定例会議はチーム活性化の機会となる
多くの組織において定例会議は単なる進捗報告の場となり、形骸化してしまいがちです。しかしこの定例会議こそ、シェアド・リーダーシップを実践し、チームを活性化させるための絶好の機会となり得ます。既存の仕組みを活用するため、新たな制度導入に対するメンバーの抵抗感も少なく、改善効果(レバレッジ)が大きいポイントです。
定例会議には本来3つの重要な価値があります。1つ目に、定期的に全員が集まることで「小まめなチェックポイント」として機能し、プロジェクトのペースメーカーとなること。2つ目に、刻々と変わる状況に合わせて方針や進め方を柔軟に見直す「チューニングの場」となること。そして3つ目に、「次回の会議までにこれをやろう」という具体的な目標設定を通じて、チームの「リズムを生み出す場」となることです。
これらの価値を最大限に引き出すためには、定例会議の目的を「共通認識を形成する場」として再定義することが重要です。
プロジェクトの状況は、リーダーが思っている以上にメンバー間で共有されていません。「今、我々のプロジェクトはこういう状況にある」という共通のプロジェクト像をチーム全体で持つことが、コミュニケーションコストを削減し、一体感を醸成する上で不可欠です。
さらに、定例会議はタスクの進捗を確認するだけでなく、メンバー間の信頼関係を育む場としても活用することをおすすめします。定期的に顔を合わせることで、「今日は顔色が悪いけど大丈夫?」といった些細な声掛けが可能になります。
このような小さなコミュニケーションの積み重ねが、メンバーが「実は進捗が思うようにいかなくて…」といった本音を打ち明けやすい雰囲気を作り出すのです。
このように、定例会議を再設計することで、メンバーは単に「座っているだけ」の受け身の姿勢から脱却し、当事者意識を持って会議に参加するようになります。結果として、会議全体の熱量が高まり、チームとしてのパフォーマンス向上につながるのです。
惰性で繰り返される報告会ではなく、チームが自律的に動き出すためのエンジンとして、定例会議を戦略的に活用することが求められます。
シェアド・リーダーシップを育む会議設計で有効な考え方
シェアド・リーダーシップを育むための定例会議を設計する上で、非常に有効な考え方があります。
それが、株式会社コパイロツトの長谷部可奈氏が紹介する会議の時間を「直線」と「曲線」という2つの異なる性質を持つ時間に明確に分けてデザインするというアプローチです。企業のプロジェクトにおいて、成果を出すための合理性やスピードはもちろん重要ですが、それだけではメンバーの主体性や創造性を引き出すことはできません。
まず「直線」のための時間は、合理性と効率性を追求する時間です。プロジェクトの最終ゴールから逆算して、現在のスケジュールが計画通りに進んでいるか、遅延は発生していないかを確認します。
WBS(Work Breakdown Structure)などのツールを用いてタスクの進捗を客観的にチェックし、課題があれば迅速に対応策を検討します。事前にアジェンダを共有し、時間内に効率良く議論を進めることが求められる、いわば「しゃきっとする時間」です。
一方で、「曲線」のための時間は、メンバーの感性や柔軟な発想を大切にする時間です。ここでは各メンバーが担当業務を通じて見ているもの、感じていること、考えていることを自由に共有します。これは単なる雑談ではなく、お互いの価値観やアプローチ方法を知るための重要な対話の時間です。
例えば、あるタスクについて「私ならこういうやり方をするな」と1人が話すことで、「そんな方法があったのか。そちらの方が効率的かもしれない」といった新たな気づきや創造性が生まれることがあります。メンバーがリラックスして発想を広げられる「ゆるっとする時間」と位置づけられます。
この「直線」と「曲線」の使い分けについて、長谷部可奈氏は次のように述べています。
プロジェクトを両利きで進めるためにどういうふうに活用するかというと、「直線」のために使う時間と「曲線」のために使う時間を明確に分けて、どのぐらいのバランスで使っていくかなというのを考えてほしいなと思っています。
もちろん合理的・スピーディに進めていくのは、特に企業の中の結果を出していかなければいけないプロジェクトではめちゃくちゃ大事だと思いますので。
プロジェクトのゴールから逆算して、スケジュールがどうなっているか、追いついているのか遅れているのか、あとは、WBSどおり進めているのかといったことをきちんとチェックしていく時間としても使ってほしいなと思っています。アジェンダを用意して効率良く進めるのは、ぜひここのためにやってほしいことです。
もう1個、「曲線」のための定例会議は、メンバーの感性とか柔軟な変更を大事にする時間としても使ってほしいと思っています。メンバー各自が見ているもの、感じていることを共有して、お互いの考えを知るような時間にしてほしいです。
引用:形骸化しがちな「定例会議」がプロジェクト成功の鍵 「座っているだけ」から脱却、メンバーが自ら動き出すプロマネ術(ログミーBusiness)
このように、1つの会議の中で論理と感性の両方を大切にすることで、チームは効率的に目標達成に向かいながらも、予期せぬ変化に柔軟に対応し、新たな価値を創造する力を高めることができるのです。
厳しさを伴う対話こそが、チームを本当に強くする
シェアド・リーダーシップや心理的安全性の文脈で「対話」の重要性を語ると、それは単に仲良く、楽しい雑談をすることだと誤解されることがあります。しかし、成果を生み出すチームにおける対話は「なあなあな関係」を許容するものではなく、むしろお互いの責任を果たすための「厳しいスタンス」を伴うものです。
チーム全員でマネジメントを行っていくためには、責任感を持ったメンバーで構成されていることが大前提となります。シェアド・リーダーシップは、誰も責任を取らない、あるいは責任の所在を曖昧にするということでは決してありません。
むしろ、共有された目標に対して各自が責任を持ち、その達成に向けて主体的に行動することが求められます。そして、その責任を全うできていないメンバーがいれば、たとえ耳の痛いことであっても、他のメンバーがそれを指摘し合うという厳しさが必要不可欠です。
例えば、定例会議で決まったToDoを期限までに実行してこないメンバーがいれば、プロジェクトの進捗が滞るのは当然です。このような状況を放置してはいけません。しかし、その指摘は一方的な叱責であってはなりません。重要なのは、「なぜToDoを実行できなかったのか」という背景を理解しようとする対話です。
そこには見積もりの甘さ、他の業務との兼ね合い、あるいは家庭の事情など、さまざまな理由が存在するかもしれません。それらを「言い訳もさせて」と言えるような信頼関係と心理的安全性がチームにあれば、メンバーはただ謝罪するだけでなく、根本的な原因を共有し、チームとして解決策を見出すことができます。「それなら先に言ってほしかった。手伝えたのに」といった建設的な会話が生まれる土壌が、真に強いチームを育むのです。
この点について、freee株式会社の関根諒介氏は、経営者が抱える課題として次のように語っています。
経営をする上で、さまざまなハードシングスが起こることがあります。あくまでも倒産前後の話ですが、いろんなつらいことや苦しいことがあっても、私がお話を聞いた過去の経営者の方々は「心を許して腹を割って相談できる方がいなかった」という話は少なくはなかった。先ほどお伝えしたとおりで、それが一番の課題だったんですよね。
他者との対話や相談ができないと、ご自身の置かれている状況であったり、経営上の意思決定をメタ的に俯瞰的に認知したり評価することはなかなか難しいと思います。
これは別に経営者だけじゃなくて、我々一般人もそうだと思うんですが、みんなそれぞれにさまざまなバイアスがあるわけなんですよね。そこを他者との対話の中で組み替えていく・捉え直すプロセスが、経営者ではなかなか得られないという声もありました。
引用:“強すぎるリーダーシップ”のせいで、誰にも弱音を吐けない… 「語れない経営者」たちのメンタルを守るために必要なこと(ログミーBusiness)
他者とともに物事を成し遂げることは、本質的に困難を伴います。だからこそ、タスクの進め方だけでなく、他者との関わり方そのものにおいても創造性を発揮する必要があります。他者の思いや価値観を理解しようとする土台の上に成り立つ、厳しさを伴った対話。それこそが、プロジェクトを自分たちの手に取り戻し、未来を切り拓くための道となるのです。
シェアド・リーダーシップが根付いた組織が「余白」を得て起きること
シェアド・リーダーシップが根付いた組織は、単に効率的に目標を達成するだけでなく、新たなアイデアやイノベーションを生み出す土壌を持っています。
その源泉となるのが、組織内に存在する「余白」だと英治出版代表の原田英治氏は言います。これは生産性や効率性だけを追求するのではなく、一見無駄に見えるような時間や活動、対話の中にこそ、創造性の種が眠っているという考え方です。
心理的安全性が確保された環境では、メンバーは本来の目的に直接関係しないようなことでも、安心して口にすることができます。
例えば、プロジェクトの議論が白熱している最中に、「少し休憩してケーキでも食べませんか?」と提案することも、シェアド・リーダーシップの1つの現れと捉えることができます。これは、チーム全体の集中力が落ちていることを察知し、リフレッシュすることで結果的にパフォーマンスを高めようとするリーダーシップのある行動です。
このような「余白」が停滞した議論を打開したり、メンバー間の関係性を深めたり、あるいはまったく新しい視点をもたらすきっかけ(セレンディピティ)となったりするのです。
この「余白」を生み出す上で中心的な役割を果たすのが「対話」です。シェアド・リーダーシップにおける対話は、単なる情報共有や業務連絡に留まりません。メンバー一人ひとりが持つ価値観や考え、あるいは失敗から得た内省などを共有し、互いに深く理解し合うプロセスです。
特に過去の失敗体験などを他者に聞いてもらい、対話を通じてその出来事を捉え直すことは、個人のレジリエンス(精神的な回復力)を高めると同時に、組織全体の学習能力を向上させます。
シェアド・リーダーシップが目指すのは、メンバー全員が自分の得意分野でリーダーシップを発揮するだけでなく、「自分らしさ(全体性)」を発揮できる組織です。
それぞれのメンバーが持つ多様な個性や価値観が尊重され、オーセンティックな(自分らしい)リーダーシップとしてチームに貢献できる環境。そのような心理的安全性の高い環境で交わされる対話こそが、予測不可能な時代を乗り越えるための創造性と柔軟性を組織にもたらすのです。