【3行要約】
・ベンチャーとスタートアップは同義に使われがちですが、成長戦略や資金調達方法に明確な違いがあります。
・終身雇用が崩壊する時代において、ベンチャーやスタートアップでの挑戦経験は「変化の時代を生き抜くスキル」として価値があると考えられています。
・不確実性の高い現代社会では、大企業の安定よりも変化に対応できる能力を身につけるため、ベンチャーやスタートアップでの経験が新たなキャリア戦略として注目されています。
「ベンチャー」と「スタートアップ」の違いとは
「スタートアップ(スタートアップ企業)」という言葉と「ベンチャー(ベンチャー企業)」という言葉は、しばしば同じ意味合いで使われることがあります。しかし、この2つ、そして関連する「スモールビジネス」という概念は、それぞれ異なる特徴を持っています。
まず、最も広義で使われるのが「ベンチャー(ベンチャー企業)」という言葉です。これは、独自のアイデアや技術を基に、新しいサービスやビジネスに挑戦する新規企業全般を指す言葉とされています。
この「ベンチャー」という言葉自体は、英語の「adventure」を元にした和製英語であり、英語圏で「Venture」というと、一般的には投資を行う側のベンチャーキャピタルなどを指します。日本におけるベンチャー企業は非常に幅広い意味を持ち、設立から間もない企業や、単に社員数が少ない企業までもが含まれる場合があります。
この広義の「ベンチャー(ベンチャー企業)」という言葉は、その成長戦略やビジネスモデルによって、主に「スタートアップ」と「スモールビジネス」の2つのタイプに分類することができます。この両者を最も明確に区別する指標が、企業の成長曲線です。
スモールビジネスは、既存のビジネスモデルを基盤とし、着実な収益を積み上げていくことを目指します。そのため、その成長曲線は時間軸に比例した「1次直線」を描くことが多く、比較的早い段階で黒字化し、安定した右肩上がりの成長を続けることを目標とします。
一方でスタートアップは、まったく新しいビジネスモデルや市場を創造することを目指します。
株式会社カケハシの新田智啓氏によると、革新的なアイデアやテクノロジーを武器に、まだ誰も手をつけていない領域に挑むため、事業が軌道に乗るまでは収益が上がらず、赤字が続く期間、いわゆる「死の谷(Valley of Death)」がスタートアップには存在すると言います。しかし、一度市場に受け入れられれば、競合が存在しない市場を独占するかたちで爆発的な成長を遂げます。その成長曲線は、初期の停滞から急激に上昇する「Jカーブ」や「ホッケースティックカーブ」と呼ばれる特異なかたちを描くのです。
このように、スタートアップとスモールビジネスは、どちらもベンチャーの一形態ではありますが、目指す成長の角度や時間軸が根本的に異なります。
スタートアップは短期的な急成長と、それに伴うハイリスク・ハイリターンを前提としており、スモールビジネスは長期的な視点で安定した事業基盤を築くことを重視します。この違いが、後述するビジネスモデル、資金調達、そして働き方に至るまで、あらゆる側面に影響を及ぼすことになるのです。
ベンチャーとスタートアップそれぞれの資金調達・出口戦略
ビジネスモデルや成長戦略の違いは、資金調達の方法と、事業の最終的なゴールである出口戦略にも明確な違いとなって現れます。
まず資金調達について、スモールビジネスを含む多くのベンチャーは、既存のビジネスモデルを基にしているため、事業計画の信頼性が高く、収益性もある程度予測可能です。そのため、銀行からの融資や、国・自治体の助成金・補助金といった、比較的伝統的な手法で資金を調達しやすいという特徴があります。
事業が安定し、実績が積み上がれば、さらなる成長のためにベンチャーキャピタル(VC)からの出資を受けたり、株式公開(IPO)を目指したりすることもあります。
一方、スタートアップはまったく新しいビジネスモデルを1から作り出すため、事業が成功するかどうかの不確実性が非常に高く、失敗するリスクも大きいと見なされます。初期段階では収益がほとんど見込めないため、銀行などの金融機関から融資を受けることはほぼ不可能です。
そこでスタートアップが頼るのが、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家といった、ハイリスク・ハイリターンを許容する投資家からの出資です。彼らは現在の収益性ではなく、その事業が将来的に生み出すであろう革新性や、指数関数的な成長の可能性に賭けて資金を提供します。
スタートアップは、これらの投資家から得た潤沢な資金を、赤字期間である「死の谷」を乗り越え、一気に市場を独占するための開発やマーケティングに集中的に投下するのです。
次に、事業のゴールである出口戦略です。出口戦略とは、創業者や投資家が、保有する株式を売却するなどして投下した資金を回収し、利益を確定させることを指します。主な方法として、M&AとIPOの2つがあります。
特にスモールビジネスでは、長期的に安定した収益基盤を築き、永続的な企業として存続すること自体をゴールとするケースも少なくありません。出口戦略を目指す場合でも、時間をかけて事業を成長させ、IPOにたどり着くのが一般的です。上場後も創業経営陣がそのまま経営を続け、さらなる成長を目指す企業も多く見られます。
対照的に、スタートアップは創業の初期段階から明確に出口戦略を意識して事業戦略を構築します。VCなどの投資家は、短期間で大きなリターンを得ることを目的として投資を行うため、スタートアップには急速な成長と、それに伴う企業価値の向上が求められます。そして企業価値が最大化したタイミングでM&AやIPOを行い、投資家に利益をもたらすことが、スタートアップの経営者に課せられた重要なミッションの1つとなります。
近年では、事業を成功させてはM&Aで売却し、その資金を元手にまた新たなスタートアップを立ち上げるというシリアルアントレプレナー(連続起業家)も増えています。このように、スタートアップにとって出口戦略は事業の終着点であると同時に、次なる挑戦への出発点でもあるのです。