【3行要約】
・仕事への情熱を長期間維持できない悩みを抱える人が多い一方で、モチベーションが下がらない人には明確な特徴があることがわかっています。
・人事評価制度はモチベーションを上げるものではなく、マイナスからゼロに戻す役割を持つに過ぎないことが指摘されています。
・モチベーションには浮き沈みがある前提で、自分の傾向を知り、多様な動機を使い分ける「モチベーション管理」が、充実した仕事人生のカギとなります。
仕事のモチベーションが下がらない人の特徴とは?
「仕事のモチベーションが上がらない」「仕事のモチベーションが切れてしまった」という悩みを抱えている方は少なくないのではないでしょうか。仕事のモチベーションが下がらない人にはどんな特徴があるのでしょうか。
仕事への情熱を長期間にわたって維持し続ける人々には、ある共通点が見られます。それは、単なる目標達成意欲とは異なる、より根源的な動機に基づいている点です。彼らは、達成すれば終わってしまうような短期的なゴールではなく、いわば「終わりのない課題」を自らに課し、その解決に情熱を注いでいるのです。
例えば、「sio」のオーナーシェフである鳥羽周作氏は、自身の活動を「感動体験を作る」ことと定義しています。彼にとって料理は、感動体験という大きな目的を達成するための「手段」に過ぎません。だからこそレストランの運営にとどまらず、コンビニエンスストア向けのアイスクリーム開発や牛丼チェーンのメニュー監修など、ジャンルを問わず多岐にわたる活動を展開できるのです。
もし、目標が「10億円の価値がある会社を作る」といった数値的なものであった場合、その目標を達成した瞬間にモチベーションは失われてしまうかもしれません。しかし、「世の中の人をハッピーにする」「人々に感動体験を届ける」といった課題は、達成しても決して終わることがありません。常に新たな課題が生まれ、解決すべきテーマが目の前に現れ続けます。この永続的な課題こそが、尽きることのないモチベーションの源泉となっているのです。
このような姿勢を持つ人々は、クリエイティブを目的化しません。彼らにとってクリエイティブとは、あくまで課題を解決するための手段です。誰に、何を届けたいのか。その相手が何を求めているのかを徹底的に想像し、その課題解決のために最適なクリエイションを適用します。この「相手のことを想像する力」と「課題を見つける力」が、人々の心に「ささる」アイデアを生み出すのです。
多くの人が課題そのものを見つけられずにいる中で、彼らは課題設定の段階にこそ最もクリエイティビティを発揮します。300円のアイスクリームを作る時も、1万円のコース料理を考案する時も、その根底にある「人を喜ばせたい」という熱量は変わりません。この愛情に基づいた終わりのない探求心こそが、彼らのモチベーションがいつまでも枯れない理由なのです。
人事評価制度は“モチベーションを上げるもの”ではない
仕事のモチベーションを上げるための方法として多くの経営者が期待を寄せるのが、人事評価制度です。制度を導入、あるいは刷新することで、社員のやる気がみなぎり、業績も向上するというストーリーが、まことしやかに語られています。
しかし、これは人事評価制度の本質を捉えた正しい認識とは言えないと、白潟総合研究所株式会社 代表取締役社長の白潟敏朗氏は語ります。結論から言えば、人事評価制度は社員のモチベーションをゼロからプラスに引き上げるための「魔法の杖」ではありません。その主な役割は、不公平感や理不尽な評価によってマイナスに陥ってしまったモチベーションを、ゼロ(ニュートラルな状態)に戻すことにあります。
例えば、人事評価制度が存在しない、あるいは存在するものの運用が不透明で納得感が低い職場では、社員は「がんばっても正当に評価されない」「何を基準に判断されているのかわからない」といった不満を募らせます。この不満は、モチベーションを著しく低下させ、マイナスの状態を生み出します。
こうした状況で、公平で透明性の高い人事評価制度を構築・運用すれば、社員の不満は解消され、マイナスだったモチベーションはゼロの状態へと回復することが期待できます。
しかし、注意すべきは、その効果が「ゼロまで」であるという点です。人事評価制度がどれだけ精緻に作られても、それ自体が社員の内側から湧き出るようなプラスの意欲、すなわち内発的動機を直接的に生み出すわけではないのです。
モチベーションをプラスの領域に引き上げるには、仕事そのもののやりがいや達成感、成長実感といった、別の要因にアプローチする必要があります。
この点を誤解し、人事評価制度に過度な期待を寄せると、「多額のコストをかけて制度を導入したのに、期待したほど社員のやる気が上がらない」といった落胆につながりかねません。制度はあくまで、マイナス要因を取り除くための「衛生要因」を整えるためのツールであると理解することが重要です。
「モチベーションを上げれば成果が上がる」という誤解
もう1つ、経営者や人事担当者が勘違いしがちなモチベーションとの関係について触れておきましょう。それが、「従業員のモチベーションを上げれば、それに比例して成果も上がる」というものです。
これは一見すると自明の理のように思えますが、実は必ずしも正しいとは言えないと、株式会社人材研究所 代表取締役社長の曽和利光氏は語ります。曽和氏によると、さまざまな研究において、モチベーションとパフォーマンス(成果)の間には、明確で一貫した関係が見出されていないのが実情だそうです。
もちろん、モチベーションが高いことがポジティブな影響をもたらす場面は多々あります。しかし、それは特定の「条件」が整った場合に限られるのです。
例えば、従業員の能力が低い状態でモチベーションだけが異常に高まった場合を想像してみてください。その従業員は、間違った方法や非効率な手順で業務を猛烈な勢いで進めてしまうかもしれません。これは、組織全体にとってはむしろマイナスの結果をもたらす可能性があります。
つまり、「モチベーション × 能力」が成果であると仮定すれば、能力開発という要素を無視してモチベーションだけを高めようとする試みは、期待した効果を得られないどころか、逆効果にさえなり得るのです。
また、モチベーションの方向性も重要な要素です。従業員が抱くモチベーションが、組織の目標やビジョンと一致していない場合、個々の努力が組織の成果に結びつかないという事態も起こり得ます。
例えば、本来であればその従業員の適性やキャリアプランを考えると、社外の別の仕事に挑戦したほうがより大きな成果を出せるにもかかわらず、現在の職場へのモチベーションが高いがために社内に留まり続けるケースも考えられます。これは、従業員個人にとっても、組織にとっても、最適な状態とは言えないでしょう。
このように、モチベーションという要素を単独で捉え、「とにかく上げればよい」と考えることにはリスクが伴います。重要なのは、誰の、どのようなモチベーションを、どのようにして高めるのかという、より解像度の高い視点です。
単純にモチベーションの総量を増やすことだけを目的とするのではなく、それが適切な能力と正しい方向性を持って発揮されるような環境を整えることこそが、真に組織の成果へとつながるのです。日頃信じられている持論であっても、その前提条件を疑い、本質を理解することが、人事施策を成功に導く第1歩と言えるでしょう。
組織のモチベーションが高まらない原因
組織の生産性を高め、持続的な成長を遂げる上で、従業員のモチベーションは極めて重要な要素です。しかし、多くのリーダーがその重要性を認識しながらも、メンバーのやる気を引き出すことに苦心しています。
なぜリーダーの思いはメンバーに届かず、組織のモチベーションは高まらないのでしょうか。その根本には、いくつかの見過ごされがちな要因が存在します。
最も大きな問題は、リーダー自身が最前線で汗を流していないにもかかわらず、メンバーに「がんばれ」と檄を飛ばすだけの姿勢です。べストセラー
『最強の働き方―世界中の上司に怒られ、凄すぎる部下・同僚に学んだ77の教訓』『一流の育て方―ビジネスでも勉強でもズバ抜けて活躍できる子を育てる』などの著者のムーギー・キム氏は、リーダーシップにおけるこの点を厳しく指摘しています。
やっぱり、なんで組織のモチベーションが高まらないのかといった時に、今日話されたことがすべて一つひとつの答えだと思うんだけれど、とくにあるのが、総じて、1つ目はその人自体(リーダー)ががんばっていないと。つまりリーダー自体ががんばっていないのに、「お前らがんばれ」って言われても、全部アウトソースされてもやる気は起こらないよと。
これは私の『最強の働き方』にも書いていることですけれど、結局モチベーションを上げるのって、前線でそのリーダーが一番がんばっているかどうかが一番重要なことですよね。
引用:「お前らがんばれ」ではやる気は起こらない ムーギー・キム氏が語る、組織のモチベーションを高める2つの要因(ログミーBusiness)
メンバーはリーダーの言動を鋭く観察しています。リーダーが誰よりも熱意を持って仕事に取り組み、困難な課題に率先して立ち向かう姿を見せること。それこそが、どんな言葉よりも雄弁にメンバーの心を動かし、組織全体の士気を高めるのです。
加えて、組織が向かうべき方向性が不明確であることも、モチベーションを阻害する大きな要因です。「結局、私たちの会社はどこに向かっているのだろう?」という疑念は、日々の業務から意味や目的を奪い、従業員を無気力にさせます。
リーダーは、組織のゴールと戦略、そしてそこに至るまでのプロセスを、明確かつ継続的にメンバーに伝え、コミュニケーションを尽くす責任があります。
さらに、従業員が組織の中で「尊重されている」「認められている」と感じられる文化の醸成も不可欠です。
ディズニーランドでは、給与を上げること以上に、「Thank You Note」を配り、感謝されていることを知らせる方が、キャストのモチベーションに大きな影響を与えると言われているとムーギー・キム氏は言います。これは、金銭的な報酬だけでなく、他者からの承認(recognition)が、人間の根源的な動機付けに深くかかわっていることを示唆しています。リーダーが率先して感謝を伝え、互いを尊重し合う文化を育むこと。それが、従業員一人ひとりの内発的なやる気を引き出すための土壌となるのです。