話する時間を持つことが重要です。
「なぜ、この学習に前向きになれないのだろう?」「何が障壁となっているのだろう?」と自問自答することで、問題の核心が見えてくることがあります。もしかしたら掲げた目標が高すぎるのかもしれないし、学習している内容に心から興味を持てていないのかもしれません。原因を具体的に言語化することで、初めて具体的な対策を講じることが可能になります。
また、「やらされている」という強制感は、学習意欲を著しく削いでしまいます。学校の授業で特定の科目が嫌いになってしまうのは、この強制感が一因となっているケースが少なくありません。もし、学ばなければならない事柄に対して強制感を覚えてしまうのであれば、その学習内容と自分の好きなことや興味を結びつける工夫が有効です。
例えば、歴史の年号を覚えるのが苦手でも、歴史上の人物が関わった美術品や建築デザインに興味があれば、そこを切り口にすることで、自然と知識が頭に入ってくることがあります。
最終的に、学習の習慣化における理想のゴールは、「歯磨きと同じ状態にすること」と言えるかもしれません。私たちは、勉強を始める際に特別なやる気やモチベーションを必要としない状態を目指すべきです。
歯を磨くのに「よし、やるぞ!」と意気込む人がいないように、学習が生活の一部として自然に組み込まれ、「やらないと気持ちが悪い」と感じるレベルにまでなれば、それはもはや努力ではなく習慣です。
その状態に至るためには、自分に合った方法を見つけ、学習のハードルを下げ、小さな成功体験を積み重ねていくプロセスが不可欠です。自己理解を深めることは、そのための最も確実な第1歩となるのです。