管理職が担う5つの主な業務
管理職の役割を細分化したものが1つ1つの業務にあたります。
管理職が担うべき業務は多岐にわたりますが、その中でも特に中核となる機能を整理すると、大きく5つの要素に集約することができると株式会社アクティブ アンド カンパニーの佐久間大輔氏は言います。これらは、組織の成果を最大化するために不可欠な活動であり、管理職はこれらの業務を効果的に遂行することが求められます。
1. 目標の設定これは単に数値を設定することではありません。企業の目的や使命、あるべき姿といった上位概念と、自組織の目標を連動させることが重要です。さらに、その目標を長期的・短期的な視点でブレークダウンし、最終的にはメンバー一人ひとりの具体的な行動目標にまで落とし込むプロセス全体を指します。
2. 組織化設定された目標を達成するために、必要な仕事を分類し、それらを遂行するための組織構造を作り上げることです。誰がどの活動を担当するのか、どのように連携するのかといった役割分担を明確にし、チームとして機能する体制を整えます。
3. 動機づけメンバーが目標達成に向けて主体的に行動できるよう、意欲を引き出す働きかけです。双方向のコミュニケーションを通じて、各メンバーが何によって動機付けられるのか(仕事そのもの、報酬、昇進、承認など)を理解し、内発的・外発的モチベーションを適切に刺激することが必要です。
4. 評価組織で働く人々の成果を測るための基準を設け、それに基づいて評価を行うことです。人事制度に則って公正な評価を実施するだけでなく、その結果を本人に丁寧にフィードバックし、次の成長につなげることが極めて重要です。多くの企業で「フィードバックが不足している」という課題が指摘されており、評価とフィードバックは1つのものとして捉えるべきです。
5. 人材育成組織にとって最も重要な資源は「人」であるという認識のもと、メンバーの成長を支援することです。企業の持続的な発展のためには、次世代を担う人材を育成することが不可欠であり、これは管理職の重要な責務の1つです。
これら5つの業務の中で、特に現代の管理職にとって核心的かつ難しいのが「動機づけ」であると考えられます。なぜなら目標設定や役割分担、評価といった業務は、プレイヤー時代にリーダー的な立場で経験している場合も少なくありません。
しかし、自分とは異なる価値観や能力を持つ部下を「動機づけ」する経験は、管理職になるまで、ほとんどかかわる機会がないからです。
プレイヤーとして優秀だった人ほど、自分自身は特に動機付けされなくても高いパフォーマンスを発揮できていたため、「なぜ部下は同じようにできないのか」という壁にぶつかりがちです。「1+1=2」のように、自分にとっては当たり前のことが、部下にとっては理解できなかったり、何度試してもできなかったりするという現実は、仕事において頻繁に起こります。
このような状況で、相手の視点に立って根気強くかかわり、意欲を引き出す「動機づけ」のスキルがなければ、メンバーの力を引き出し、組織の成果を最大化することは困難でしょう。
価値創造のスキルとしてマネジメントという役割を捉える
近年、「管理職は罰ゲームだ」というネガティブな風潮が聞かれることがあります。その背景には、マネジメントに対する根源的な誤解が存在していると考えられます。多くの人が、管理職を単に「偉い人」あるいは「部下に指示出しをする人」と捉えてしまっているのです。その結果、責任だけが重くのしかかり、やりがいを感じていたプレイヤーとしての業務からは引き離されてしまう、というイメージが先行してしまいます。
また、組織側にも課題があります。プレイヤーとして優秀な人材を昇格させれば、自然と優れたマネージャーになるだろうという安易な考えのもと、適切なマネジメント教育を施さないまま現場に送り出してしまうケースが後を絶ちません。こうした状況が「管理職になりたくない」という風潮を助長している一因と言えるでしょう。
しかし、このような見方は非常にもったいないものだとコミュニケーションプランナー / メディアコンサルタントの松浦シゲキ氏は語ります。マネジメントは本来、メンバーの成長を促し、チームの創造性を引き出し、組織全体の生産性を飛躍的に高めることができる、極めてクリエイティブな仕事です。
問題は、マネジメントという役割そのものではなく、その本質が社会や組織の中で正しく理解されていない点にあります。
この誤解を乗り越えるためには、まずマネジメントを「地位」や「権力」としてではなく、1つの専門的な「スキル」として捉え直すことが重要です。技術スキルやコミュニケーションスキルと同様に、マネジメントは組織の中でより大きな価値を創造するための重要な能力の1つです。偉くなるために目指すのではなく、チームとしてより大きな成果を出すための手段として、このスキルを身につけるという意識を持つべきです。
管理職になったばかりの人が陥りがちなのが、「自分でやったほうが早い」という罠です。プレイヤーとしての能力が高いほど、部下の仕事ぶりにじれったさを感じ、つい業務を取り上げてしまいがちです。しかし、この行動は部下の成長機会を奪い、チーム全体のモチベーションを著しく低下させることにつながります。
この罠から脱却した時、マネジメントの本質が見えてきます。それは、「業務を細かく管理すること」ではなく、「チームが進むべき方向性を示すこと」です。ゴールだけを明確に示し、そこへ至る具体的な手段はメンバーの主体性に委ねる。この「任せる勇気」こそが、マネジメントの要諦です。もちろん、その結果に対する最終的な責任はマネージャーが負う、という覚悟が伴わなければなりません。
管理職は「偉い人」ではありません。細かな指示を出すのではなく、進むべき道を示し、メンバーが安心して挑戦できるようサポートする。そして、業務に関するコミュニケーションは可能な限りオープンにし、チーム内の信頼関係を構築する。特別な才能は必要ありません。意識を切り替え、実践を積み重ねることが、あなた自身と組織の未来を大きく変える第1歩となるのです。